「髪と瞳の変色は禁忌の呪術、精神支配《サイコ・コントロール》を解除《リセット》の証。
神の化身を唆使した黒幕は冥王、ハーデスの星幽体《アストラル・ボディ》と云う事か。
君の主《マスター》は離脱《セパレート》と同時に女神を追い、超次元の彼方へ飛んだ。
凍れる時の秘法を施術した本体を護る為、冥界を見棄て極楽浄土《エリシオン》に去った。
精神支配《サイコ・コントロール》を脱した今なら、自由に思考を巡らす事が可能。
催眠暗示命令《ヒュプノ・ブロック》に囚われず、正邪の判断を下す事も出来る筈。
冥闘士《スペーサー》は神々の長兄に忠義を捧げる勇者、冥界の聖闘士《セイント》。
女神は君達を倒せと命じてはおらぬ、我等と共に地上を護る戦友として期待している。
光溢れる地上を護り真の邪悪を阻む為、新たなる戦いには数多の勇者達が必要だ。
既に海皇ポセイドンは夢魔ヒュプノスの術を脱し、本来の身体を取り戻し覚醒を遂げた。
神々の長兄ハーデスも幻魔タナトスの呪術を脱し、真の肉体と共に魂の自由を回復する。
無用な争いに生命を浪費せず、冥界の至高者《ファイナル・マスター》を待ち給え」
第8感覚《エイトセンシズ》を発顕させ生死を超え、冥界の涯へ到達した黄金聖闘士。
小宇宙《コスモ》と同調する聖衣《クロス》が煌き、黄玉《トパーズ》色の光を放つ。
或る分岐先では真相を看破し幽霊《ゴースト》聖闘士、最強の3人と闘い消滅を偽装。
極楽浄土へ向かう途中で冥王の小宇宙を感じ、ジュデッカへ現れた阿頼耶識の先覚者。
第7感覚《セズンセンシズ》を高める為、常に瞳を閉ざし視覚を遮断する神に近い男。
乙女座《バルゴ》の聖衣を纏う処女宮の守護者、シャカの唇から穏やかな声が響いた。
「残念だが私はハーデス様に直接、御目通りを許され御尊顔を拝見した直参の者。
冥界の王ハーデスの側近とは言わぬが御親兵、近衛兵を務め旗本とも言うべき存在よ。
永劫の日蝕《グレイテスト・エクリプス》は人類絶滅に非ず、創造の準備段階に過ぎぬ。
心清らかなるハーデス様が地上を浄化し、理想郷《ユートピア》を創造する壮挙のな。
乙女座シャカは黄金聖闘士の中でも唯一、八識に目覚める要注意人物と警告を受けている。
神に近い男が操る弁舌に騙されはせぬ、リー・インカーネーション!」
地獄の閻魔帳《ファイル》を携え、静粛を旨とする冥界の審判《ジャッジメント》。
裁きの館を預かる冥王の代理人《エージェント》、天英星バルロンのルネは話合いを拒絶。
寛容にも選択の機会《チャンス》を与えた神に近い男に、問答無用と挑戦状を叩き付けた。
無駄口を叩かず先手必勝の諺に則り、先制第一撃《ファースト・ストライク》を投射。
相手の記憶巣《メモリー・バンク》を走査《スキャン》し、罪状を空間に投影する幻術。
精神測定《サイコメトリ》の秘術が炸裂し、神に近い男が犯した悪行の数々を抉り出す。
「双子座《ジェミニ》サガが偽教皇と知りながら、告発せず沈黙を守った偽証罪!
下級聖闘士を遙かに凌ぐ己の実力を誇り、慈悲の心を持とうとせぬ驕慢は立派な罪だ!!
青銅《ブロンズ》聖闘士が処女宮へ来た場合、どうする心算だったか忘れたとは言わせぬ!
聖域《サンクチュアリ》に従わぬ不逞の輩として、六道輪廻へ墜とす筈だったではないか!!
口清く上手い事を言いおって、貴様の言う事は信用出来ぬわ!
他人に暴力を振るった罪は明白、第六獄《プリズン》一の谷《バレイ》へ墜ちよ!!」
「フッ、笑止な。
神に近い私が、地獄に墜ちると思うのかね?
