転生悪役令嬢フランチェスカの受難   作:如月SQ

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奮闘!盲目令嬢フランチェスカ

 僕はその日、許嫁であるフランとの逢瀬に行く予定だった。しかし、伝わってきたその情報に、僕は血相を変える事となる。

 

 前日にフランの寝室に何者かが侵入し……フランの両目を抉り、更には何らかの薬品をフランの顔にかけて逃げ去って行ったのだという。その薬品は酸のようなものだったらしく、フランの眼窩と顔を焼き、酷い苦痛をフランに与えたのだという。

 

 その話を聞いた僕は怒った、産まれてこの方感じた事のない程の怒りを覚えた。何故フランがこのような目に合わなければならないのか……。あの美しい、見つめるだけで吸い込まれそうなあの翠色の瞳をもう見る事は出来ないのか……。

 伝えにきてくれた彼女のメイドが深く頭を下げ続けているのを見て、僕はその顔を上げるように言った。

 

「……しかし、私はお嬢様を守れませんでした……」

 

「シールド家の警備は万全でした。君一人のせいではないでしょう。そんな憔悴した様子では、彼女のメイド失格ですよ?貴女は戻り、一度休みなさい。その様子では一睡もしていないでしょう?」

 

「はい……お言葉に、甘えさせていただきます」

 

 フランの専属メイドのミラ、彼女とはフランと会う度に顔を合わせていたが、彼女が不調を露にする事なんて一度もなかった。そんな彼女が目の下に隈を作り、見るからに憔悴していた。相当追い詰められているのだろう。

 少しだけふらつきながらも、一度頭を下げてから去っていく彼女の後ろ姿は、常とは違い煤けて見えた。

 

 ……彼女が今後どうなるかはわからない、彼女が責任を取らせられる可能性もない訳ではない。けれど、フランは彼女をとても気に入っていた。二人にとって、最も良い選択となって欲しいと思う。

 

「フランチェスカ嬢に会いに行くのか?」

 

「父様……勿論です。彼女は僕の許嫁ですから」

 

「……わかった、下手人が捕まったという情報はない。気をつけていけ。おい、ランスとハンマーを呼べ。アレンの護衛につける」

 

 僕は父様のその好意に甘えさせて貰い、護衛をつけてフランに会いに行く事にする。彼女が今どうなっているのか……心配で仕方ない。

 

「フラン……」

 

 馬車に揺られながら、小さく呟いた。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「フラン!」

 

「アレン、様……?」

 

 ベッドの上で座る彼女は此方に顔を向けた。その顔には包帯が幾重にも巻かれ、痛々しい。

 

「フラン、君が襲われたと聞いて……居ても立ってもいられなかったんだ」

 

 僕はベッドの横でフランの手に手を重ねる。途端にフランはビクリと体を震わせた。

 今までにも何度も彼女とは手を繋いでいたが、こんな反応は初めてだった。

 

「ご、ごめんなさい、何も、見えなくて……」

 

「っ……フラン、やはり」

 

「はい……私の目は、どちらも抉られ、奪われてしまいました……それに、薬によって焼かれた私の目の周りはぐちゃぐちゃで、例え目を取り戻しても……治る事はないだろう、と」

 

 僕は思わず下唇を噛み締めた。下手人の非道に、はらわたが煮えくり返るようだ。

 まだ幼いフランの目を奪う事、確かに最低の暴挙だ、許される事ではない。だが、更にその顔を薬で焼くだと?人のする事ではない。

 

「痛っ……」

 

「っ!すまない、フラン、大丈夫かい?」

 

 その憤りが出てしまったのだろう、フランの手を強く握ってしまっていた。すぐに謝りフランも気にしないでと首を振るが、今の彼女に苦痛を与えてしまうなんて、と自己嫌悪が募ってしまう。

 そこで、フランがその手を逆に握り返してきた。フランの顔を見れば、何処か悲しげに顔を此方のほうに向けていた。

 

「……アレン様、私と、婚約を解消していただけませんか……?」

 

