愛を謳歌する幸せなアイの話   作:京猫

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幾つかの未来予想図を前にロマンティックが止まらない星野アイ系SS


★シークレット・ギグ 前編

 

 

 

アイ★
@ai_kasuga・41日

☆新曲☆ ハッピー★エレクトロニカ

 

幸せな電子音が2人の心に響く時、そこに確かなアイの絆が築かれる――

 

ヤネ君のチャンネルで 20:00 プレミアム公開★

息のあった2人のダンスに注目だ!

#アイ★Songs

ハッピー★エレクトロニカ MV / feat.カスガアイ/カスガタマヨ

youtu.be/FikVC3zAsq2Yjx…

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・30日

今週は配信出来ません。

私は今――沖縄にいます!

 

ウソです。もう行って帰って来たところだよ★

実は今週、沖縄ロケに行ってたんだよねー

夏っぽい恰好して夏っぽい曲撮ってきた!

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・25日

☆新曲☆ アイ★Limit

 

――何この衣装!?

何故かメンバーの言うがままに撮らされた、謂わば罰ゲームのノリで撮ったこのMV…

とは言え曲は最高にノリノリで、貴方の心を真夏の様に熱くさせることウケアイだ★

 

まあ、夏らしくてイインジャナイカナ…?

#アイ★Songs

アイ★Limit MV / アイ

youtu.be/AaikYY5gpXIL6…

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・4時間

いぇいおはよ★

 

何故か分からないけど今日はやる気に満ちている…!

不思議なこともあるもんだねー

こ  り  い   き   

 

 

 

 

 

アイ★シュライン

 

 

アイ★ / カスガアイ

 

 

「アイLive★コール練習体験」

 

☆ファンイベント開催についてのお知らせ☆

 

 

この度アイ★シュラインではシークレット・ファンイベントと致しまして、コール練習体験希望者を募集致します。

 

コールと呼ばれる曲に合わせた様々な声出し、ペンライトやサイリウム利用した応援を本番さながらのライブ会場で練習、体験出来るこのイベント。

 

大型スクリーンにアイちゃんのライブ用振り付け動画を流しつつスタッフが見本、実演指導を致します。慣れていない方も安心して練習に取り組むことが出来る環境を構築致しました。

 

アイちゃんのライブを大いに盛り上げる、そのお手伝い。貴方もぜひこの機会に腕を磨いてみませんか?

 

 

日時:20xx/xx/xx (日) OPEN 11:30 / START 13:00

メイン会場(集合場所):春日ミュージックホール

サブ会場:Clubカスガ(ほぼ隣接しています)

参加人数:600名まで

チケット代:4000円

司会進行:マネみこ マネまい

実演指導:マネおり

 

 

概要

 

・当ファンクラブ製品である、「うさ耳付き帽子 春夏用」または「うさ耳付きパーカー 春夏用」(黒、白、ピンク、全て可) を1つ以上持参、または現地で購入し、現場で着用が可能な方のみの募集となります。(当日10:30から現地でグッズ販売があります)

 

・当イベントは運営により撮影収録が行われます。つきましては映像や写真、音声等が公開されても問題無い方のみ応募可能となります。(お申込みの際に同意確認のチェック欄が用意されております)

 

・未就学児、また現在健康上の問題がある方のご参加は現地スタッフとの要相談になります。場合によっては見学のみの参加、また急を要する容態の方には参加を取り止めて頂くこともございます。予めご了承下さい。(救護班として医師、看護師を手配済みです)

 

・参加チケットはお一人様1枚のご購入となります。(未就学児のみ、お申込みの際に申請があれば1枚に付き2名の帯同が可能です)

 

・お申込み人数が多数の場合は抽選となります。またチケット購入、並びにご入場の際にもファンクラブ会員証明(スマホ)と身分証明書が必要になりますので、詳しくはお申込みページにてご確認下さい。

 

