「どうしやす、おやっさん?
トラコンの連中、早速、フケちまいやしたぜ。
あいつらを野放しにするな、って銀河連合主席に泣いて頼まれた事は承知してますがね。
面倒な御目付け役なんざ放り出して、こっちも勝手にやらせて貰いやしょうか?」
水平型万能タイプ宇宙船アトラス操縦席から、無関心を装った声が響く。
「気持は分かるが、契約は契約だ。
横着しないで、多次元航行装置の記録を追跡《トレース》しろ。
違約金を要求する依頼主じゃないが、最初から楽するのはやめとこう。
ガミラス宇宙軍の総帥にも頼まれたし、クラッシャーの意地を見せてやろうじゃないか。
タロス達も、総統から誘われたんだろう?」
優秀な操縦士《パイロット》、長身の優男が露骨に洩らした呟き声に船長が応える。
「確かに、あの御方は気持が良かったですね。
連合宇宙軍のお偉方と違って、一緒に戦ってみたいと思いましたよ」
「儂も、賛成じゃな。
依頼主《クライアント》としては、上等の部類だ。
オルレンブロール提督も優秀だが、肩が凝っていかん」
「決断力に富む歴戦の武人、って感じだったな。
ドメル将軍や艦長達も颯爽として、恰好良かったですぜ。
おやっさん、熱心に誘われてませんでしたか?」
「丁重に断ったが、単発の契約なら考えても良いな。
今回の仕事が無事に済んだ後なら、請け負っても構わんだろう。
取り敢えずは銀河連合主席の意向、美女達の援護が優先だ」
「黒髪の方も別嬪だが、俺としちゃあ、赤毛の娘が好みだね!
逃がしちゃ駄目ですぜ、早速追っかけやしょう!!」
「そりゃ構わんが、次元跳航装置の調整を間違えるなよ。
明後日の方向に飛んだら、戻って来れんぞい」
最年少の機関士バード、初老の航法士ガンビーノ。
恒例の掛け合い漫才、談笑が空気を和ませた。
「異次元空間の痕跡を解析してみたが、異時間平面に遷移《ワープ》した模様だ。
空間破砕爆弾《スペース・スマッシャー》の影響かも知れんが、次元座標が捩れている。
4次元時空連続体破壊装置《ディスラプター》を持ち出し、ブッ放した馬鹿が居るのかもしれん。
例の二人組を逃がしてはならん、次元跳航に入るぞ」
「ほっといたら、本当に宇宙が滅ぶかもしれねぇ。
ノグロス宇宙軍の反乱を捻じ伏せ、ついでに、死の星《デス・スター》にしちまう連中ですからね」
タロスが冗談《ジョーク》に応え、バードとガンビーノもニヤリと笑う。
爆笑の傍で手慣れた操作《オペレーション》は澱み無く進み、準備完了《スタンバイ》が点灯。
次元座標を時空転移装置に打ち込み、相対位置を確認。
アトラスは軽快に身を翻し、小型迎撃機の編隊を無視して姿を消した。
「多次元レーダー、反応を確認。
クラッシャーのお船、アトラスに相当する質量だね。
星間共通信号、『貴船に愛天使《ラブリーエンゼル》の御加護あれ』を送信するわ。
ダンなら、すぐ返事を寄越す筈よ」
こらこら、勝手に決めるんじゃない。
船長はあたしだ、許可を取ってから行動するよーに。
文句を言う前に、御気楽女は超空間通信波《ハイパー・ウェーブ》を発信。
レーザー通信で針の様に受信可能範囲を絞り、盗聴を防ぐ配慮は完璧に無視している。
たくもう、鋼の無神経!
他に聞き耳立ててる連中が居たら、どーすんのよ!!
頭《たま》に来て、怒鳴ろーとしたんだけど。
間髪入れず、受信装置《レシーバー》が鳴る。
激怒《ヒス》る時機《タイミング》を完璧に外され、あたしは声を呑み込んだ。
「星間共通信号、『神も仏も在るものか』。
通信を切れ、直ちに合流する」
ふざけた星間共通信号《コール・サイン》を考えたのは、タロスだ。
クラッシャーの連中以外に、こんな返事を考え付く奴は大宇宙に存在しない(たぶん)。
簡潔で味も素っ気も無い通信文は、ダンの考案だろう。
おじ様は、何時だって真剣《マジ》なんだ。
「あいつらって結構、律儀なのよね。
口が悪いのは玉に瑕だげど操縦士も長身、まあまあ美形だし。
おじ様は渋くて頼り甲斐があるし、荒事に強い有能な奴隷も大歓迎よ」
そこまで言うか、この阿呆女。
まぁ、アトラスに聞こえるよーな大声じゃないから良いんだけど。
後で操縦席の録音装置《レコーダー》を取り外せば、強請のネタになるかな?
