星の潮流   作:fw187

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青い支配者

「時を越えて物資を転送する事は難しいが、精神は時を超える。

 第二皇太子の協力者達は精神感応増幅装置、時間転送機を創った。

 過去界に赴き様々な情報の解析、法則《パターン》の特定を試みる為だ。

 別人の身体に精神を転送、情報収集後に帰還の実験が繰り返された。

 ザース・アーン本人、精神体《アストラル・ボディ》は此処におらぬ。

 私は精神交換に応じ、第2皇太子の身体に転送された過去界の男さ」

 青色人が、笑った。

 

「我々は情報伝達構造≪シナプス≫の解読装置、脳透視機≪スキャナー≫を創ったよ。

 脳内情報伝達細胞の電気的抵抗値を減らす事で、天才的頭脳に進化を図った研究の副産物さ。

 微弱な電気信号の解析、被験者の脳内記憶を読み取る事も出来る。

 使用が長時間に及んだ場合、情報伝達細胞は短絡≪ショート≫するがね。

 脳髄を喰い荒らす黒魔術、催眠暗示波放射水晶《ヒュプノ・クリスタル》の同類だな。

 悪い事は言わん、理性を働かせた方が良いぞ」

 

「機械≪マシン≫が真偽を判定するのであれば、私も助かる。

 人間を説得するのは面倒だが、機械は正直だからな。

 1番表層の記憶を解析すれば、証明される筈だ」

 青色人が、眉を顰めた。

「本気か?

 脅迫や虚偽≪ハッタリ≫ではない、冗談では済まないのだぞ!」

 

「無論、理解している。

 私は、自分自身と同じ位、君を信頼しているよ」

 途方も無い冗談だが、真実でもある。

 短時間で機械を停め、脳細胞の短絡《ショート》を避けるに違いあるまい。

「此の部屋だ」

 私は強化クリスタル製の機械を眺め、頭部に電極を装着する科学者の顔を記憶に留めた。

 

「まだ、間に合う。

 何の心算か知らんが、馬鹿な真似はよせ!」

 至近距離に顔を寄せる≪私≫を眺め、表情を観察。

 自信に刃毀れが生じ、瞳が泳いでいる。

 

「忠告する。

 ザース・アーン本人か否か、最も表層の記憶から確認しろ。

 ディスラプター関連の情報を得たければ、私の言葉を受け容れる事だ。

 忘れるな。

 情報伝達細胞を壊す前に、決断するのだぞ」

 

 他に、何も言う必要は無かろう。

 私は瞳を閉じ、放射線の照射に備えた。

 

 

 意識が戻ると、酷い頭痛が脳髄を喰い荒らしていた。

 頭が、割れる。

 

「鎮痛薬だ、飲め。

 苦痛が消え、楽になるぞ」

 思考力の失せた身体は、自動的に反応。

 疑う事を知らぬ赤子の様に、声の方向へ掌を差し出す。

 

「手が震えているな、溢れそうだ。

 杯を持ってやる、慌てず、ゆっくりと飲め」

 慣れ親しんだ声が響き、唇に硬質な感触を覚えた。

 味も判らぬ液体が咽喉を潤し、荒れ狂う頭痛を駆逐。

 水晶≪クリスタル≫の波紋、名状し難い解放感が染み渡る。

 

「大丈夫か?

 ザース・アーンの身体に転送された男、ジョン・ゴードン」

 瞼を上げると、真正面に私の顔が見えた。

 違和感、大爆発。

 この上も無く、居心地が悪い。

 

「納得したか?」

 見え透いた虚勢を張り、言葉を絞り出す。

 相手に優越感を抱かせ、油断を誘う常套手段。

 心理戦の教科書《マニュル》通り、小手調べを試みる。

 

「信じられんが、脳透視機≪スキャナー≫は嘘を言わん。

 後遺症を残さぬ故、詳細は走査≪スキャン≫していないがね。

 危険≪リスク≫を冒す必要は無い、と判断した。

 ディスラプター関連の情報を得るには、どうすれば良い?」

 

「簡単な事だよ、ショ-ル・カン。

 地球の精神交換装置を使い、ザース・アーンを脅迫するのさ。

 ヴェル・クェン殺害、暗黒星雲同盟の捕虜になった事実を告げる。

 装置の破壊を避ける為には、ディスラプター関連の情報が必要だ。

 

 私には脅迫者、暗黒星雲同盟の兵士達を阻む手段が無い。

 大帝は既に暗殺され、ジャル・アーン暗殺の手筈も整っている。

 ディスラプター操作可能者は皆無となり、帝都の陥落も時間の問題だ。

 20万年前の過去界に閉じ込められ、手の打ち様が無い第二皇太子はどうする?

 

 暗黒星雲同盟の兵士達を騙し、本来の身体に帰還しなければならない。

 公にはされていない貴賎婚の相手、最愛の妻にも破滅の瞬間が迫っているのだからね。

 ディスラプター関連の情報が要る、と告げれば断れないさ」

 青色人が驚き、瞳を瞠った。

 

「素晴らしい、完璧じゃないか!

 気に入ったぞ、ジョン・ゴードン!!

 20万年前の過去界には、大胆な男達が誕生していたらしいな!」

 私の鏡像は闊達に宣い、親近感を抱いたと見える。

 

「お誉めに与り、光栄至極とでも云っておこうかな。

 ディスラプター関連の情報を獲得すれば、勝利は確実かね?

 他に何か、僕に出来る事はあるかい?

 野望達成の暁に皇帝の座、リアンナ姫に手を出さない事も保証して貰うよ」

 

「あんな高慢ちきで貴族意識の高い女、ろくなもんじゃないと思うがね。

 統一帝国の象徴《シンボル》になれば、もっと凄い美人達が君に求愛するぞ」

「リアンナ姫は渡さない、地球にも連れて行く!

