転生悪役令嬢フランチェスカの受難   作:如月SQ

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転生!悪役令嬢フランチェスカ

 目を覚ました時、ここが何処かわからなかった。

 

 見覚えのない天井、触り心地の違う布団……上半身を起こしてみれば、疑問は更に加速した。

 

 

 

「……ここ……どこ……?」

 

 

 

 自分の口から出たとは思えないくらいに高くて舌っ足らずな言葉で、思わず手を見ればまったく見慣れない小さなお手て。

 

 しかも寝ていたのは豪華がベッド、見回せば身覚えないのない広い部屋。布団をどかしてみれば着ているのは薄ピンクのネグリジェ。

 

 あれ?1LDKのそこそこのアパートで、実家から持ってきた布団に、セールで買ったパジャマで寝ていた筈……あれ?

 

 瞬間、私を強い頭痛が襲った。そうして次々と『私』の記憶が呼び覚まされていく。そう、そうなのね…私は、『私』で…。

 

 薄々そうかもしれないと思っていたけれど、やっぱりこれは……。

 

 

 

「転生……」

 

 

 

 私は『私』に、フランチェスカ・シールドに転生したんだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 フランチェスカ・シールド。乙女ゲーム「瞳の中の恋人」の登場人物。

 

 ゲームの舞台となる「王国」の貴族、シールド家の一人娘。蝶よ花よと育てられたフランチェスカは高飛車に育つ。

 

 「学園」にて主人公を事ある毎に虐めて、やりすぎて断罪される…絵にかいたようなテンプレ悪役令嬢。

 

 そんな人に転生したら絶望の一つもしそうなものだけど…。

 

 

 

「私は知ってますわ、悪役令嬢に転生して、幸せを掴んだ方々を!」

 

 

 

 前世、日本ではそういうタイプのお話がテンプレとしていくつもあった。

 

 悪役に転生して、原作ブレイク!色んなキャラを救済してハッピーエンド!

 

 そんな中で悪役令嬢転生物は、個人的にはかなり人気があったと思う。大概元婚約者だったり主人公だったりを「ざまぁ」して輝かしい未来を手に入れるの!

 

 なら私も出来る筈よ!許嫁はこの国の第一王子、アレハンドロ・ソード。順当にいけば王妃だもの、間違いなく輝かしい未来が待ってる筈!

 

 勿論彼が余りにも愚かだったら話は違うかもしれないけれど…。でもその断罪イベントまでは…今のこの体の具体的な年齢はわからないけど、10年はあるわ。

 

 その10年で見極めればいいだけよ!それに幸い今の『私』フランチェスカはまだ高飛車にはなっていないようだし。

 

 ここから、原作ブレイク目指して頑張れば、きっとなんとかなる!

 

 そうと決まれば!

 

 

 

「ふぁ……眠りますわ……幼い身では睡眠、大事ですわぁ…」

 

 

 

 いろいろ考えるのは明日からね。眠いし、それにまだ少し頭痛がするし……。

 

 さぁ、明日から頑張ろー。

 

 

 

「スピー……スピー……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 朝起きて、夢ではない事を確認した私は現在、専属メイドに姿見の前でお着換えさせて貰ってる。

 

 

 

 銀色の肩までの髪に、幼いながらも少し吊り上がった強気な目。瞳の色は透き通った翠色…うん、前世の私には似ても似つかないね。

 

 今年で五歳となる『私』の体はまだ女らしさとは程遠いけど、ゲームではかなりスタイル良かったし、お母様もとてもグラマー。将来有望だね。

 

 

 

 一夜経ち、頭痛が収まった今、私と『私』の意識はしっかり同調していると思う。『私』の記憶、知識はしっかりと受け継がれている。私の原作知識も……少し朧気だけど、要所は抑えている筈。

 

 私としても、シールド家の長女としての『私』としても、断罪イベントは避けたい……。折角第二の人生を謳歌出来るのに、わざわざ酷い目になんてあいたくないもの。

 

 そのエンディングではどうなったのか具体的な事は名言されてないけど…断罪イベントはパーティで行われ、沢山の人達が見てる中、第一王子アレハンドロに婚約破棄までされてしまった私が、シールド家に戻れるとは思えません…。

 

 

 

ブルリ

 

 

 

「お嬢様?如何致しましたか?」

 

 

 

「大丈夫です、支度を続けなさい」

 

 

 