・練習ですので、公式「アイ★専用ペンライト」の持ち込みを歓迎致します。こちらも当日の購入が可能です。なお公式サイリウムの無料配布がございますので、公式ペンライトの持ち込みや購入は義務では御座いません。

 

・応援グッズの持ち込みは公式の物以外全て禁止です。特にペンライトやサイリウム等の光物は公式外の持ち込みを固くお断り致します。実際のアイちゃんのライブでは退場処置を取る予定なことから、今回もそれに倣う形となります。

 

・予定では途中の休憩や移動を含めまして4時間程度のイベントとなります。(最長18:00まで)

 

・入場時、公式コールをまとめたミニ冊子、お弁当、お飲み物の無料配布があります。

 

・記念としてお帰りの際に、「アイ★永遠推しキーホルダー(未発売ガチャ仕様)」が無料で配布されます。

 

・アイちゃんも来場しますし、その姿を見ることが出来ます。握手は出来ません。

 

・…と言いますかこのイベント、実はとんでもないサプライズが御座います。なんとこのファンイベント、最後にアイちゃんによるシークレット・ギグが敢行されるんです。

 

春日フェスに先駆けて、アイちゃんがファンクラブ会員の為だけにこっそりと歌って踊ってくれますよ!

 

一切のプレスリリースがない、まさにシークレットなこのファンイベント。ぜひ皆様も抽選ライバルを増やさぬよう、ひっそりと応募してみるのはいかがでしょうか。

 

 

※他の詳細は申込みページにてご確認下さい。

 

https://fanclub.kasugapro.jp/fanclubs/ai_aishrine/…

 

 

 

 

「祈織さーん。そもそもこのギグ、何でシークレットにしたんだっけ?」

 

 ソファに座って足をプラプラ。私はスマホで自分のファンクラブサイトを眺めながら祈織さんに話しかけた。

 

「まあ世間的には春日フェスが初ライブで通っちゃってるからねぇ。今更引くに引けないから秘密裏に行うことにしたんじゃないかな」

「あーそっか」

「例えバレても真偽不明感があって良いよねぇ。いかにもワイドショーが食い付きそうな話じゃない? ――当番組の独自調査によると春日フェスの1ヶ月以上前に、アイちゃんの初となるライブが真しやかに開催されていたというのだ――とかさ」

「あははっ、独自調査ねー。やっぱり調査隊がアイ★シュラインの奥地へ向かうのかな?」

「ありえるねぇ。アマゾンに向かうよりは簡単だろうしさ」

「でもさー、そもそも私はフェスに出るぞーとしか配信で言ってないんだよね。何があるか分からないからさ、初になるなんて断言してないんだよ」

「うん。あれはリスナーたち先走ったよねぇ。私もコメント見てて思ったよそれは。あれ…? そうなるかはまだ分からないよ…って。でもアイちゃんのあの発表の仕方もさぁ、実質そうだと言ってる様なもんじゃん。結局否定してないし。むしろアイちゃんも勢いのままリスナーに話を合わせてなかったっけ? …というか、マシュマロ読みの時だって児屋様と2人して話合わせてたじゃん!」

「んー、記憶にないな★」

「えぇ…全く都合のいい記憶してるねぇ。…でもまあ一応スタッフにも考えはあるらしくてさ。このファンクラブ限定とした情報は果たしてどのくらいの期間、秘密になるものなのか。もしくはどこからどう広がるものなのか…を検証したかった、って言ってたよ」

「へー。今の世の中、何でもデータが大事なんだねぇ★」

 

 私は感心するふりをしながらスマホをしまった。そして肩に回されていたヤネ君の右腕を手に取って、お腹の前に持ってくる。丁度左手で飲物に口をつけていたヤネ君はされるがままだ。私は両手で確保した彼の掌を見つめながら、その中指を念入りにもみもみする作業に没頭する。

 

 

 まあ要するに、私は今――暇を持て余してるんだよね★

 

 

