星の潮流   作:fw187

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星の女王

「ザース、宮廷儀礼を忘れたのか? 

 早く、此方へ来い!」

 中央銀河帝国の最高指導者、アーン・アッバス皇帝に怒鳴られた。

 全然、気が休まらなかった。

 

 数時間前、兄の従者に案内され第二皇太子の私室に辿り着いたが。

 貴賎婚の妻、マーンと名乗る年若い女性が待ち受けていた。

 顔に、見覚えが有る。

 宇宙戦艦ヤマト生活班長、森雪。

 古代進、お前と言う奴は!

 

 サイレン人メラ、ジュラの面影が脳裏を掠めた。

 幻影投射能力、優秀な読心術を兼備する妻と娘が私を睨む。

 身から出た錆とは言わぬが、人の事は言えぬ。

 そして、これだ。

 

「中央銀河帝国第2皇太子ザース・アーン、フォマロート女王リアンナ。

 両名の婚約を発表する!」

 暗黒星雲同盟に対抗する為、政略結婚が計画されていた。

 君は、古代守を選んだのではなかったのか?

 スターシャ、もとい、婚約者の美女が高貴な物腰で賛辞に応える。

 

「ザース、どうしたのですか?

 貴方は今、ぞっとする様な顔色をされていますよ。

 見せかけの政略結婚、単なるお芝居だと納得した筈ですのに。

 私との婚約はそんなに、お気に召しませんか?」

 

 低い声で呟き、瞬速≪マイクロ・セコンド≫の早技で睨み付ける星の女王。

(余計なお世話だ!)

 喉元まで出掛ったが、辛うじて噛み殺す。

 数多の賢者や導師の指摘する真理、黄金律は星暦20万年の未来にも通用すると知れた。

 

 婚約者は顔色を窺う私に構わず、笑顔を振り撒き続ける。

 女は、魔物だ。

 惑星メルの女王メローラ、現在・過去・未来の三女神も同類なのだろうか?

 光輝く美貌から視線を逸らし、私は深い溜息を吐いた。

 

 

 婚約発表の場から疲れ果て(断っておく。精神的にだ)、私室に戻った。

 星歴20万年の間に、盗聴装置も長足の進化を遂げている筈。

 明日の夜、ジャル・アーンの私室を訪問する方が無難であろう。

 極度に神経が疲労の故、発見は諦め腹を据えて無視。

 

「ザース・アーン殿下、アーン・アッバス陛下が襲われました!

 意識不明の重態に陥り、殿下が告発されています!!」

 青天の霹靂。

 寝室に現れた警備兵達は質問に答えず、詳細な状況は不明と繰り返すのみ。

 

 一刻も早く古代守、もとい、第一皇太子と接触せねばならぬ。

 無駄な議論を厭い、私は率先して歩き出したが。

 期待に反し尋問、事情聴取も無く独房に事実上放置。

 次の一手を熟考する私を昨日、大帝の執務室に同席していた男が訪れた。

 

 中央銀河帝国宇宙軍の筆頭《トップ》、連合艦隊司令長官チャン・コルビュロ。

 私の婚約者スターシャ、もとい、フォマロート女王リアンナ姫も同行している。

 

「ザース、一刻も早く逃げなくては!

 貴方が暗黒星雲同盟と組み、大帝を暗殺した証拠の品が提出されているの!!

 ジャル・アーンは激怒していて、このままでは事態が悪化する一方だわ!

 一刻も早く脱出しなくては、銃殺されてしまう危険もあるのよ!

 

 フォマロート領に脱出して、濡れ衣が晴れるまで滞在なさい。

 国境を越えるまで、コルビュロの部下が護衛してくれます。

 私も同行するから、心配は要らないわ。

 時間が無いの、一緒に来て!」

 

 息継ぎの間も惜しみ、一気に捲し立てる星の女王。

 逆鱗に触れぬ様、慎重に囁いた。

 

「逃げるのは、自殺だ。

 兄と対面して、腹を割って話をするよ。

 安心したまえ、ジャル・アーンは優秀な男だ。

 激怒し偽情報に惑わされていても、必ず冷静に判断を下す。

 

 間違い無く、状況の不自然さに気付く筈だよ。

 現実逃避は確実に、状況を悪化させる。

 自分が悪い、と認めるも同然ではないか?

 有難い申し出だが、軽挙妄動は慎む方が良い」

 

 星の女王は驚き、私を凝視。

 鋭い舌打ちの音が響き、麻痺銃≪パラライザー≫の発射音も重なる。

 微かに女性の悲鳴が聞こえ、意識が遠のいた。

 

 

 気が付くと、宇宙船の内部に居た(重力で分かる)。

 意識の回復を悟られぬ様、全神経を聴覚に集中。

 人の気配は有るが警戒心、敵意は感じられぬ。

 薄く眼を開けると、見覚えのある長い髪が見えた。

 

 慎重に、身体を起こす。

 苦痛は、無い。

 僅かに音が生じたと見え、女性が振り返る。

 スターシャ、もとい、リアンナ姫の顔が輝いた。

 

「ザース、気が付いたのね!

 コルビュロが貴方を麻痺させた後、私達は潜宙艦に連れ込まれたの。

 帝国艦隊の監視パトロール、哨戒網の盲点を突いて暗黒星雲に向かっているみたいよ。

 地球の時みたいに想定外の巡航艦が現れても、闇≪ダーク≫航行に入れば見つからないわ!!」

 

「前回の失敗に懲りて、学習した訳か。

 孤立無援の様だが、沖田艦長に倣うしかあるまい。

 諦めない限り、途は拓ける。

 使い古された格言だが、全宇宙に共通の真理だ。

 

 折角の招待だ、有効に活用させて貰おう。

 敵の本拠を見学するのも、一興ではないか?

