黄金の勇者   作:fw187

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天牢星の冥闘士(仮)

「静寂に満ちた世界の(ルール)を乱し、ハーデス様に楯突く聖闘士《セイント》の鼠《ネズミ》共め!

 不逞の輩は我が斧《アクス》にて残らず討ち取り、氷地獄《コキュートス》に叩き込む!!」

 

 冥界三巨頭《ビッグ・スリー》の一角、ラダマンディス直属の冥闘士《スペクター》が吼えた。

 牛頭人身の怪物《ミノタウロス》の名を冠する冥衣(サーブリス)、天牢星の鎧を纏う長身の男が突撃。

 ゴードンが雄渾な体格に似合わぬ瞬速、洗練された無駄の無い動作(モーション)侵入者(インベーダー)に迫る。

 

 聖域(サンクチュアリ)十二宮の一角を預かり、研ぎ澄まされた闘気を纏う男に必殺の一撃を浴びせるが。

 山羊座《カプリコーン》の聖衣(クロス)に触れる寸前、標的(ターゲット)の姿が消え失せた。

 想定外の事態に殺気を削がれ、硬直するかと見えた冥闘士に横殴りの旋回技が炸裂。

 シュラの代名詞、聖剣《エクスカリバー》が真横から襲撃者を薙ぎ払う。

 

 竜星座(ドラゴン)(シールド)も斬り裂く一閃、強烈な斬撃が決まり黄金聖闘士の勝利かと思われたが。

 冥闘士は咄嗟に身を引き、遠心力で破壊力の増した蹴撃《キック》の角度・方向・速度を確認。

 予知能力者の如く精緻に時間差を測り、小指を砕く横殴りの拳で邀撃を試みる。

 天賦の才を備える修羅も瞬時に敵の意図を読み、右脚の軌道を直撃の寸前に下げ痛打(ヒット)を避けた。

 

 

「意外に、出来る男だな。

 縦から横への変化、一の太刀(ファースト・ストライク)を瞬時に読んだ動物的な直感は見事と認めてやろう。

 呼吸を完璧に合わせた返し技(カウンター・アタック)、牙斬の要領で紙一重の撃墜を狙う度胸も賞賛に値する。

 今度は連撃だ、貴様の実力を見せて貰うぞ!」

 

 シュラは無造作に冥闘士との距離を詰め、上体を瞬時に沈め繰り出された拳を避けた。

 カポエラ戦士特有の高速旋回、デンプシー・ロールを遙かに凌駕する変幻自在の舞踏術に移行。

 練達の聖闘士と冥闘士は互いに態勢を崩す為、騙し技(フェイント)を繰り出し一瞬の隙を狙う。

 会心の一撃(クリティカル・ヒット)を極める好機(チャンス)を窺い、空拳と蹴撃の応酬が続く。

 

 此の儘では一向に埒が明かぬ、と見た故か。

 長身の男は唐突に跳び退き、射程距離外に逃れた。

 不用意な追撃に移らず様子を見る聖闘士を睨み、深く静かに呼吸を整える。

 

 黄金の聖衣を纏い第七感覚《セブンセンシズ》の真髄、小宇宙《コスモ》を高める聖域の修羅。

 冥界の宝石と喩えられた精神感応物質(サイキック・コンヴァーター)の鎧を纏い、第六感(シックス・センス)を研ぎ澄ませる地獄の騎士。

 暗黙の合意に達した両者は一歩ずつ、生と死の接点に向け再び距離を詰めた。

 

 

「先刻の暴言を撤回する気は無いが、楽しませて貰った故に断っておく。

 絶対真空の聖地(オリンポス)を護る邪魔者、天闘士(ガーディアン)共を倒す為に鍛えた奥義は無敵よ。

 我が戦斧(バトル・アックス)の前には砕け散る運命(さだめ)の星、燃え盛る太陽に挑む無謀な蜂も同然。

 風車に挑む愚者が持つ鋭利な剣の如き無用の長物、儚く無力な蟷螂(とうろう)の斧に過ぎぬ。

 万物を斬り裂く聖剣《エクスカリバー》と雖も、所詮は剃刀《カミソリ》。

 枯れ果て地に墜ちた空洞の枝にも等しい、激突すれば砕けるのは其方だ!」

 

「俺は戦う前から虚勢を張り無駄に吼え捲る輩、大口《ビッグ・マウス》と云う奴が大嫌いでな。

 拳で語らず実力の伴わぬ有象無象、舌戦の強者は地獄の底で解説に専念して貰おうか。

 問答無用だ、消え失せろ!」

 

 相手の心理面に対する小手調べ、挑発の応酬は済んだ。

 両者は躊躇無く指呼の間に踏み込み瞬速の早業、必殺の一撃を披露。

 無敵と謳われた聖剣《エクスカリバー》が異音を発し、シュラの呼吸が乱れる。

 強化クリスタル製の戦斧《トマホーク》を髣髴とさせる手刀(しゅとう)が閃き、均衡が突き崩された。


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