 春日ミュージックホール内には結構な数の関係者控室があるんだけど、今私が居るのはそもそもヤネ君の許可がないと使えないそれはもうVIPでスイートな部屋となっている。何気にヤネ君って実家の影響なのか、広くて多目的に使える部屋を好むんだよねー。

 

 だからこの部屋も幾つものソファが置かれたカーペットエリアと、15人は楽に座れるだろうお座敷エリアまで用意されている。私達春日ファミリーは先程そこで舞さんとたままちゃんお手製のお弁当を頂いたばかりで、今はそれぞれ選んだソファに座って腹休めをしていた。

 

 手作り弁当…って良いよね。初めて舞さんのお弁当を食べたのはレッスンとレッスンの間になるお昼休憩だったんだけど…不覚にも涙を零してしまったよ。危うく大騒ぎになるところだった。…やっぱり私、何気にやらかしてるなぁ。箸が転んでもおかしいどころか大騒ぎになる年頃なのだ。気をつけなきゃねー。

 

 まあそれは良いとして、私は何かにつけて外出する際にお弁当を作って貰ってる。舞さん、頼むとめちゃめちゃ喜んでくれるんだよね。鼻息荒いどころか涎垂れそうなほど恍惚とした顔するからちょっと怖い。でもお願いをする。

 

 舞さんの作る可愛いサンドイッチが大好きになった。白米だってわたしが食べやすいように可愛いミニおにぎりにしてくれる。日々の変わらない営みの中でも幸せって結構あるもんだね。今日は人数いるから重箱から取り分けるタイプのお弁当だけど、変わらずしっかりと私を満足させてくれた。青葉君がいる前でたままちゃんにあーんされるのは流石にまいったけどね。

 

 ――勿論のこと、私は一歩も逃げなかった。恥ずかしいのは困るけどそれが逃げる理由とは決してならないからだ。私は無敵のアイドル春日アイぞ? 青葉君と並んでしっかり食べさせて貰ったよ。これが家族の絆というものだろうか? どこか温かくて誇らしい気持ちで胸いっぱいだったよ…泣きたい★

 

「ん…時間ですか。私と祈織はそろそろ会場に向かいますね」

「よっし、行きますか〜」

 

 巫言さんの言葉に中指から目を離して顔を上げると、時計の針は12:50を指すところだった。

 

 シークレットファンイベント「アイLive★コール練習体験」の開催が、いつの間にか残り10分と迫っている。

 

 まもなく巫言さんと祈織さんは配置につく時間だ。巫言さんが司会進行、祈織さんは実演スタッフのリーダー。舞さんは私とヤネ君とたままちゃんのお世話で一旦ここに待機となる。

 

「二人共頑張ってね★」

「ほいほい」

「はい、頑張ります。アイちゃんも頑張りましょうね」

「そうね〜。まあ巫言はこういう仕切り馴れているから、まかせて大丈夫よ〜」

 

 舞さんが僅かに羨望を込めた目で巫言さんを見ている。…相変わらず舞さん、巫言さんフリークなんだなぁ。

 

 

 実は舞さんの部屋のデスク、巫言さんメインの写真立てが幾つも並んでいるんだ。私が以前舞さんの部屋に遠慮なく突撃してしまった時、舞さんがズサーと流れるような動作でそれらを抱え込んだのを見たことがある。いや、訪問は前もって伝えてあったんだけどね…ちょっと早過ぎたみたい。あとノックは大事。

 

 取り敢えず顔を真っ赤にした舞さんから根掘り葉掘り聞き出したところ、マネさん達には一族や地元にそれぞれシンパがいるらしく、舞さんは自身が巫言さんのシンパでもあるのだ。

 

 なるほど。きっと幼少のころから巫言さんに支えられたんだろうなぁと思ったら、どうも話の毛色が違う。いやそれもまた確かな話なんだけど、実は舞さん…巫言さんが敵と見做した人に見せる冷酷な一面に惹かれているみたいで…

 

