リンバスアーカイブっ!!!!!   作:粉末蜜柑

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happy new year!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


と、言うわけで今年もよろしくお願いします。
毎度毎度感想くれる人本当にありがとうございます!!めっちゃモチベ!!


1-5 そして、陽は沈む

私たちにとって、死とは日常の一要素。

生きる上で当たり前に存在する上等の不幸が「死」だった。

 

生きてる上で誰もが経験し、誰もが諦観し受け入れるしかない日常的な「ただの不幸」であり、都市の自然な流れの一つ。

人生を積み重ねていくうえで死に対する感情は麻痺していき、それらはやがて、ただなんとなく「嫌」なだけの些事へと変わる。私だってそうだった。

 

記憶を失ってから数か月しかたっていないにも拘わらず、私にとって死というのは「巻き戻せる失敗」であるか、「道最中のどうしようもないもの」になっていった。

 

いや、私にもまだ多少なりとものこっている善性から言えば、あの眼帯をつけた優しい8級フィクサーの様に死ぬ人間はもう見たくないというのが本音だ。だけど、結局のところ「しょうがない」のだ。私が今まで命を奪ってきた誰かも、過去に自分が生き残るために誰かを殺している。あの世界じゃ誰かの苦痛なしに生きることは不可能だから。

 

けど、この世界はそうじゃない。

 

彼女たちは銃弾を受けてもかすり傷にしかならず、砲弾をまともに受けても骨すら折れない。

 

【死】という概念から、彼女たちは限りなく遠ざけられているのだ。

 

故に。

 

 

「ね、ねぇ…先生。これ...夢だよね?」

 

 

目の前で直接起こった「誰かの死」が、彼女にどんな影響を与えるのか。

その結果は、火を見るよりも明らかだった。

 

 

「ねぇ…なんか言ってよ…先生…」 

 

 

私に向けられたホシノの眼が揺れる。

どうしようもない程の困惑と憤怒と、嘆き悲しみなどのどす黒く悲しい感情の数々が見て取れた。

 

 

「ねぇ、起きてよロージャ先生!!先生ったら!!」

 

 

目の前のロージャだったものに、ホシノは必死に声をかける。

だが、それはもう死んでいる。私が時計を回さない限り、その肉塊は永久に動くことは無い。

 

 

「ねぇ、なんでそんなに落ち着いてるの…?上司って言ってたよね?自分の部下が…先生がこんなことになってるんだよ!?」

 

 

死体を地面に優しく置いて、ホシノは私に物凄い剣幕で詰め寄ってくる。

 

 

「ねぇ、なんか言ってよ!!なんでそんなに落ち着いてられるのさ!!!!!!!!」

 

 

まるで別人のようになった彼女の眼は涙で滲んでいた。あと少しでも私が沈黙を貫けば、それらは濁流となって彼女の顔を滑り落ちるだろう。

全てを説明しなければならないのはわかっている。私さえ生きていれば、この絶望にもまだ取り返しがつくことも。

 

だけど私は…

 

 

【時計を回す】

【時計を回す】

【時計を回す】

 

 

……カチッ

 

 

「ちょっと、何やってるのホシノ!?」

 

 

ホシノの肩を、今しがた眠りから覚めたばかりのロージャが掴んだ。

 

 

「先…生?」

 

 

私の襟を掴み上げていたホシノの手から力が抜ける。当然だが、彼女は今の現実に対して理解が及ばないだろう。

 

後からこのことをホシノが知れば、私の事を卑怯者だと、臆病者だと軽蔑するだろうか。

でも、それでもいいような気がする。結局いつかは説明しなければならなくて、私のこの独断が先延ばしに過ぎないとしても。

 

この子達にとって、彼女の死が「取り返しのつく失敗」になるのが。

 

私は、どうしても嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩、任務の帰りに寝ちゃうなんて...相当疲れてたみたいね。」

 

 

あの後気絶してしまったホシノを背負って、私たちは再び30㎞の旅路を辿りアビドスへと帰ってきた。

ホシノは保健室にあったベッドへと一先ず寝かせ、それ以外のメンバーはこうして作戦の反省会を行っている。

 

 

「ドローンが打ち落とされたせいで後半は全然役に立てなくて...申し訳ないです...」

 

