転生悪役令嬢フランチェスカの受難   作:如月SQ

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一度消してしまって申し訳ありません。
主に後半を修正し、加筆致しました。


転落!追放令嬢フランチェスカ

「光陰矢の如し、ですわ……」

 

 ご機嫌よう、転生悪役令嬢フランチェスカですわ。現在私は馬車に揺られております。

 理由は単純、「学園」に入学するからですわ。

 お父様とお母様には、何かあれば直ぐに帰ってきて良いとは言われていますが、行くからには頑張りますわ。

 

 ……私が光を失ってから早数年……大変でしたわ。

 でも、目が見えないからこそ、私は人一倍頑張ったつもりですわ。何度も知恵熱を出しましたし、目が見えないのはとても、とても辛かったですが……アレン様の為なら、頑張れました。

 私の今の生きる意味はそれだけですわ。もしアレン様に見放されてしまったならば、私は既に自ら命を絶っていたかもしれません。

 何故なら、前世の私の知識がなんの宛にもならない事が私自らの身で証明されてしまったからですわ。フランチェスカが盲目だった、なんて事は絶対にありませんでしたから。

 つまり、ゲームにない事も容易く起こる、この世界がちゃんと現実なんだと思い知ったのですわ。……遅い認識だったのかもしれませんが、未だに痛む気がする傷口がしっかりと教えてくださいました。

 だから、私は後は精一杯生きるだけなのですわ!アレン様の為に!

 

 ……懸念は、一つだけあります。この世界の主人公の事ですわ。

 主人公は私達と同学年に同時期に入学致します。学園にはクラス替え等はなく、六年間主人公と私は同じクラスで過ごすのです。そして、アレハンドロルートに入った主人公は私を、フランチェスカを六年生の卒業パーティで断罪し、追放するのですわ。

 それが恐ろしい。アレン様が別の人と結ばれる事も、私がこの世界に放り出される事も……。私は本当は、そのルートに入る事さえ避ければどうにかなると思っていました。

 けれど、そうではないのですわ。私がこうしてゲームにはなかった目に合った時点で、そのロジカルは崩壊してしまっているのです。

 具体的にどうするかは……難しい所です。色々と保険はありますが、絶対ではありません。……流石に手荒な真似は嫌ですし。

 

 ……本当は、学園にも行きたくありませんでしたわ。誰が好き好んで自分を破滅に導くお方の近くに行きたいと思いますか?

 けれど、自分のいないところでアレン様が奪われる事も考えたくありませんし、「学園」で学ぶ事はアレン様の隣にいる上で必要な事でもありますわ。人と関わらないで閉じ籠るにしても、限界がありますもの。

 

「……儘ならないですわね」

 

 私はため息を吐きながら俯きました。

 私の目には見えませんが、現在私は既に「学園」の制服を着ています。ゲームでは白と黒しか使っていないにも関わらず、可愛らしいデザインのその制服に目を奪われた物ですが……今の私には特に関係ありません。アレン様の目の保養となるか否か程度でしょうか。

 ちなみに、私の目元には酷い火傷の跡があるので、現在は目元だけを隠す仮面を着用しております。髪型は昔からツインドリルのままですわ。メイドさんがお気に入りですから。

 

 あ、そうそう、「学園」にはメイドさんのミラも私のお世話係として共に行く事になりましたの。本来は自立させる為に貴族でも従者は連れて行けないのですが、特例として許されましたわ。

 勿論、安心しました。この状態で一人で生活するのは……流石に厳しかったですわ。

 

 さて、薔薇色の学園生活、等といいますが、私の学園生活はどうなりますでしょうか?今から……怖いですわね。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 私は目が見えませんから、身の回りの世話はミラに全て任せていますわ。ただし、それは寮の中での話。その他の学園生活は、私は一人でなんとかしなければいけません。

 