 私は思わず震え上がってしまった。確かに私にも、巫言さんのそんな一面を感じさせる事件に心当たりあったからだ。

 

 

 

 

 ――それはまだ私がデビュー前の、たまたま巫言さんと2人だけで会社に顔を出した日の出来事だった。

 

 普段は1F駐車場にあるエレベーターからいつもの部屋に直行するんだけど、その日は受付のスタッフさんに用があった。なので車から降りたらそのまま通用路を抜けてロビーに入ったんだけど…その瞬間いきなり見知らぬ男性に話しかけられたんだ。

 

 そこのキミぃ! ダンスの素質ありそうだねぇ!

 

 その人はパッション系な人でテンション高く私に近づいて来たんだけど、距離が目測2mを切りそうな所で巫言さんが割り込み、いきなりその人の胸倉を掴み上げたんだ。

 

 

 

 ――誰に許可を得て近付いた。どれだけの煽りを抱けばそんな言葉をこの子にかけられる。ここは貴方の無知蒙昧を晒す場ではない。そもそも何が目的でここにいる。答えなさい。

 

 

 

 こ、こわー。正直巫言さんの怒り方って怖過ぎる。いつもと然程声色は変わらないのにその言い様が横暴過ぎて…まるで突然他人に冷たくなったヤネ君みたい。実は似た者同士なんだね〜アハハッ★ …これ、笑っていいとこ?

 

 ちなみに事情を聞くとその人は春日で長年雇われている名ダンスコーチで、勿論巫言さんだって知ってはいる人物だった。

 

 そのコーチは一族の人に頼まれた書類をロビーの受付まで届けに来て、その際たまたま見かけた私へ声をかけたらしい。もちろん他意なんて欠片もなかった。

 

 だけどそもそもこの建物はヤネ君専用ビルなわけで、許可された一族とそれに従類する者以外は立ち入りを禁止されたエリアなんだ。なのにも関わらず、外部から雇っている者がその通達を軽く捉えて近付いてしまった。当然、巫言さんは再度激発する。

 

 どうやら巫言さん的にはヤネ君と私の聖域であるはずの春日プロ内で、不測の事態が起こったということにえらくご立腹だったらしい。流石に街中じゃこんな反応はしないと思う。ただあのりんご…例の社長さんからスカウトされた後辺りから、周囲に対する警戒が厳しくなったんだよねぇ。

 

 

 ――思い返せば自分の考え方は甘かった。妹のようにただ可愛がる心地良さに溺れて、護るということを疎かにしていた。だからあの時アイちゃんと珠夜様から一時でも離れてしまった。アイちゃんは空前絶後なトップアイドル候補なんだということをしっかり認識して、私はもっと気を引き締めないと――

 

 

 当時はそんな風に考えていたみたい。ヤネ君に諭されて今は程よく落ち着いたと思うんだけど。

 

 まあそんな訳で巫言さんはゼネラルマネージャーとしてバッサリこの件を処理しようとした。そのコーチを信用していたにせよ手間を惜しんでロビーまで呼び付けてしまった一族の人は、問答無用で遠くへ飛ばした。コーチにも規約違反で一度はクビを言い渡した。巫言さんにはそれを容易く実現させる力があった。なんせ神子に認められた春日の巫女筆頭なのだから。子供の頃とは春日内での立場が違う。

 

 この処置に堪らず縋ってきたのは、以前その人を名コーチとして一から育てあげた一族のご年配の女性で。隠居先の奈良から慌てて飛んできて、巫言さんに身を削るような土下座をしてようやく事なきを得たほどだ。しかもこの謝罪、契約を解除しないであげてくれ…というものじゃなかったんだよ。解除は致し方ないが、せめて芸能界から村八分にしないであげて欲しい…という切ない懇願だったんだよ。

 

 吃驚仰天した私は土下座を一顧だにしない巫言さんの腕を引っ張って説得した。――大丈夫。私は何もされてないし、少しも傷ついてない。それより契約解除される方が大袈裟過ぎて微妙な心持ちになると。

