「時を越えて物資を転送する事は難しいが、精神は時を超える。
第二皇太子の協力者達は精神感応増幅装置、時間転送機を創った。
過去界に赴き様々な情報の解析、法則《パターン》の特定を試みる為だ。
別人の身体に精神を転送、情報収集後に帰還の実験が繰り返された。
ザース・アーン本人、精神体《アストラル・ボディ》は此処におらぬ。
私は精神交換に応じ、第2皇太子の身体に転送された過去界の男さ」
青色人が、笑った。
「我々は情報伝達構造≪シナプス≫の解読装置、脳透視機≪スキャナー≫を創ったよ。
脳内情報伝達細胞の電気的抵抗値を減らす事で、天才的頭脳に進化を図った研究の副産物さ。
微弱な電気信号の解析、被験者の脳内記憶を読み取る事も出来る。
使用が長時間に及んだ場合、情報伝達細胞は短絡≪ショート≫するがね。
脳髄を喰い荒らす黒魔術、催眠暗示波放射水晶《ヒュプノ・クリスタル》の同類だな。
悪い事は言わん、理性を働かせた方が良いぞ」
「機械≪マシン≫が真偽を判定するのであれば、私も助かる。
人間を説得するのは面倒だが、機械は正直だからな。
1番表層の記憶を解析すれば、証明される筈だ」
青色人が、眉を顰めた。
「本気か?
脅迫や虚偽≪ハッタリ≫ではない、冗談では済まないのだぞ!」
「無論、理解している。
私は、自分自身と同じ位、君を信頼しているよ」
途方も無い冗談だが、真実でもある。
短時間で機械を停め、脳細胞の短絡《ショート》を避けるに違いあるまい。
「此の部屋だ」
私は強化クリスタル製の機械を眺め、頭部に電極を装着する科学者の顔を記憶に留めた。
「まだ、間に合う。
何の心算か知らんが、馬鹿な真似はよせ!」
至近距離に顔を寄せる≪私≫を眺め、表情を観察。
自信に刃毀れが生じ、瞳が泳いでいる。
「忠告する。
ザース・アーン本人か否か、最も表層の記憶から確認しろ。
ディスラプター関連の情報を得たければ、私の言葉を受け容れる事だ。
忘れるな。
情報伝達細胞を壊す前に、決断するのだぞ」
他に、何も言う必要は無かろう。
私は瞳を閉じ、放射線の照射に備えた。
意識が戻ると、酷い頭痛が脳髄を喰い荒らしていた。
頭が、割れる。
「鎮痛薬だ、飲め。
苦痛が消え、楽になるぞ」
思考力の失せた身体は、自動的に反応。
疑う事を知らぬ赤子の様に、声の方向へ掌を差し出す。
「手が震えているな、溢れそうだ。
杯を持ってやる、慌てず、ゆっくりと飲め」
慣れ親しんだ声が響き、唇に硬質な感触を覚えた。
味も判らぬ液体が咽喉を潤し、荒れ狂う頭痛を駆逐。
水晶≪クリスタル≫の波紋、名状し難い解放感が染み渡る。
「大丈夫か?
ザース・アーンの身体に転送された男、ジョン・ゴードン」
瞼を上げると、真正面に私の顔が見えた。
違和感、大爆発。
この上も無く、居心地が悪い。
「納得したか?」
見え透いた虚勢を張り、言葉を絞り出す。
相手に優越感を抱かせ、油断を誘う常套手段。
心理戦の教科書《マニュル》通り、小手調べを試みる。
「信じられんが、脳透視機≪スキャナー≫は嘘を言わん。
後遺症を残さぬ故、詳細は走査≪スキャン≫していないがね。
危険≪リスク≫を冒す必要は無い、と判断した。
ディスラプター関連の情報を得るには、どうすれば良い?」
「簡単な事だよ、ショ-ル・カン。
地球の精神交換装置を使い、ザース・アーンを脅迫するのさ。
ヴェル・クェン殺害、暗黒星雲同盟の捕虜になった事実を告げる。
装置の破壊を避ける為には、ディスラプター関連の情報が必要だ。
私には脅迫者、暗黒星雲同盟の兵士達を阻む手段が無い。
大帝は既に暗殺され、ジャル・アーン暗殺の手筈も整っている。
ディスラプター操作可能者は皆無となり、帝都の陥落も時間の問題だ。
20万年前の過去界に閉じ込められ、手の打ち様が無い第二皇太子はどうする?
暗黒星雲同盟の兵士達を騙し、本来の身体に帰還しなければならない。
公にはされていない貴賎婚の相手、最愛の妻にも破滅の瞬間が迫っているのだからね。
ディスラプター関連の情報が要る、と告げれば断れないさ」
青色人が驚き、瞳を瞠った。
「素晴らしい、完璧じゃないか!
気に入ったぞ、ジョン・ゴードン!!
20万年前の過去界には、大胆な男達が誕生していたらしいな!」
私の鏡像は闊達に宣い、親近感を抱いたと見える。
「お誉めに与り、光栄至極とでも云っておこうかな。
ディスラプター関連の情報を獲得すれば、勝利は確実かね?
他に何か、僕に出来る事はあるかい?
野望達成の暁に皇帝の座、リアンナ姫に手を出さない事も保証して貰うよ」
「あんな高慢ちきで貴族意識の高い女、ろくなもんじゃないと思うがね。
統一帝国の象徴《シンボル》になれば、もっと凄い美人達が君に求愛するぞ」
「リアンナ姫は渡さない、地球にも連れて行く!