 そこでフランの口から放たれた突然の言葉に、僕は暫く頭が真っ白になってしまい、すぐに返す事が出来なかった。

 そうしている間にフランは言葉を続ける。

 

「私は、もう物を見る事が出来ません……これから私は、生きるだけで周りに迷惑をかけてしまいます。そんな人間は、アレン様の隣にいるのに相応しく、ありません……どうか、別のもっと素敵な女性と、幸せに……」

 

「嫌だ」

 

 キッパリと言い切り、僕は言葉を続ける。

 

「僕の婚約者は君だ。僕が生きていく中で、隣にいるのが君以外は考えられない」

 

「っ……ですが私は!」

 

「迷惑がなんだ!いくらでもかけてくれ!僕は君が好きだ、初めて会った時から君に惹かれ続けていたんだ!その思いは今も変わらない、君の目がなくなったからなんだ!可能ならばすぐにでもこの目を君にあげてもいいくらいだ!」

 

 僕の手を痛いくらい握ってくる手を、優しく両手で包み込む。

 

「だから、そんな悲しい事を言わないでくれ……目がなくなっても君は変わらない。僕と、ずっと共に歩んでくれ」

 

 僕はフランの手を握ったまま、じっと見つめる。その様子はフランはわからないだろう。でも、僕は本気だ。

 

「初めて会った時、花畑で笑みを浮かべていた君を見て一目惚れした。思ったよりも鋭い目付きとしっかりとした態度に面食らったけれど、君と過ごせば過ごす程、君への思いは増すばかりだ。君がいない未来なんて考えられないんだ。だから……」

 

「……いいん……ですか……?」

 

 小さく呟かれたフランの言葉に、僕は口を閉じる。

 

「私……私!アレン様を好きでいていいんですか……?」

 

 肩を震わせてそんな事を言うフランを、僕は思わず抱き締めた。ひゅ、息をのみ、フランが体を硬直させたのを感じる。

 僕はそんなフランの頭に腕を回し、肩口に押し付けた。

 

「当たり前だよ……君がなんて言ったって離さない」

 

 ぎゅう、とその華奢な体を抱き締める。

 そして、なされるがままのフランの体が震え、その手が僕の背中にそっと回された。

 僕に抱き付くようにフランの体は震え続け、やがて堰をきったかのように泣き出した。

 

「う、うぅううう……あぁあああ……!アレン様、アレン様ぁ!」

 

 僕にしがみついてフランは泣いてくれる。その目から涙は、出ない。

 それでもその心の涙を拭うように、僕はフランの頭を優しく撫で続けた。

 痛みが消える事はないだろう、だからせめて、少しでも和らぐように……。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「アレン様……ありがとうございますわ……」

 

 泣き止んだフランは、多少スッキリした様子でそう言って口元に小さく笑みを浮かべた。口調もいつも通りの特徴的なものになったけれど、やはりまだその姿は弱々しい。

 僕に出来る事は現状ないとは言え、やはりむず痒いものがある。

 

「大丈夫ですわ、アレン様……私、頑張ります。この通り私の目はなくなりましたし、アレン様のお顔を二度と見れないのは……辛いですが。アレン様の……は、伴侶として!恥ずかしくない!そんな淑女になってみせますわ!」

 

「んんっ!」

 

 不意打ちだなぁ、顔を真っ赤にしちゃって、可愛いったらないよ。その思いは嬉しいけど、無理はしてほしくない……。

 でも、フランの覚悟にわざわざ水をさす必要もない、ね。

 僕はそんないじらしいフランの頬に、手を添える。

 

「ありがとう、フラン。君なら素敵な淑女になってくれると信じてるよ」

 

 既に僕にとっては素敵な淑女だけどね。

 

「僕に出来る事なら言ってくれ、なんでもするよ」

 

「え、今なんでもって……」

 

「うん、君の為なら、なんでも出来るよ」

 

 そう言うと、フランは少し恥ずかしそうに顔を俯かせる。手で顔を覆い、小さく唸り声をあげていた。

 

「大丈夫?傷が痛むのかい?」

 

「な、なんでもありませんわ!大丈夫ですの。それで……えっと……」

 

「うん、なんだい?」

 

