次から本当にアビドス編ですなんか詐欺みたいになってすいません。
その日の晩、私はファウストの招集に応じ、再びサンクトゥムタワーを訪れていた。
…ちなみに今この場には、言われた時間からかなり経っているのにも関わらず私以外は誰もいない。かれこれ30分ほど、部屋に置いてあった正方形のクッションに膝を抱えて座っているだけの時間が続いている。
まぁみんな新しい世界と常識に散々戸惑っているだろうし、仕方ないこと…
ではないな。うん。
招集をかけた本人すらいないって、いったいどうなってるんだろう。もしかすると私は騙されたんだろうか。
…まさか皆私の知らないところで銃撃戦に巻き込まれて死んでいたりしないだろうな。一気に一度を生き返らさせるのは、毎度のことながらだいぶ応える。それだけは勘弁してほしいものだが、やはり心配というのは募っていくもので…
ガチャ
そんな杞憂を払うように、目の前の扉が音を立てて開く。騙されたわけではないことと、少なくとも一人の生存が確定したことに安堵して、私はほっと胸を撫でおろした。
「すみません、遅れました。初めての土地だったので道に迷ってしまって。」
『お疲れ様、イシュメール。急いできてくれたとこ残念だけどまだ誰も来てないよ。』
「はぁ...まぁそんな事だろうと思いました。」
扉から出てきたのは、夕焼け空の様に濃い橙の髪を持つ囚人。イシュメールだった。この会合で最初に顔を合わせたのが彼女で良かったと心底思いながら、私は彼女に向け軽く手を振る。
ほとほと呆れたと言う様子で溜息を吐くイシュメールからは、今日一日の疲労をひしひしと感じた。
『イシュメールの配属先はどんなところだったの?』
「私の配属先ですか?えーっと、確か、そう。『ゲヘナ学園』って言ったっけ。」
『ゲヘナ学園?』
「はい。まぁ正確に言えば、そこの『風紀委員』の顧問をしろって話でした。まぁ今の職場があんなんですからそれなりにできると思ってたんですけど、思ったよりあの学園のイカれ…荒れ具合は酷かったですね。まさか人の言語を喋るのに会話ができない生命体があんなにいるなんて思いませんでした。」
そう言って、どこかここではない遠くを見るイシュメール。あの真面目で気の強い彼女がこんなになるなんて…。ゲヘナ学園、きっと無理だろうけど、あんまり関わりたくはないな。
バァンッ!!
「遅れてはせ参じた!!!!!!!!!」
「お邪魔します…。」
「やっほー、もう始まってるー?」
「すまぬ、少し遅れき。」
半開きの扉から続けて囚人四人が、雪崩れ込むようにして入ってきた。その中には、日中散々一緒にいたロージャの姿もある。
『ロージャ達もお疲れ様。みんなは何してたの?』
「ほう!!管理人殿はキヴォトスでの我らの活躍ぶりを聞きたいと!!ならば私から話してしんぜよう!!」
私の質問に対して、ドンキホーテがこの場の全員の鼓膜を貫く勢いの大声で回答する。まるで演説でもするかのように高らかに。
「何を隠そう、当人はこの異世界に置いても!!正義を追い求める崇高な集団に配属されることになったのである!!その名も、正義実げ………!!むぐ!!」
「はいはいおチビちゃーん。もーちょっと声抑えよっか。」
「|ほうひんはちふぃじゃないとなんふぉむごごー《当人はチビじゃないとなんどいえばー》ーーー!!!!!!!!!」
「…僕は『補習授業部』って言うところに配属されました。みんな個性豊かで戸惑ってますけど、まぁ…どうにかなりそうです。痴女は居ますけど…」
シンクレアの口から変な単語が出た気がするけどそれを右から左に流し、私は先ほどからずっと何かを考えているイサンへと顔を向ける。平時も結構思考に沈むことが多い彼だけど、私の声も届かないというのは最近あまりなかったから、少し珍しく感じて声をかけた。
『イサン?』
「ん...あぁ、済まぬ。私はげぇむ開発部なる部活に配属されし故、そのことについて考へたりき。」
「え、イサンさんあなたゲーム開発の経験なんてあるんですか?」
「否、私も初めての経験なれど、これがまたをかし。昔のごとく朋達とともにあわただしく何かを作るもよきものなり。」
驚くイシュメールへそう返して、イサンは柔らかに微笑えんだ。
ゲーム...ってのが何かはわからないけど、彼が昔の様にただただ楽しそうに何かを作れているというだけで今の環境は彼の中でもかなり幸せな物の様に思えた。
「全員揃ったようですね。」
いつの間にいたのか。
扉の前に立っていたファウストと、その後ろに立つムルソーとグレゴールへ、その場にいた他の人物全員の視線が向けられた。グレゴールは、何故かしかめっ面のまま腰を押さえている。
『というか、全員って言ったけど…』
「まだ良秀殿とホンル殿とヒースクリフ殿とウーティス殿の姿が見えぬではないか!!彼らは欠席であろうか!!」
「現時点で欠席の囚人たちは配属先の都合で今回の集会に来られないことが確定していたので、今回することは事前に済ませてありました。この集会は、それ以外の囚人各位にとあるものを渡すためです。」
『あるもの?』
私の質問に答える代わりに、ファウストは何処からともなく大量のタブレット端末を取り出した。見た感じ、PDAにも似てるが私が持っている物よりも少し小さい。
誰も突っ込んでないけど、その物量の物いまどこから取り出したんだ?