「大丈夫だってアヤネ~。私たち無事に作戦成功させたし!!ね、ダンテ?」

 

『あぁ、ありがとうねアヤネ。』

 

 

幸い、ロージャの件はゴリアテがドローンを打ち落としてくれていたおかげで他の子たちが知ることはなかった。何とも因果なものだが、まぁ結果オーライという奴だろう。

 

 

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです。」

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる。」

 

 

シロコの口から出てきた「重要な問題」とは一体何だろうか。

シャーレに支援を要請した目的は、アヤネの話によれば学校を狙う不良集団を追い出すためだったはずだ。彼女たちにとって、ヘルメット団がただの前座にしかすぎないとするなら…本命はいったい何なんだろう。

 

 

「うん!!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で”借金返済”に取り掛かれるわ!!ありがとう、先生!この恩は一生忘れないから!!」

 

 

うん、意外と答え合わせが早かったね。

 

 

「ちょっと待ってセリカ。借金問題って何?」

 

 

お金の問題を彼女が聞き流すはずもなく、ロージャがいつになく真剣な声色でセリカに質問した。

 

 

「え…?あ、わわっ!!」

 

「そ、それは……。」

 

「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」

 

 

口を滑らせたセリカが、「しまった」と言わんばかりの態度で激しく動揺する。説明してくれようとしたアヤネすら制止し、彼女はどうにかしてこの問題から私たちを遠ざけたいみたいだ。

ロージャの顔が段々と険しくなっていくのを見て、私が何か言うべきかと迷っていると。

 

 

「いいんじゃないセリカちゃん。」

 

『…ホシノ。』

 

 

いつのまにかそこに立っていたホシノが、普段と変わらない口調でそう言った。

 

 

「あ、おはよー先生。ここまで運んできてくれたのって先生でしょー?ありがとねー。」

 

 

作戦前と、何一つとして変わらないホシノのその態度に、私はどう反応したものかと悩んだ末に、一言ただ『あぁ』とだけ返す。今の彼女は果たしてあの光景を現実のものとして捉えているのだろうか。それとも、疲労困憊の自分が見た悪夢とでも思っているのだろうか。態度から察することが出来ない以上、私にそれを図ることはできなかった。

 

 

「おじさんは話してもいいと思うよー?隠すようなことじゃあるまいし。」

 

「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!!」

 

 

セリカの苦し紛れの反論も意に介さず、ホシノは続ける。その様子は、小さな子供が親に諭されている光景にも似ているような気がした。

 

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに、先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼して良いと思う。」

 

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!!」

 

「確かに先生たちがパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生たちくらいしかいないじゃーん?悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよー?それとも何かほかにいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」

 

「う、うう……。」

 

 

完全に説き伏せられてしまい、セリカの耳が意気消沈と言った様子でぺたりと下がる。だが、それでもセリカはなお喰らいつく。見た感じ、少し意地っ張りなところがあるらしい。

 

 

「でっ、でも、さっき来たばっかりの大人でしょ!今まで大人たちが、この学校がどうなってるかなんて気に留めたことなんてあった!?この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……。私は認めない!!」

 

 

ダッ!!

 

 

「あ、ちょっ、セリカ!?」

 

「セリカちゃん!?」

 

 

意地っ張りな彼女は、半ば自暴自棄の様な形で教室を飛び出してしまった。

まぁでも、彼女が何であんな風に神経質になっているのかは、今の彼女の話から何となく推測できる。

 

簡単に言えば、信用しきれないのだ。私たちを、ではない。それはきっと、「大人」という存在に対してだ。

少なくとも、彼女たちが今まで見てきた大人というのはこの学校が直面している問題に対して誰一人として向き合ってくれなかったんだろう。いや、そもそも関心すら持ってなかったという方があの言い方だと正しいのかもしれない。

 

だからこそ、私たちの様な「大人」がいきなり現れて手伝いますなんてことを言ってもまぁ、信用できないのは当たり前だ。彼女達...少なくともセリカからすれば、私たちは「出会ったばかりの大人」であり、ただの「部外者」なのだから、そんな都合がいい話があるわけがないと勘ぐるだろう。

 

だけど、少なくとも。

 

 