「その、また、抱き締めていただけませんか……?もう少し、勇気を分けてくださいませ……弱い私で、ごめんなさい」

 

「いいのかい?僕にとってもご褒美だよこれは」

 

 僕はもう一度彼女を抱き締める。今度は彼女の頭を抱え込むように、僕の胸に抱き込む形で。

 

「あっ……ん……」

 

 僕の胸に顔を埋め、甘い声を漏らすフランに、愛しい気持ちと……何処かむず痒さを覚えながら、僕は彼女の頭を優しく撫でた。

 

「フラン、学園を卒業したら……式を挙げよう」

 

 フランはハッと顔をあげる。その顔には戸惑いと、少しの期待が感じられて、僕は笑みを浮かべた。

 

「約束だ、必ず君を幸せにするよ」

 

「はい……アレン様」

 

 フランはそう言って、本当に嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。

 僕はその笑顔に愛しさがおさえきれなくなってしまった。指をフランの顎に添え、親指で下唇に触れる。

 

「んっ……アレン様……?」

 

 ぷるぷるとした感触を感じながら、僕は口を開く。

 

「フラン……いいかい?」

 

 フランは僕が何が言いたいのかわかったのだろう、直ぐに耳まで顔を赤く染めた。

 

「あ、えと……はい、アレン様」

 

 そう言ってきゅっと口を閉じたフランのその唇に、そっと自身の唇を重ねた。

 唇の柔らかさと、時折フランの体が震えるのを感じて、僕はその身をより強く抱き締める。

 僕に身を任せてくれるその信頼に応えられるよう、僕も立派な人間となり、君を守り続け、必ず幸せにしよう。

 そう、心に誓い、僕はそっと目を閉じた。

 

 

 

その誓いは、果たされる事はなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 私は、お嬢様の専属メイドである私は、お嬢様の部屋の前で泣き崩れていた。

 

 私の名前はミラ、お嬢様様、フランチェスカ・シールド様専属メイドです。お嬢様の身の回りのお世話から勉学、護衛まで担当しております。

 平民の出でありますが、旦那様に見初められメイド長に教育を受け……自分で言うのもおかしいですが、愛想以外は完璧なメイドであると自負しております。

 旦那様の一人娘のお嬢様、フランチェスカ様付きのメイドとして今まで仕えていました。お嬢様はそれはそれは可憐で賢く、努力家で可愛くて、仕え甲斐のあるお方です。

 ……ですが、そんなお嬢様が、昨晩何者かに襲われ……その美しい瞳を奪われてしまいました。私はその時、次の日のお嬢様とアレハンドロ様の逢瀬の護衛を全うすべく、就寝していて……お嬢様が苦しんでいたのに、助けを求めていたのに、気付く事が出来ませんでした……。

 

 私はアレハンドロ様への伝令の後、仮眠だけとり旦那様へ辞表を提出するつもりでした。お嬢様があのような目にあった一因は私にあります。罪悪感で押し潰されそうで、私にここでメイドを続けていく気力は残っていなかったのです。

 お嬢様は譫言でアレハンドロ様に捨てられる、嫌われる事をとても恐れておられる様子でした。明らかにお互いに想い合っているお二人ですが……万に一つそのような事があれば、お嬢様は容易く壊れてしまうでしょう。想像に固くない事でした。

 

 仮眠を終えて最後にお嬢様にご挨拶を、と思っていた時、丁度お二人が話しているのが、お嬢様のお部屋から聞こえてきました。それに対して、私はつい聞き耳をたててしまいました。

 そして聞こえてきた会話に、私は溢れてきた涙を止める事が出来ませんでした。このような事が起きてもお互いに愛しあうお二人は、私には眩しすぎました。

 

 その話を聞いて、決意しました

 私が、責任を持ってお嬢様を導く、と。

 私のせいで失った視力、私がその代わりとなり、お助けし続ける、この一生をかけて償い続ける。当然の話でした。私は一時の自分の感情に負け、逃げてしまう所でした。

 そんな事は許されません。私が必ずお嬢様を、今度こそ守り続けます。

 

「……わかった。フランの事、引き続き君に一任する」

 

