愛を謳歌する幸せなアイの話   作:京猫

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温泉リポーターの仕事は絶対に出来ないと身を以て思い知った星野アイ系SS


★春日アイ・フェスティバル?

 

 

 

 

アイ★
@ai_kasuga・3日

フェス曲第2弾「プリンセス★コール」のアイちゃんライブバージョンをUP〜

 

概要欄にコール無しver.もあるよ★

#アイ★Songs

プリンセス★コール ver.A MV / アイ

youtu.be/9pATngFISVy

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・4時間

おはよ★

 

最近恒例の義務告知になるけど、今日は第三回フェス公式配信があるよ

一体何をそんなに配信することがあるんだろうね…?

気になる人は是非チェックしてみよう★

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・4時間

ちなみに私は今日、ちょっとした撮影をこなしてからオフに入ります♡

 

みんなに伝えてた通り今週は歌とダンスの実力を集中的に伸ばすレッスンに打ち込んでたんだけど、来週は身体を休めながらその実力を定着させるフェーズに移行する予定〜

 

だから配信もあると思うよ

オフが明けるの待っててね★

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・3時間

と、言うわけで〜!

今週配信なかった分の埋め合わせ♡

 

☆新曲☆ 白金エンゲージ★

 

以前里帰りした際にウチの敷地で取ってきたMVだよ

Traditional Japanese dance.をコミカルにアレンジした和風ダンスポップな曲かな〜

日本のお祭りを意識したMVになってるよ★

みんなもこんな風に大勢で踴ってみるのはどうかな!

#アイ★Songs

白金エンゲージ★ MV / アイ

youtu.be/bKongIYS8kC

こ  り  い   き   

 

 

 

 

 

 

 良く晴れた日のお昼時、私は春日プロの敷地にあるだだっ広い駐車場の一角に佇んでいた。周りは木々で囲まれてはいるものの当然地面はアスファルトで固められている訳で、先日までなら照り返しで灼熱を味わう羽目になったかも知れないね。でも今日は日差しの割に汗をかかない程度の気温で、風もほぼ無風。今の所実に爽やかで過ごしやすい1日である。

 

 これからこの駐車場でちょっとした撮影を行うんだけど、その為に私の専属チームが昨日から色々準備をしていたみたい。スタンドイン…私の代役をしているスタッフさんの背後には、アイちゃん仕様にデコレートされた大っきな宣伝トレーラーが斜めに停まっている。本番では私もこれを背景に口上を垂れればいいらしい★

 

 ふむふむ、天才アイちゃんには造作もないことよ…

 

 パラソルの下で椅子に座って寛いでいた私は、スタッフさんから差し出された飲み物に口を付けてからそう呟いた。隣で聞いていたメイクさんもその通りだと言わんばかりに腕組みしたまま頷いている。…何だか私より大物っぽい演技がサマになってるね? あ、学生時代は演劇部…なるほど、そこから舞台メイクに興味を持ってこの道へ進んだと。ほぇー。

 

 

「照明ー、右と真ん中を少し絞って。左は消しちゃっていい。トレーラーに対する照り返しが目立ってきた」

「はい!」

「カメラ、どう?」

「Aカメオッケー」

「Bカメ…良い感じ! オッケーです」

「あ〜っと…うん。Cカメ、オッケーでーす」

「はいよ〜。じゃあ次は音声、マイクの最終チェック」

「はい。アイちゃん、本番みたくちょっとテンション上げた状態で声出しお願い」

「は〜い★」

 

 おっ、やっと始まりそうな雰囲気かな。私は立ち上がって元気良く返事をした。リハから結構時間空いたねー。声ちゃんと出るかな?

