「だ、団長…………っ、あ、あぁ……っ」
「……なんて声、出してやがるっ、ライド……っ」
彼は、ライドが撃たれてないことに安堵しながら不適な笑みを浮かべる。
彼の足元には地で満たされており明らかな出血多量だ。
「だって……っ、だってっ!」
「俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞっ! こんくらいなんてこたぁねぇ……!」
彼は十弾をもろにくらった身体で、汗を流しながらも立ち上がる。
「そんな……おれなんかのために……」
「団員を守るのが俺の仕事だ……っ!」
「でもっっ!!」
「良いからいくぞ………っ! 皆が……まってんだ…… 」
そして、彼は血を流しながら歩を進める。
ゆっくりと、そして確実に……
いつだってそうしてきたから、いままでずっとそう家族を守ってきたから。
いつだって……アイツが見ていたから。
「俺はとまんねぇからよ……お前らが止まらねぇ限り。その先に俺はいるぞ……!」
彼は進み続ける。
居場所なんて関係ない、ここじゃない何処かにいくために。
その場所はいってみなければわからない、見てみなければわからない……進み続ける限り道は続く。
そしてその道は……家族が作ってくれた素晴らしい道だ。
ーーだから、止まるんじゃねえぞ。
アスティカシア高等専門学園。
それは小惑星に建造された学園で、ベリットグループが運営しているクローバー方をした建造物だ。
その学園はMSなどのパイロットとメカニックを目指す者が在籍する学園であり、特にパイロット科はエリートである。
「…………」
そんな学園のMSが格納されている薄暗い倉庫で、一人の男が額に前腕を乗せて横たわっていた。
「ちょっと、そこのヤクザ男」
「……あ?」
目を瞑っていた男は目を開け、面倒そうに瞳を開ける。
すると目の前には銀髪の少女、同級生であるミオリネ・レンブランの姿があった。
「もうすぐ授業始まるわよ、なにサボってんのよ」
「なんだミオリネ、ここから出てくんじゃ無かったのか?」
そう問いながら男――オルガ・イツカは座り、ヤクザのように太腿に前腕を乗せる。
「失敗したのよ、バカ女のせいでね」
「そうか」
苛つく様子を隠そうともしないミオリネの言葉に、オルガは心底どうでも良さそうに言葉を返す。
「……なによ、女の子が落ち込んでるんだから励ましの言葉でもかけたらどうなの?」
冷たい目を向けてくるミオリネに、オルガは同じく冷たい目で答える。
「地球に行くのが失敗しようがしなかろうが、所詮学生の俺らが自由になれるわけねえだろ」
まるで何もかもを諦めたような言葉を吐き、オルガは学生の制服を羽織る。
「…………」
「さあ、面倒になる前に授業には行くぞ」
「……ええ」
そう答えたミオリネはなにをするでも無く、オルガが上着を着るまで彼の脊髄部分のデコボコ見ていた。
□ □ □
その同時刻、ミオリネの事を助けたMS操縦者、スレッタ・マーキュリーは格納庫の前に立ち、演習場を見つめていた。
その瞳は動揺しながらもキラキラとしている。
「スレッタ・マーキュリーさん」
「は、はひっ」
突然呼びかけに、スレッタの声がひっくり返る。
そこには作業服で青いインナーが爽やかな少女と、ボロボロのジャケットを羽織った小柄な少年がいた。
「実習、見学なんだよね? メカニック科二年のニカ・ナナウラです。わかんないことがあったら聞いてね」
「…………」
少女、ニカは優しい笑みをスレッタに向ける。
しかし対照的に、少年の方は無言を貫き通しており、我関せずと言った様子。
しかし無表情ながらもまるで獣のようにスレッタを睨みつけていた。
「え、ええっと……よ、よろしくおねがいしましゅ……!」
「よろしく」
スレッタはどうにか勇気を声に振り絞って頭を下げる。
そんなスレッタとは真逆に、少年は事務的に言葉を返す。
「あ、あの……えと……」
「なに」
「……ねえ、三日月君? 操縦者に会いたかったんじゃ無いの?」
テンパりかけているスレッタに助け船を出すように、ニカが苦笑気味に言う。
「別に、あの機体を操ってる奴がどんなのか、見たかっただけだよ」
自分のせいで空気が重くなりかけている事を気にする様子も無く、三日月と呼ばれた少年はポケットから種のような物をとりだし、口に入れた。
「じゃあね、赤い人」
そして、結局名前すら覚えてくれる気はないようだ。
三日月は結局一切表情を変えること無く、その場を後にしようとする。
と、
「ねえ、水星から来たってホント?」
「人、住んでたんだ?」
「専科は?」
そこに女子生徒三人組がニカを押しのけるように割り込んだ。
「パイロット科……です」
その威圧感に縮こまってしまったスレッタは、何故か星座にナリながらもどうにか言葉を紡ぐ。
「エリートじゃん」
「なんで編入してきたの?」
そんな質問攻めが止まらない。
恐らく彼女にとってはこの状況は恐怖でしか無いだろう。
「お母さん、が、行きなさいって、言うから」
「お母さん? じゃあその古そうなヘアバンドもお母さんがいうから着けてるの?」
「やめなよー」
