愛を謳歌する幸せなアイの話   作:京猫

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どけ! 私がお姉ちゃんやぞ! をされまくる星野アイ系SS


★レッスン 収録事前練習

 

 

 デビュー曲の収録を3日後に控え、私はスタジオでヤネ君から歌の最終チェックを受けることになっていた。このレッスンの後は収録まで身体の微調律を受けるだけで、歌うことはない。声を張ることも可能な限り避ける。他のレッスンもなし。だから今こそありったけの力を出しておくとのことで、柔軟から発声練習も念入りに行われていた。

 

 正直なところ、自分がここまで成長出来るとは思っていなかった。開脚では脅威の180°、上半身もペタンと顎がつくまで倒せるし、人間やれば出来るんだな〜と感じいるところなんだけど…これやっぱりヤネ君のおかげなんだよね。毎晩行われる身体の調律が原因だと思うんだ。

 

 ダンスやパントマイム、それに演技のレッスンでも柔軟体操は念入りにするけど、その先生達が首を傾げる速度で成長した。

 

 …アイちゃん、他にどんなレッスンを受けているの?

 

 そんなことを繰り返し聞かれちゃったよ。もちろんレッスンスケジュールは事前に伝えてあるんだけどね。一応ヤネ君からも特別な身体の調律を受けてますと伝えたけど、先生達はその内容も効果も知らないしそもそも身体を調律するって何状態だから余計不思議がっている。まああの方がすることなら…と納得はしたみたいだけど。

 

 

 まあそんな訳で現状では完璧に仕上がったこの身体から、私はヤネ君の指示に従って声を響かせている。年齢を考慮しつつ育てられた筋肉を掌握し、身体全体から声を出す。喉に力は入らない。呼吸さえ意識しない。

 

 ヤネ君ぐらいになると、声を出すのに息をほぼ吐き出さないのだ。あれはまるで、声の様に聴こえる音が辺り一体から鳴り出しているかのように聴こえる。よく言うお腹からとかアタマのてっぺんから…とか言うレベルじゃないのだ。ヤネ君の前にいても後ろにいても、近くにいても遠くにいても同じように聴こえてくる。その空間、その世界そのものが語りかけてくるのだ。

 

 今の私にそれは到底無理な話なので、取り敢えず身体の中心から後光の様に声を放出するイメージを持つようにと言われている。光という波を放つなんて言われて最初はワケワカメだったけど、それでも何とか上達はしたみたい。お褒めの言葉が増えて私もこの成長を大変喜んでいる。

 

 ただ基礎となる呼吸法自体は最初から妥協はないとのことで、常日頃から躾けられた。これがまた詳しくは控えるけど人間離れした神技で、最初は無理だよ…と弱音を吐きそうになったんだけど、これも何というかその…ヤネ君と同衾し続けていたらいつの間にか身に付いていた。睡眠中にその呼吸を維持するよう調律され続けた結果、自然と起きている時もそう呼吸するようになっていたのだ。

 

「いいね。心地よい響き方だ。部屋全体まで良く届いている」

 

 ヤネ君の声も、いつも心地よく私に届いているよ。

 

「じゃあ次、スタッカート。なるべく大きな声で10回を繰り返し。いくよ」

 

 ヤネ君の声、独り占めしたいなぁ。でもそう思う一方で皆に聞かせて回りたいという気持ちもある。これが世にいう彼氏自慢というやつなのかなー★ ちょっと未だに羞恥心で悶絶しそうになるんだけど、嘘じゃないもんね。この二律背反な思いも上手く手懐けなきゃいけないんだ。

 

 それに最近の私は、ヤネ君を支えたいという気持ちも芽生え始めているんだよね。時折何故か無性に世話をしたくなるのだ。もちろん今の私に出来ることなどほぼないわけで、流れるように完璧な世話を焼く巫言さんや舞さんを恨めしく見ていたんだけど…2人にはそれがすぐにバレて微笑まれた。

 

 

 ――取り敢えず児屋様のことを良く見て差し上げるだけで良いでしょう。身嗜みをチェックする。あるいは今何をしたそうか、何が必要かを考えてみる。そしたらあとは私達に指示を出すだけでもいいの。髪が乱れてるから櫛だして、ハンカチないから用意して、とか。喉渇いてそうだから飲み物用意してとかでも良いし、私成分が足らないみたいだから2人きりにして…とかでもね。特に最後は替わりが効かない役目だし。ふふっ。

 

 ――料理、覚えてみる? 一緒に作りましょうよ。最初は簡単なお手伝いだけでも、何か一品だけチャレンジするのでもいいの。きっと児屋様は喜んでくれるわ。やっぱり殿方に効くのは愛妻料理よね〜。エプロン姿のアイちゃんとか見たらそりゃもう児屋様も堪らないわ、すぐさまベッドイン…ってそうだわ、ここで裸エプロンの出番なのね! アイちゃん、私とびっきりの作戦考えたわ〜!