 暗黒星雲の内部には、足を踏み入れた事が無いからね」

 星の女王が驚き、瞳を丸くした。

 

 

 潜宙艦は無事、暗黒星雲同盟の首都ティラン宇宙港に到着。

 銀河系統一の為、情報を収集する絶好の機会を逃す訳には行かぬ。

 サーベラーの腰巾着ラーゼラー、もとい、サーン・エルドレット艦長が先導。

 怯える女王を励まし、敵の本拠へ足を踏み入れる。

 

「入れ」

 妙に聞き覚えの有る声が響き、頑丈な扉が開く。

 正面の男と視線を合わせた途端、心臓が跳ねた。

 髪の色こそ漆黒だが青色の顔、冷酷な鋭い瞳が私を射抜く。

 

 やっと、分かった。

 何故、私が選ばれたのか。

 私でなければならぬ、重大な理由が存在したのだ。

 眼の前に、私が立っている。

 

「予定外の邪魔が入ったので、一気に事を運んでしまったよ。

 暗黒星雲同盟の首都、ティラン到着を歓迎する。

 人類の統合を成し遂げ、玉座を君に提供しよう。

 初代皇帝ザース・アーン陛下、永遠に我が忠誠を捧げる」

 私に瓜二つの青色人《ブルー・マン》、敵の首魁が拝謁の仕草を真似る。

 ふざけた態度の男は頭を上げ、私を見て笑った。

 

「冗談は、止めて貰おう。

 大帝を暗殺した真犯人は、誰だ?」

「失礼した、君が立腹するのも当然だな。

 不快な思いをさせてしまった事は、謝る」

 フォマロート王国の最高君主、リアンナ姫が柳眉を逆立てた。

 

「謝って済む問題じゃないわ、なんて図々しい男なの!

 無礼にも程があるわ、この、狼藉者≪ならずもの≫!!」

「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、だな。

 君達に銀河系の統一、人類の統合が出来ないのも無理はない。

 私は己の腕と才覚のみで、数年の内に銀河系を統一してみせる。

 

 恒星王国《スター・キングダム》は互いに裏切り、競争相手を脱落させる隙を窺っている。

 敵の敵は味方の鉄則《ルール》に基き、私の影に怯え、一時的に手を組んでいるがね。

 由緒正しい高貴な血統を誇る者は簒奪者≪バスタード≫、風雲児に滅ぼされる運命《さだめ》さ。

 秩序の破壊者と非難されても構わん、物事は建設的に進めたい」

 星の女王が眦を決し、火の付いた様に喋り出す前に片手を挙げて制止。

 暗黒星雲同盟の盟主、青色人《ブルー・マン》が私を見た。

 

 

「物事は建設的に進めたい、と言ったな。

 私も賛成だ、疑問点を確認させて貰おう。

 大帝暗殺の濡れ衣を着た私に、玉座を提供する?

 真面目に話を続ける気なら、然るべき説明があって当然と思うね」

 

「無意味な演説を聞かされずに済んで、助かるな!

 簡単な事だよ、ザース・アーン。

 私が銀河系統一政府を組織すれば、どうなると思う?

 血統を重んじる連中は現実を認めず、反乱の嵐だろうね。

 

 統一政権の最高指導者が君なら、話は別だ。

 中央銀河帝国王家への忠誠は、骨の髄まで染み込んでいるからな。

 玉座に君を据え、私は宰相として軍事組織や統治機構の実権を握る。

 合理的に適材適所、役割分担を提案する次第さ。

 

 無用の反乱を鎮める御守り、抑止力として私は君を必要とするのだよ。

 虚栄に興味は無いが、マゼラン星雲征服の準備を整えたい。

 どうだね、論理的だろう?」

 

 身体を乗り出し、熱弁を揮う私の似姿には感銘を受けた。

 内容も内容だが、妙に説得力がある。

 私は自由惑星同盟《フリー・プラネッツ》の議長と異なり、自己陶酔者《ナルシスト》ではないが。

 予想外に強烈な讃嘆の念を覚え、自分に呆れた事は告白せねばなるまい。

 

「私は、ザース・アーン本人ではないよ。

 馬鹿馬鹿しい戯言と思われるだろうが、御静聴をお願いする。

 中央銀河帝国の第二皇太子が地球、ソラー星系の第三惑星に籠っていた理由は何か?

 彼は皇帝家の重責を厭い、出奔した事になっているがね。

 フォマロート王国、ポラリス王国、ヘラクレス男爵領を円滑に統合する秘訣を得る為。

 地球統一の過程、シリウス星区一帯の反地球感情を観察する為であったのさ。

 

 人類は銀河系全域に拡がり、20万年に及ぶ闘争が展開された。

 恒星王国群の興亡、盛衰には一定の法則《パターン》が幾度も現れる。

 何故、歴史は繰り返されるのだろうか?

 地球で発掘された遺跡に残る書物、古文書に解明の鍵が記されていた。

 

 20数万年前の歴史研究家達も既に、同じ疑問の解決を試みていたのだ。

 彼等は数学的な演繹で解を導き出す為、大衆心理学を応用した。

 心理歴史学《サイコ・ヒストリアル》の実験、研究成果は残念な事に継承されていない」

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