 そんな中で……ゲーム知識で忘れていた事がありました。私と親しいアレン様を含めた七家の子達は……クラスが違うのです。

 クラス分けと言うものをそもそも失念していた私は、「リリアちゃんに少し手伝って貰おう」と気楽に考えていたのですが……それが大間違いでしたわ。ゲームにおいても主人公とフランチェスカは同じクラスでしたが、他に攻略対象で同じクラスの子はいなかったのです。

 

「困りましたわ……」

 

 そんな訳で友達のいないにも私は、人がいなくなった教室で、杖をついて途方に暮れていました。

 

 この学園、卒業式はあれど、入学式という物はありませんわ。入学して初日の今日は、それぞれのクラスの担当の先生にどうするかが一任されているのです。先生からのお話とそれぞれの自己紹介が終われば、後は自由なのです。

 そして、我がクラスの担任は「自由に学園を見て回ろう」と宣言し教室をいち早く出ていかれました。それに続くようにノリの良い方々が次々と席を立ち、教室を飛び出して行ったようです。

 更に元々仲の良い関係らしい方々が自然といくつかのグループを作り、続々と教室を飛び出していってしまったのですわ。乗り遅れてしまった私は慌てて杖を持ち立ち上がる頃には、教室には誰の気配も残っておりませんでした。

 

「はぁ……」

 

 どうしたものでしょうか……まぁ、こうなっては仕方ありません、寮へ帰るしかないでしょう。

 

「あの」

 

「はいっ!?」

 

 び、びっくりしました!人はもういないと思っていました!

 驚きのあまり杖をぶつけてしまい、私の手から離れていってしまいました。

 

カランカラン

 

「あ、ごめんなさい!取りますね」

 

 私に話し掛けた子はどうやら女の子のようです。

 親切にも私が落としてしまった杖を拾ってくれて……良い子ですわね。

 

「はい!どうぞ!」

 

ぎゅっ

 

 ……手を取り、杖を渡すまではわかりますが、そこから何故杖毎私の手を握るのでしょうか。いえ、取って貰っただけでありがたいので、何も言いませんが……。

 ん、それにしても暖かいお手てですわね。

 

「ありがとうございますわ。えぇと……」

 

「フランチェスカ・シールドさんですよね!私はサラって言います!」

 

「サラさん、ですわね。杖をお取り頂き感謝致しますわ」

 

「いえいえー」

 

 見えはしませんが、ニコニコしているのがわかる、なんとも陽気な声色ですわ。

 

「それで、サラさんは何故まだ教室にいたんですの?皆さんはもう行ってしまいましたよ?」

 

「だって、先生フランチェスカさんは目が見えないから、手助けするように言ってたじゃないですか!」

 

「そう言っていた本人も既におりませんけれどね……私等放って貴女も散策なさいな。これからの生活において必要に……」

 

「それに、フランチェスカさんとお話したいな、って思って!だから、一緒に行きませんか?」

 

 ああ、目は見えないけれどぺかーと輝く笑顔を浮かべているような気がしますわ。なんとも明るく元気な子ですわね……。

 そして一緒に……ですか。まぁ、私も学園の地理は頭に入ってるとはいえ、自分の足で確かめるのも大事ですからね……付き合いますか。

 

「ふふふ、許可しましょう。このフランチェスカ・シールドが、学園内をご案内して差し上げますわ!オーッホッホッホッ!」

 

 ……正直かなり寂しかったので、テンションがあがって高笑いしてしまいましたわ。サラさんの反応は……。

 

「ありがとうございます!じゃあ、早速行きましょう、フランチェスカさん!」

 

「わっ!淑女の手を乱暴に引くものではありませんわよ!……ちょっと、聞いていて!?少し落ち着き下さいませ!?」

 

 少し元気が有りすぎるのも問題がありますわね!私が盲目なのを忘れているような気がしますわ!