 

 結局そのコーチは二度と私に接近しない、また私のことを未来永劫口に出すことさえしない、というトンデモな念書にサインすることで許された。法的効力とか関係ないらしい。

 

 

 ――貴方は法ではなく、春日に誓うのだ。約束を破ればその身に何が起こるか…そこに蹲っている貴方の師匠とやらに聞いてみるがいいでしょう。

 

 

 ということらしい。怖いね。どんだけぇ…って感じ。

 

 

 

 後に一度そのコーチを遠目に見かけたんだけど、腰を90度に曲げた一礼をしてから速やかに私の視界外へと消えていった。

 

 うーん。まあ私がこれ以上出来ることはないし、生存確認出来たと思っておくしか――

 

 

 

 

「――アイちゃん?」

「は、ハイっ!?」

 

 私がそんな大概だった過保護暴発事件を思い出していると、その大概な人が小首を傾げてこちらを見ていた。思わずドキっとして返事が裏返ってしまう。

 

「どうかしましたか? まるで身近な誰かに恐れ慄いているような顔してましたけど」

「だ、大丈夫! 大好きな人のとある一面に思いを馳せていただけだから!」

「そ、そうですか? よくわかりませんが、大丈夫ならそれで良いです」

「はははっ」

「笑わないでヤネ君は」

「ちょ、それは酷いな。まるで金輪際笑うことを禁止されたみたいだ」

「あはっ。汝笑うことなかれー。アイちゃん様からの有り難いお言葉ですよぉ、児屋様!」

「…祈織?」

「アッ、ハイ…」

「ふふふ…って時間は大丈夫なのかしら?」

「そうですね、では本当に行って参ります。…祈織? 行きますよ」

「アッ、ハイ。イッテマイリマス…」

 

 うん。いつも通りの児屋組、平常運転だね。良かった良かった。程良く賑やかで私も嬉しいよ。みんなの会話を聞いているだけでも疎外感はない。本当に私は溶け込めたんだと、家族になれたんだと実感出来て…やっぱり嬉しいという言葉がしっくりくるね★

 

 それに今日はたままちゃんと青葉君に、御祖母ちゃんまで一緒している。青葉君がイベントに参加したがったのだ。日頃私の曲で熱心に踊ってくれてるみたい。全くもって嬉しいことだね〜。お姉ちゃんらしいことなんて中々出来ない私が弟の役に立っているんだから。

 

 でも流石にたままちゃんが青葉君と一緒にイベント参加するのは難しい。絶対周りにバレちゃうよ。だから御祖母ちゃんの出番となるわけだ。

 

 ゆたかさんは御祖母ちゃんとしては随分若い。実年齢も48才だし、見た目は30半ばで通じる。青葉君が孫には見えない可能性があるよねー。親子で参加しているように見えて自然だと思うんだ。

 

 2人は昼食後、ひと足先に会場入りしている。入場口から自然に入らないと目立ってしまうし、何より青葉君が待ち切れないみたい。お陰で手持ち無沙汰になったたままちゃんはお昼寝だ。私のギグが始まるまではそのままだと思われる。

 

 

 ちなみに私の出番は…えっと、イベントスケジュール…確かLINEで送ってもらったのが…これか。

 

 

 13:00 開幕の挨拶 スケジュール発表

 13:15 基本的なコールの説明とその収録

 13:30 MVを流しての実演練習開始

 14:40 アイちゃん登場 ±5分のズレ見込み

 15:00 休憩 隣接Clubカスガへの移動開始

 16:00 ギグ開始 ±10分のズレ見込み

 17:00 閉幕の挨拶 ±10分のズレ見込み

 17:30 ファン退出完了 ±10分のズレ見込み

 17:45 設営撤収作業開始

 

 

