宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥、シドニー・シトレ統合作戦本部長の臨席する会議室。
自由惑星同盟軍の艦隊指揮官と幕僚を集め、帝国領侵攻作戦の周知徹底を図った場に於いて。
ヤン提督は論理的矛盾を突き、冷静沈着に補給の重要性を指摘。
フォーク准将は戦意不足、弱腰と詰り事実上の無為無策を糊塗するが。
居丈高に権威を振り翳し、机上の空論に固執する態度が熱血漢の逆鱗に触れた。
ムーア提督は堪忍袋の尾を切り、単純明快に『無能!』と断言。
虚栄心の強い参謀は痛烈な罵倒を浴び、真実を指摘された精神的衝撃で凍り付いたが。
泡を吹いて卒倒してしまい、侵攻作戦の概要を説明し得る者は皆無とあった。
皆の前で転換性ヒステリー症、神経性盲目の症状と軍医は告げ艦隊司令部の面子も丸潰れである。
第六艦隊の指揮官が単刀直入、在りの儘に真実を告げた事を誹謗される理由は無いが。
闘将の参謀長としては、見るに耐えぬ事態を収拾せねばならぬ。
私は類似の症状で卒倒した兵士を介抱した経験がある、と唱え傲慢な参謀に接近。
体温を上げる為に血流の循環を促し、頬と額に掌を当て硬直した筋肉を弛緩させる。
「ゆっくり深呼吸して、息を整えるのだ。
身体が暖まる感覚に浸り、嫌な事は総て忘れろ。
此の場に居る者は総て、信頼の置ける味方だ。
緊張の源となる嘘は吐かず、心の鎧を脱いで真実を話せ」
数秒後、フォーク准将の瞳に光が戻った。
侵攻作戦の概要、補給を無視した暴論に過ぎぬ事は既に判明している。
無謀な試案が最高評議会、国防委員会の承認と後援を得た理由を問うたが。
先刻の険しい面相と異なり、赤子の様に穏やかな表情となった策謀家は素直に回答。
高級参謀の唇から驚くべき陰謀が暴露され、会議場は騒然となった。
宇宙艦隊司令官ラザール・ロボス元帥は重症の麻薬患者、事実上の操り人形。
フェザーン勢力、地球教団所属の麻薬密売業者が結託し蠢動している。
自由惑星同盟の最高評議会議員、国防委員長も陰謀に加担と告白。
具体的な手段を尋ねたが、唇を開く度に答が異なる。
会議出席者の大半は病的に肥大した自尊心、精神疾患者の夢物語、妄想と断定。
強硬に帝国領侵攻作戦の実施、延期は拒絶の論陣を張ったが。
シドニー・シトレ統合作戦本部長、ピュコック提督、ムーア提督は激怒。
ロボス元帥の異常な精神状態、不可解な黙秘を問題視せず虎の尾を踏んだ。
「宇宙艦隊司令長官の異状、沈黙が言語道断な事は赤子でも解るぞ!
侵攻作戦の実施を唱え、現実を認めぬ貴官達も陰謀の一味と判断する!!」
統合作戦本部長の怒号が轟いた瞬間、数名の参謀が隠し持っていた銃で威嚇。
ラップ少佐、ヤン提督の表情も凍り付く。
「ロボス元帥の指揮権を奪い、反乱を煽動した罪で逮捕する!」
フォーク准将に偽りの《記憶》を植え付け、真実の秘匿を図った黒幕。
麻薬中毒患者を操る驕慢な参謀の同類、ベイ大佐の絶叫が終わる前に。
私は真横に突き出された銃を奪い、反逆者の眉間を撃ち抜いた。
後で知ったが第六艦隊の参謀長は普段、猛将の宥め役に徹する人物であったらしい。
シトレ元帥を狙った参謀達は
ベイ大佐から奪った銃が機先を制し、反逆者達を連射。
ボロディン提督、ウランフ提督、ホーウッド提督の面を安堵の色が過ぎる。
私は複数の提督達から賞賛の言葉を戴き、統合作戦本部長に意見を求められた。
侵攻作戦の実施前に補給態勢の構築、攻勢終末点の確定が必須である事は自明の理。
イゼルローン要塞を盾に帝国軍の侵攻を阻み、準備が整うまで時間を稼ぐ。
至極当然と思われる献策もまた、出色の出来であったらしい。
会議の場で軍の重鎮に銃を擬す暴挙に及び、陰謀の秘匿を図った参謀達の処罰は当然だが。
地球教徒を操る黒幕は最高評議会議員達と組み、自由惑星同盟を手中に収めつつある。
魔術師の毛嫌いする精神的怪物、ヨブ・トリューニヒト国防委員長は鍵を握る存在と思われるが。
ヤン提督邸を襲った憂国騎士団、愚連隊の他にも武装した地球教徒が護衛。
非合法組織の麻薬密売業者、ハイネセン警察の機動隊も私兵として操っている。
「ラップ少佐、地上戦に最も強い部隊の指揮官は誰だ?」
「
イゼルローン要塞を陥とした後、防御司令官に任命されています」
「当会議の内容は他言無用、軍内部の暗躍者を駆逐するまで緘口令を敷く。
准将と個人的に会い、
私が陸戦隊の指揮官を抱き込み、独断で動いた態を装う。
万一の場合、後を頼む」
統合作戦本部長と提督、主要参謀達が一斉に敬礼。
私は情報端末の操作、裏技に長けた者の手を借りる為に部屋を出た。