 思わず恐怖に体が震えて、メイドさんに心配かけてしまった。大丈夫!気にしないでメイドさん。

 

 

 

 悪い事だけ考えても仕方ない。それに、私の知識からすればそもそも断罪イベントが起きるのも、主人公との登場人物達の好感度が関わってくるから、そこをコントロールさえ出来れば何も問題ない筈だわ。

 

 創作の世界とはいえ、私は神様のような視点で見てきたし、こんな展開はいくらでも見てきたもの。絶対大丈夫よね。

 

 

 

「お嬢様、支度が終わりました。食堂でお父様方がお待ちです」

 

 

 

 そのメイドの声とともに鏡を見れば、顔の横には見事なツインドリルが出来ていた。現代日本ではとてもお目にかかる事なんてない、見事なツインドリルに暫し言葉を失うも、メイドさんの顔が少しだけ不安に揺れたのに気付いた。

 

 ここは苦労を労うべきね。

 

 

 

「ご苦労様、相変わらず良い出来ですわ」

 

 

 

「勿体無いお言葉でございます」

 

 

 

「オーッホッホッホッ!ではお父様達のご挨拶に向かいますわ!ミラ、行きますわよ!」

 

 

 

 フランチェスカの特徴の一つがこの高笑い。つい出てしまったのだけれど、どうやらこの歳からずっとこの高笑いをしていたみたいね。

 

 私は専属メイドさんに声をかけ、食堂へと向かい歩きだしだのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それから私はフランチェスカとして過ごし続けた。流石の貴族、現状幼い身だという事を加味しても何不自由ない日々を過ごせていた。

 

 けれども、それに胡坐をかいてはいられない。私の破滅の可能性は残っているのだから。既に英才教育として専属メイドから様々な事を学びながら、私はこのゲームの世界観について、思いを馳せた。

 

 

 

 この世界、乙女ゲーム…タイトルが「瞳の中の恋人」というだけあって、「目」というのが世界観でそこそこ大事になってる。剣と魔法のファンタジーなんだけど、魔法を使うには触媒が必要になってくる。

 

 その中で最も効果が高いと言われているのが、生物の目。なんともグロい話だわ…。

 

 けれど効果は絶大らしい。現在この世界は平和なのだけれど、100年程前までは「魔王」という存在が世界を荒廃させつくしていたのだという。そこに立ち上がったのが我が国の貴族のご先祖様方。彼らは「魔王」を見事に打倒し、英雄となったそう。

 

 その方々には敬意を表し、愛用していた道具の名が与えられ、彼らはそのまま「王国」の始まり、その基盤となった。

 

 ……と、歴史の教科書にかいてある。

 

 その際、最終決戦でご先祖様達は自らの目を抉り、それを触媒に放った魔法で魔王を打ち倒した……らしい。なんとも凄まじい覚悟の決まった方々だわ。

 

 

 

「お嬢様、それでは確認です。我が国の基盤となった、始まりの7人の英雄、その愛用の道具はなんでしょうか?」

 

 

 

「はい!『ソード』『ハンマー』『ランス』『ボウ』『ナイフ』『ワンド』そして『シールド』ですわ!」

 

 

 

「正解でございます」

 

 

 

「オーッホッホッ!私にかかればなんて事ありませんわぁ!」

 

 

 

 話を戻しますと、触媒は目が最も効果が高いのは確かなのだけれど、そんなのいちいち使ってはいられないのよ。希少なうえにグロイし。

 

 だから基本的に家畜や、害獣である魔獣の角や爪、牙などを使うのだけれど、それらは武具にも活用出来る。なので、小さな魔法ならば自分の髪や爪等を使う事もあるそう。エコだわね。

 

 

 

 さて、それで私の今後についての話だけれど、今丁度7人の英雄の話があったけど、まぁ、ありがちな話で、その七家の子供が今皆、私と同年代なのよね。本来貴族の子供達の育て方はその家によって違っていて、家の中だけで教育を終える事もあるのだけれど、わざわざ七家に同年代の子供がいるのだから……と14歳から20歳までの6年間を「学園」で過ごさせよう、と生まれた時に決めていたらしいわ。

 

 そこに平民である主人公が編入して私、フランチェスカ・シールドと初めて出会う……というのがゲームの冒頭ね。そして、そこから主人公は七家の子供達と交流し、やがて運命の人をみつける訳ね。

 

 まぁ私、シールド家とハンマー家の子は女子だから、実質五人の誰かと結ばれる事になるわ。その中でソード家の子と結ばれるルートに入ると、私には断罪イベントが起こる……まぁ、フランチェスカが主人公に嫌がらせをするからだけれど。

 

 つまり!そもそもソード家ルートに入らなければ大丈夫と言う訳!前例の皆様方と比べれば簡単すぎてあくびがでます!