 う〜ん、これは結構タイトなスケジュールになるのかな? 実演練習が意外と短いような。でも曲自体そう多くないしみんなの体力的な問題もあるから…このぐらいで丁度良いのかも知れない。ちょっと経験ないと想像つかないね、こういうのは。

 

 多分1番の不安点は移動が時間通りに完了するかだと思う。ミュージックホールは昔からあるから、加工合成して私のMVに流用出来るライブ映像や音声が豊富にある。だけど新設のClubカスガにはそれがない。Clubカスガでこそ出せる音のデータが欲しい。そんな都合があっての移動なんだよね。Clubカスガの方でライブをする必要があるんだ。

 

 600人の会場移動…しかも休憩込み。これはつまり順番に誘導するのではなく16:00までに勝手に移動しろってことなの? 指定席制のミュージックホールには休憩出来る自分の席があるけど、オールスタンディングのClubカスガには無いんだよ。だから早く移動してしまうと終わりまで立ちっぱなしになってしまう。

 

 スムーズに行くのかなぁ。導線は2つ、どちらも十分な広さを確保してあるみたいだけど時間ギリギリに移動が集中したら何が起こるか分からないよね。急いで走られても困るしさ。距離的には列作ってのろのろ歩いても3分かからないと思うんだけと…だからこそ人が詰まりやすい気もする。

 

 でも今日のお客さんは会員オンリーだから、スタッフさんによる統率が良く利くかも知れないよね。15分前ぐらいからまだ移動してない人にアナウンスで促せば…案外サラッと完了するのかな。

 

 まあその辺りはスタッフさんに任せるしかないか。常駐の施設警備員さんもいれば、資格を持った雑踏警備員さんも手配されてる。だから入念な打ち合わせをしているはずなんだ。流石芸能を司る春日グループ、イベントに関する警備会社だって当然自前であるよ★

 

 だから私は私のやるべきことを考えないと。

 

 

 

 最初の出番では「配信者のうた★」という新曲の収録に必要な合いの手をファンにしてもらうことになる。ここで収録したものが音源として使われるとなればファンもノッてくれると思うんだ。歌自体コミカルで楽しい曲調だしね。

 

 スクリーンに歌詞を映しながら、合いの手が必要な場面を実際に私が歌って踊ってポーズまでしてみせる。だからきっとテンション爆上がりしてくれるはずなんだよね。私にかかればラクショーなお仕事、となるわけだ★

 

 そしてClubカスガに移動してからがいよいよ本番、シークレットギグだ。今までに発表した曲その全てを歌う予定となっている。Clubカスガはバンド演奏に適した箱だ。よって迫力のある音をファンに体感して貰う為、音源に生演奏を足して厚みを加えてくれるらしい。ドラムはヤネ君、ベース祈織さん、ギターたままちゃん、巫言さんシンセサイザー、ミキサーとして舞さんだ。

 

 いやぁ…知ってはいるけど改めてみんな楽器関係出来るの凄いよね。ある意味ヤネ君の側仕えとして当然なのかもしれないけどさぁ。それでも本当に凄いことだよ。

 

 あと本来ここはオールスタンディング形式なんだけど、今日はむしろ前へ詰めさせたりはしないらしい。せっかく練習したことだしね、各自サイリウムを振れるぐらいのスペースを確保させるみたいだ。ポールパーテーションで上手く仕切って横1列何名まで…とかで調整するんだってさ。

 

 まあでもこれは指定席に慣れてる人多いと思うしね。むしろ自分から前に詰めようとする人は少ないんじゃないかな? 詰めたら自分がサイリウムが振りにくくなるだけだしさ、あまり良いことないよねー。

 

 

 

 

 ――うん。ザッと頭の中でシミュレーションしてみて、大体の流れは再確認出来たと思う。それさえ間違えなければ問題なんて何もない。だってこの私にパフォーマンスのデキを心配する必要などないんだから。

 

 朝からお昼前に行ったリハーサルでマイクや照明等の演出は大分詰めるとこ詰めたし、後はステージ上で幾らでも修整を利かせてみせる。歌に踊りにMCなんて心配のしようがない。そんな余地どこ探したって欠片も存在しない。

 

「――私はアイドル。私こそがアイドル」

「間違い無いね。アイこそ金輪際現れない、唯一無二のアイドル様だ」

 

 私はこの世を照らす唯一の輝き、私の一挙一動にみんな必ず虜となる。

 

 私がいないとみんな困るでしょう?