 けど、なんでしょうか、逆に新鮮、ですわね。

 私は自分の頬が吊り上げっている事に気付きます。光を失ってからこのような対応をされた事がなかったからでしょうか、なんだか、とても嬉しく思って

 

ッガン!

 

「っ~~~!」

 

「あっ!ごめんなさいフランチェスカさん!そこなんか置物あった!えへへ!」

 

「え、えへへじゃありませんわぁー!痛ぁいですわ!サラさん!落ち着いてと申したでしょう!?」

 

「えへへ、はしゃぎ過ぎちゃいました!ごめんなさい!」

 

 前言撤回ですわぁ!

 あ、こら!誤魔化そうと私を抱き締めてはいけませんわ!はしたないですわー!

 

 

 

 その後、私とサラさんは、落ち着いて!学園を見て回りましたわ。まぁ、私は地理確認だけでしたけれど。

 途中、学園の地理は全て覚えていると教えて差し上げたら、とても驚いておりました。彼女からしたら広すぎてとても覚えきれない地理を把握してる私は、超人のように思えたのでしょうね。

 なんと言いますか、純朴ですわね。まだ会って一日も経っていない私に抱き着いてきましたし。

 ここまで明るく純粋な子がいるものなんですわね……まるで物語の主人公のような……。

 

 瞬間、頭をガツンと殴られたような衝撃が私の中を駆け巡りました。

 

「…………主人公、ですわ……」

 

 思い出しました、「瞳の中の恋人」のデフォルト主人公ネーム……『サラ』でしたわ。

 

「……そういえば、学園探索なんていうイベントがあったような気がしますわ……」

 

 うう……ゲーム知識なんて、と思っていたから逆に失念していましたわ……。

 ゲームでは移動のチュートリアルみたいな形で、フランチェスカと共に学園を見て回っていたのですわ……。

 

 しかし、あの純朴そうな彼女が、ルートによってはアレン様を私から寝取るというのですから、油断なりませんわね。今日共に過ごした身としては、とても想像つきませんけれども。

 ……まぁ良いですわ。主人公がわかったのです、後は彼女と今後どう付き合っていくかですわ。後々考えていきましょう。

 今は就寝時間です、夜更かしは乙女の敵ですわー。

 

「すー……すー……」

 

 

 

 

 

 

「フランチェスカさーん!」

 

「わわ!抱き着いてはいけないと、昨日申し上げばかりで……んっ……私の胸に顔を埋めないで下さいませ、くすぐったいですわ……」

 

「っぷは、フランチェスカさんのおっぱいとっても大きいですね!私まだぺったんこだから憧れるなぁ……私も大きくなるかなぁ」

 

「あああ!淑女がそのような言葉をこのような場所で言ってはいけませんわ!あんっ……!勝手に揉まないで下さいまし!」

 

 純朴にも程がありますわ!これで本当に厭らしい感じがまったくないのが信じられません!教室の男子の方々の視線の方が厭らしさを感じるくらいですわ!

 

「男子ー!あんまりフランチェスカ様を厭らしい目で見てるとアレハンドロ様に言いつけるよ!」

 

「み、見てねえし!」

 

 女子の方々が動いて下さってるようです、有難いですわ。

 その隙にサラさんを引き剥がします!えいや!

 

「ああん」

 

 残念そうな声を漏らさない!まったく、朝から災難ですわ……。

 

「サラ、さん?フランチェスカ様のお胸の感触どうでした……?」

 

 女子の方?ひそひそ声でもその距離だと私にも聞こえますわよ?

 

「すっごいふわふわもちもちで、最高でした……!」

 

「え、そうなんだ、私も後で触らせて貰えないかな……」

 

「貴女方!何を言ってますの!もう!」

 

 やっぱり主人公は危険ですわー!