 

「あ、あ〜。ハイどうも皆さんお腹すいた~! 世界の覇権をおしりの一振りで握って魅せたコケティッシュ・アイドル、アイちゃんでーす。いぇい★ 今日はね、何するんですかこれ? 小悪魔系女子のアイちゃんは朝から早速ヤネ君を誑かしたせいで大変お疲れなんですけどどうやらそんな嬌かしい私のラブシーンを撮影したいとかいうえっちな監督さんの熱い思いに絆されてえっさほいさと遥々春日のスタジオ前まで足を運んでみましたけどそろそろお昼の時間過ぎちゃうしこれはとうとうアイちゃんも昼ドララブシーン枠に足を突っ込ん――」

「ス、ストップストップ! アイちゃんオッケーだから、その辺でストップ!」

「ちょ、ちょっとアイちゃんそれじゃ監督の私が変態みたい…って言うか生々しいわぁ! 想像しちゃうからそんなん言わんといて! 」

「え〜? 誓って嘘偽りしかない冗談なのにぃ★」

「堪忍してよ、アイちゃん…」

 

 あははっ★ 監督さんがぐったりしてる!

 

「でも本当にアイちゃんってば滑らかに口が回るなぁ。配信でも毎回挨拶の口上違うよね」

「もしかして口から作り話、の児屋様に影響されたのかな?」

「確かにそれはありそ〜」

「でも言って欲しい口上があるならお願いしてみるのもありよ。前、フリップに書いてみたら読んでくれたし」

「ああ〜、そんなことあったね!」

「今度はスタッフ一同で案を出してみようか」

「う〜ん。でもあんまりやると押し付けみたくなっちゃわない?」

「加減が難しそうね」

「ほらほら〜、喋ってないでやるべきことをやるよ〜。メイクも確認!」

「ほいさっ」

「あははっ★」

「あっ、そうだ。アイちゃん本当に待たせちゃってごめんねー。休憩挟むかどうかの判断迷っちゃった。本番撮ったら直ぐに大原野マネージャーのとこ行っていいから、もう少し我慢してくれる?」

「うん★」

 

 今回の撮影でメガホンを任されたディレクター…監督さんは、チーフから上がったばかりの新米さんだ。仕事としてはホント軽い撮影でしかないんだけど、緊張して出すべき指示がトンじゃってる時があったよ。進行もたつくのもさもありなんー。

 

 初めてが野外ロケというのも難しかったのかも知れないね。ウチのスタジオ内なら予め部屋に備わっている機材も全部持ち出さなきゃいけないし、元々移動が前提な機材も外に持ち出すとなれば話が変わる。何をするのにも時間がかかるし、準備が必要だ。自分がしなきゃいけない決断の多さや重さに悩まされ、私がインした時には既にパニック寸前だったみたいだ。助手として細かい判断や進行には慣れていた筈なんだけど…プレッシャーで頭の中真っ白になっちゃったんだろうね。

 

 なんせ今回、ヤネ君とマネさん達が何故か重役みたいな立場でこの撮影を見ている。エグゼクティブ・プロデューサー…かな? 私にとっては授業参観みたいなもんだけど、監督さんからすると春日一族の一番偉い人達に見定めされてるんだから〜そりゃ堪んないよね。でもそれが春日に生まれてアイちゃん専属撮影スタッフ…通称Aチームに立候補した者の運命と書いてさだめと読む、って奴なんだ★

 

 だから私もその緊張を解してあげたくて弄ったり、冗談を口にしてみたんだよ。上手くフォロー出来てたら良いんだけどな。

 

「はい、メイクオッケーです!」

 

 用心深く前髪に櫛を通し、リップを塗り直してくれたメイクさんがオッケーサインを出す。私はそのまま促されてスタンドインしていたスタッフさんと交代し、撮影の立ち位置に着いた。

 

「了解〜、それではいよいよ本番行くからねー。集中しよう!」

「まもなく本番で〜す。本番入りま〜す!」

 

