宿儺「ポン!クラッシュ!クラッシュ!パッパッパ!」   作:プラゴミ

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初投稿…という事にしましょう


食前酒(アペリティフ)

誰かが言った──

全身の肉がすべて舌の上でとろける霜降り状態の獣がいると──

プリっプリで身のずっしりつまったオマール海老やタラバ蟹の身が一年中生る樹があると──

琥珀色の上質で芳醇なブランデーがたえまなく湧き出る泉があると──

人々は魅せられる!未知なる美味に──!!

世はグルメ時代──未開の味を探求する時代──

 

 


 

 

かつて、美食の神と呼ばれた美食屋が居た。

名をアカシア。

彼が発見した食材や技術はその多くが今現在の生活に無くてはならない程に貴重で、有用なモノばかりだが──その中でも群を抜いて人々…否、このグルメ時代にとって無くてはならないモノがある。

 

ソレは、とあるクラゲから見つけられた

 

 

IGO第8ビオトープ

日夜あらゆる食材の研究・改良が行われるIGOが誇る豊食時代の屋台骨である()にて、その日一人の死者が出た。

凶暴なチェインアニマルや様々なキメラ生物を管理するIGOでは珍しくないコト…誰もがそう思い気にも留めなかった。

その日、一つの呪いが豊食の世にて目を醒ました。

 

「…………ん…?」

 

ゆっくりと身を(もた)げるは二面四腕の異形──呪いの王、両面宿儺。

宿儺はその場で胡座をかくと周囲を見渡し…僅かに目を見開いた。

 

「どういうことだ…?」

 

生き物の気配に満ち満ちている…ソレは良い。

エモノが多い事に不平を言う程に宿儺は複雑怪奇な精神構造をしていない。

だが、明らかな異常があった。

目視で確認出来るだけでも数十の生物、更には聴覚等で捉えられる範囲で言えば数百は下らない数の生き物が跋扈していながら…宿儺はソレ等の呪力を一切感じ取れなかった。

 

「呪力が無い……?ありえん、たとえ虫ケラであろうとも微弱な呪力を発する筈だ」

 

呪力とは、(まじな)いであり(のろ)い。

使えずとも、意識できずとも、理解できずとも…(あまね)く森羅万象に大なり小なり有って然るべきモノ。

例外としては、天与呪縛…生まれながらに呪力を剥奪された超人。

しかし…

 

「天与呪縛か…?しかし、アレはあくまであるべき量の呪力と術式が存在しないだけ…一般人並の呪力はある」

 

宿儺は知り得ない事だが、完全なる呪力0の天与呪縛も存在はする…しかし、その事を知らずとも宿儺はすぐさま天与呪縛の可能性を否定した。

 

「なにより、脆弱(よわ)過ぎる

もしこの視界全てに天与呪縛が在るならば…もう少し殺気を感じる筈だ」

 

無数の疑問…解決の糸口すら見つからぬソレらにしかし宿儺は笑みを浮かべる。

 

「わからん…何もかもが……クッ、クックックッ…!

良いぞ…!そうだ!千年ぶりの受肉だ、精々飽きさせてくれるなよ!」

 

宿儺は上機嫌に歩を進める。

当て所無く…しかし、迷いもない。

 

「さしあたり…まずは腹拵えといくか」

 

数分歩いた先で見つけた湖を宿儺は睨むように見つめる。

透明度が高く、さりとて多少の濁りのある湖は一目で豊富な栄養を貯め込んでいる事がわかる。

宿儺は腰ほどまで湖に入ると数メートル先を泳ぐ魚群に狙いを定める。

 

「フッ…!」

 

宿儺の腕が高速で水面を叩く。

その凄まじい衝撃に夥しい量の飛沫と水柱が乱立し…水面が再びおさまった頃には十数匹の魚が浮かんでいた。

宿儺が行ったのは、ダイナマイト漁と呼ばれるものに酷似していた。

水中で爆発物を爆破することで発生する衝撃にて水産物を気絶、ないし殺傷することで捕獲する技術。

勿論、平安の世に生きた宿儺がダイナマイトを知っている訳は無い…が、ダイナマイト漁の原理は知っていた。

 

「ほう…中々良い脂乗りだ」

 

浮かんだ魚を手に取るや否や、宿儺の顔が更に喜色に染まる。

『食』に関しては並々ならぬこだわりを持つ宿儺は一目でその魚…ストライプサーモンが一流の食材であると見抜いていた。

 

「解」

 

宿儺は手にしていたストライプサーモンを瞬時に捌くと陸に上がる事すら待てぬとばかりに切り分けたその身を一口頬張る。

瞬間…宿儺は膝から崩れ落ちた。

 

「な……!なんだ…()()は…!?」

 

湖に胸まで浸かり、腹にある口が完全に水没するもそれすら些事だとばかりに宿儺は手元のストライプサーモンを見る。

 

「俺が、今まで喰っていたモノは…腐っていたとでも言うのか…っ!?

美味い…いや、美味過ぎる…!!」

 

淡水魚…本来ならば白身特有のあっさりとした味であるべきそれはまるで赤身魚の如き濃厚で深みある脂の甘みを持ちながら白身魚の軽い後味を両立していた。

煮炊きはおろか火さえ通していないただの刺し身、それも何も掛けずに食しているというのに…その味は宿儺をして未知の領域であった。

時として美食の為に集落一つを破滅させ、妊婦を拐い腹に居る胎児を引き摺り出しては調理させ食す。

両面宿儺はそれほどまでに『食』に対して貪欲で、真摯であった。

しかし、その全て…両面宿儺の美食の全てが湖を泳ぐ魚一匹に破壊された。

頭部を殴打されたかのような衝撃と、物を知らぬ嬰児に戻ったかのような羞恥。

宿儺は滂沱の涙を流しながら手元の魚に喰らいついた。

数分後、浮かんでいたストライプサーモンを全て喰い尽くした宿儺は大地に寝そべりながら空を眺めていた。

無言で己の腹を擦りながら一つの結論を出す。

 

「此処は…俺の居た世界ではないな」

 

呪力のない生き物達、宿儺をして未知と言わしめる美食…宿儺はそう呟くとゆっくりと立ち上がる。

 

「ゲラ…ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」

 

呵呵大笑、周囲の生物が逃げ惑う程の声量と威圧感をばら撒きながら宿儺は笑い転げる。

 

「こんな…!こんな巡り合わせがあるか!?

其処らに居た魚如きが俺の全てを塗り替える世界…っ!

こんな狭い水溜まりでコレだ…!!

未知なる美食に溢れたこの世界にこそ…俺の望んだ全てがあるっ!!」

 

かつて、神と崇められたことすらある宿儺が…この時初めて神とやらを信じても良いと思った。

宗教など死への恐怖を紛らわせる為の下らぬべんちゃらだと断じていた宿儺が初めて感謝した。

 

「命を運ぶと書いて運命…!よくぞ言ったものよ」

 

喜色に歪む宿儺の上を、一匹の生物が通り過ぎる。

太古に栄えた翼竜のようなソレは突如として自身の翼を斬り裂かれ墜落する。

 

「喰らい尽くしてやるぞ…!この世界、全てをな!!」

 

翼竜…シャクレノドンを解体しながら、宿儺は心底嬉しそうにそう叫んだ。

かくして、呪いの王はこのグルメ時代へ飛び込んだ。




グルメスパイザーは出ません…騙して悪いが仕事なんでな
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