「っ、ごめんダンテ!!私様子見てくる!!!」

 

「ろ、ロージャ先生まで!?」

 

 

彼女(ロージャ)は、部外者で在り続ける気はなかったようだ。

自衛用の斧を掴んで、ロージャも教室を飛び出した。今の彼女の行動が、情報を聞き出すための手段とかそういうのじゃなくて、ただ放っておけなかっただけってのが、なんとなく理解できた。

 

 

「私も様子を見てきます。」

 

『いや、大丈夫だよノノミ。今は二人の好きにさせてあげよう。』

 

 

そして、当然ここまで来た時点で私も部外者で在り続ける気はない。

きっと、ここで説明を受けずともロージャは自分でこの問題を知るだろう。それはもしかしたら、セリカ本人の口からかもしれない。

囚人たちがこの世界で与えられた役割に適応できるように、手伝い、見守る。それが、この世界での私の『管理人』としての役割だと思った。

 

 

「……えーと、簡単に説明すると……この学校、借金があるんだー。まぁ、ありふれた話だけどさ。」

 

 

二人の背中を見送った後、ホシノが口を開いた。どうやら続きを話してくれる気の様だ。

 

 

『借金かぁ...。どれくらいあるの?』

 

 

失礼な質問だとも思ったが、どちらにせよこれから私たちが直面しなくてはならない問題だ。早めに聞いておくに越したことは...。

 

 

「9億6235万円です。」

 

『ちょっと待ってなんか桁がおかしくない?』

 

 

………思わず突っ込んでしまった。

 

9億?

9億円ってどのくらいだろう。

 

なんか嫌な予感がするけど、一旦ファウストに連絡してみよう。さっき向こうから届いたってことは、こっちからも送れるはずだ。

 

 

『……ごめん、少しだけ良い?』

 

 

PDAにいつの間にか追加されていたモモトークというアプリを開き、ファウストとの個別のトーク画面を表示し質問を打ち込むと、思ったよりすぐに返信が来た。

 

 

【『円』とは、J社の巣で使われている独自の通貨の単位です。ここの世界で言う円と価値が一致しているのかはまだわかりませんが、都市で一般的に使われている眼(アン)に直した時の金額は。】

 

 

『8837925033眼となります...?』

 

 

80億。 

聞いたことのない桁数。聞いたことのない圧倒的な金額に、私の存在しないはずの目が点になる。

冗談じゃないかと聞きたくなったが、彼女たちの表情を見ればそれが冗談でないことはすぐに察することが出来た。

 

9億円...9億円って、まじか。 

 

 

『…ちなみに、払えないとどうなるの?』

 

「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、もちろん実際に払える可能性は0%に近く………ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去ってしまいました。」

 

「そして、私たちだけが残った。」

 

「発行が廃校の危機に追いやられたのも、生徒が居なくなったのも、町がゴーストタウンになりつつあるのも、実はすべてこの借金のせいです。」

 

 

アヤネのその言葉を聞いて、私の中にあった違和感の正体がようやくわかった。生徒が統治していると聞いてからここにやってきたとき、あまりにも人の手が行き届いておらず自分の中の『統治』の意味を疑ったものだが、そもそも統治できる様な状況じゃなかったというのが答えだった。確かに、それほどの多額の借金を背負っていればまともな行政なんてできるはずもないだろう。

 

結局、金がなければ何もできないのはこの世界も同じな様だ。

 

 

『なるほどねぇ。というか、どうしてそんな事になったの?契約に騙されたとか、そんな感じ?』

 

「借金をすることになった理由ですか...?それは...」

 

「………数十年前、この学区の郊外にある砂浜で、砂嵐が起きたんです。」

 

 

それまで黙っていたノノミが、急に口を開いた。

そこらへんの事情の説明は、先輩(じぶん)たちの役目とでも言わんばかりに。

 

 

「アビドスでは以前から頻繁に砂嵐が起きていたんですけど、その時の砂嵐は想像を絶する規模の物で…。学区の至る所が砂に埋もれて、砂嵐が去ってからも砂が貯まり続けちゃったみたいなんです。」

 

『それでそれを解決するために借金をしたのか?』

 