 大きな声で指示を出す監督さん。新たにチーフ助監督となったスタッフさんが更に大きな声で周りに声をかける。規模の小さい撮影だけど、それでも現場には美術さんとかスタイリストさんとかスクリプターさんとかもいるし…そもそもカメラさんに照明さんに音声さんもその人数は多いし、且つその仕事内容により散らばっていたりする。だから助監督さんは周辺で聞き逃す人がいない様、声を張り上げるんだ。

 

 むしろ監督さんがこれだけ声出す方がレアじゃないかな? 普通は助監督さんがいるならそういう声がけや進行は任せるものらしいし。まあその辺りは慣れや本人のスタイルによるのかも知れないけどね。

 

「照明!」

「オッケー」

「音声!」

「オッケー」

「カメラ、オッケー? …了解!」

 

 撮影前のカメラさんは当然カメラを覗き込んだまま集中してるから、声で返事するよりジェスチャーで答えることが多い。手でオッケーサインを出す感じだね。大体監督さんはカメラさんの側にいるから、直に確認を取ったみたいだ。

 

 

「それでは本番、一発でキメるよ〜。テイクワン! ――レディ〜、…アクション!!」

 

 

 監督さんのアグレッシブな開始の合図にサード助監督がカチンコを鳴らした。撮影の仕事をする度にいつも思うんだけど、この瞬間は止まっていた時間が一気に流れ出したみたいに感じる。張り詰めた空気がいきなり霧散するこの感覚…私もまあ嫌いじゃないよ。むしろ癖になりそう★ 一度撮影の仕事に関わると嵌まってしまう人が多いのも頷ける話だな〜って思う。

 

 …まあとは言っても、本来は生配信やライブでこそ真骨頂が発揮されるらしいこの私。MVの収録ならともかく、本業のオマケでしかないこのお仕事は速やかに終わらせたいとも思ってるんだけどね★

 

 私はMV撮影で学んだ要領を思い出しながら、完璧なアイドルとして輝く瞳をカメラに向けた。

 

 

 

「カウントアップ TV スペシャル! をご覧の皆さん、こんにちは★ この惑星を歌とダンスで明るく照らす、太陽系唯一の光源系アイドル、カスガアイちゃんでーす♡ アハハッ、どうだ明るくなったろう〜、いぇい★ と言うことで! 今回は正に現在人々を明るく踊らせまくっているヤネ君渾身の新曲、Shake★Hips をこの番組の為に改めて歌わせて頂くことになりました。いや〜そもそもこの歌は英語曲ということで当然海外もターゲットになってはいたんだけど…まさかまさか、狙い通りの大・フィー・バー! お陰で私の名前も世界中に広まってしまって一躍時の人になっちゃいました★ 【私達の太陽、もう決して沈まないでくれ】なんて意味のミームまで生まれちゃったみたいで、この結果にはヤネ君も大層満足したみたい。私もそこまで求められると流石にテヘペロ照れちゃうな〜っていう感じかな! しかもアレだよ、何がどう広まったのか海外では既に私とヤネ君がベストカップル扱いされててアイちゃん素でびっくりしちゃったんだけど…ふふふっ♥ 実際はどうなんだろうね〜。確かに私達2人はとっても仲良しなんだけど…まだ正式に認める訳にはいかないなー! ノーコメント〜★ だからみんなもそんなことを気にするより、今は私とヤネ君が生み出したこのムーブメントを目一杯楽しんで貰えたらな〜って思います。辛い時はおしりくねらせたらいいじゃない、踴ってテンション上げればいいじゃない! …と言う訳で〜挨拶はこの辺りに致しまして、そろそろ聞いて頂きましょう。これが世界を虜にした feat.カスガアイの新曲、Shake★Hips です――どうぞ!」

 

 

 

「はい、カッ〜ト! カメラどう? ――オ"・ッ・ケ・イ!!」

 

 おおっ! 随分気合の入ったオッケーだ。これが出るということは本当にオッケーな時だよね。疑念の余地が無い時しか出ない声だ!

