愛を謳歌する幸せなアイの話   作:京猫

12 / 27



幸せ過ぎてつい覇権を狙っちゃう星野アイ系SS


★2人きりの休暇

 

 

 3回目の配信の翌日、私はこれ当然だと思うんだけど――過去にない盛大なレベルでいじけた。

 

 

 結局メン限用動画はちゃんと不味い部分をカットされた物が用意されていたけど、私はそれはもう不満を露わに駄々を捏ねた。ヤネ君から一時も離れなかった。そしてそんな私の感情の発露にマネさんたちは何故か大いに感動し、喜々として撮影しまくったうえ厳選した写真をインスタに投稿する。舞さん特製の抹茶パフェをヤネ君に食べさせて貰っている写真が一番ウケていた。基本私が管理している筈のTwitterに動画までアップされ非常にバズっていた。

 

 #ウサギの飼育法

 #パパヤネ君の日課

 #拗ねたウサギの機嫌をとるたったひとつの冴えたやりかた

 

 

 餌付けじゃないんだよ、まったくもー。

 

 

 まあ取り敢えずそんな出来事はいいとして、私のスケジュールは次の配信まで何も入っていない。3連休である。運動する時間は取られているけど、それ以外は完全にオフということだ。よって私はその初日をずっとヤネ君にお世話される生活を送り、日が明けて休暇2日目となる今日もゆっくりと家で過ごすことにした。

 

 

 ブランチというにも遅い時間に食事を頂いてから、ヤネ君の胸に背中を預ける形でソファにゆったり座り、一緒にヤネ君のライブ映像をまったり眺める。もう何回も見たものだけど、何回でも見たくなるのだ。正確には見るというより浸る、かな。付き合わせるヤネ君には申し訳ないことだけど。

 

 ちなみにこのソファ、脚が全くないリクライニング・ソファベッドとかいうタイプらしくてね。ソファというより分厚いマットレスに寄りかかる背もたれがついた様な、まるで後ろから彼女をガバっと抱きしめて座る為に生み出されたんじゃないかと思える代物だった。…故にその、だから、私のお気に入りでもある。ヤネ君が変な悪戯をしてこなければ。

 

「アイ…凄いな。いよいよこれ、1カップ上がってないか」

 

 …まあ、実際はこうやって簡単に手を出されてしまうんだけどね。そんなこと真剣な口調で報告しなくていいんだよ。正解だよ。既に舞さんからワンサイズ大きい物を渡されたよ。でも本人に向ってそんなこと言わなくてもいいんだよー。もちろん返答なんて、してあげない。

 

「やっぱり、自分のライブを見返すのはつまらない?」

「うーん、正直自分のだからこそ何とも思わないな。ただこの時間の過ごし方は好きだから、アイは幾らでも見続けてくれ。俺も俺でアイを堪能する」

「…しょうがないなぁ」

 

 このぐらいなら…んっ、ま、まだ平気かな。最初は初めて見る映像に夢中になってて何されても気付かなかった。そのうち手やら何やらを動かされるとその都度気になるようになった。そして今は…頑張って多少ヤネ君を躾けたのだ。せめてそっと触ってねと。羞恥心を刺激しない程度にしてね、キスマークも人に見られないとこにつけてねと。そんなに外出することはないけれど、レッスンや配信があるからね。流石に他人に見られるの恥ずかしいんだよ。

 

 

 …ただ、なぁ。先日の配信の件があるからねぇ。

 

 

 あんな際どいこと配信で映してしまったのだ。なぁなぁで身を流されそうで怖い。過ぎてしまえばサラっと何喰わぬ顔も出来るけど、その時感じる羞恥心は抑えきれない。何故か、馴れるどころかますます抑えが効かなくなっている。これって普通なの? 私、変な風に調きょ…調律されてないかな? どこか箍が外れてるような…たくさん並んでいる感情の蛇口、その幾つかが開き易くなっているような気がしている。