 

 

 

 ただ……このやり取りの後、クラスメイトの方々との距離が縮んだ気はしますわ……。きっかけが私のお胸と言うのは複雑ですが……。

 そこは、感謝しております……サラさん。

 

 

 

 その日から、私のサラさんに振り回される学園生活が始まりました。

 ……私のお胸ですか……?クラスメイトの方には一通り揉まれましたわ……。もう、このお胸はアレン様のものですのに……。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「だからフランちゃんの胸まだ育ってるんだ」

 

「入学当初くらいで良かったですのに……肩が重くて、毎日ミラにマッサージして貰ってますのよ?」

 

「いいんじゃない?アレン様も大きいほうが好きでしょ」

 

「いえ、そうとは限りませんわよ?」

 

「いやいや、アレン様結構フランちゃんの胸見てるよ?」

 

「そ、そうですか……?そ、それなら構いませんわ!」

 

「そこで照れるんだから本当にゾッコンだねぇ」

 

 休みの日、私は七家で最も仲の良い女友達であるリリアちゃん……リリアンナ・ハンマーとお茶をしていました。

 気付けば私達も折り返しの3年生、皆16歳、人によっては17歳ですわ。前世ではそろそろえっちいのが解禁される年齢ですわね。

 

「はーあ、あたしも恋したいなぁ……」

 

「リリアちゃんなら引く手あまたでしょう?七家や他の貴族の誰かではいけませんの?」

 

「えー?ないない、あいつら皆ガキだもん。レオナルドとフィリップはマシだけど、あいつらヒョロいし。あたしに腕っぷし負けてるようなのを婿にする気はないね!」

 

 レオナルド様はボウ家の、フィリップ様はワンド家のご子息ですわ。お二人ともどちらかといえば頭脳労働派ですから、腕っぷしは確かにそうでもないらしいですわ。

 ただ、七家の子の中で最も近接戦闘の強いリリアちゃんと比べられるのは可哀想だと私は思いますわ。口には出しませんが。

 

「にしてもサラって子はすごいね、あたし達貴族にも物怖じしないし。まだ純朴だし。ああいう子は貴重だね」

 

「そうですわね……いい友達を持ちました。学園生活、彼女のせいで苦労する事も多いですが……彼女のお蔭で満喫出来ていますわ」

 

「そりゃ何よりだよ。クラス違ってた時は心配してたけど、改めて安心したよ」

 

 何処か既視感のあるイベントをこなしながら、それでも大きな問題はなく、私は学園生活を満喫出来ていました。

 それはやはり、サラさんの影響が大きかったように思います。

 

 

 

 

 

 

 私はリリアちゃんとのお茶会を終えて、日向ぼっこでもしようと、中庭の噴水広場へと向かいます。今日のような天気の良い日は程良く日が照って、気持ち良いのです。

 そして、もう少しで着く頃、話し声が聞こえて私は反射的に歩みを止めました。

 

「サラ嬢、君と話してると退屈しないな」

 

「はい!私もアレハンドロ様とお話してると楽しいです!」

 

 アレン様と、サラさんが、二人きりで、話して、いました。

 な、んで……?

 

「サラ嬢、僕の事はアレンと呼んでくれていい」

 

「光栄ですアレン様!」

 

 膝に力が、入りません。壁に背をつけ、ずるずると床に崩れ落ちて、しまいます。

 なんで…?なんでなんであの二人が?

 そんな気配、今まで、全然……。それに、呼び名まで……。

 

「サラ嬢、いや、サラ。これからもこうやって会ってくれるかな?君との時間は何物にも代えがたい」

 

「はい!アレン様との時間、私も好きです!またお話させてください!」

 

 なんで?何が起きてるのですか?アレン様、アレン様!

 ゲーム、そうゲーム知識ちしき……噴水、そう、噴水でアレン様関係で何か、あったような……。

 

「ああ、名残惜しいが今日はこのくらいにしておこう。また会おう、サラ」

 

「わかりました、アレン様!次の時をお待ちしております!」

 

 あっ……アレハンドロ、ルートに入った時、主人公とフランチェスカが決定的に決裂する、噴水での逢瀬イベント……。でも!でも、そのイベントが起きるにはアレン様の好感度をちゃんと高めて、アレン様様が私に愛想つかしていないと、いけない筈で!

