竜の星座~高天原の隠者
世界最高峰ヒマラヤ山脈から程遠からぬ秘境、聖衣《クロス》の墓場を無事に抜けた男。
第1段階の聖闘士《セイント》、ドラゴン紫龍は高原地帯に聳え立つ巨塔を見出した。
アッペンディックスの貴鬼が現れ、念動力《サイコキネシス》を用いて訪問者の力量を試すが。
竜の拳が閃き高速で飛来する無数の巨岩、超特大の指弾を木っ端微塵に粉砕。
ついでに
「何ですか、騒々しい。
またですか、貴鬼?
お前の悪戯で、客人を怒らせてしまった様ですね」
涼やかな声と共に虚空が割れ、物静かな学者の雰囲気を漂わせた塔の主《マスター》が現れた。
ジャミールの隠者《ラムサー》は指先を向け、鬼面の塔ならぬ大理石の塔を操り均衡を回復。
竜星座の聖闘士が繰り出した渾身の一撃を受け、木っ端微塵となった1階に念動力が作用する。
中空に吊り下げられた八重の塔が緩やかに降下、1階の上に接する寸前で空中浮揚。
周囲の瓦礫が念動力に砕かれ建築資材と化し、隙間を埋め第1層の上面と接合。
自然界を表し天、沢、火、雷、風、水、山、地の宇宙エネルギーを現す八卦を象る星封陣。
八芳星《オクタグラム》は無限の力《パワー》、∞《無限大》の象徴《シンボル》だが。
無限に拡がる大宇宙《グレート・コスモス》の相似形、肉体に内在する小宇宙《コスモ》。
究極の第7感覚《セブンセンシズ》、第3段階の小宇宙を覚醒させた賢者が振り返る。
驚愕する老師の愛弟子へ澄明な瞳を向け、第1段階の小宇宙を走査《スキャン》。
竜星座《ドラゴン》と天馬星座《ペガサス》、破損の甚だしい聖衣を透視し状態を確認する。
「聖衣の墓場を突破し得た勇気は認めますが、貴方の要望には御応え出来ません。
残念ですが聖衣の修理は両方とも不可能、老師へ御報告し他の聖衣を探す事をお奨めします」
無造作に下された宣告を受け、紫龍の瞳が燃えた。
小宇宙が震え陽炎の如き物質化現象を生起、背中から竜の幻影が湧出し天へと駆け昇る。
「聖衣の修復は老師の御依頼に非ず、暗黒《ブラック》聖闘士と対決する為に参上しました。
邪悪な輩に奪われた黄金《ゴールド》聖衣を取り戻す為、私と友の聖衣2体が必要なのです。
生命の恩人たる我が友の志に報いる為、せめて天馬星座だけでも修復を乞い願う次第。
理不尽とは重々承知なれど我が一命を懸け、是が非でも御助力を賜りたい!」
至誠の熱情を迸らせ熱弁を振るう紫龍の小宇宙に応じ、竜星座と天馬星座の聖衣が煌いた。
同調する聖衣の波動に気付かぬ第1段階の聖闘士に苦笑し、第3段階の聖闘士が言葉を紡ぐ。
「貴方の御気持は大変良く解りますが、聖衣の修復は非常に困難と申し上げねばなりません。
この状態まで破損した聖衣を蘇らせる為には、膨大な精神エネルギーが要求されるのです。
小宇宙に同調共鳴し無限の力《パワー》を発揮する聖衣は、偉大なる先史精神文明の産物。
銀河文明の擁護者を名乗る超種族の遺産、小宇宙を映し出す鏡《レンズ》の発展形。
地、水、火、風、光、闇、命、心の8大元素《エレメント》を内蔵する小宇宙の成長補助具。
修復に必要な小宇宙は先刻、1階を破壊した際の数百倍に達し貴方の生命に関わりますよ」
「我が生命は既に一度は喪われ我が友、星矢の拳が黄泉より呼び戻せしもの。
天馬星座の聖衣を蘇らせる為に捧げるは本望なり、修復を御願い申し上げます」
決意を映す瞳のみならず第7感覚の真髄、第1段階の小宇宙を奥底まで精査し可能性を確認。
聖衣の修理技術を受継ぐ唯一の存在、第3段階の聖闘士は初めて微笑を見せた。
「貴方の勇気と決断に敬意を表し、数年振りに聖衣の修復を承りましょう。
館の内部で修復を行います、私に付いて来て下さい」
ドラゴン紫龍はジャミールのムウに先導かれ八芳星の一角、虹色に脈動する一室へ到達。
燦然と輝く水晶《クリスタル》に覆われ、金剛石《ダイヤモンド》の内部を彷彿とさせる。
伝説に謳われた聖王国が誇る水晶《クリスタル》の都、聖王宮の一角を占める塔の地下。
謎と神秘に包まれた古代機械、時も次元も解明された天上の都に属する超時空転移装置。
座標の入力方法を知る者は、超次元間の移動も可能な空想的《フィクティブ》転送機。
物質のみならず精神体も瞬間移動の対象とする転移機《シャトル》、水晶の機械が煌く。
第7感覚を研ぎ澄ませ己の裡なる小宇宙を最大限に増幅、爆発させ白光が意識を灼いた。
限界を超え燐気が燃え尽きる程、燃焼させ渾身の力《パワー》を放出。
竜星座の聖闘士が第七感覚を滾らせ、力の根源を振り絞り湧出させた巨大な燐気が変貌。
牡羊座の聖闘士は苦も無く、第3段階の小宇宙を共鳴させ膨大な精神エネルギーを転換。
小宇宙エネルギーを注ぎ念動力を用いた細胞賦活と同様、聖衣の傷を治癒し再生を促進。
竜星座と天馬星座の聖衣が煌き、虹色の光に包まれた。
(この者が小宇宙に秘める力《パワー》の根源は、星の秘宝石《スター・ドロップ》か?