「ミラさん……フランの事、改めてお願いね……」

 

「はっ、この命に換えましても」

 

 旦那様は重々しく頷き、奥様は涙を浮かべながら私の手を握り任せて下さいました。

 恐れ多い事です…ですが、この期待に必ずや応えて見せましょう。

 お嬢様とアレハンドロ様の輝かしい未来の為に、この身を全て捧げましょう。どうか、お二人の未来に幸あれ……。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 念には念をいれた安静期間を終えました。

 

 その間に他の七家の方々がお嬢様のお見舞いにいらしてました。お嬢様の人望のなせる業ですね……。皆様痛ましそうに顔を歪めておられていました。

 特に仲の良いハンマー家のご息女は、普段の気の強さが鳴りを潜め、泣き腫らし、お嬢様に逆に慰められておいででした。

 

「どんなになっでも、あだしは、フランちゃんの友達だからねぇっ!絶対だがらぁっ!!」

 

「ふふふ、ありがとうございます……リリアさんが友達でいてくれるなんて、心強いですわ」

 

 お二人の友情も、とてもお美しいです……。

 

 さて、それでですね、安静期間を終えたお嬢様はまず、視界失った事によって起きる問題を改めて確認し始めました。そして、やはりと言いますか、相当な問題点がありました。

 まず、普通に歩くにしても前の様子がわかりません。手を前にすれば壁に当たらない程度は出来ますが、手のあるどころより下にある物には気付けず、テーブル、ベッドを始めとした背の低い家具に足をぶつけてしまう事が散見されました。

 勉学においても、学んだ事を書き留める事が出来ない為に頭を酷使してしまい、結果頭痛に悩まされておられました。更には言葉だけではわかり辛い事もあり、教える私の手腕が問われる事も多々あります。

 運動等も目が見えない事で平衡感覚が掴みづらいようで、よく転んでしまい、よく傷だらけになっていました。私はそれに根気強く付き合っていくだけです。

 

 しかし、その辺りの事は本当の問題ではありませんでした。お嬢様次第であり、お嬢様ならばそのあたりの事はいずれ乗り越えられると確信していたからです。

 一番の問題は……夜、お嬢様が事件の日の事を夢見てしまい、幻肢痛に苛まれる事でした。

 

「あぁっ!あぁああああああああ!!!」

 

「お嬢様、お嬢様!」

 

「あぁっ!あっ、はっ、はっ、はっ……!」

 

「お嬢様、落ち着き下さい。此方、お水です」

 

「はっ、はっ、はっ、あっ」

 

バシャ

 

 震える手でコップを受け取ろうとしたお嬢様の手は滑り、ベッドの上に水は溢れてしまいます。

 

「ごめ、ごめ、なさっ……うっ……おぇええ……」

 

 恐怖と罪悪感で限界を迎えてしまったお嬢様は、そのまま吐き戻してしまいます。私はその吐瀉物……いえ、胃液をすかさず手で受け止め、用意していた桶へと放ります。

 ふとした拍子に、お嬢様は良く吐くようになってしまいました。しかもその吐いた時の胃液の酸の匂い、それが目を焼いた薬を彷彿とさせてしまうようで、更にその心を苛んでしまうのです。

 そして夜には事件の日の事を夢に見てしまうそうです。痛みも鮮明に思いだしてしまい、毎夜こうして起きてしまうのです。

 今夜は、既に2回目……お嬢様の体が心配です。

 

「お嬢様、大丈夫です。お口をお拭きしますね」

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 お嬢様は体を震わせ、謝り続けます。その口からは胃液が垂れ、顔色はとても悪い……。そんなお嬢様へ、私は大丈夫以外になんと答えればいいのでしょうか……?