「うーん。半分正解かなー。ほら、この学校って結構田舎じゃーん?そんなところにいきなりおっきいお金融資してくれる銀行も見つからなくてさー。結局悪徳金融に頼るしかなかったんだよねー。」

 

 

困った困ったと、そんなおっさんくさい様子で肩を竦めるホシノ。笑いごとじゃないだろうことは容易に想像できるのにもかかわらずそんな様子なのは、ただの強がりなんだろうか。

 

 

「最初の内は、きっとすぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はそのあとも、毎年続けて発生しどんどん規模も大きくなっていって…学校の努力も空しく、学区の状況は手が付けられない程に悪化の一途をたどってしまって………。そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化した時には既に、借金はもう、手が付けられない状態になってました。」

 

「……」

 

「……………」

 

「……………………」

 

ノノミがそう締めくくると、私含めたその場の全員が黙り込んでしまった。

まぁ私が黙ったのは、思ったよりもどうしようもない理由だった。というのが実のところ大きい。

 

少し前に言った『太湖』と呼ばれる場所でも、似たような災害が存在した。そこの災害は多種多様で、対応策を覚えるのが困難なほどだったけど一つだけ共通していることがあった。

それは、直面した場合はもうどうしようもないという事だった。災害そのものに悪意は無く、ただ『そういうものである』と。夕焼け色の彼女がそう言っていたのを思い出す。

 

彼女たちに非はほとんどなく、ただ運命的なまでに救いようのない選択肢しか残されていなかったというだけだ。汚濁の様な運命に揉まれてどん底に落ち、バスに乗る以外の選択肢がなかった私たちと同じように。

 

 

「私たちの力では、毎月の利息を返済するので精いっぱいで………弾薬も補給品も、そこをついてしまっています。」

 

「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合ってくれなかったから。話を聞いてくれたのは、時計先生が初めて。」

 

「まぁ、そういうつまらない話だよ。」

 

『………なるほどね。』

 

 

彼女たちの辛い現状を知ったうえでたいして気の利いた返事も思い浮かばず、私は必死に言葉を探るもまぁ当然の事何も出ない。ただ時計の針が、カチカチと虚しい音を吐き出すばかりだった。

 

 

「まぁ、時計先生とロージャ先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題は解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけ。それだけでも先生たちには感謝してるよー。あまりこのことは気にしないで、話を聞いてくれただけでもありがたいし。」

 

 

そんな私の心情を知ってか知らずか、ホシノがまた元の様にのんびりとした口調でそう言った。生徒に気を遣わせてしまったことに対する罪悪感が、ロージャの件と相まってチクチクと胸を刺す。

 

 

「シャーレの仕事もあるから、あまり迷惑をかけるわけにもいきませんし…。」

 

「先生たちはもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない。」

 

 

ノノミとシロコも、そう言って感謝の意を示しながらもどこか遠慮しがちな様子なのは変わらなかった。

だけど、この時点で私に見捨てるという選択肢はなかった。ホシノに対するあの件の責任から逃れるわけには行かないし、こんな話を聞いて素通りできるほど私はまだ冷酷な人間に成れていない。何より、ロージャが知れば絶対に解決しようとするはずだ。

 

この世界には、もうビフォーチームもアフターチームもいない。結局、自分たちのやることは全て自分たちで責任を取るしかないのだ。

 

 

『…協力するよ。私も、ロージャも。』

 

 

覚悟の上の言葉だった。

このどうしようもない問題をどうにかする覚悟と、『シャーレの先生』として活動していくこと。その両方への覚悟。

 

黄金の枝を見つけることが最優先で在るのは間違いないが、それでもリンバスカンパニーとしてではなく、学園都市の組織である『シャーレ』として動く以上、この生徒たちを見捨てる選択はできない。

それが、私がこの短時間で下した結論だった。

 

その思いが伝わったのか、対策委員会の皆は面食らったような顔をして、私の方を見た。そして...

