「静寂に満ちた世界の
不逞の輩は我が斧《アクス》にて残らず討ち取り、氷地獄《コキュートス》に叩き込む!!」
冥界三巨頭《ビッグ・スリー》の一角、ラダマンディス直属の冥闘士《スペクター》が吼えた。
牛頭人身の怪物《ミノタウロス》の名を冠する
ゴードンが雄渾な体格に似合わぬ瞬速、洗練された無駄の無い
山羊座《カプリコーン》の
想定外の事態に殺気を削がれ、硬直するかと見えた冥闘士に横殴りの旋回技が炸裂。
シュラの代名詞、聖剣《エクスカリバー》が真横から襲撃者を薙ぎ払う。
冥闘士は咄嗟に身を引き、遠心力で破壊力の増した蹴撃《キック》の角度・方向・速度を確認。
予知能力者の如く精緻に時間差を測り、小指を砕く横殴りの拳で邀撃を試みる。
天賦の才を備える修羅も瞬時に敵の意図を読み、右脚の軌道を直撃の寸前に下げ
「意外に、出来る男だな。
縦から横への変化、
呼吸を完璧に合わせた
今度は連撃だ、貴様の実力を見せて貰うぞ!」
シュラは無造作に冥闘士との距離を詰め、上体を瞬時に沈め繰り出された拳を避けた。
カポエラ戦士特有の高速旋回、デンプシー・ロールを遙かに凌駕する変幻自在の舞踏術に移行。
練達の聖闘士と冥闘士は互いに態勢を崩す為、
此の儘では一向に埒が明かぬ、と見た故か。
長身の男は唐突に跳び退き、射程距離外に逃れた。
不用意な追撃に移らず様子を見る聖闘士を睨み、深く静かに呼吸を整える。
黄金の聖衣を纏い第七感覚《セブンセンシズ》の真髄、小宇宙《コスモ》を高める聖域の修羅。
冥界の宝石と喩えられた
暗黙の合意に達した両者は一歩ずつ、生と死の接点に向け再び距離を詰めた。
「先刻の暴言を撤回する気は無いが、楽しませて貰った故に断っておく。
絶対真空の
我が
風車に挑む愚者が持つ鋭利な剣の如き無用の長物、儚く無力な
万物を斬り裂く聖剣《エクスカリバー》と雖も、所詮は剃刀《カミソリ》。
枯れ果て地に墜ちた空洞の枝にも等しい、激突すれば砕けるのは其方だ!」
「俺は戦う前から虚勢を張り無駄に吼え捲る輩、大口《ビッグ・マウス》と云う奴が大嫌いでな。
拳で語らず実力の伴わぬ有象無象、舌戦の強者は地獄の底で解説に専念して貰おうか。
問答無用だ、消え失せろ!」
相手の心理面に対する小手調べ、挑発の応酬は済んだ。
両者は躊躇無く指呼の間に踏み込み瞬速の早業、必殺の一撃を披露。
無敵と謳われた聖剣《エクスカリバー》が異音を発し、シュラの呼吸が乱れる。
強化クリスタル製の戦斧《トマホーク》を髣髴とさせる