 憔悴しきったお嬢様へ、私は再度コップに水を入れて近付きます。

 

「お嬢様、お水です。私が抑えておきますから、ゆっくりとお口に含みください。そして一度吐き出してください」

 

 次はコップに注いだ水を渡す事なく、直接私が口にお運びします。もう片方の手ではいつ吐き出しても良いように、桶を持ちながら。

 

「んっ……ぐっ、ごほっ、ごほっげほっ!」

 

 お嬢様は水を口に含んだ途端、吐き出してしまいます。そのほとんどは桶に、一部が私の手や顔に付着しますが、気にする事はありません。

 新たな水を用意し、改めてお嬢様に与えます。

 

「大丈夫ですよ、さ、お嬢様、もう一度、お水です」

 

「あ、んっ……んっ、んっ……」

 

 こく、こく、とお嬢様の喉が鳴ります。そうなったら私は一度コップを傾けるのをやめ、お嬢様の様子を伺うのです。

 

「……お嬢様?」

 

「ふぅ……もう、大丈夫です。ありがとう、ございます。毎夜毎夜、ごめんなさい……」

 

 漸く落ち着いた様子のお嬢様は息をつくと、申し訳なさそうに顔を歪めます。しかし、そんな反応は私の望むものではありませんよ。

 

「私は貴女様のメイドです、この程度、なんて事ありません」

 

 お嬢様の私のその言葉に笑みを浮かべて小さく頷きます。

 

「くす……貴女のようなメイドがいて、私は幸せ者ですわ……」

 

「……勿体無いお言葉です。此方新しいお水です、もう少しお飲み下さい」

 

 お嬢様に新しく水の入ったコップをお渡しします。両手で可愛らしくクピクピと飲んでいる間に、少し濡れ、汚れてしまったお布団を手早く交換致します。

 

 コップの水は半分になった所でお嬢様の手は止まりました。そのコップを含めた物を手早く片付けます。

 そして、上体を起こしていたお嬢様をベッドに静かに寝かせ、その体に布団をおかけします。

 

「それではお嬢様、おやすみなさいませ」

 

「はい……あの……」

 

 ……お嬢様がこのタイミングで良い淀むという事は、あれ、ですね。

 私はお嬢様の手を取りました。時折、お嬢様はこうして人の温もりを求めます。その度に私はその手を握り、寝付くまでお側にいるのです。

 

「……ごめんなさい、ミラ……ありがとう……」

 

 お嬢様は私の手を握り、小さく笑みを浮かべます。

 

「大丈夫です、お嬢様。私はここにいますよ…」

 

 その私の言葉に安心して下さったのか、少し経てばお嬢様からは寝息が聞こえてきました。今夜、既に二回目ですから、体は睡眠を求めているのでしょうね。

 ですが、ここで手を抜けばまた起きてしまうかもしれません。今日は朝までこうしていましょう。

 

 ……何故このお方がこうまで苦しまなければならないのでしょうか。私は運命とやらを呪わずにはいられません。

 お嬢様はただ、好きな男の子と幸せになりたかっただけの少女でしかないと言うのに、その未来は真っ暗に閉ざされてしまいました。

 アレハンドロ様と結ばれるだけではダメなのです。お嬢様は、アレハンドロ様をその目で見て、いずれ生まれるお二人の子供をその目で見て、愛でる。そういう未来を迎えなければいけなかったのです。

 

 ……下手人は未だに捕まっていません、裏ルートに翠色の瞳が流れてきたという情報もありません。目を抉られた後垂らされた薬のせいで、お嬢様の目は治る見込みはないですし、目の周りには酷い火傷の跡が残ってしまっています。

 それだけの目に合わされても、めげずに努力を続けるお嬢様に、安らかな睡眠の時間すら与えてくれない、最低最悪です。

 せめて……私程度の手を握るだけで少しでも眠れるのであれば、私の手なんて、私が眠れない事なんて些細な事です。

 私の手を握るお嬢様の手に力が籠り、その体が少し身震いし始めました。

 私は、もう片方の手でお嬢様のお胸を布団ごしに優しく叩き始める事にします。そうして安眠を促しながら、その夜は更けていきました。

 

 

 

 あと数年でお嬢様は学園に入学なされます。

 その時に私がどういう扱いになるかはわかりませんが、それまでに私がお教え出来る事、お手伝い出来る事はやり切らねばなりません。

 それが、お嬢様の為になると、私は信じています。

 お嬢様の未来に、光あれ。

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