 

「でも本当に外出しなくて良かったの? 3日あれば別荘なり…そうじゃなくてもお忍びでどこか遊びに行けると思ったけど」

「うん。昨日はマネさんたち忙しかったからね、今日明日はお休みして欲しい」

 

 忙しかったのは私の写真やら動画やらを取ったり何なりで自業自得の気もするけど…その代償に私の機嫌をとろうとすんごい食事を用意するハメになったからだとも思うんだけどね。

 

 今日のブランチで出された、こんな大きなお肉の塊がここまで柔らかくなるのかと思わせるビーフシチュー。昨日私がその苦労を知らずにリクエストしたらその直後から何やら大きな鍋を用意して3人で代わる代わる焼いたり煮たり濾したり色々していた。一応デミグラスソースから作ったけど、本当なら1週間かけて作りたいとか言われて思わず気が遠くなった。何てこと気軽に頼んでしまったんだとかなり後悔した。

 

 よくよく聞いてみれば舞さんのこだわりが凄過ぎただけ…らしいのだけど、私はそれを分かっていなきゃいけなかった。だってこの家のキッチン、まるでお店みたいに本格的だもんね。厨房とか調理場とか呼びたくなる設備なんだよ。実際昨日の夜もコースみたいな料理が出てきたんだけど、覗き見た舞さんの仕事ぶりは凄いの一言。一流コックみたいな顔してソースのアイデアなんて幾らでも湧くとか言ってるし、熟練料理長みたいにテキパキとした指示出しで、巫言さんと祈織さんを部下として使っていた。デキる人すぎて見る目変わっちゃうよこれ。

 

 ――だから、今日と明日は是非ともお休みして貰う。

 

 どうしても用意したがる食事は簡単な物にしてと頼んだ。これ、下手に私はヤネ君と食べに行くし他のマネさんのことも気にしなくていいから完全にお休みしてーとか言うと、舞さんは作らないどころか固形の総合栄養食を囓る程度で済まそうとするんだよね。一体どの口で配信の時私に謝らせたのか…って話だよ、もぅ。だから今日はひとまず身体を休める時間を多くとって貰って、明日の昼と夜は舞さんが気になっているお店へみんなで食べに行くことになった。たままちゃんも一緒にね。

 

「…そう言えば今日、たままちゃんは?」

「ああ。たま姉はウチで指導してる日本舞踊の師範に用があって事務所に行ったよ。ふらっとタクシーで行こうとするから慌てた祈織が車に乗せてた。ついでだから一緒に苺プロダクションから来てるレッスン生も見てくるらしい。丁度よく日本舞踊をする日らしいからこの機会に品定め、だってさ」

「へえー。ということはあの…何とか小町っていうグループ名乗る予定の子たちを?」

「そう。確かB小町24だったかな。予定通りいけば」

 

 あーそうそう。数字が後ろについてた。確か人数を表してるんだっけ。

 

「トゥエンティーフォー、つまり24人かぁ。凄いね、そんなに集めるんだ。…あれ? 確かまだ3人ぐらいしかいないんじゃなかったっけ」

「24時間いつでも、誰かが、きっと貴方のアイドルになる…が謳い文句だってさ。コンビニか? 意味わからん。きっと考えるな感じろ案件だな。あと今は5人になったらしい。むしろ人数はちょっと煽れば簡単に集まる見込みらしいよ。春日アイドルフェスの後なら…ね」

「ははぁ、なるほど? あの社長さん何か企んでいるんだ」

 

 きっと悪いことに違いないね!