冥界の何処へ飛ばそうが無駄だよ、徒労に過ぎぬと忠告して置こう。
私を弾劾するとは良い度胸だ、今度は君が異次元の旅《トリップ》を楽しみ給え。
せめてもの情け、行き先は自分で決めさせてやろう。
幸運を祈るぞ、六道輪廻を受けよ!」
裁判官の掌から圧縮された小宇宙が湧出、異次元空間《アナザー・ディメンション》を創造。
錯綜する時空間を渡る超次元の潮流、黒い風が吹き寄せ神に近い男を運び去るかに見えたが。
何事も無かったかの様に冥王宮《ジュデッカ》へ舞い戻り、涼しい顔で微笑む神に近い男。
瞳を開き地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界へ次元回廊を接続。
明滅する光の輪が次元の壁を歪め異次元の色彩、六道界の風景が走馬灯の如くに移り変わる。
今度は冥界の審判が纏い付く無数の亡霊に引き込まれ、地獄界の一角へ堕ちたかに見えた。
「優越感に浸るのは君の勝手だが、あまり舐めて貰っては困るな。
私は第一獄《プリズン》を預かる地獄の番人だぞ、地獄に堕としてどうする心算だ?
虚仮脅かしの威嚇は効かぬし時間稼ぎも無駄だ、好い加減に本気を見せ給え!
神でもない者に他人を裁く権利は無い、冥界の掟に従いファイヤー・ウィップを受けよ!!」
空間転移の術を用い、己の本拠地《ホーム・グラウンド》へ姿を現した地獄の審判。
裁きの鞭が獰猛な唸り声を挙げ、最も神に近い男の纏う聖衣を捕捉する。
「幾重にも巻き付いた鞭は、君の積み重ねた罪状を証明するものだ!
神に近い男が聞いて呆れる、バラバラに切り裂き遺体を撒布してくれるぞ!!」
冥界の裁判官は鞭を引き絞り、輪切りとなった筈の身体から盛大に真っ赤な血潮が噴出。
瞬く間に床一面に拡がり真紅の湖が足元を浸蝕、血の池地獄が冥界の審判を呑み込む。
「馬鹿な、裁きの鞭に巻き付かれた者は例外無く体を寸断される筈だぞ!?
神に近い男とは聞くが貴様は神でない筈、どんな詭計《トリック》を用いたのだ!」
想定外の事態に動転する地獄の審判、天英星バルロンのルネを憐れむ様に一瞥。
悟りを開き優雅に微笑む聖域の覚者、乙女座シャカの唇が開き涼やかな風が流れ出す。
「口は、災いの元。
天に唾する者は、己自身の顔で唾を受ける破目になる。
自分の言葉は自分に還る、と聞いた事は無いかね?
神でもない者に他人を裁く権利は無い、君は自分自身の言葉に敗れたのだよ」
数知れぬ亡者達を裁き、罪状に対応する地獄へ堕とした冥界の審判。
自分自身の行動は棚に上げ他人の責任を追及し、炎の鞭で引き裂いた重罪人の冥闘士。
催眠暗示能力を保持する妖魔《モンスター》、バルロンの冥衣を纏う第一獄の番人。
四方八方から押し寄せる鮮血の奔流、濁流が閻魔帳を携える冥界の裁判官へ殺到。
真紅の大渦巻《メイル・ストリーム》が轟き、黒い光を放つ冥衣を呑み込む。
身体の自由を喪い瞳を宙に泳がせ、呆然と佇む天英星ルネの意識が途絶えるかと見えた。
「魔術《マジック》の種は見破ったぞ、魔眼《デビル・アイ》の遣い手め!
貴様も奇術師《マジシャン》の同類、幻術《イリュージョン》を操る者ではないか!!
我が魔力を撥ね返すとは見事な腕、超心理学の達人と褒めてやるが只では済まさぬ!