クラッシャーに寝顔を見せるって脅し、確かに効いたかんね(海の惑星ドルロイ、だっけ?)。
『ダンに聞かせてあげよっか?』って優雅に微笑み、引き攣る顔を見物してやるわ。
宣告どおり、四次元時空連続体に万能タイプ宇宙船アトラスが実体化。
感心な事に出しゃばらず、あたし達のお船を援護《フォロー》の態勢に入る。
よしよし、わかってんじゃない。
主役は、あ・た・し。
ラブリーエンゼル船長《キャプテン》、大宇宙の守護者《ガーディアン》様よ!
奴隷だね、とは言わないけど。
クラッシャーは竜戦士に服従する手下、キンメリア大陸の山賊達みたいなもんね。
「加速140パーセント、ぶっ飛ぶわよ!」
「ひいぃっ!」
ユリの悲鳴は、完璧に無視。
エンジンを空爆発させ、目一杯パワーを引き出す。
慣性中和機構の限界を超え、眼に見えない《パワー》が身体を押し潰す。
構造材が悲鳴を挙げ、とろい相棒は操縦席から放り出された。
黒い破壊者《ブラック・デストロイヤー》、クァールのムギが咄嗟に受け止める。
ユリは操縦席に這い戻り、キンキン声で喚いた。
「乱暴はやめてよ、顔に傷でも付いたらどーすんの!
そんな操縦してっから、ダーティペアなんて異名《あだな》が付くんじゃない!!
みんな、ケイのせいなんだかんね!
カルシウム足りないんじゃないの、カリウム剤でも飲みなさいよ!!」
こいつ、ムギのエサを銀河一の美人に喰わす気か。
こう見えてもあたしは味にうるさいのよ、立派な美食家《グルメ》なんだかんね!
「うっさい、お黙り!
ぼうっとしてないで、さっさと撃ち捲くんな!!
そっち、ご覧!
クラッシャー達は、とっくに獲物を狩ってるのよ!!」
闘いの女神アテナ、じゃなくて可憐な天使《ラブリーエンゼル》。
うちらのお船だって、アトラス以上の戦闘能力を備えてるんだ。
優美な垂直型宇宙船が身を翻し、小型機の編隊を襲う。
数秒後に敵は姿を消し、宇宙の塵と化した。
アトラスの操縦席に繋がった通信回線は閉ざされておらず、女性2人の声を完璧に中継。
華々しい罵詈雑言の応酬が克明に再現され、録音装置《レコーダー》に刻み込まれる。
「…まるで、猪みてーな姐ちゃん達だな。
どうしやす、おやっさん?
通信記録は細大漏らさず提出、って契約ですがね。
銀河連合主席が聞けば、WWWAも消えて無くなりますぜ」
「触らぬ神に祟り無し、と言いたい処だがな。
今回の仕事は銀河連合主席、直々の御声掛りだ。
本来なら雇い主の意図を汲む所なんだが、こんな物は聴かせられん。
御守り役の俺達まで、肩身が狭くなる。
アトラスの封印記録《ブラック・ボックス》もバラして、加工しとこう。
ガンビーノ、頼むぞ。
消去する前に複製《バックアップ》を作成して、丁重に贈呈する。
こんな放送を宇宙全体に流されるのは御免蒙る、大迷惑だと伝言《メッセージ》を添えてな」
老練な先輩と経験の浅い後輩の顔が綻び、チームリーダーの決断に賛同。
全員の思考を代弁した操縦士、長身の優男の横顔も緩む。
バクテリアン軍の第一次防衛線、人工太陽の密集地帯を銀色の宇宙船は苦も無く疾走。
クラッシャー・フォーメーション、障害物回避の魔術を封印した儘で優雅に駆け抜けた。
対照的に後続の宇宙船、ラブリーエンゼルは一直線に狭間を突破。
草原を疾走する瞬足の豹、一直線に獲物を襲う獰猛な鮫の様に獰猛な機動で前に出る。
火球を吐く真紅の伏兵、火竜《ファイアー・ドラゴン》も破壊光線で貫き邪魔をさせない。
最短距離を突き進み、広大な宇宙空間に到達すると最強の敵が現れた。
巨大な黄金色の翼が翻り、鋭い嘴から高熱の塊を撃ち捲る。
7方向に拡散する青い炎、操気弾も動員して侵入者《インベーダー》に立ち向かう。
不死鳥《フェニックス》の邀撃は総て避けられ。頭部を破壊光線が直撃。
真紅の炎を纏う巨大な鷹が砕け散り、