 

 

「あ、はい!!よろしくお願いします、ダンテ先生!!」

 

 

夜明けの様に輝く笑顔で、アヤネが元気よくそう言った。

 

 

「へぇ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。」

 

『いや、最初っからロージャがアビドスの担当に着くことは決まってたんだ。だけどまぁ、諸々の権限を持ってるのは私だから、一応私もそれっぽいこと言っとこうかなって思って。』

 

「わぁー、ありがとうございます先生☆」

 

「よかった…『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない。」

 

 

すっかりお祭りムードの教室内を見て、私も少し幸せな気分になった。この芽吹いた希望が散らないように、私も最善を尽くそう。

 

 

「それじゃあ、なんかいい感じに落ち着いたことだしおじさんもお散歩に行こうかなー。」

 

「お散歩ですか?ホシノ先輩がお昼寝しないなんて珍しいですね。」

 

「いやー、今はなんというかあんまりお昼寝の気分じゃなくてさー。」

 

そう言うホシノの目は、何かに怯えているようにも見えた。これが私の気のせいでなければ、まぁ…理由は十中八九あれだろう。

そして、そんなホシノの様子に気づいたのは、どうやら私だけではないようだった。

 

「そうだ!!せっかくホシノ先輩がお外に出る気になったんですから、お祝いも兼ねてご飯食べに行きましょう☆」

 

「え、ちょっ、ノノミちゃん?」

 

唐突にそんな提案をして席を立ち、ノノミは即断即決と言った様子でホシノの背中をぐいぐい押しながら教室の外へと出ていった。私たちがあっけにとられていると、廊下の奥からノノミの「置いて行っちゃいますよー」という声が聞こえてきた。

 

シロコとアヤネの二人と、交互に目を合わせ無言の了解を得る。

言葉を交わしていないにも関わらず、席を立つタイミングはなぜか全員一緒だった。

 

 

 

 

  

 

『…ここ?ノノミのおすすめのお店って。』

 

「はい☆」

 

案内された先は、『柴関ラーメン』と書かれた看板が置いてある小さなお店だった。店の中からは醤油や味噌などの暖かなにおいがして、如何にも食欲を刺激する店だ。ヒースクリフがここに居たら、よだれをたらしながら腹部を押さえていであろう光景が容易に想像できる。

 

こんなおいしそうな店なのにも関わらず…

 

『なんで、シロコとアヤネは微妙な顔してるの?』

 

 

もしかしてあんまりおいしくないのかな?なんて思ってそう聞いたのだけれけど、二人を見るにどうやらそういう事でもないらしい。

 

 

「あぁ、えっと………別に美味しくないとかでは本当にないのですが...」

 

「うん。ちょっとタイミングが悪いかも。」

 

 

二人とも、何となく歯切れが悪い。 

なんというか、「言ってもいいんだろうか」っていう葛藤の気持ちが見て取れる。たまーにイサンやグレゴールから感じる、あの感じだ。

 

 

「はぁーん?ノノミちゃんも意地悪だねぇー。」

 

「まぁまぁ、お腹も空いてますし、早く入りましょう☆」

 

先輩二人の悪だくみの雰囲気を感じ取りながらも、私は木製の扉をスライドする。

するとどこかで聞いたことのある声が、元気いっぱいに聞こえてきた。

 

 

「いらっしゃいませー!!柴関ラーメンで………わわっ!?」

 

「あの~☆五名でお願いします~!!」

 

 

私たちの姿を見た途端、バイトの制服に身を包んだセリカの表情が接客の笑顔から驚愕の表情へと変わった。

 

 

「あ、あはは………セリカちゃん、お疲れ…。」

 

「お疲れ。」

 

 

二人のその言葉には、労いの意味と他にもう一つ、哀れみの意味も込められているような気がしてならなかった。先輩組二人の言っていた言葉の意味をなんとなく理解した私は、ゆっくりとセリカの方を見て、ただ一言。「お疲れ様」とだけ言った。

 

 

 

 

「みんなどうしてここにいるのよ!!」

 

「先生方が対策委員会の顧問になってくれたお祝いです!!」

 

「ノノミ先輩の仕業か!!というか、顧問ってどういう事!?私、まだ先生の事認めてないんだけど!!」

 

「まぁまぁセリカちゃん落ち着いてー?かわいい看板娘がそんな様子じゃ、お客さんびっくりしちゃうよー?」

 

「セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな。」

 

厨房から、大将らしき犬(?)が姿を現した。犬の姿だというのに、眼もとについた傷と頭に撒いてるタオルのおかげか妙な貫禄がある。

 

 

「おーい、こっちこっち!!」

 