 

 

 

「お嬢様、私の前で欠伸をするのは構いませんが、淑女としては褒められたものではありません。お気をつけくださいませ」

 

 

 

「はひっ……き、気を付けますわぁ……」

 

 

 

 ああ、メイドさんのジト目が痛いですわ……。

 

 

 

 と、兎に角、ソード家の子か主人公と結ばれなければ良いのだから、答えは簡単!私にぞっこんにしてあげればいいのよ!

 

 んふふ、前世でいくつもの乙女ゲーをやりこんだ私にかかれば、いたいけな少年一人メロメロにするなんて容易い事。

 

 後は……そうね、他の七家の子達との交流をするべきかしら……?もし何かあった時に助けて貰えるかもしれないし。

 

 まあ、ソード家の子とは許嫁なんだもの、いつかは顔合わせする時がくるし、その他の子ともいずれは会えるでしょ。

 

 今は勉強頑張りましょう!子供の学ぶ事だけれど、私の知識とは違う所もあるし、毎日楽しいわ!

 

 

 

「……はい、では次は数学ですね」

 

 

 

「うっ……数学は苦手ですわ……」

 

 

 

 前言撤回ですわ……。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 私はそれから様々な教育を受ける事となった。一般教養から始まり、貴族のマナーやら魔法の基礎やら。ご先祖様がご先祖様だから体力作りなんかもあって、毎日充実してた。

 

 お父様もお母様も目付きはキツイけどとても優しくて、毎日頭を撫でて褒めてくださるのよ。こんなに甘やかされちゃっていいのかしら……?原作の『私』が高飛車になってしまうのもわかるわ。

 

 転生したと気付いて早3年……時が経つのは早いわ……。

 

 さて、今日はなんだかお客様が来るという話だから、午前中は自由時間。どなたかはわからないけれど、お客様に綺麗なお花をプレゼントする事にしましょう。

 

 専属メイドさんを引き連れて、近くのお花畑でお花摘みします。本当に綺麗なお花ばかりだから、お客様も気に入ってくれる筈よ。

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

 せっせせっせとお花畑の景観が悪くならないように色とりどりのお花を摘んでいると、そんな声が私にかけられた。

 

 その声の方を見た私の体に、電流が走る。

 

 

 

 金糸の髪を短く整え、蒼く透き通った瞳を優しく細めた同年代男の子が、体を屈めて私の側で佇んでいた。

 

 産まれてこの方箱入りだった私には刺激の強すぎる容姿の良さに、胸が高鳴るのを感じつつも、私の思考回路はぐちゃぐちゃだった。

 

 けまれど、しっかりとした教育を受けていた私の体は有能で、しゃがみこんでいた体を即座に立たせ、スカートを摘まんでぺこりと頭を下げていた。

 

 

 

「ごきげんよう。私はシールド家の一人娘、フランチェスカ・シールドと申しますわ」

 

 

 

 私の挨拶に男の子は少し面食らったように目を開いてから、少し首を傾けて小さく笑みを浮かべる。

 

 

 

「ふふ、失礼しました、レディ。僕はアレハンドロ・ソード。王国の第一王子です。本日は貴女に会いに来ました。少しお話しませんか?」

 

 

 

 胸に手をあてながら頭を軽く下げた男の子……アレハンドロ様はそう言って私に手を差し出してきました。その態度、表情、声色、容姿、その全てが私の心を高鳴らせます。

 

 た、確かにゲームのアレハンドロ様と容姿の特徴は同じですが、こ、こんなに格好よいものなのでしょうか…!?突然の出会いに心の準備の出来ていなかった私は、動揺を悟られないよう取り繕う事に精一杯でしたわ。

 

 

 

「お初にお目にかかりますわ、アレハンドロ様。お誘いは嬉しいのですが、今私はお花積みしていましたの。少し汚れてしまっている身で、貴方様のお相手は出来ませんわ」

 

 

 

「構いませんよ、その程度。貴女が宜しければですが。それと、僕の事はアレンとお呼び下さい、フランチェスカ嬢」

 