 

 

 う、う〜ん。まあ料理はともかく舞さん自体は論外として…でも巫言さんのいうことは実践しても成果出すのが難しいんだよね。絶対に私よりマネさんのが速く気付いてるんだよ。何ならたままちゃんなんてヤネ君の本当に深い胸の内の欲求を汲み取れるんだよ。現状、私はみんなにかなり手加減されてるんだよね…だって私が言う前に皆分かってて準備してるんだもん。私が気付くの待ってるんだもん。――ふと気付いたら、ヤネ君と2人きりになってたりするんだもん! あ〜もう、その優しさが何とも恥ずかしいっての!

 

 

 私は息を吐くタイミングのついでに、昂ぶってしまった心を何とか落ち着かせる。今は大事なレッスン中である、これ以上気を散らしては絶対に駄目だ。引き締めないと。

 

 

「いいよ凄く。ちゃんと出来ている。よくここまで練習に着いてきてくれたね、ありがとう。じゃあ次はいよいよ実際の歌詞で声を出してみようか。アカペラだけど本番想定で宜しくね。まずは…」

 

 1フレーズで区切った歌詞を、ヤネ君の指示に合わせて歌っていく。アイドルソングらしく発声の強弱を意識して、感情をはっきりと乗せる。既にMVの映像は収録してあるのだ。あのダンス、あのポーズに合わせればいいだけ、イメージはばっちり掴んでいる。

 

 修整を求められた箇所はごく僅かで、それも程なく合格を言い渡される。ヤネ君が肯定してくれる度にますます私の調子は上がっていく。つまりこのレッスンは大成功で、私の想定通りな終わりを迎えようとしていた。もう少しだよ、やったね★

 

「うわ〜凄いわねぇ、アイちゃん。…でもこれ、カスガコヤネプロデュースというより児屋としての力が溢れちゃってない? 言霊の神格、感じない?」

「アイちゃんの思考を誘導するような意思は乗せたことないから良いのでは。ただ純粋に事実を表す言葉や、肯定する言葉、そして感謝を伝える言葉…つまり児屋様の意思表明に格別な尊さを感じるだけ。受け取った言葉をどう捉えるかは、ちゃんとアイちゃん自身の判断に委ねられている。このぐらいでいい様にされてしまう程、アイちゃんの存在力は弱くないわ」

「…なるほどねぇ。つまりこの成長はあくまでアイちゃんの意思によるものかぁ」

「時にコーチやトレーナーという人種はまるで洗脳するかのように生徒を鼓舞する必要があるでしょう? お前なら出来る、お前なら勝てる、とか。それを受けて生徒も信じ込む、自分は絶対にやれるんだと。――それを思うとむしろ弁えている方じゃないかしら。児屋様が同じことアイちゃんにしたら、それこそ洗脳になってしまうわ」

「それもそっか〜。…あれ? ということはさ、これもしかして普通に、大好きなヤネ君の期待に応えたい…という恋心のせいじゃない? あはは!」

 

 

 

 な、何かうるさい声が聴こえるなぁだまれー。

 

 

 

 私がヤネ君を好きで何がわるいんじゃあー。まだレッスン中だから見逃したるが、後で覚えておけよ…えーと何だっけ? あっ、このボケー! だ。どうよ、私だって関西弁を知っているのだ。あまり舐めて貰っては困る。

 

 ――でもまあ、本当のところは祈織さんに笑われるのも仕方がないんだけどね。

 

 私はつまりそのぐらい人に無関心な様に見えたり、常日頃から無気力だと思われる態度をとっていたんだ。身体からそんな雰囲気を滲み出していたんだ。だからそんな風に見える女子が人が変わったかのように必死に頑張って結果を出していたら、からかわれるのも無理ないんだよね。そりゃ興味惹かれて楽しくなっちゃうよね。実際祈織さんは私のそんな様子が見て取れると朗らかに笑うのだ。…さも嬉しそうに、その顔を綻ばすのだ。正直私は気恥ずかしくて仕方がない。

 

 つまり祈織さんは私にとって、いつかぎゃふんと言わせてみたい系姉…なのである。ちくしょー、今にみてなよ★

 

 

 

「おい、アイの感心を俺から奪うな」

 

 

 

 おおっとー? はい、ここでまたいつものナチュラル・ヤネ君のお出ましです。毎回本当不思議なんだけど、どうしてヤネ君はこんなセリフを口にして恥ずかしくないのか。例外は私を口説いた時ぐらい? 羞恥心がないわけじゃないだろうに、何故そんな堂々とした言動を取れるんだろう。――というか、今そんなにくっつかれるのは!