 

「やったぁ! 一発オッケーだ★」

「ふふっ、お疲れ様アイちゃん。…今日は気を使って貰っちゃったみたいでホントありがとね。取り敢えずご飯食べておいでよ。これから編集入るけどこの手応えなら本当におしまいだと思うから、ゆっくりしちゃっていいからね」

「うん、監督さんお疲れ〜★」

 

 私はまず監督さんに両手をわわわわ〜っと小さく振って挨拶を済ますと、両腕を頭の上で交差するように振りながら歩き出す。

 

 蠱惑のアイドル、アイちゃんのお帰りである。

 

「お先に失礼しま〜す! 皆さん、お疲れ様でーす★」

 

 スタッフのみんなにも笑顔で挨拶しながらずんずん歩く。お疲れ〜、またね〜★ …うん。スタッフさんも必ずこっちを見て挨拶を返してくれる。良い人達だなぁ。もう結構付き合い長くなってきたと思うんだけど、挨拶する時はみんな私の瞳を覗き込む様にジッと見つめてくる。そんなに私が心配なのかな?

 

 それとも…全員この光り輝く瞳に心囚われちゃった? あははっ★

 

「あ〜これ、打ち上げにアイちゃん不在かぁ」

「がっかり…」

「それは仕方ないでしょ。そもそもがこれ打ち上げも何もない、小規模な撮影じゃない?」

「一応はあるみたいだよ。春日の豪華なケータリングは来てるし」

「まずはお昼ご飯で乾杯かな」

「まあ取り敢えずキリ良いところまで片付けよう。大事な機材、傷みやすい機材優先で」

「その通り〜! アイちゃんの替わりにはならんけど、時間押した分の埋め合わせには相応しいお昼ご飯が待ってるから、30分後にみんなスタジオの食堂に集合よ!」

「はーい」

 

 何だか拗ねた子犬みたいな目をしていたスタッフさんも監督さんの言葉に気を取り直したようだ。テキパキと片付けに精を出している。

 

 私もそんなスタッフさん達の様子を見届けてから元気良く駆け出した。照明やら配線やら台車やらロールボックスパレットが散らばる注意エリアを歩いて抜けたら、春日スタジオの入口前で待っているヤネ君とマネさんに向かって一直線だ!

 

「アイちゃ〜ん」

 

 おっ!? 舞さんが特製サンドイッチを片手に持ってスタンバっている。さては私に餌付けしようとしているな? 苦しゅうない、むしろこっちから近う〜寄ってあげようじゃないの!

 

 私はそのまま飛び掛かる勢いで舞さんに駆け寄った。

 

 

 

「アイ」

「――ヤネ君★」

「あぁ〜!?」

 

 

 

 …うん。まあ、流石に? まずはヤネ君に帰還の挨拶だよねー?

 

 舞さんに襲い掛かる3歩手前で方向転換、私はヤネ君の胸に飛び込んでピタッと身を貼り付けた。背中にも両手を回して、ギュ〜ッと抱き締めながら身体を密着させる。

 

「ただいま〜」

「おかえり」

「う〜ん。まあそっちでもウケるからいっか。うさぎの餌付けの方が貴重で評判なんだけどねぇ」

「あ〜、児屋様に負けたわぁ…」

「まあまあ。どちらでもアイちゃんが可愛いければ良いでしょう」

 

 動画から写真に切り替えてパシャパシャとスマホを鳴らす祈織さんに、がっかり落ち込む舞さん。いつも通りの巫言さんは舞さんを片手であやしながら、祈織さんに向かって自分のスマホを突き付けていた。

 

 あれは間違いなく私にも動画と写真を送れ、という命令だ。お願いとか指示とかを通り越した強制力が備わっている。私は知ってるんだ。一度巫山戯て中々送らなかった祈織さんが、ごめんなさい巫言お姉ちゃん…と泣いて謝る羽目になったことを。

 