 他の女をあてがう気なら、先刻の約束は反故にしてやるからな!!」

 

「なんだ、彼女が君の弱点《ウィーク・ポイント》って訳か?

 人質として残そうかと思ったが、そこまで惚れ込んでいるなら逆効果だろうな。

 私は君と違って、奇麗な顔なんぞに興味は無い。

 好きにしろ、厄介払い出来て助かるよ」

 

 

「ザース!

 無事だったのね!!」

 部屋に戻ると、リアンナ姫が声を弾ませた。

 不安、孤独、閉塞感の相乗効果。

 極度に神経を消耗、憔悴した表情に胸が痛い。

「極秘の情報を得る為、私と君を地球に送らねばならないと信じさせた。

 監視の目を盗み、ジャル・アーンに警告を発しなければならぬ。

 リアンナ、協力してくれるね?」

 

「もちろんよ、ザース!

 私は、何をすれば良いの?」

「具体的な計画は、これから立てる。

 とりあえず、暗黒星雲の料理を堪能しよう」

 盗聴されている事は、百も承知だ。

 青色人達は腹を抱えて、大笑いしているに違いあるまい。

 

 白色彗星帝国軍の監視艦隊司令、ミル酷似の青色人リン・カイル指揮の数名も隠密作戦に同行。

 コルビュロ経由の情報に基き、星間パトロール中の艦艇を避けて地球に向かう。

 リアンナ姫は闇《ダーク》航行中、気鬱の病に罹り感情が暴走。

 『星が見たい』と駄々を捏ね、青色人達も手を焼いた。

 

 個室の壁一面に星空が投影され、徐々に移動。

 草原地方の騎馬民族に倣い、星の位置を読み現在位置を探る。

 薄々予想はしていたが、指標となる星の特定は難渋。

 現在位置が掴めず、大脱走は無謀と判断せざるを得ぬ。

 精神感応増幅装置の操作手順を懸命に思い出し、地球着陸後に実験を開始。

 私の身体に転移した第二皇太子、鍵を握る重要人物と時を超える念話を試みた。

 

 

 思念波増幅装置《サイキック・コンヴァーター》は無事に動き、精神接触を実現。

 ザース・アーン本人は実戦の経験が無く、戦術指揮の訓練も受けておらぬ。

 事態打開の妙手は無く、私の実績を考慮して情報を提供。

 研究所の設備と機能、操作手順を頭に叩き込む。

 第一に為すべき事は、敵の戦力を確かめる事。

 青色人達の思考、記憶を探る為に精神感応増幅装置を調整する。

 

 波長を合わせ精神測定《サイコメトリ》、盗聴《タッピング》を開始。

 別の潜宙艦《ファンタム》1隻が衛星、月の裏で隠密作戦を援護中と判明した。

 地球警備隊は貧弱、常駐の戦闘艦も皆無。

 加速装置内蔵の戦闘用改造生命体009、変身能力者007等が現れる気配も無いが。

 宇宙偵察機008号が銀河辺境星域の巡視中、地球に着陸して推進機関を調整中。

 使用可能な手段を組み合わせ、事態を打開せねばならぬ。

 

 私は地球警備隊の最高指揮官に遠隔精神感応、心話で事情を説明。

 続いて遠距離偵察機デバステーター、もとい、宇宙偵察機の搭乗員に思考を送る。

(暗黒星雲同盟の潜宙艦《ファンタム》が、地球に着陸した!

 帝国宇宙軍の名に懸けて、救助を求む!!)

 他者の思考を傍受する事に慣れた超能力者と異なり、幻聴の類と疑われて当然だが。

 白色彗星帝国軍の優秀な戦士、メーザー酷似の青年士官は迷う事無く思考を閃かせた。

 

(QX《クリア・エーテル》、緊急出撃《スクランブル》する!

 敵の着陸した場所、数、状況を教えろ!!)

(潜宙艦《ファンタム》が、2隻!

 エベレスト麓、月の裏側に着陸!!

 敵は私の研究所に数名の他、総て艦内!

 出来れば麻痺銃《パラライザー》で敵を撃ち、設備の破壊を阻止して貰いたい!!)

 

(わかった、麻痺ビーム放射器を使う!

 君も失神するが、一網打尽にしてやる!!)

 私は意識を喪う前に、宇宙偵察機008操縦者に関連情報を提供。

 連合艦隊司令官コルビュロ、シリウス出身艦長の裏切り行為も告げる。

 精神感応増幅装置は銀河パトロール隊の認識票、レンズ同様に思考の真偽を証明。

 困惑して当然の事態であったが、青年士官は数秒後に腹を据えた。

 

(ザース・アーン殿下、御命令を!

 帝国を救う為、忠誠を誓います!!)

(QX《クリア・エーテル》、協力に感謝する!

 敵に悟られず、麻痺砲の射程内に接近可能か?)

(偵察機は探知フィールド無効化仕様、隠密活動用ECM装置も強力です!

 数分間、お待ちください!!)

 

(私の心配は無用だ、優先順位を間違えてはならん!

 月の裏で待機の敵艦は常時、研究所と僚艦を見張っている筈だ。

 先に後方援護の潜宙艦《ファンタム》を無力化、麻痺砲で照射せよ。

 焦らず、急がず、慎重にな!)

 メーザー酷似の青年士官は要請を受け容れ、数分後に緊急発進《スクランブル》。

 宇宙空間で視認を困難とする為、艶消しの黒で塗装した偵察機が敵を襲う。

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