 

「や、ヤネ君! 今汗かいてるからくっつかないで!」

「ん? 毎晩ベッドの中でも汗かいてるじゃん」

「バラさないで!? いやバレてはいるけど口にはしないで恥ずかしいんだよ!」

 

 ト、トレーニング! きっとあれは加圧トレーニングみたいなもん! いやぁ、毎晩毎晩意識トんじゃうぐらいヘロヘロにされて大変なんだよねーアレって。アハハッ★ …って、もっとマズいこと言っちゃってるよこれ!?

 

「児屋くぅん…あのさぁ」

「スルにしたって毎回意識を飛ばすまでするのは、やり過ぎでは?」

「まあ一応はね、その方が調律の効果が高いとか言ってるけどねぇ。本当のところは児屋様のみぞ知る、だからね。怪しいよね〜」

「水分補給だけはしっかりさせて下さいね、児屋様」

「そうそう。何せアイちゃんったら汗だけじゃなくて涙やら涎やら女の子の何やらでベタベタのアヘアヘだからね! あははっ」

「ちょ、ちょ――!!」

 

 

 ――あ、暗黙の了解…って言葉は何処に行っちゃったの? なんで私の情報は常時共有フルオープンされちゃうの…?

 

 

 確かに毎朝シャワーを浴びる際に代わる代わるお世話されちゃってるから、みんなが知ってるのは当然なんだけど…そもそもタオルやらシーツやらの洗濯物でバレるよね…とか思うけども、それでも何かやりきれない気持ちでいっぱいだよぉ。

 

「まあ私としてはアイちゃんの身体の為になるならいいです。…実のところ辛いわけでも嫌なわけでもないみたいですし」

「あーそれどころかね、ふふっ。むしろアイちゃんね、ゆたか様に一度こっそり相談したみたいなんだよねぇ。いつになったらヤネ君はちゃんと手――」

「うわぁ!!」

 

 

 やめろォ!

 

 

 だから話が筒抜けなのやめてよ〜。びっくり飛び上がった私は堪らず祈織さんを両手でぐいぐいルーム端まで押しやった。

 

「お願いだからナイショにしてっ」

 

 語気は強くてもこっそり囁いたその懇願、幸い祈織さんもそれに合わせてヒソヒソ話に応じてくれる。

 

「はいはい。ごめんね、流石に冗談だよ。ただね、アイちゃん。児屋様と珠夜様、そしてうちらマネージャーを合わせた5人は明確にアイちゃんの保護者で身内なの。そのつもりなの。だから恥ずかしくて言い難いことでも秘密にしたいことでも、せめてだれか1人には打ち明けて欲しいな」

「うっ…」

「ゆたか様もね、ちょっと困っていたのよ。あの方はお祖母ちゃんとしてアイちゃんを甘やかす気満々だけど、かかりつけ医という立ち場もまた重視していらっしゃるからね。アイちゃんの質問を医師としても真面目に受け止めたからこそ、児屋様はともかく私達にも秘密で聞きに来たというのが気に掛かったの。側にいる女衆の誰かは知っておいた方がいいんじゃないかって。それで私にだけこっそり教えて下さったの」

「うぅ…ご、ごめん」

「ごめんはこっちのセリフなんだけどね。秘密にされたことにちょっぴり…ほんのちょっぴり傷ついてつい意地悪しちゃった。ごめんねアイちゃん」

「…むぅ〜ズルい。そう言われたら許すしかないじゃん」

「ふふっ、ズルいのはいい女の証明でもあるからねぇ」

 

 祈織さんはそう言って実にいい笑顔を見せつけながら笑った。もぉ〜何でそんなに優しい目してるんだ…お姉ちゃんか!

 

「何? 俺に隠し事して楽しそうだな?」

「ううん、 違うよ児屋パパ! 祈織さんがまた意地悪してきたから、意地悪で悪戯が大好きな祈織お姉ちゃんはこの児屋ファミリーだと次女かなぁ〜っていう議論で戦ってた★」

「あははっ、私はてっきり長女だと思っていたからねぇ。異議ありまくりでつい激論になったよねー」

 

 話に乗ってくれて助かるよっ、祈織お姉ちゃん!