 いやなんかこんな事言うと巫言さんがとんでもなく横暴な人みたいに聞えるけど、逆に日頃からやらかしまくる祈織さんを側で長年庇ったり支えたりしてるのは巫言さんだからね。そりゃ教育的指導は厳しくもなるよ★ だからこのぐらいは巫言さんの正答な権利の行使…って奴だよね。

 

「流石にサンドイッチに負けてたらショックだったな」

「ふふふっ、直前で我に返れて良かったよ★」

 

 よってかしこいアイちゃんは、敢えてサンドイッチの方を選んでみるとかはしないんだ。祈織さんと違って調子にノった行為なんてしないんだよね。だってアイちゃん、お仕置きなんてされたくないんだもん★

 

 ――あと、もし自分がそんな意地悪をされたら悲しい…と思うしさ。私なら意外とショックを受ける自信があるよ!

 

「俺もそういう類の意地悪は…ああ、アイうさぎを使ってしたことあるのか」

「あ…そうだよっ。アレもヤダよ私ぃ」

「ふーむ。アイの可愛いヤキモチを合法的に見れる手段かと思っていたんだけどな」

「合法的って何!?」

「ほら、アレは一応ぬいぐるみなワケじゃん。しかもアイという名前の。他の女の子に構ってみせるのとはワケが違うと思ってさ。だからまあ、合法かなと」

「――ダメ。それでもしちゃダメ」

「はははっ、分かったよ。…でもということは、いよいよアイのヤキモチ姿は貴重になってしまうんだなぁ」

「そんなことないよ。だってこの世にはコヤネきゅんファンがたくさん存在するからね。――だから、私のモチモチな嫉妬心は永遠にアツアツなんだよ」

「なるほど。それはつまり…お互い様というやつなんだろうね」

「――そだね★」

 

 ヤネ君の場合はアイ★リスに対してヤキモチを焼くというより、ナチュラルに機嫌が悪くなってる気がするんだけど――まあ結果的には同じ様なものか。その分私がベッドで攻められるのは変わり無いもんね? アハハッ★

 

「なんか…不公平な気がする」

「はははっ。まあアレだよ、こうやってお互い無理せず正直な気持ちを伝え合っていけばいいんじゃないかな。そう決めたじゃん」

「それは、そうだけどぉ」

「実際分かってるつもり、が1番怖いしね。だから…そうだな。今日はもうご飯食べたら家で2人っきり、色々語り合おうか」

「それはダメです。今日は予定通り伊豆の別荘に向かいます★」

「…はい、畏まりました」

 

 

 あはは〜、ヤネ君がっかり★

 

 

 でも楽しみにしてたんだもん、海を見ながら入れる露天風呂まで付いてる別荘って。こればっかりは仕方が無いよね。

 

「あ、あぶな〜。危うく私達も楽しみにしていた旅行がなかったことに」

「でも児屋様ってば、流石に今のリードは無理があるわよ」

「些か強引でしたね」

「良くやったアイちゃん。褒美に浄蓮の滝で名産の本生わさびを買ってあげよう」

「…遠慮するよ、それは★」

 

 百歩譲ってそこはわさびソフトクリームだよね。混ぜ合わせた物の他に、脇にたっぷり付属させた物もある。ジェラートなんかもあるみたいだし…流石に天城越えは伊達じゃないね!

 

「巫言さん、一緒にチャレンジしようね!」

「あぁ…っと、そ、それは…」

「ふひひっ、巫言お姉様なら容易いことですわよねぇ? 舞」

「うふふっ、そうねぇ。わさび抜きしか食べられない巫言も可愛いけれど…そろそろ克服してもいいんじゃないかしらね。美味しいわよ、わさび。食べられると作る料理の幅もグッと広がるわねぇ」