八大元素の力を秘め錬金術の触媒となる精霊石の一、虹水晶《レインボー・クリスタル》。旧支配者を追放せし旧神の封印《エルダー・サイン》、ムナールの護符と並ぶ破邪の秘宝。
妖怪鬼神も怖れ黒の剣と対極に位置する星の霊剣、降魔の利剣を精製する星光の原石。或いは旧支配者《グレイト・オールド・ワンズ》の眷族を討ち、星の戦士が携えた謎の武器。
異世界の地精族が鍛えた光の武器と同様、磨けば真の邪悪を祓う希望の光となるやもしれぬ。とすれば消息を断って久しい我が師シオンの盟友、五老峰の老師も御存知の筈だが。
愛弟子に聖衣の墓場を突破する秘訣を明かせしは、或いは私への伝言《メッセージ》かも知れぬ。
最硬の聖衣とされる竜星座と同様、88の聖衣で唯一つ自己修復能力を備える孤高の聖衣。鳳凰座《フェニックス》が史上初めて主と認め、同調《シンクロ》する男が現れたと聞く。
無限寿命者《インモータル》と噂される仮面の男は倒され、デスクィーン島の結界は消えた。女神の封印が施されし邪悪の塔を見張る封印監視者に代わり、私の動く刻が到来したのか?)
「貴鬼、高天原《ジャミール》を出る時が来た様です。老師の仰られる通り、城戸沙織が女神アテナの転生か否かを確認する為に。
偽物とされる射手座《サジタリアス》も万一に備え、真偽を確かめねばなりません。紫龍が目覚め次第、日本へ飛びますよ」
主には及ばぬが念動力を操るアッペンディックスの貴鬼が、眼を丸くする。悪戯好きの少年は重ねて準備を促され、漸く塔の奥へ消失。
燃え尽きたかと見えた第1段階の小宇宙へ未知の要素、力の根源から湧出する謎の力が作用。念動力を用いた細胞賦活を施すまでも無く、自力で肉体を修復し第7感覚も復活を遂げた。
意識を覚醒させたドラゴン紫龍の礼に応え、微笑と共に賞賛の詞を贈る第3段階の聖闘士。聖域十二宮の最前線、白羊宮を預かる守護者《ガーディアン》は久方振りに己の聖衣を装着。
牡羊座《アリアス》の聖衣が輝き第3段階の小宇宙と調和、共鳴し黄金の炎を湧出させる。超長距離の瞬間移動《テレポーテーション》、強大な念動力が時空を歪め3人の姿が消えた。
極東の島国、日本列島の最高峰とされる富士山の麓に連なる広大な樹海。緑の魔境と怖れられる青木が原、闇に包まれた広大な地下空間へ拡がる鍾乳洞の入口。
再会を喜び聖衣を装着するペガサス星矢、ドラゴン紫龍の隣で微笑むアンドロメダ瞬。冷酷《クール》な表情を崩さぬ聖闘士キグナス氷河、異母兄弟達が洞窟へ踏み込む。
第3段階の聖闘士は同行せず入口に佇み、牡羊座《アリアス》の聖衣へ小宇宙を集中。黄金聖衣の共鳴作用を利用、射手座《サジタリアス》の位置を探り残留思念を読み取る。
思念の解析が進むに連れ、穏やかな狼の仮面が外れ表情が一変。ジャミールのムウに付き従う悪戯者、アッペンディックスの貴鬼が怯え距離を置いた。
(聖域の偽教皇が反逆者の烙印を押した人馬宮の守護者、アイオロスは知っていたのか? 女神アテナの転生を託せし日本人、城戸光政の正体は大いなる時の神クロノスの転生?
紫龍のみならず他の3人もまた小宇宙の裡に、クロノスの片鱗が潜んでいるではないか。大時空神の力《パワー》を秘める少年達が、女神の聖闘士と成るは偶然とは思えぬ。
88在る聖衣の中で唯一、自己修復能力を持ち不死身を誇る鳳凰座《フェニックス》。不死鳥の象徴《シンボル》と同調する聖闘士も日本人と聞くが、紫龍に縁の者か?
彼等の小宇宙に秘められた力の根源、成長の可能性を探るには絶好の機会《チャンス》。相手は表面的な破壊力を体得する暗黒聖闘士に過ぎぬ、遅れを取る気遣いはあるまい。
真に彼等が新たな戦いを勝利へ導く希望の聖闘士、最強の切札《ラスト・カード》か否か。選ばれし者と確証を得た暁には、我等も参戦の刻かと老師へ御報告を申し上げねばならぬ)
霊峰富士の麓に広がる樹海、風洞の奥底に繋がる闇黒の地下空間に於いて。射手座《サジタリアス》の聖衣《クロス》を巡り、激闘が展開された。