凶眼《イーグル・アイ》の究極、最上級呪文《クライマックス》を受けよ!!」
絶体絶命の窮地を脱し九死に一生を得て顔面蒼白、荒い息の惨状を露呈する冥闘士。
天英星バルロンのルネを源とする魔闘気を受け、冥衣が脳髄を浸蝕する黒い宝石に変貌。
時間も空間も意味を為さぬ絶対の虚無、宇宙的な孤独と永劫の闇が第3段階の小宇宙を浸蝕。
心理学的な技術と叡智を結集した芸術品、内面と外界を入れ替える高度に洗練された罠。
人生を追体験させ心の奥底まで揺さぶり、弱点《ウィーク・ポイント》を暴く超心理攻撃。
相手の記憶を自在に操り過去の情景、生涯の最後に振り返る走馬灯を再現する超絶の秘術。
果てしの無い記憶と追憶の激流、尽きせぬ悔恨と慙愧の想念が織り成す思考の環《ループ》。
如何なる勇者や賢者も逃れ得ぬ思念の檻、生涯の檻が自らの内宇宙を映し出す魔鏡と化す。
己の存在意義を見出せず苦悶の底、無限に連なる失意の日々が延々と続いた過酷な日々。
聖闘士の資格を得る以前の修行時代、悟りを拓く事が叶わぬ挫折と虚無の底無し沼が現出。
何時の間にか第3段階の第7感覚を発揮する術を見失い、小宇宙が萎縮し聖衣も輝きを喪失。
好機到来と見た冥闘士が魔性の鞭を繰り出し、最も神に近い男を捕捉するかと見えた其の時。
シャカの脳裏を或る鍵言葉《キイワード》、思念波が掠め第9感覚《ナインセンシズ》が覚醒。
記憶封鎖《メモリー・プロテクト》が解除《リセット》され、超次元世界の幻影が甦る。
天王星《オリンポス》を治める最高指導者《ファイナル・マスター》、ゼウスと対面した記憶。
天帝の使者を務める天界の聖闘士、天闘士の証となる天衣を得た叙任式の一部始終が鮮明に甦る。
潜在意識に埋め込まれた第9感覚の非常警報《アラーム》、銀河の鏡が閃き小宇宙と精神を純化。
調整者一族の浄化作用は一瞬で完遂、表層の記憶も再び封印され顕在意識から消去《ロスト》。
第7感覚《セブンセンシズ》の真髄、小宇宙《コスモ》が爆発的に増幅され凄絶な白光を放射。
主《マスター》と同調《シンクロ》する聖衣が燦然と輝き、白金《プラチナ》の閃光が闇を貫く。
「幻魔の呪術と超心理学の罠《トラップ》、内部空間《インナー・スペース》を破るとは!
己の内宇宙を打ち破る事は、己自身を破壊する行為に他ならぬ!!
滅多に創れぬ黒魔道の芸術品、《生涯の檻》を破る条件は全く異なる自我の創造!
自分自身の内部に閉じ込められた状態で、どうやって突き破る事が出来たのだ!?」
仮想空間の無限城に類似の輝ける闇、記憶の鍵を解き放つ超心理学的波動の磁場が崩壊。
逆転勝利の一歩手前で超次元感覚の罠《トラップ》が作動、追い詰められた冥闘士が絶叫。
「君の秘術は魂の底まで堪えた、尊敬に値する優秀な超心理学者と認め賛辞を贈る。
お蔭で第8感覚《エイトセンシズ》の真髄、阿頼耶識の上を行く心象《イメージ》を得た。
私自身にも想定外の秘術の起動する要因、特訓《トレーニング》を君にも体験させてやるぞ。
次なる飛躍と進化の要諦となり無意識の裡に埋没する銀の鍵を見よ、天空覇邪魑魅魍魎!」
相手の心底に潜む恐怖と悪夢の似姿を多元宇宙から捜索、異次元を経て現実界に召喚し具象化。
超絶レベルの大魔術《マジック》、幻術《イリュージョン》の大群が冥界の裁判官に殺到。
最も神に近い男と互角の攻防を繰り広げ、心理決闘を試み墓穴を掘った冥界法廷の断罪者。
罪人の鞭と相手の記憶を操る冥闘士、天英星バルロンのルネを無限の恐怖が襲い意識が消えた。