「く、くぅ…わ、分かりました。でも最初はアイちゃんのを一口貰う程度で勘弁して下さい…」

「ああ、逆にいい案なんじゃない? その方が2人ともダメだった時に児屋様に押し付ける数が減るわけだしさ」

「おいおい」

「あははっ★ 本当にどうしようもなかった時にはお願いするけど、勿論自分で頑張るよ。取り敢えず今は早くご飯食べて、お出かけの準備だ!」

 

 私の宣言にコヤネファミリーはぞろぞろと移動を開始する。これからいつもの部屋でご飯を食べて…食べ終わったころには仮編集された映像が届くと思うから、それを確認してたらいよいよオフだ。

 

 信頼出来る一族のスタッフさんが別荘に先入りして管理人さんから引き継ぎを受けてるらしいし、これは到着後から十分に別荘気分を満喫できそう★

 

 

 今回は息抜きの小旅行だけど、フェスの後はまたゆっくり里帰りでもしたいな。

 

 

 私はそんなことを思いながら、一先ず舞さんが囮用に持ってきたサンドイッチを受け取って齧りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うん。オッケーじゃない?」

 

 

 食事を終え、後は出発の合図を待つばかりの私に編集された映像が届いたのはつい今しがたで。私はその短い映像を慎重に見返してからそう呟いた。

 

 これなら細部を誤魔化す様な編集は必要なさそうだし、MCもいつも通り満点なデキだと思う。…あ、この場合はMCとは言わないのかな。ただのマイクパフォーマンス? でも一時的に番組を進行してもいる訳だから…そう呼んでもいいのかな。

 

 スタッフさんに教わったんだ。基本的にMCというのはマイクオブセレモニーかマイクオブコンサートの略らしい。ヤネ君やマネさんだけじゃなくてスタッフさんも頼りになるねー。むしろそれぞれが各道の専門家だから、私が何となくで聞いた疑問にも答えてくれる。お陰で最近の私は大体の業界用語を理解出来るようになったし、プロから雑学的な知識を聞くことに楽しみも覚えている。

 

 人の気持ちってホント周りの環境に左右されるものなんだねぇ。いやむしろ今までの私が不変過ぎたのかな。この前の野球の仕事を受けてみた件もそうだけど、何にせよ興味を持ってみるというのは良いことだと思う。生きる活力みたいなものが湧いてくるし、適度に心と脳を刺激してくれる。健康にも良さそう★

 

 私は二度三度、したり顔で深々と頷いてみせた。

 

 ふふふっ、心身が充実してるからつい自信みたいなものが表に出ちゃうな。これで変に調子に乗っちゃうとそれはそれで失敗の元になるから気をつけなきゃいけないね。

 

 でもそんな気力に満ちた私はこの出来上がった映像が示す通り、大層魅力的に見えると思うんだよね★ ビッグマウスとは呼べない結果が出てる今、このぐらい自分を強くアピールしとくのも悪くないってヤネ君がお墨付きをくれたんだ。

 

 

 

 けど――本当にいいのかな、この背景で?

 

 

 

 アイちゃん仕様にデコレートされた、大型のトレーラー。側面に私のバストアップ写真がおっきく載っている物なんだけど…これ、実は春日フェスの宣伝用でもあるんだよね。だから私の顔に掛からない空白部分や髪が靡いている部分には私の名前が入っていたり、【春日アイドル・フェスティバル! in さいたまスーパーアリーナ】と記されてもいる。そして後ろの扉部分に日時とかが書いてある感じかな。

 

 …まあそれはそれでいいんだけど、問題なのはこの今日撮った映像なわけで。丁度【ドル】の部分を実物の私が被せちゃってるせいで、【春日アイ・フェスティバル!】に見えちゃう…ってことなんだよね。

 

 普通にアイちゃん初ライブ! という文字も見えたりするから、まるで私が初めて開催するライブ名が【春日アイ・フェスティバル!】と読めるんだ★ 道理でトレーラーがおかしな角度で停まっているワケだよ。全体を画面に収める為かと思っていたけど、実際はこんなことを企んでいたんだねぇ。