 

 

 すっ、と汚れた手をとられ、手の甲にキスをするジェスチャーを取られます。ああ、ひとつひとつの動作が洗練されてて、いちいちドキドキしてしまいますわ……。

 

 

 

 「そうですか?それでは、お相手させていただきますわ。それと、私の事はフランとお呼び下さい、アレン様。お近づきの印に……此方のお花をどうぞ?貴方様の瞳の色と同じ色のお花ですわ」

 

 

 

 青い花をアレハンドロ様……アレン様にお渡しします。受け取ったアレン様は少しまじまじとお花を見た後、年相応の無邪気な笑みを浮かべてくださいました。

 

 

 

「ありがとう、フラン嬢。大事にするよ」

 

 

 

 アレン様の笑顔に、私はすっかりやられてしまいました。顔が熱いし、胸が高鳴ります。

 

 その後私達は他愛ない話をして過ごし、お互いに花冠を作って交換しあいました。綺麗だよ、と褒められた後私の鼓動は早鐘を打ち続けていました。

 

 

 

 私も『私』も、気付けばアレン様にベタ惚れしてしまいました。本当は私の魅力でアレン様を惚れさせるつもりでしたのに……どうしてこうなったのでしょうか?

 

 

 

「フラン嬢、今日はありがとう。君が僕の許嫁で嬉しいよ」

 

 

 

 別れ際、アレン様にそのように言われて微笑まれた時、私のタガが一つ外れたような気がしました。

 

 気付けば私はアレン様の頬にキスをしていました。

 

 

 

「アレン様、またの逢瀬を楽しみにしておりますわ」

 

 

 

 スカートを摘まみながらそう言って頭を軽く下げて……それが限界でした。

 

 アレン様への思いと恥ずかしさに、私はそのままアレン様から逃げるように離れていきました。頬が熱くて、胸が高鳴って、どうにかなってしまいそうでした……。

 

 幸いアレン様は笑ってお帰りになられたとの事で一安心でしたが、次に会う時が恥ずかしいですわ……!

 

 その日はベッドに潜り込み、眠くなるまでうんうん唸っていましたわ……。不意に見た専属メイドさんの瞳が非常に生暖かったですわ……。

 

 

 

 その後もアレン様との逢瀬は続きましたわ。会う度に素敵になっていくアレン様に、毎回心臓が破裂しそうでしたわー!

 

 私に触れる時はまるで壊れ物を扱うかのように優しく、道を歩く時は必ず馬車道側を歩いて下さって。こんな素敵なお方と許嫁でいれる事に、何度も何度もお父様に感謝の言葉を告げる程嬉しかったですわ。

 

 勿論!アレン様に相応しい淑女になる為に勉強も疎かには出来ませんわ!私は今まで以上に勉学に真面目に取り組む事を心に誓いました。

 

 それから、他の七家の子達とも交流を持つ事が出来ましたが……そのお話は別の機会に致しますわ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 アレン様と出会い、2年程が経ちました。少しずつ女性らしい丸みを帯び始めた私の体。最近抱き付くとアレン様が頬を染めるようになったのが、私を感じてくれているようで嬉しいですわ。

 

 そして明日はアレン様との逢瀬の日です。楽しみですわ!

 

 前日には素早く就寝する事を知っている専属メイドさんに身支度をして貰い、早々にベッドに潜り込みます。メイドさんが微笑ましいものを見るような目で見てきます。

 

 

 

「おやすみなさいませ」

 

 

 

「おやすみなさい、明日の朝の身支度も、お願いしますわ」

 

 

 

「承りました。良い夢を」

 

 

 

 パタン、と閉じられる扉を見届け、私は目を瞑ります。目覚めたらアレン様との時間ですわ。

 

 明日は何を致しましょうか?湖に行くのもいいですわね、アレン様のお顔をずっと見ていられますわ!まぁ何もなくてもアレン様のお顔はずっと見ていますけれどね。歳を重ねる毎に精強さを増すアレン様のお顔は、最高ですわ……。

 

 性格も優しくて、真摯で、私を尊重までしてくれるんですのよ?完璧過ぎる事が欠点ですわね……うふふ。

 

 

 

「ふぁぁ……」

 

 

 

 色々考えてたら眠気が強くなってきましたわ……。

 

 逆らわずに、寝てしまいましょう……。

 

 

 