 私を感じることがみんなの喜びでしょう?

 私の輝きはみんなにとっての幸せの道標でしょう?

 私がいないとみんな生きてる意味なんてないでしょう?

 

 私は、私が、私だけが――

 

 

 

 

 私こそが貴方に必要な存在でしょう…!?

 

 

 

 

「アイ」

 

 あっ…あれ?

 

「随分昂ぶっているね。もう溢れ出してる…抑えきれないという感じだな。うーん、これでも連日連夜頑張ってアイの制御をしてたつもりなんだけど――」

「ぅん?」

「戸が開いちゃってるよ」

「な、何の…?」

「――そうだね。例えるなら国境のゲートかな」

「国境…」

「人の国どころかアイドルの国まで越えちゃいそうになってるよ」

 

 う、うーん? ちょっと何言ってるか分かりません。

 

「まだ俺の愛が足りなかったか…流石にこれ以上は…いや、むしろライブで力を発散させた方が良いのかこれは」

「愛は十分足りてますけど?」

 

 流石にこれ以上は…って、貴方は何を言ってるの? それ絶対私のセリフだって。

 

「貴方は何を言ってるの?」

「真顔はやめてくれ、頼むから。心に刺さる」

「うふふ…♡」

 

 やったねー、珍しくヤネ君をやり込めたよ。これは勝ったねあははお風呂入ってく…い、いや待ってお風呂はマズイよ。逆転されちゃう!

 

「ごめんねヤネ君」

「傷ついたわ。ちょっと実家で横になるわ…」

「また〜、全然堪えた顔してないじゃん★」

 

 むしろ満足気に見えるんだけど…何でよもうー。私は再度ヤネ君の右腕を引っ張って互いの顔を近づけた。

 

「ん…」

 

 んぅー。絡めた舌が火傷しそうな程熱い。というか、軽く触れ合いたかっただけでそこまでしようとは思ってなかったんだけどー。あっ…左手で顎下から抑えられた。逃げられない。離せー★

 

 ふぅ…

 

 やっと一息。鼻で息するっていっても何故か酸欠の様に頭がクラクラする。思わずもぞもぞと太腿を擦り寄せてしまう。キモチ良過ぎるのも問題だよね、やっぱり。

 

「お…始まったみたいだ」

「あ、本当?」

 

 ヤネ君、余裕あるなぁ。最近は多少追い付けてると思うんだけど、まだまだ私は子供なのか。早く大人になりたいな。私は保護者じゃないヤネ君も欲しいんだ。一方的に手間かけさせてる現状から、対等な存在に登りつめたいんだよ。

 

 貴方にもっと必要とされたいんだよ。私だって、貴方を支えたいんだよ。

 

 みんなのアイドルとして力を伸ばしていくと同時に、ヤネ君に尽くしたいという思いも膨らんできている。どっちが私なんだろう。どっちも私なんだろうか。どっちも手に入れてこそ、カスガアイなんだろうか――

 

 やれやれ。現状じゃこれ以上考えても答えは出なそう。ここから先は何年後かの私に期待かな。きっと立場が変わっているはずだろうからね。

 

 うふふ…まだ私には妻というレベルアップ先がある。しれっと母になって、みんなにはバレないよう芸能活動を続けながらこっそりヤネ君とその家庭を支えるという未来だって…私の頑張り次第では有り得るかも知れない。

 

 