 あり得ない、あり得ないあり得ない!アレン様が私を……見放してる筈が……!

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 胸が、苦しい。胸が痛いくらい鼓動が早鐘を、うってます。

 

こつ、こつ、こつ

 

 足音、あっ、アレン様がこっち、に。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 口を抑えて、私は震える事しか出来ません。

 

こつ、こつ、こつ

 

 アレン様が、私の前に、います。

 アレン様?嘘ですよね…?先程のは私の、聞き違いですよね?

 言葉が、出ない、でも、アレン様なら私のこんな様子を見たら。

 今までのように、優しい、言葉を、かけて……。

 

こつ、こつ、こつ……

 

 ……え……?

 通り、すぎた……?

 え?え?

 アレン様……?

 無、視……?

 

「アレン様っ……っ……」

 

 私がどうにか言葉を紡いだ時には既に足音はなく、誰の気配もなくて……。

 限界を迎えた私は、嘔吐を抑えきれませんでした。

 

「うっ……おぇ、おぇえええ……」

 

ビチャ、ビチャビチャ

 

 先程のお茶会で食べたものが、私の制服を汚して、いきます。

 アレン様、アレン様アレン様!なんで、なんでですか!?私を無視しないて、捨てないで……!

 なんで、なんでなんでなんでぇ……!

 こんなのない、ありえない、アレン様!

 

「うぷっ……ごほっ、ごほっ……うぇええ……」

 

 吐瀉物にまみれて床に転がって……あまりに惨めだった。

 

 アレン様……どうして、ですか。つい先日も、私を好きだと言って下さったじゃないですか……!あれは、嘘だったのですか……?

 抱き締めてくれた、あの温もりは偽りだったのですか……?

 このイベントが起きてしまったのなら、私は、もう、おわり……なの?

 

「アレン様……!」

 

 

 

 

 

 その後、闇に沈んでいくように気を失った……と思っていた私は、気付けば私はミラに寝巻きに着替えさせられておりました。

 どうやら、無意識に寮の自室に帰ってきていたようです。

 漸く正気に戻った私に気付いたようで、ミラは心配そうに声をかけてきます。

 そこで私は今日聞いた事をミラに話しました。このままではアレン様に捨てられてしまう……と。

 

「……俄には信じられませんね、あのアレハンドロ様がお嬢様を無視するなんて……少し、様子見をしては如何ですか?」

 

「……そう、ですわね、何かの、間違いかもしれませんもの、ね」

 

「はい、今日はゆっくりとお休みください」

 

 ベッドに寝かせられながら、ミラは微笑んだように思います。

 ……実際、そうでしょう、一度このような事があったとして、私が捨てられてる事に結びつけるのは、確かに早計かもしれません。人違いの可能性だって……!いえ、名前を呼びあっていて、人違い等あり得ませんわね……。

 けれど……私だけが知ってる、ゲームでは、噴水イベントが起きたらフランチェスカが救われる道は、なかったのですわ。

 それが、不安で、不安で仕方ありません。アレン様が私を見放したのだと突き付けられているようで、怖くて怖くて震えてしまいそうです……。

 

 私はその日、久し振りに目を抉られた時の夢を見ました。

 目を覚ましてもズキズキと痛むような気がする目を、かきむしりたい気分でした。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 あの日を境に、アレン様との逢瀬の数は減り、その時間も少なくなっていきました。

 アレン様の声は何処か固く、いつの間にか、手を握る事も減っていました。

 