「すー……すー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛っ……!な、に……!?」

 

 

 

 右目に走る激痛に、私は目を覚ました。

 

 けれど体は動かず、右側の視界がない。

 

 左目で見えた景色は……最後の景色は、銀色の何かが左目に迫る事と、それを見下ろす深紅の眼光だった。

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

 

 ぐりん、と景色が回ったと思えば、左目に走る激痛。

 

 

 

ブチブチブチ

 

 

 

 頭の中で何かが切れるような音が響いて、私の視界は、何も写さなくなった。

 

 

 

「あぁあああああ……!!?」

 

 

 

 何が起きたのか、薄々わかってはいた、けれど認めたくなかった私は叫んだ。

 

 

 

「痛い!痛い痛い痛い!!なに!?なんなんですの!?」

 

 

 

 痛いと叫んで転げ回りたいのに、体はピクリとも動かない。

 

 私に股がる何者かの存在だけは感じてしまって、それがとても、とても怖かった。

 

 

 

「怖い、怖いです!助けて!助けてください!!お父様!お母様!ミラ!アレン様ぁ!!!」

 

 

 

 やがて、激痛の走る空洞と化した両目に、何か液体のような物が垂らされる。嫌な予感だとかそんなものを感じる間もなく、私を更なる激痛が襲った。

 

 

 

ジュゥウウウウ!

 

 

 

「ギャァアアアアアアアアアアァアア!!!」

 

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 生きたまま、私の中が溶かされている、恐ろしい感覚に、気を失いそうだった。

 

 けれど、その激痛がそれも許してくれない。ジュウジュウと目の奥を焼き続けるそれに、私は叫び続ける事しか出来なかった。

 

 

 

ドガン!

 

 

 

「フラン!どうしたの!?」

 

 

 

「何者だ!?フランに何をしておる!!」

 

 

 

「あぁあああああ!!!」

 

 

 

 お父様とお母様の声がしたけれど、私は痛みで反応する事も出来ない。ただただ叫ぶ事しか出来なかった。

 

 その時私の上にいた者の存在感が消えた。

 

 

 

ガシャーン!

 

 

 

「っ……!逃がすな!絶対に逃がすな!追えー!!!」

 

 

 

 次の瞬間には部屋の窓からガラスが割れるような音がして、お父様の怒号が響く。そして、いくつもの足音が部屋から遠ざかっていった。

 

 そこでようやく私の体は動くようになった。私を手で目をおさえ、ベッドから転がり落ちた。

 

 

 

「フラン!大丈夫!?」

 

 

 

「あぁ……痛い……痛い……!」

 

 

 

 すぐ側にお母様を、体に触れるお母様の暖かさを感じ、少しだけ痛みが和らいだような気がする。それでも激痛に変わりはなく、私は痛みから逃げたくて、頭を振り続けていた。

 

 

 

「大丈夫か!?何をされたんだ!」

 

 

 

「フラン!しっかりして!」

 

 

 

「め、めが、めがぁあ……!痛いよぉ、痛いぃ!」

 

 

 

 私は……勘違いしてたのかもしれない。

 

 原作知識さえあれば、ゲーム世界の転生なんて楽勝だって。

 

 

 

「目だと、まさか!フラン、手をどけなさい!」

 

 

 

「フラン、お願い、貴女の可愛い目を見せて頂戴!」

 

 

 

 勉強も楽しくて、お父様もお母様も優しくて。

 

 許嫁は可愛くて格好よくて、完璧な人で。

 

 

 

「そ、そんな……フラン……」

 

 

 

「っ……!おのれぇっ!誰だぁ!!!誰が私の娘に手を出したぁ!!!必ず下手人を捕らえよ!八つ裂きにしてくれる!!!」

 

 

 

 ああ、ああ、なんでだろう、こんな事、ゲームにはなかったのに。

 

 ……ああ、そっか、そうだったんだ。簡単な事だった。

 

 私がいる時点でゲームじゃないものね、現実なんだもの……何が起こるかなんて、わからない。

 

 そんな事も忘れて気楽に考えてた報いなの……?

 

 寝る前は、あんなに幸せだったのに、こんなの、ひどいよ……。

 

 

 

「痛い、痛い……何も、何も見えない……真っ暗なの、明かりは……?怖い、怖いよぉ……」

 

 

 

「フランっ……ごめんなさい…ごめんなさい……!」

 

 

 

 私はその日、光を失った。

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