「これはPDA-BR。ダンテが使っているPDAを小型化したものになります。内蔵されている機能としては人格変更とEGO使用の申請、そして管理人との連絡用アプリケーションなどです。これを持っていれば、囚人の戦闘活動の際管理人が傍にいなくとも遠隔で人格変更の承認ができます。またPDA-BRは囚人たちのバイタルとも同期しており、死亡した場合は即座にモモトークを通じてダンテへ連絡が行く仕様になっています。」
「この世界における銃の所有率は98%。残りの2%も何かしらの兵器を持っていることが多い。急な戦闘に対する対策としては、最も適しているように思える。」
『ムルソー、そんなデータどこで聞いたの?』
「私の配属先であるヴァルキューレ警察学校で、基礎知識として学びました。再び軍人指導を行うことになったグレゴールと比べると、比較的安定した職場だと思います。」
いつも通り淡白で無機質な返事を返すムルソー。
さりげなくグレゴールがずっと腰を押さえている理由が判明して私がそのままグレゴールへ視線を移すと、彼は訝し気な顔のままこちらを見つめる。一体、彼に何があったんだろう…。
「今後、各自治区で生活するにあたって囚人たちは多くの戦闘に巻き込まれることが想定されます。戦闘やその他の措置が必要な場合は、そのPDA-BRを以てその状況に適した判断を各自行ってください。それでは本日は解散とします。黄金の枝に関する有力な情報を発見した場合、管理人へすぐさま連絡してください。」
その言葉を最後に、ファウストは私に視線を投げる。その行動でファウストが何を求めているのかを理解した私は囚人たちの方へ向き直し、いつも通りの言葉を言った。
『囚人の業務終了を承認します。』
「お疲れ様~ダンテー、また明日ねー。あ、グレッグーちょっと飲んで帰らなーい?」
「…断るっていう選択肢はあるか?こっちは久しぶりの訓練で疲れてんだ。」
「次の勤務開始時間まで12時間を切っている。飲みに行くのはやめておいた方がいいだろう。」
「さぁシンクレア君!!!!!ともに我々のトリニティへと帰ろうではないか!!!!!!!!!」
「ちょっ、引っ張らないでくださいよー!!」
「はぁ…お疲れさまでした。管理人。」
「アァルピィジイといふものをまづは勉強せずは…始まらずやな。」
私の言葉を皮切りに囚人たちはそれぞれ異なる挨拶を済ませ(挨拶とは言えないものがほとんどだけど…)今の自分の居場所へと帰っていく。
昨日と変わらない、しかし少し静かな騒々しさだ。今回欠席だった囚人たちは一体今、このキヴォトスのどこで何をしているんだろう。メンバーが軒並み問題児ということもありかなり不安だが…まぁ、そのうち連絡をしてみよう。
「ダンテ。」
私が物思いに耽っていると、最後に残ったファウストに声をかけられた。彼女が私を心配して声をかけるなんてことは滅多にないとわかっているので、恐らく何か大事な話があると踏んで後ろを向いた。
「明日、アビドス高校に行く予定をお持ちの様でしたが、キャンセルしておいてください。」
まぁ、案の定だった。今更驚いたりもしない。あとでロージャには連絡を入れておこう。
『…何か重要な任務でもあるの?』
私がそう聞くと、ファウストは意地の悪い微笑みを浮かべながら肯定の返事を返す。
「えぇ、このキヴォトスの行政を行っている『連邦生徒会』の言葉を借りるなら、
いつも通り肝心な部分だけ言わず、ファウストは部屋を出ていった。
キヴォトスの命運をかけた大事な事…か、時計を回すようなことにならなければいいけど。
この胸の騒めきが杞憂であってほしいと思いながら、私はPDAをポケットにしまい外に出る。
ふと空を見上げれば暗い空に流れ星が一つ、弧を描いて通過していくのが見えた。
この美しく透き通った世界で見る夜空は、あの世界の物よりもはるかに広く思えた。
というわけでふわふわ伏線幕間回です。
誰が、何処に配属されてどう動くのかみたいなのも予想してみると面白いかもしれないですね。私はもう知ってるのでその楽しみみたいなのは味わえないわけですが。
それじゃあ次回からホントにアビドス編始まるので。あ、ちょっと待って!!石投げないで!!痛い!!痛いよママーーーー!!!!!(無名の胎児)
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それじゃあ読んでくれてありがとうございました~