 ある日、演劇を見に行った時の事です。

 ご先祖様方、7人の英雄が魔王を打倒した時のお話ですわ。最もポピュラーな題材で、昔から何度も……光を失う前にも見た事があります。

 目を失った後の私は演劇を万全に楽しむ事は出来ませんが、アレン様は演劇がお好きです。なので気にしないで欲しい事と、その間手を繋いでいてくれる事をお願いして、アレン様と共に演劇を私なりに楽しんでいました。

 けれど、その時はアレン様は手を繋いでは下さらなかったのです。演劇中も、何処か退屈そうでした。魔王が最後の恨み節を残すシーンとなっても、それは変わりませんでした。

 

『くくく、よく我を倒したと言っておこう、だが努々忘れるな!我はいずれ復活する!この世に闇がある限り!』

 

『なら、闇を打ち消すくらい強い光で国を照らすだけだ!』

 

『私達の子達なら、必ず成してくれますわ!』

 

『はは、はははははははは!!!』

 

 そして魔王は高笑いを残し、消えていき……魔王の討伐が終わるのです。

 

 今、見えはしないけれど、ソード家の男性にシールド家の女性が目を瞑りながらもたれかかっている筈です。7人の英雄達が目を触媒に魔王を倒した、と言っていましたが、シールド家は両目を使ったそうです。

 盲目となってしまったシールド家の女性をソード家の男性は嫁に迎えて、他の英雄達と共に国を興していく……それで演劇は終わります。

 

 私達もそれになぞらえて幸せになろう、と二人で手を握りあって決意しあうのが、この演劇を見た後の私達のやり取り、でした。私はそれを求めてアレン様に手を伸ばしました。

 

ガタッ

 

 しかし、隣から席を立つ音が聞こえました。空気が揺れて、アレン様が立ち上がった事を、私に知らせてきます。

 

「アレン、様……?面白くありません、でしたか?」

 

「……今まで何度見たと思っているんだ。僕ももう、子供じゃない」

 

『フランと見る演劇は何度見ても面白いよ!』

 

 冷たいアレン様の言葉に、記憶の暖かなアレン様の言葉が甦ります。その温度差に、喉がひくつきました。

 

「あっ……」

 

「それじゃ、僕は失礼するよ」

 

 そのまま、アレン様は立ち去って行ってしまいます。

 私は、暫く立ち上がれませんでした……。

 

 それから、アレン様との逢瀬は、ほぼなくなってしまいました。

 私の、何が、悪かったのでしょうか……。今でも、わかりません。

 

 

 

 

 一方で、サラさんは実に平気な顔をして私に関わってきます。

 挨拶してきますし、移動の手伝いも進んで買って出てきてくれます。

 よく抱き付いてきますし、また大きくなった私の胸も羨ましそうに揉んできます。

 

もにゅもにゅ

 

「うわぁー。本当にすごいなぁ、フランチェスカさんのおっぱい」

 

「んっ……いい加減に、教室ではお止めなさい……」

 

「教室以外だったらいいんですか!?」

 

「興奮するのはお止めなさい……」

 

 アレン様を私から奪おうとしているとは思えない、とても気安い態度で接してきます……。正直、どうしていいのかわかりません。

 愛憎混じり……というのでしょうか、彼女への思いは複雑です。気安い態度でありつつ、私が盲目のせいで困る場面では直ぐ様手助けしてくれて、底抜けに明るい彼女を嫌えという方が難しいです。

 

 それに……彼女に対して、私は少し負い目があるのですわ。端的に言えば、彼女が私のせいで虐められていたのですわ……。

 フランク過ぎる態度や、どんな人にも、それこそ七家の子達にも別け隔てなく接するその姿は、一部の方々の顰蹙を買ってしまったのです。それが主に、私を慕って下さる方々の手によって引き起こされていたのですわ……。

 それを知った私は直ぐにやめさせ、サラさんには謝罪を致しました。けれど、彼女はただ、こう言ったのです。

 

「フランチェスカさんが友達でいてくれるなら、大丈夫です!」

 