 

 

 

 ――これはただ春日アイのみを讃える祭典。春日アイの名を冠するお祭り行事。主役はもちろん春日アイで、他のアイドルは私の降臨を願って歌い踊る巫女扱い。

 

 

 

 うふ〜ん。随分とまあ、あからさまだなぁ! 傲慢ここに極まれり〜って感じだけど、ヤネ君てばホント今回のフェスを楽しんでるね。あの社長さんと仲良く小競り合いを続けているようだ。何だか仕事仲間というよりは悪友、もしくはチクチクやり合う上司と部下みたいな関係だよね?

 

 こんな関係をドラマや映画で見たことあるよ。フラっと管轄越えて捜査しちゃう刑事さんに、厳しい現実を突き付けながらもどこか期待をしている上司さん。

 

 勿論立場的にはヤネ君が上司なんだろうけど…どうなんだろうね? ヤネ君、別に根が良い人ってわけじゃないからなぁ★ 普通にのたうち回ってる社長さんを見て笑ってる気もするね〜。

 

 必ずホシをあげる! と言わんばかりに頑張ってる社長さんに、その通り…お前は一番星★ の評判を上げとけばいい…みたいなことを思ってるヤネ君。思いと思いがすれ違ってるねぇ。私としては、果たしてそこにアイはあるんか〜? って感じだよ。アハハッ★

 

 

 ――まあでも、あれかもね。その分あの社長さんも恩恵は受けてるみたいだし、あのくらいズケズケくる方がヤネ君も対応しやすいのかも。

 

 

 なんせ何度か2人、会食という名目で呑みに行ってたからね。たままちゃんが居なかったら私は寂しくて死んでいたかも知れない。いつの間に帰って来てたのか朝起きたら普通に隣で寝てたけど。一緒に寝てくれた筈のたままちゃんが何故か居なくて、おまけにこの身はほぼ全裸にされてたけど★

 

 …あ〜、何だか思い出したらモヤモヤしてきた。私はヤネ君うさぎに駆け寄って、その身をギュッと抱き締める。

 

「こらこら、本物が隣に居たのにそれはないでしょ」

「んー。でも流石に寂しい…って本人に抱き着くのは恥ずかしいよ」

「――なるほど? ちょくちょく寂しくて抱き着かれている気もするけど、そんな気分の日もあるか」

「そうだよ★ だから旅行にもヤネ君うさぎを…」

「連れて行きません」

「…はい★」

 

 私はがっかり、ヤネ君うさぎの身柄を開放した。

 

「アイちゃんも些か強引でしたね」

「今日はお互い無理なリードが目立つねぇ。まるで慣れない変化球を投げてみたら、すっぽ抜けて棒球になっちゃったみたい」

「まあ、あれよ。正直になるという名目で自分の願望を漏らし過ぎよね。おまけに変に企むからそうなるんだわ」

「え〜?」

 

 何だか私とヤネ君がけちょんけちょんに言われてますけども、不服だなぁ。私の心はいつだって豪速球なのに★

 

 

 ――そこに邪なアイなんて無いんだよ?

 

 

 これは何としてもヤネ君に、私の欲求を押し通さねばなるまい。じゃないと天下無双の我儘アイドル・アイちゃんの威信にかかわる。ヤネ君の欲求は多分お風呂で叶えればオールオッケーなんだろうし…やはりここは、その分私がいっぱい甘えるべきなんだ!