 

「そうだね。まあ事は必然ではあるんだけど、その地均しをしてる…って感じかな。アイの圧倒的なパフォーマンスによって出演したグループ全てを木っ端微塵に粉砕し、そのなかで見込みある者に発破かけて拾い上げる。すると実力と経験に知名度を持った人材が簡単に集まるわけだ。自分の所のアイドルは今地下デビューなんかさせてアイにその存在を忘却されるより、ウチのスタジオでレッスン漬けにして実力を磨いておく。ウチだと音響やら演出を担当するライブ関係者からも実践的な教えが受けられるしね。むしろフェスではアイのバックダンサーとして使ってくれないか、との打診を受けたよ」

「…ええっ!?」

「つまり、自分の事務所のアイドルにはいずれグループの中核となれる実力を身に付けさせ、大舞台をまず裏方の立場で経験させる。知名度の不足はそれを補える即戦力なアイドルたちの加入で補強する。そんな未来に至る為の準備をしているわけだ」

「あ、あの人本当にそんなこと企んでるの?」

 

 な、何だか本当にえげつない企みに聞こえるんだけど。それに私に対する期待がやけに大きいし。…やるね、社長さん。

 

「B小町24はアイに嫉妬しても羨望を抱いても敵わないと心折れても、アイドルとして輝くという夢だけは諦めずに戦う集団。彼の事務所のアイドルたちは、そんな選ばれし精鋭グループの期待すべきニューフェイスと持ち上げてメジャーデビューを目指す。アイの初ライブでバックダンサーを担当したというのも話題の1つに出来るから悪くない。まあ自分が集めてしまったのだから、せめて精一杯面倒は見てやるってことだろうね。それで駄目ならそれはその子らのせいだろうし」

「…うん? 最初は凄い計画だなーとか思ったんだけど、最後の方聞くと結局は勝算が低い?」

 

 ヤネ君の声がえらく平坦になってる。これ、絶対街中の人混みを眺める時のような目してるよ。

 

「ないよ。以前の話し合いで俺と巫言は紹介替わりに初期組3人のレッスン映像を見せられたんだけど…まあ今日たま姉と祈織が見てくればはっきりするさ。きっと2人ともこう言うよ、良くも悪くもそこらにいる可愛らしい女の子だって。覚悟も実力も、勤勉さや性格の悪さまで可愛らしいものでしかなくて。自分なら人気アイドルになれる、という根拠のない可愛らしい思い込みをしている子たち。それじゃ逆立ちしたってアイに勝てるわけがないよ。斉藤は大変だろうな。そんな子たちの甘い可愛らしさを修正し、心奮い立たせなきゃいけないなんて。まあ、そんな苦労も可愛らしいものか」

 

 おお…? それはまた随分と意味深な可愛らしいだねー。何だか私の中で可愛らしいの定義が揺らいできたよ。

 

「あとこれは結構先の話だと思うけど、いずれは姉妹グループとしてC小町24(仮)も立ち上げる構想があるみたいだ。ここに集めるのは最初からアイに憧れてアイドル目指した、謂わば信奉者とも言える女の子たちだね。もしアイがバックダンサーを募集したら喜んで立候補してしまう様な、まさにアイ・チルドレンを選抜する。アイの伝説を語り継ぎ、いずれ暗闇に覆われるだろうアイドル界を何とか保たせる存在とする為に。…もしかしたらBからの転属もありえるかな」

「…そんなことまで、あの人がするの?」

「清濁併せ呑んでもアイドル界を支える覚悟が出来たらしい。円滑に物事を進める為に業界の上の方にいるクソみたいな奴とかには既にそれとなく展望を匂わせてみたり…色々と動いているよ」

「あ〜。それはあの社長さんのこと見直すほど凄いとは思うけど、詳しくは聞かない方がいい気がしてきたー」

「ははっ、そうだね。まあ人に必要な人同士の企みだから、人に任せておこうか」

「あははっ。またそんな、巫言さん曰く人ならざる価値観を出しちゃって」

「アイなら受け入れてくれるんだろ? それにアイだって人から見たら似たようなもんさ」

「えぇ〜、そこまでかなぁ」

「正直俺らからしたらアイ・インパクト後のアイドル業界なんて心底どうでもいい。だから思う存分、屠ってやりなよ。――それに、実はアイも楽しみにしているんだろ? その輝きで世間を手玉に取ることを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あはっ…バレたぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だってさ、私は確かに世界で一番可愛いし、笑顔は無敵だし。理解は未だ朧気でもこの身は愛される悦びを知っているんだよ。私からの愛を予約してくれた人がいるんだよ。ならもう私は最強だよね、完璧だよね! 人との相違につまんない痛みを抱えてひっそり喘いでいた昔の私とは違うんだ。だったらもう、とことんやってやるしかないよね。