 そのいじらしい言葉に、私は思わず抱き締めてしまいました。

 サラさんも喜んでいたようなので良かったですが、我ながらはしたなかったですわね……。

 そんな事が……噴水イベントの少し前にあったのです。

 

 ゲームでも確か、アレハンドロと好感度を稼ぎ始めると、妨害という名のいじめがフランチェスカ主導で行われていたような気がしますわ……。それは卒業まで細々と続いていて……。

 もしや、私の知らない所でいじめは続いているのでしょうか?それが耳に入りアレン様が私に失望、という事……なのでしょうか……?

 

「あの、サラさん?」

 

「?なんですか?」

 

「今は、いじめられていませんよね?」

 

「フランチェスカさんが一回言ってくれたから、あれからなんにもないよ?えへへ、心配してくれたんですかー?ありがとう!」

 

「ああん……もう、いちいち抱き付かないでくださいな、はしたないですわよ」

 

 ……違ったようです。嘘をついてる様子も……ないですわね。

 

 はぁ……アレン様……。

 あの頃が、お花畑でお話していた頃が恋しいですわ……。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 数年が過ぎ、気付けば最終学年……私はあれから、モヤモヤとした日々を送り続けていました。

 

 アレン様とは……もうほぼ断絶状態です。一ヶ月に一度はどうにか会うことは出来ますが、素っ気ない態度ですぐにいなくなってしまいます。私はその背中に会ってくれた感謝を告げる事しか出来ませんでした。

 色々なアプローチをしても、何の手応えもありません。毎回惨めな気持ちで帰路についていました。

 

 サラさんは……一度、こういうやりとりがありました。

 あまりにもアレン様が私に振り向かずサラさんとばかり会うせいで、フラストレーションが溜まっていた時の事です。

 

「こんにちは、フランチェスカさん。お話って?」

 

「……単刀直入に言いますわ。アレン様と、これ以上親しくするのもやめて下さる?アレン様は、私の婚約者ですわよ!」

 

「えっ!……あ、そっか、そうだよね。アレン様、フランチェスカさんの婚約者だもんね。んふふふ、わかりました、気を付けますね!」

 

「…………へ?」

 

「えへへへ、フランチェスカさんも嫉妬とかするんだね、可愛いー!」

 

「え、ちょっと、いいんですの!?」

 

「?当たり前だよ、私はただアレン様……アレハンドロ様とお話するのが楽しかったから話してただけですから!フランチェスカさんの幸せ、願ってます!」

 

「え、えと、ありがとう、ございますの……?」

 

 無自覚人たらし、というのでしょうかね……?少しアレン様が気の毒に思います。

 ゲームでも確かに主人公は、攻略対象の好感度を、恋人になるギリギリまでそれぞれあげる事が出来ます。それを考えれば、このような子になるのでしょうか……?

 

 とはいえ、サラさんからアレン様への矢印はなくとも、アレン様からサラさんには矢印が向いてしまっているようには、感じます。……悔しく、悲しい事ですが。

 それに、サラさんはいい子ではあります。アレン様が……私を捨てて、乗り換える事も、理解は……うぅ、出来ます……。納得出来るかは、別問題ですわ……。

 それを考えると……私の幸せという意味では、もう望むべくもありません。アレン様のお心は、私から離れてしまっていますから……。

 

 ですが、破滅回避、という点では、今の状況は悪くないのかもしれません。アレン様の事は一度忘れて……うぅ、忘れて!アレン様に苦渋の思いで婚約破棄を申し出た時の事を思い出すのですわ。

 あの時私はお父様お母様に頭を下げるつもりでしたわ、何処か長閑な所で、一人で……生きると。

 あら、悪くないかもしれませんわ、日々小さな畑で、簡単な手作業で小物でも作って。暖炉の前で安楽椅子で編み物でもするのですわ。

 そして……扉からアレン様が「ただいま」なんて……。

 