 

 私は期待を込めてヤネ君を見つめた。

 

「う〜ん、眩しい。分かった分かった、そんなに瞳輝かせなくても言うこと聞こうじゃないの」

「やったぁ! じゃあやっぱりヤネ君うさぎも…」

「それはダメ。流石に荷物過ぎる」

「…はい★」

 

 るーるる〜。

 

「じゃあもう…あとはヤネ君にべったりくっついてる」

「それがいいね」

「祈織さんに押し付けられる本生わさびも、私の替わりに頭から齧って貰う」

「…いや、それ可能なの? 天ぷらならともかく生を丸齧りって」

「まあまあ、代わりに露天風呂を一緒してあげるからさ★」

「いや、まあまあ…って落ち着かされても食えない物は食えない――」

「うんうん♡」

「っていうか、露天風呂ね。…はははっ。どう考えても露天風呂ってアイにとって恥ずかしいものになると思うんだけど、それは平気なんだ?」

「――」

「楽しみだな。海が近くに見える大自然の中を、全裸姿のアイがまるで浮かび上がる様に――」

「あ〜っ!?」

 

 

 

 

 

 

アイ★
@ai_kasuga・30分

た、タスケテ★

ヤネ君に拐われる〜!

こ  り  い   き   

 

アイ★
@ai_kasuga・20分

どうも、カスガアイの家族です

この度はウチのアイがお騒がせして誠にうんぬん、申し訳かんぬんな次第でございます

 

アイの身にこれといった別状は無く、今も元気にブーたれております

その貴重な姿がこちら

こ  り  い   き   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その後。露天風呂がもたらすこの身の被害に気付いた私は手足ジタバタ抵抗してみたものの、時すでに★時間切れ。ヤネ君の力強いおんぶにより車まで運搬されてしまった。咄嗟にスマホでSOSを打ち込んだけど、それもコンプラうんぬんで巫言さんに優しく諭されてしまう始末。

 

 私にはもう、ヤネ君を信じつつも盛大にへそを曲げるふりすることしか出来なかった。――あっ、その写真はちょっとエンタメが過ぎるんじゃないかな? ナイスショット過ぎるでしょ★

 

 

 

 ――まあ、そんなこんなで色々なことがあったけど、それでもこの伊豆旅行は本当に楽しかったと思えるよ。

 

 

 

 現在の時刻はもう、いつもならお布団に入る時間。私は帰宅途中の車の中で、ここ数日の出来事を振り返ってみる。

 

 今回の旅行ではまずヤネ君が私で楽しみ過ぎて1日、翌日私の羞恥心がパンクして1日の、計2日間も滞在が延びたことを除けばとっても楽しい旅行だったと思う。

 

 一応予定してた観光は全部出来たし、帰りは私の我儘が通って予定外の八景島にも寄ってこれた。シロイルカは不思議可愛いかったし、ナイトショーは綺麗だった。ふふふっ…これは毎晩露天風呂で春日アイ・フェスティバルを開催した甲斐があったね!

 

 もう、どうにでもなれー★ ではなく、

 

 

 もう、どうにでもしてー★

 

 

 状態だったけど、それでも私は結果を勝ち取ることが出来たんだ。これは自信に繋がるねー、ヤネ君のバカ。成し遂げた自分が誇らしいよ、ヤネ君のえっち。まるで本番のフェスに向けて最高のリハーサルが出来た気分だよね! …いやいや、そんなワケないでしょヤネ君。

 

 その時の私は露天風呂で仁王立ち、これでもかというぐらい呆れた目をしてみせたけど、厚顔ヤネ君には当然の様に効かなかった。仕方ないから頬をギュッと抓って反省の言葉を引き出したけど、正直効果の持続は期待出来ないなー。

 

 私は今、隣の席で人の気持ちも知らずにまったり寛いでいるヤネ君に向かって、改めてジト目を送ってみる。

 

 

 

 

「いやいや、そんな目をされてもね。アイの方こそもっと正直にならないといけないんじゃない? ――どうかな。私、綺麗かな…って見せつけてきたのはアイの」

「あ〜負けました! またしても私の負けでーす!」

 

 

 

 

 

 それは口にしちゃダメって言ったのに! ――私はヤネ君の胸に顔を埋めて、もう何回目か分からない敗北宣言をした★

 

 

 

 


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