三人の冗談交じりの言葉に、ニカと密かに聞いていた三日月は眉を潜める。
まるで女子校のいじめ現場だ、会って初日で彼女をあざ笑っているのだ。
「もちろんです!!」
しかし、スレッタは打って変わって晴れやかに答えた。
そして、そこにカツカツ……っと二つ足音が聞こえてくる。
一人は三日月と同じジャージを着たいかにもイカつい男。そしてもう一人は、スレッタが助けた(仮)の少女――ミオリネだった。
「ミオリネ・レンブラン。事情は聞いている」
教師にそう言われたミオリネは、事情は既に知れ渡っている事を知り、やれやれと心の中で苦い顔をした。
そしてスレッタが彼女の後ろを見てみると、明らかに生徒では無いボディーガードが立っている。
「オルガ・イツカ。お前もさっさと授業に参加しろ」
「へいへい」
隣にいた銀髪の男は頭を掻きながら、露骨にいやそうな顔をする。
二人が授業に入ろうとしたタイミングで、か細い声が聞こえる。
「せ、責任……」
タブレットで顔を隠したスレッタが、なんとか声を絞り出す。
「脱出、手伝います。どどど、どうすればい、いですか?」
三日月を盾にしたスレッタを、ミオリネが細い目で凝視する。
「あ! あんときの邪魔女!」
周りの生徒達がどんどんざわめきだす。
「責任?」「どういうこと?」
そんな姿を見て、三日月はスレッタの盾になりながらも口を開く。
「なんかあったの?」
「別に、三日月には関係ないわよ」
とミオリネが冷たくそう言った後、
「責任、とってもらったら良いじゃないですか」
横やりを入れてきたのは、二年のパイロット科のフェルシー・ロロ、そしてメカニック科のペトラ・イッタだ。
フェルシーはそのまま挑発を続ける。
「逃げたいんですよね、地球に」
ミオリネがフェルシーを睨み付ける。
「だったら――」
「おい」
そんな時、ミオリネの前にオルガが立ち塞がる。
「その辺にしないか? フェルシー」
「……オルガ・イツカ」
「せっかく授業を受けてんだから、ちゃんと教師の話を聞くことをおすすめするぜ。お前らもだ」
そう言って、オルガは周りの生徒を見渡した。
「他人を心の底で鼻で笑うのは結構だが、未来のためになることはやっとけよ」
そう言って、オルガは悪魔のような笑みを見せて自分の首筋を露出させた。
「将来、ネズミになりたくなけりゃな」
その瞬間、その場にいる物のほとんどは息を呑み、嫌悪感を表した。
そこには……まるで直接人体に埋め込まれたように、機械的な物が突起していたからだ。
それはまるで強引に埋められたように背中に埋め込まれており、皮膚も気味悪く変形していた。
□ □ □
その数時間後、グエルの決闘を見届けたスレッタは、ミオリネと共に学園の外れにある小さな森。
野菜などを栽培できる温室に来ていた。
「おいしい……!」
「トマトならどれもおいしいわけじゃ無いわ。そのトマトは特別」
スレッタはトマトを頬張って口を拭いた後、気になった質問をミオリネに投げかけた。
「あの……あのオルガ、さんと三日月、さん? ってどういう人なんですか? へんなジャージ、来てますし。あ、あの首の……」
そう言いながら、スレッタは先程の彼の背中を思い出してぞっとする。
その態度に、ミオリネは見下すように悪態をついた。
「アンタ、なにも知らないのね」
「え?」
「あれは『阿頼耶識』脊髄にナノマシンを注入して機械を埋め込んで、モビルスーツやワーカーに人間の神経と機体のシステムを直接つなげる物よ」
「ちょく……せつ?」
その言葉にスレッタは目を見開いた。
「ええ、手で操作するのでは無く身体で直接操作できる代物よ。まるでモビルスーツを自分の手足のように操れるらしいわ」
「す、すごそう。です」
ミオリネは母親が作ったトマトを見ながら、冷たい声で話を続けた。
「……っていうか、まさかアンタ鉄華団の事も知らないわけ?」
「てっか、だん?」
ミオリネのその聞き慣れない言葉に、スレッタは首を傾げる。
そんな知育が足りていないとしか言えない彼女のアホさ加減にミオリネは頭を抱える。
「最近、大きな仕事を成し遂げて注目されてる火星ネズミの事よ」
「火星ネズミ、ですか」
鉄華団、今その名を知らない物はごく少数であろう。
CGSという組織が火星ネズミによって支配された団体名。その者達はある令嬢を無事に地球まで送り届け、ギャラルホルンからも注目されている。
「そっ、火星ネズミだ」
そこに、いつの間にか温室に入ってきたオルガと三日月が口を挟む。
「…………」
「まあ注目されてると行っても、俺らの印象はさっき見たとおりなんだけどな」
そう無表情の三日月の隣で口角を上げるオルガ。
そう、たとえ注目されているとはいえ火星は基本搾取され嫌悪の対象だ。
阿頼耶識は過去の遺産で狂気的な物であり、火星では多大な税金が課され、ネズミの如く生活を強いられる。
「二人とも、なにしに来たのよ」
「別に、俺はオルガについてきただけだよ」
「一応新入生に自己紹介しとこうと思ってな、俺はオルガ。よろしくな」
「す、スレッタ。ですっ。よ、よよよろしくっおねがいいしますっ!」
スレッタからすれば威圧ある顔に押されながらも、彼女は差し出された手を両手で取った。