 

「…私です。当然私が長女ですよね、アイちゃん?」

「もちろんそうだよ、巫言お姉ちゃん!」

「でもさぁ…って、そういえばアイちゃんの中で舞は三女確定なんだ?」

「えっ、それはそうじゃない? だって舞さん、実はかなり深刻な人見知りじゃない? 精神的に大分頼ってるよね、2人に」

「…おぉ、分かるんだねぇ」

「そうですね。実は社交性が児屋様ぐらい欠落しています。不味いことに他人と1対1だとオドオドしつつも防衛本能が過剰な先制攻撃をしてしまうタイプでして…でもアイちゃんが来てからは大分改善されましたよ。姉として張り切っているみたいです」

「そだねぇ。だから今までは家事とか事務処理とか内で支える仕事を中心にしてたんだけど…今の舞ならアイちゃんと2人で外に出してもギリ大丈夫かもよ。まあ必要がなきゃ無理はさせないけどね」

 

 ふふふっ…人見知り同士のシンパシーを舐めないで欲しいな★ 分かるんだよ、同類はね。

 

「なるほどね…俺がパパでたま姉がママならそうなるのか」

「あははっ。パパー、もう今日はレッスンおしまいにして家族ですごそうよ。ママとも一緒できるかなぁ」

 

 たままちゃんにはたままファミリーもあるしね。青葉君はまだ小さいから夫の葺夜さんかゆたかお祖母ちゃんが面倒見れる時じゃないと…今の時間ならまだ幼稚園かな? まあそれにしても何時まで抜けられるかは分からない。まあ青葉君ならいても全然いいんだけど、今回は児屋ファミリーの集いだからね★

 

「可能だよ。葺夜の奴は俺とたま姉の為なら何でもするからね」

 

 ちなみに葺夜さんは私の前ではマジ笑顔のまま空気になっている。どうやらヤネ君とたままちゃんに大変気を使っているらしい。絶対に出しゃばらないという強い意思を感じる。何でも忠誠心がガンギマリな人なんだって。自分は珠夜様という至宝を児屋様から預けられただけで至福の極みだとか何とか。まあその割にたままちゃんに対してのアプローチは凄かったらしいけどね。何せあのたままちゃんが「絆されたー」して、高校卒業後すぐに結婚したわけだから。

 

「よし、じゃあレッスンはキリ良くこれでおしまいにしよう。シャワー浴びて家に帰るか」

「そ、そだね――あ、あれ?」

 

 も、もしもしヤネ君? 私の肩抱いていったいどこに連れてこうとしてるのかな? だってヤネ君はシャワー浴びる必要ないよね?…えっ、どういうこと?

 

「はははっ。アイ、俺に嘘は通じないんだなぁ、これが。知ってる筈だよね?」

「…あっ」

 

 

 あ〜しまった!

 

 

 咄嗟に口からデタラメが出てしまったから、ついそのこと忘れて押し通してしまった! これはとんでもないケアレスミスだ。よりによってヤネ君に嘘で誤魔化そうとしたとか、凄いショックだー。罪悪感じゃないよ。私のことを理解してるヤネ君にそれは今更だから。問題はそんな意味ないポカをした上で私がおしおきを受けるはめになるということで…

 

「シャワー室で…いやこの際ちゃんと風呂の方に入るか。まあタップリ時間かけて問い詰めて上げるよ。俺に何を隠しているのか、をね」

「…た、助けて巫言お姉ちゃん!」

「さて、私も話の内容知りませんからね。ここは中立でいましょうか」

「き、祈織お姉ちゃん…!」

「当方に自白の用意あり。ただ願わくばこれはアイちゃんの名誉に関わる話、本人から聞き出して頂きたく」

「あ〜、頼りにならないなぁ!」

 

 いきなり白旗上げるとか、せめて一緒に抵抗してよ〜。

 

「さあ、アイ。じっとしてな」

「あっ」

 

 こ、これは舞お姉ちゃん曰く、憧れのお姫様抱っことかいうやつじゃない…? 急に持ち上げられたから思わず怖くてヤネ君の首にしがみついた…んだけど、それで完成しちゃうんじゃなかったっけ? この抱き上げ方…

 

「そうそう、しっかり掴まってなよ」

「――ああっ」

「声出しレッスンも途中ではあったしね。残りは浴室で、思う存分嬌声をあげてもらおう」

「――ああぁ〜っ!」

 

 

 

 

 

 

 その後。私はヤネ君の宣言通りヘロヘロになるまで享楽に溺れさせられ、いつも以上の甘美なる嬌声を上げ続けたのであった。

 

 ――いや、ホント一緒にお風呂入って加圧トレーニングを受けただけだけどね。辛うじて秘密は守り切ったけどねっ。 本当に恥ずかしいから時期が来るまで秘密にしたい…って素直に言ったら許してくれたよ。…最初からそう言えばよかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、デビュー曲の収録は当然延期された★

 

 

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