 

声のした方向を見ると、ロージャが端っこのテーブルに座って手を振っていた。大将の言葉がとどめになったのか、今の様子を見て意地の悪い笑みを浮かべるロージャに、セリカは悔しそうにしながらも何も言えない様子だ。

 

「う、うう…ハイ大将…。それでは、広い席にご案内します…こちらへどうぞ…。」

 

悔しそうにしながら、ロージャと同じ席へ私たちを案内するセリカ。さっきの教室の件と言い少しかわいそうだなと思いつつ、私は空いていたノノミの隣に腰を掛けた。

 

「はは♪流石に六人だとちょっと窮屈だねー?」

 

「シロコ先輩がロージャ先生にくっついてるせいでしょ!!もっとこっちに寄って!!」

 

「いや、私は平気。ね、先生。」

 

「なんでそこで遠慮するの!?空いてる席たくさんあるじゃん!!ちゃんと座ってよ!!」

 

「わ、わかった。」

 

「あれ?もっとくっついててもよかったのに。」

 

「先生もノらない!!」

 

「セリカちゃん、バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

 

「いやー、セリカちゃんってそっち系かー。ユニフォームでバイト決めるタイプ?」

 

「ち、ち、ち、違うって!!関係ないし!!こ、ここは行きつけのお店だったってだけだし!!」

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば人儲けできそうだねー。」

 

「ナイスなアイデアじゃないホシノ?ついでにそのまま全員アイドルデビューまで行きましょ? ね?」

 

「うへー、そういう話になっちゃうかー。」

 

 

そう困ったように笑うホシノの顔に、さっきまで感じていた不透明な陰りは見えなくなっていた。

 

賑やかな店内の一部に満ちる更に明るい雰囲気に包まれながら、私は人知れずほっと一息つく。楽しげに笑う彼女たちと、いつも通りのロージャの笑顔を見て安堵した私は、全身の力を抜いて座席に体を預けた。

 

今日一日の事をぼんやりと思い出しながらこれからの未来をなんとなく考える。そして、みんなが口々にラーメンを注文するのを聞いて、そこでようやく思い出した。

 

 

(……そういえば私、口無いからラーメン食べられなかったな。)

 

 

 

こうして、波乱万丈なキヴォトスでの一日は過ぎていった。

 

 

 

ーーDUシラトリ区 連邦生徒会本部ーー

 

キヴォトスに高く聳え立つ尖塔、サンクトゥムタワー。

その内部で、一人の少女と一人の男とが対面していた。

 

「…何の冗談だ?」

 

鋭く、掠れた声が、威圧感を以て部屋の中に木霊した。

告げられた情報を信じることが出来ないといった様子で、ヴェルギリウスの双眸が紅く光る。だが、目の前の少女はメガネを直しながら、彼の威圧を全く意に介さず続けた。

 

「ですから、今申した通りです。それ以上の情報は出てきませんでしたし、これ以上探しても、出てくることは無いでしょう。」

 

「………はぁ。」

 

少女の強い眼差しを見て、ヴェルギリウスはため息を吐く。呆れたからではない。少女のその発言が、嘘じゃないというのがわかったからだ。

 

「つまり、俺たちは幽霊にでもあったっていうのか?」

 

「まぁ、そういう事になります。現に、今日の時点で既に各学校に連邦生徒会長が選んだ『先生方』が赴任していらっしゃいますから。その様な人物は、存在し得るはずがありません。」

 

「…そうか。」

 

「はぁ。」と、再びの溜息をついて、ヴェルギリウスは目頭を押さえた。手に持ったクリップボードが、彼の内心を表すかのようにガクッと地面を向く。

 

 

「…”七神リン”さん。最後にもう一度だけ事実確認させてくれ。」

 

 

「………本当に、『先生』なんて人物はいないんだな?」

 

 

返ってきた返事は、変わることなく肯定だった。

 




というわけでプロローグ『キヴォトスでの初日』は終了でーす。
つぎからアビドス対策委員会編...かな?

まぁ次回もそれなりに早く上げられたら上げるので待っててください。

感想とか評価くれたら結構かなりめっちゃくそ励みになります!!読んでくれてありがとうございました!!!!!

よいお年をーーー!!!
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