 ――いや、むしろバレたって良いのかな。ヤネ君曰くそれでも支持されるのがカリスマ…真のアイドルだもんね。私とヤネ君の選択次第では新妻アイドルだって、それこそ子育てアイドルになることだって選べるはずなんだよ★

 

 

 う〜ん、未来が楽しみだな。私は一体どんな道を選択するんだろうか。まだまだ焦る状況にはないけれど、それでも気になってしまうのが年頃の乙女というものだよね。色々と自分の将来設計を考えておくのが、幸せを掴めるイイ女ってものじゃないのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はどこか誇らしい気持ち胸いっぱいにして、この控室に用意されているモニターに目をやった。会場内に設置したカメラから、中の様子が分かるようになっている。

 

 あとは音量を上げて…と。

 

 マイク音声も拾えるようになっているから、これでイベント生中継の完成だ。

 

 

 

「――よって予め皆様にお知らせしておきますと、アイちゃんのライブでは公式コール以外…つまり非公式なコールの内容と頻度は、皆様に慎重な検討をして頂かなければなりません。願わくば新たなスタイルを構築して頂けると幸いです。アイちゃん、皆様からすると定番となるコールを聞いても…恐らく内面では笑っちゃってることでしょうから。もしくは言葉の意味が分からな過ぎて考え込んでしまうか。取り繕ってライブ自体は卒なく進行出来ても、それだとアイちゃんの本当の魅力は半分も出ないと思われます」

 

「あははっ、そうだよねぇ。まあこれは流石にみんなも勘弁してあげて欲しいな。アイちゃん、憧れてこの道に入ったわけではないからさぁ。どうしてもアイドル文化に弱いんだよ。他のアイドルのライブ見て勉強はしてるみたいだけど、頭からハテナマーク飛びまくってるからねぇ。やっぱり児屋様の影響が強いんだ。だからアイドルというより大物バンドとか、ビッグアーティストのライブをみんなも参考にして欲し――」

 

 

 

 私は黙ってモニターを消した。軽く咳払いしてからネクタイの締め具合を調整するフリをする。

 

 ちょっと…何これ? 私ってばイベント冒頭から早速マネさんたちにフォローされまくってるじゃん。そんなに私、日頃からみんなを不安にさせるような振る舞いをしていたの?

 

 私はバツが悪くて下を向いた。さ、さっきまであんなに自信満々だったのに…これでは恥ずかし過ぎてみんなに合わせる顔がない。

 

「ははっ…危ない、笑うの禁止されているんだった。大丈夫だよアイ。マネージャー連中はただただ、アイの真の力をファンに見せたいだけだ。今までの常識的なファン活動では見合わない…お話にならないぐらい、アイは凄いんだということを示したいんだよ。要はウチの子自慢だな」

「ウチの子…」

 

 いやぁ…それは嬉しいけどさぁ。やっぱり子供扱いじゃん私ぃ★

 

「子供でいて欲しいんだろ、彼奴等からすれば。それならいつまでも甘やかしていられるからな」

「…むぅ」

 

 それは納得して良いのか悪いのかー。私はちょっと不満気に唇を尖らせる。ヤネ君の右腕を頭に乗せて、有り体に髪を撫でることを所望した。

 

「そうそう。それがまだ似合う内は、そうあってくれると俺も嬉しいよ」

 

 みんな、本当に私の世話を焼くのが好きだなぁ。まあそこまで言うんだったら大人しくされるがままになるのも吝かではない。私は寛容なんだ。ヤネ君からの愛とはまた違う形の…この世全ての愛を受け入れるのがこの私、カスガアイなんだよ。きっとね★

 

 

 

 だから今日のギグでは、みんな目一杯私を――愛してみて欲しい。

 

 

 

 受け止めるだけなら出来るからさ。どんと来いだよ。受取拒否はたまにします。そして当選は数年後にヤネ君との結婚記者会見を持って発表するからさ…アハハっ★

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私は、迫る出番を前にして最高のコンデションが整いつつあるのであった★

 

 

 

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