他の女をあてがう気なら、先刻の約束は反故にしてやるからな!!」
「なんだ、彼女が君の弱点《ウィーク・ポイント》って訳か?
人質として残そうかと思ったが、そこまで惚れ込んでいるなら逆効果だろうな。
私は君と違って、奇麗な顔なんぞに興味は無い。
好きにしろ、厄介払い出来て助かるよ」
「ザース!
無事だったのね!!」
部屋に戻ると、リアンナ姫が声を弾ませた。
不安、孤独、閉塞感の相乗効果。
極度に神経を消耗、憔悴した表情に胸が痛い。
「極秘の情報を得る為、私と君を地球に送らねばならないと信じさせた。
監視の目を盗み、ジャル・アーンに警告を発しなければならぬ。
リアンナ、協力してくれるね?」
「もちろんよ、ザース!
私は、何をすれば良いの?」
「具体的な計画は、これから立てる。
とりあえず、暗黒星雲の料理を堪能しよう」
盗聴されている事は、百も承知だ。
青色人達は腹を抱えて、大笑いしているに違いあるまい。
白色彗星帝国軍の監視艦隊司令、ミル酷似の青色人リン・カイル指揮の数名も隠密作戦に同行。
コルビュロ経由の情報に基き、星間パトロール中の艦艇を避けて地球に向かう。
リアンナ姫は闇《ダーク》航行中、気鬱の病に罹り感情が暴走。
『星が見たい』と駄々を捏ね、青色人達も手を焼いた。
個室の壁一面に星空が投影され、徐々に移動。
草原地方の騎馬民族に倣い、星の位置を読み現在位置を探る。
薄々予想はしていたが、指標となる星の特定は難渋。
現在位置が掴めず、大脱走は無謀と判断せざるを得ぬ。
精神感応増幅装置の操作手順を懸命に思い出し、地球着陸後に実験を開始。
私の身体に転移した第二皇太子、鍵を握る重要人物と時を超える念話を試みた。
思念波増幅装置《サイキック・コンヴァーター》は無事に動き、精神接触を実現。
ザース・アーン本人は実戦の経験が無く、戦術指揮の訓練も受けておらぬ。
事態打開の妙手は無く、私の実績を考慮して情報を提供。
研究所の設備と機能、操作手順を頭に叩き込む。
第一に為すべき事は、敵の戦力を確かめる事。
青色人達の思考、記憶を探る為に精神感応増幅装置を調整する。
波長を合わせ精神測定《サイコメトリ》、盗聴《タッピング》を開始。
別の潜宙艦《ファンタム》1隻が衛星、月の裏で隠密作戦を援護中と判明した。
地球警備隊は貧弱、常駐の戦闘艦も皆無。
加速装置内蔵の戦闘用改造生命体009、変身能力者007等が現れる気配も無いが。
宇宙偵察機008号が銀河辺境星域の巡視中、地球に着陸して推進機関を調整中。
使用可能な手段を組み合わせ、事態を打開せねばならぬ。
私は地球警備隊の最高指揮官に遠隔精神感応、心話で事情を説明。
続いて遠距離偵察機デバステーター、もとい、宇宙偵察機の搭乗員に思考を送る。
(暗黒星雲同盟の潜宙艦《ファンタム》が、地球に着陸した!
帝国宇宙軍の名に懸けて、救助を求む!!)
他者の思考を傍受する事に慣れた超能力者と異なり、幻聴の類と疑われて当然だが。
白色彗星帝国軍の優秀な戦士、メーザー酷似の青年士官は迷う事無く思考を閃かせた。
(QX《クリア・エーテル》、緊急出撃《スクランブル》する!
敵の着陸した場所、数、状況を教えろ!!)
(潜宙艦《ファンタム》が、2隻!
エベレスト麓、月の裏側に着陸!!
敵は私の研究所に数名の他、総て艦内!
出来れば麻痺銃《パラライザー》で敵を撃ち、設備の破壊を阻止して貰いたい!!)
(わかった、麻痺ビーム放射器を使う!
君も失神するが、一網打尽にしてやる!!)
私は意識を喪う前に、宇宙偵察機008操縦者に関連情報を提供。
連合艦隊司令官コルビュロ、シリウス出身艦長の裏切り行為も告げる。
精神感応増幅装置は銀河パトロール隊の認識票、レンズ同様に思考の真偽を証明。
困惑して当然の事態であったが、青年士官は数秒後に腹を据えた。
(ザース・アーン殿下、御命令を!
帝国を救う為、忠誠を誓います!!)
(QX《クリア・エーテル》、協力に感謝する!
敵に悟られず、麻痺砲の射程内に接近可能か?)
(偵察機は探知フィールド無効化仕様、隠密活動用ECM装置も強力です!
数分間、お待ちください!!)
(私の心配は無用だ、優先順位を間違えてはならん!
月の裏で待機の敵艦は常時、研究所と僚艦を見張っている筈だ。
先に後方援護の潜宙艦《ファンタム》を無力化、麻痺砲で照射せよ。
焦らず、急がず、慎重にな!)
メーザー酷似の青年士官は要請を受け容れ、数分後に緊急発進《スクランブル》。
宇宙空間で視認を困難とする為、艶消しの黒で塗装した偵察機が敵を襲う。