「やめましょう」

 

 頭の中身をかきむしりたい気分ですわ。未練がましい自分が嫌になります。

 

 ……正直に言えばアレン様と結ばれないなら、あまりこの世に未練はありませんわ。けれど、ここまで育てて下さったお父様お母様、見守ってくれたミラ、リリアちゃんやサラさんを始めとした友達の皆様との繋がり……。それで惰性で生きてるようなものですわ。

 そんな事を言えば怒られそうですが、それだけ私にとってアレン様は心の支えでした。それがポキリと折れてしまって、それを直す為に気力を振り絞り……駄目だった私には、もう、余力は残っていません。

 

 卒業パーティーの時にでも、改めて婚約破棄を申し出るつもりです。

 そしてそのまま、家に帰って……お父様とお母様に謝罪して……家を、出る。

 うん、それがいいですわ。元より目を失った役立たず……いざという時の触媒にすらならない私は、そうやって大人しくしてるべきだったのです。

 それが、王子と結ばれるなんて高望みして……。バチが当たったのです、わ……。

 

「ひっく……うぅ、うぅううう……!」

 

 泣いても、涙なんて出ませんのよ私……。

 

 

 

 

 

 思えば、私はその時、今がどん底だと思っていました。

 でも、最悪なんてのは想像を軽々と越えていくものなのです……。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「……君には失望したよ、フラン」

 

 氷のように冷たいアレン様の声がします。

 

「ち、違、違うのです!」

 

 すがりつこうとも両肩はランス家のラスティ様と、ナイフ家のノーマン様に抑えられ、身動きも取れません。

 

「何が違う?君がサラにした事は、調べはついているんだ。今、彼女は、君に突き落とされた彼女は、意識不明なんだぞ?」

 

 ぎり、と肩を掴む手が強まります、痛い、です。

 

「それ、それは……」

 

 弁明……しようにも、私のせいで結果的にサラさんを傷つけたのは確かで、私は言葉に詰まってしまって。

 

「君のような人を好きになって、婚約していたかと思うと、虫酸が走る」

 

 その言葉に、頭を強く叩かれたかのような衝撃を受けます。

 クラクラとして、自分が立っているのか座っているのかも、もう、わかりません。

 

「そ、そんな」

 

「君との婚約は破棄させて貰う!……卒業パーティを待つまでもない、二度とその醜い顔を見せるな。反省室に連れていけ!」

 

 自分の全てを否定されたかのような言葉に、私の体から、力が抜けていくのを感じます。

 

「これでさよならだ、フランチェスカ嬢。明朝には学園から出ていって貰う」

 

 ああ、ああ……私は、私はなんで、こんな……。

 

 こんな、人を。

 こんな、こんなこんなこんな!

 

 一瞬、強い激情が起こりましたが、直ぐに冷めてしまいます。

 肩を落とし、アレン様のほうを向いて、最後に私の気持ちを告げます。

 

「……さよう、なら、アレン様……愛して、います……」

 

 それでも、何をされても、私はアレン様が好きです……。

 

 

 

 ラスティ様と、ノーマン様に抱えられ、私はアレン様から離されて行きます。

 暫くして放り投げられ、バタンと扉が閉じる音がして、ガチャリと施錠の音がしました。

 ここは、反省室、内側からは開けられない部屋で、校則無視した生徒なんかを反省の為に閉じこめる部屋で……。

 

「私の……学園での最後の夜を過ごす部屋、ですわね……」

 

 直ぐに放り出されなかっただけ、マシですわね……あは、は。

 

「……もう、全てどうでもいいですわ……」

 

 私は床に倒れたまま、四肢の力を抜きました。

 床が冷たいですが、もうどうでもいいです……。

 

「どうして、こうなったのでしょう……」

 

 何かに沈んでいくような感覚に私は身を任せ、意識は闇に包まれていきました……。

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