 

 遠慮してる場合じゃなかった。身内からの愛だけで十分とかカッコつけてた。私はやっぱり貪欲なんだ。当たり前のように全部が欲しいんだ。嗚呼、確かに私はアイドルなんだろうね。注目されのは私だけでいい、アイコンは1人で十分だ。身内からの愛もファンからの愛も私が全て独り占めする。とびきりの嘘と真実のアイで、アイドル業界をまるごと蹂躙する。この瞳の輝きで世界を覆い尽くして――私は、世界中から愛される為に生まれてきたんだ…!

 

 

 

 ――って、ひゃぅん!

 

 

 

「ちょ、ちょっとヤネ君! さわってもいいけどクリッとはしないでって言ったでしょ!」

「ははっ、ごめんこめん。何だか妄想に力入ってるなぁと思ってさ」

「そりゃ入るでしょっ、あんな煽るようなこと言われたら! …もう、せっかくやる気になったのにさー」

 

 でも確かにちょっと、力入り過ぎてたかも。世界中から愛されるとか…アイドルという役に気持ち入れ込み過ぎたよね。多分これ、私への理解がある女性ファン達の存在に、そんな女性達から支持を得られたということに自分で思うより舞い上がっていたんだなぁ。嬉しくてつい、自分というどこか異常な存在が引き起こす罪を忘れてしまった。お恥ずかしいね。

 

 

 …や、やっぱり、私にはヤネ君だけいれば十分じゃないかな?

 

 

「良い音色出してたし、鏡越しだけど良い顔してたのも見えたよ」

 

 うん。何故か丁度テレビの下辺りに鏡が置かれてるんだよね。何故だろう、そうだね、後ろからじゃ見えない私の顔を見る為だね。それしか理由ないよね。えらい速さで疑問が解決したねー。

 

「不敵な表情も大分様になってきた。そこに確かなアイが宿っている。笑顔にしようかと思っていたけど…フェスのアイ用ポスターの撮影も、その線で考えようか。それに似合うキャッチコピーは考えてあるし、これはもう天下もすぐそこかと思えるけど…俺としてはアイが魅力的になり過ぎて自制するのが大変だよ。最初は幼さが強く出てる内は平気かと思っていたけど…むしろ触れやすくて、それが結局俺の歯止めを壊してしまう」

「あははっ、そこは頑張って抑えてよ。このソファ汚しちゃだめだよ。こうやって過ごす時間、私も大好きなんだから」

 

 私はもっと、ヤネ君と渡り合えるようになりたい。神業が過ぎて追いつくのは大変だけど、彼を独りにしたくないから。寄り添いたい…と心の底から思えるから。

 

 …でも、それならやっぱり私は私を曲げない方がいいんだよね。私のままヤネ君の心に寄り添って、私のままみんなからの評価まで勝ち取る。だってヤネ君がそれを可能と見ているのだから。嘘というとびきりのスパイスで引き寄せて、本当のアイでファンを魅了する…

 

「そこはストレートに俺のことが大好き、と言って欲しかったな」

「昨夜散々言ったじゃん。言わされたりもしたじゃん! おかげで今日起きるの遅くなっちゃったしさぁ。まあ昨日は甘えまくった私も悪…い〜や! やっぱり悪くない」

 

 大好き…と言えるのは良いよねぇ。愛という言葉は色々な意味合いを含み過ぎていて未だ私の中で漠然としているけど、大好き…はダイレクトな感情そのものを表しているように思えて。だから私でも比較的容易に伝えられるんだ、何せ気の赴くままでオッケーだからね。…まあこう思えるようになったのも、私の意思や感情の発露を喜んでくれる児屋ファミリーのおかげなんだけど。

 

 この辺りは何気にたままちゃんの影響が強いかも知れない。彼女こそ風の吹くまま気の向くままに生きている。だから時に大きく感情を露わにすることがあるのだ。子供と一緒に喜び、一緒に肩を落とし、一緒に頭を捻りもする。その様が何とも魅力的で、やっぱり私もそんな風に自分の心を素直に表現したい、と思ったのかもしれないね。今の私はそれを不安に抱く状況にない。そんな悲観を抱える必要がない。だって私の周りには、私のありのままを受け入れてくれる人達がいるんだから。

 

「でも、そう言えばさー。たままちゃんと祈織さんは春日プロで、舞さんは美容室にお出かけ。…巫言さんは?」

 

 私はヤネ君と手と手でちょっとした攻防という名の戯れ合いを繰り広げつつ、話題を変える。

 

「確か身体を動かしてくるって言ってたな。おそらくは合気の方」

 

 文武両道、人情激アツな巫言さんは合気道と薙刀を嗜むらしい。普段は大人っぽく髪をアップヘアにしているけど、降ろすと見た目が大正浪漫な装いが似合う可憐なお嬢様だから、いかにもって感じだ。着物とか袴とかすっごく似合いそう。――いざ、参ります! とか可愛い声で言いそう。

 

「マネさん達ってみんなそんな傾向あるけどさ。実は巫言さん、たままちゃんと並ぶぐらい童顔だよね?」

「まあ、そうかもね。高校に上がってからほぼ変わってない気が…する」

 

 揃ってみんな23才なのに、年に合わせた装いを解くとみんな10代に見える。不思議だなぁ。どうしてだろうなぁ。

 

「だからなのかは知らないけど、初配信のあとに私と巫言さんで姉妹の仕事依頼来たのは笑ったねー」

「ああ…あの忌々しいクソアパレルからの巫山戯た依頼か」

「いやいや、超大手じゃん。誰でも知ってる総合アパレルメーカー…とかいうやつだって言ってたよ。それに単に販促目的の下着モデルじゃなくてJrブラの解説用モデルだし、まだちゃんとした理由がある方の仕事じゃない?」

 

 私の初めてとなるブラを、巫言お姉ちゃんに教わりながら着けてよう! …いやもうとっくに着けてるし、わざわざ教わるふりするのは恥ずかしいねこれ。やるわけないけど、やらなくてよかったよ。

 

「それこそどっちも斉藤のとこみたいな小さい事務所に回してやるべき仕事だよ。こういう仕事の単価は本来バイト並みだしね。でも事務所としては抱えるモデルに仕事を振れるし、タレントの卵には撮影現場を体験させられる…というか聞いた所によるとそんなことしてたのはもう随分と昔の話で、今はイラストかそれに音声を付けた動画なんかで解説するのが一般的らしいじゃないか。――それを、よりによって、図々しくも俺のアイを狙うとか。あのクソ会社のクソ営業はそれこそ死…」

「あっ、怖いよヤネ君、ちょっと怖い!」

 

 これ、年頃の女の子の為に誰かがやらなきゃいけない類の仕事じゃなかったんだねー。ちらっと話を聞いた時は、そっかぁ…確かにお手本見せてくれると分かりやすいかもねー、とか納得しちゃったんだけど。どうも違ったらしい。まあ思い返せば私もそんな実写映像見た憶えないしねぇ。

 

「すまない、止めないでくれ。全てはアイの為なんだ。ここは何も聞かなかったことにして欲しい」

「…あれ? その言い分聞き入れたら私も共犯にならないっけ。ほーじょ?」

「アイ。いざとなったら一緒に逃げ…るのはメンドイから、やっぱり相手を潰そうよ」

「…ふふふっ。ヤネ君と一緒なら何処にでも着いて…行くけどそれはそれで大変だから、やっちゃおっか★」

 

 ヤネ君の心の安寧が何より大事だよね、私の為にも!

 

「真面目にちょっと怖がらせたね、ごめん」

「いいよ!」

 

 何か一瞬荒ぶる力の奔流が見えた気がしてゾワゾワしただけだし。

 

 でもこのヤネ君の反応だと、今後のアイドル衣装とかもどうなるか分らないよねー。水着くらいはあるのかな? でもヤネ君がこうだし、煽情的な衣装はないのかもしれないね。

 

「――敢えて凄い格好させて、私を見せつけてやりたいとかは…ないよね?」

「んん? …ああ、なるほど。一体何を急に言い出すのかと思った。もちろんアイが本当に困る格好なんかさせないけどね」

「水着は?」

「そこは…いや、そうか。悩みどころではあるな。流石に独占欲が強すぎるとも思うけど…事実としてかなりの肌を露出することになるしな。正直、進んで見せたくは…ない」

 

 ヤネ君はそう言って私を掻き抱いた。アイ〜、何て態とらしく呟きながら私のうなじや首元を弄り、手をもぞもぞさせてくる。あっ、ちょっ…

 

「待て待て待って! これ昼兼用だけどナイトブラだから、下へ脱がないとダメなやつ!」

 

 ウチでは肝心の夜に何故か出番が無いことで定評のあるナイトブラね。いや、一応あるのか。朝、私が起きると何故か勝手に着用されているからね。だからヤネ君もナイトブラには詳しい筈なのである。不思議なことだなぁ…

 

 私にはレッスンもあるし色々身体の成長期でもあるから、それを補佐する下着には神経質なまでに気を使われている。舞さんにより日々サイズの確認が行われて、舞さんセレクトの身体に寸分たがわない品だけを身に着けるのだ。むしろ一度しか着けずに終わる下着もあるほどに。

 

「ああ、そっか。家にいてあまり動かない予定ならリラックスの為にナイトブラでも…とか言う話か」

「そ、そう!」

 

 やっぱり詳しいね!

 

「じゃあ御言葉通り、下から先に脱がすよ」

「待て待て待って! そんなこと言ってなぁ…んんっ」

 

 んっ…や、ヤネ君さぁ、私の力を抜くのがとても上手いよねぇ。タイミング良く刺激されるから力入れようとする瞬間に、その力が散らされてしまう。

 

 

 ああ〜。これは、駄目そう…

 

 

「や、ヤネくぅ…ん」

「せっかく2人きりだから、ね? 珍しいでしょ。部屋じゃなくて家に2人きりは」

「そ、それはそうだけど…こんな時間…というかここじゃみんな帰って来た時に見つかる可能性が…!」

 

 馴れたとはいえ毎朝事後を見られるだけでも恥ずかしいのに、そ、その最中とか…もうどうにかなってしまう!

 

「ハラハラするねぇ。何、恐れることなんてない。心躍るわ」

「よ、喜ぶなぁ。そんなことで覇王みたいな覇気出さないで〜」

「冗談だよ。大丈夫、帰って来る時はマンションに着いた時点で連絡しろって伝えてあるから」

「…計画的犯行じゃん!」

「はははっ。」

「笑って誤魔化さないでよー」

「いや、それにしてもなんだけど、アイ…」

「な、何?」

「14才になる辺りまで待てばイケそうだけど…どうかな?」

「――わ、わからないです!」

「――オールオッケー?」

「オッケーじゃ、ないです!」

 

 何を聞いてくるんだよ、ヤネ君はっ。そんなの私が知りたいよ! ゆたか御祖母ちゃ…先生も結局相手がどう身体を労ってくれるかにもよるから、むしろヤネ君の神技による判断を待った方が良いって…え? つまりヤネ君は毎日私の身体を視て、いつ味わえるかを考えていたってこと? まだかなまだかな〜してたってこと!?

 

 ううぅ…改めてそう思うと、止められない羞恥心が込み上げてきてしまう。頬も身体も熱くて上手く力が入らない。ふにゃふにゃになりそうな私が悶えるように身体を撚ると、テレビのモニターに丁度アイノリトを謳うヤネ君の姿が見えた。

 

「や、ヤネ君…テレビ、消して」

 

 何だかやけに恥ずかしい。アイノリトを謳うヤネ君を見ていると、まるでその隣にあの頃の幼い私が佇んでいるような気がして――気恥ずかし過ぎるんだ。だってあの頃のヒネた私じゃ、何やってるの…と冷めた目でこっちを見てくるよ、絶対!

 

 ――し、幸せだからっ。これで私は、幸せだから!

 

 …と言ってもこんな痴態を晒しながらじゃ説得力がないよね。余計に軽蔑されそう。アンタの幸せは結局男にうんぬんって自分に言われちゃうってー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――結局。そんなハチャメチャな私の心情に気付いたヤネ君は、面白がって曲が終わるまでテレビを消してくれなかった。当然、後で大いに機嫌を損ねてみせる私。ヤネ君には罰として「アイノリト」を文字通り自分だけのものにしたいと我儘を言った。

 

 YouTubeのMVだけは…私にも「この曲、実は私だけのものなんだよね♥」と自慢したい気持ちがあるから…ま、まあ勘弁してあげるとして、とにかく他は全部ダメ。サブスクもDL販売も実売もカラオケからも撤退。当然今後はみんなの前で謳うのもダメー。謳っていいのは私…と身内の前だけ。

 

 この我儘は私の軽い想定を越え、契約とかまるで無視した超スピードで即日実現されることになった。各会社さんも相手がヤネ君だからね、変にいや契約がまだ…とか抵抗すると、じゃあ契約満了したら全曲撤退でとか言われたらと困る、ということらしい。凄いね、力がある人はこうやって本当に忖度されるんだね。そして私は、そんな危うく大事になる我儘を言ってしまったんだぁ…各会社の担当さん、ごめんなさい。やっぱり私は空気読めなかったよ…

 

 やらかした事の大きさを知った私は、次の日のお休みを返上して春日プロの事務所に顔を出した。実際の事務処理をした経理さんにお礼をして、フェスの為にダンスの復習でも…と思っていた所に、ヤネ君からフェス用販促ポスターの案を聞きつけたカメラマンさんやらデザイン担当さん、他諸々が早速押し寄せてきた。

 

 乗りに乗ったスタッフさんの熱意に押され、私はすぐさま撮影ハイオッケー、取り込みデザインオールオッケー。

 

 その日の内に出来上がってしまった試作品は…これまた、いきなりやらかしちゃってるけどいいのかなぁーと思う仕上がりになりまして。いや完成度は凄く良いから本採用まで決定しちゃったんだけど…あくまで私専用の販促だからいいのかな。他のグループもそれぞれが主役のポスターが用意されるんだろうしね…ま、いっか。他のグループに興味はないし、成るように成るよね★

 

 

 

 私は改めてマジマジと、まるで自分の将来を暗示するかのような出来に仕上がったポスターを仰ぎ見る。

 

 

 

 そこに写る私は、気持ちだらっと頭の横で両手ピースに舌ペロポーズ、実にふてぶてしい表情を浮かべている。だけどその顔から滲み出る傲慢なまでに確かな自信が、見る者全ての心を掴んで離さない。その瞳に宿る無敵の一番星が、今とびきりのアイをこの世界に輝かせ――

 

 それはまさに、添えられたキャッチコピー通りの私を啓示しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ai★ first, the rest nowhere!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。