•シュウメイくん×ボタンちゃんカップリング作品(シュウボタ)
•「星をなぞる日」本編と世界線は同じですが、上記二人が結ばれる未来に突入しているイメージです。本編では結ばれません
(「セギン×シェダル:ひだまりの温度」と同じ世界線です)
•いじめ描写ほぼ無し
•妄想回路暴走中
•いつもより好き放題書いてます
•続編が書けるかはわかりません
お題をくれた方:なんちゃってアルゴンさん(ID:286383)
ご協力、心より感謝いたします。楽しめる作品となっていましたら光栄です。
「とても良い感想戦でござった…ボス殿の審美眼が光っておられたでござる」
「ここまで考察捗るのはやばい。楽しい…」
シュウメイは本を眺めながら、スマホロトムの向こうのボス、ボタンと小説について語り合っていた。好きなことについての二人の熱量は火山噴火レベルの代物であり、ピーニャやメロコを置いてけぼりにしてしまう。それを申し訳なく思いながらも話すことをやめられない二人は、「ならば二人で話せばいい」と力技の答えを出した。ちなみに現在はお昼休みの真っ最中だが、会話が始まったのは1限目開始時刻からである。
「さすがに、お腹空いたかも。ちょっと食べてくる」
「承知。そろそろピーニャ殿たちも帰ってくるであろう。丁度良い休憩時間にござる」
通話がぷつりと切れたところで、ピーニャからメッセージが送られてきた。メロコと二人で買い物に行ってくるとのことだ。彼女の好きなアクセサリーショップに、待望の新作が入荷したので見に行くらしい。
写真も付いて送られてきたが、にっこにこのピーニャに対し、彼女はいつものとおりに恥ずかしそうにしている。
「これは…遠慮したでござるな、メロコ殿。ピーニャ殿の前では通用するはずもなかろうに」
鞄を開けていると、ボウジロウが羨ましそうにこちらをのぞき込んでいる。その眼差しに答えるため、彼はとっておきのものを取りだした。
「しゃけは、お好きでござるか?」
自分の分のおにぎりのフィルムを噛んで引っ張り、片手で器用にフィルムを剥がす。ボウジロウの食べ方はまるで小さい子そのもので、海苔がめくれてなんとも悲惨な状態となっている。お米が落ちてしまわぬようにもう片方の手で補助をしているのだが、本人が食べることに夢中なので安定感は少ない。
それにしても、部屋の中で誰かを食事を摂るなどいつぶりだろうか。幼い頃に仲間はずれにされてからは、教室にいるのも苦しくて、いつでもどこかで隠れて食べていた。階段の裏に屋上の手前、誰も来ない踊り場。いじめっ子達に見つかっては、新しい場所を探していた。
けれどももう、そうすることはしなくていい。この隠れ家に居られるのだから。しゃけに辿り着いたことに大興奮しているボウジロウを見ていると、メロコが可愛がる理由がよく分かる。この子と彼女がいてくれたから、「助けて」と言うことが出来た。その時からずっと、夢を見ている感覚が抜けないのだ。
これほどまでに現実感のない現実とは、一体なんと呼ぶのだろうか。感情さえも雲のようにふわふわとして、喜怒哀楽の区別はできるが具現化ができない。毒の飲み過ぎで麻痺を起こしたかのごとく、全てに現実味を感じられないのである。
一人でも歩いていくために手放したたくさんのものが、恵みの雨となって降り注いでくる。進んでいたはずの洞窟をいつの間に出ていたのかすらもわからない。雫を受け取りたくて伸ばした腕に染み渡るそれは、少しずつ心の方角を変えていく。それがとても心地よく、同じくらいに恐怖でもある。目が覚めて、全てが夢であったなら、それを受け入れることは果たして出来るのだろうか。
「…夢か、
願わくば、果て無き夢であれば良いでござるな」
最後のひとつを食べ終えると外からは爽やかな風が吹いて、靡いたカーテンに身体を一瞬だけ包まれる。銀色の髪が窓際から入る光に照らされ、一瞬だけ輝いた。それをそっと閉じるようにフードをかぶり直すと、無事にボウジロウも食べ終えられたらしく眠たそうな顔をして座っている。お米が至るところについているので取ってやり、代わりに食べてから抱っこをして寝床に寝かせた。今日くらいの日差しならひざ掛けをかけたら暑すぎになってしまうだろうと、きれいに畳んで端に寄せる。
マスクを付け直してほっとしていると、スマホロトムのバイブレーションが連続で鳴り始めた。急いで画面を確認すると大量の電子書籍が送られてきている。どんな作品か確認する間も無いまま、ボタンからの着信が来たので通話を始めると、何やら必死そうな声が聞こえてきた。
「…シュウメイ、手伝って!」
通話しつつも作品の表紙をいくつか眺めると、全て女性向けの作品だった。ボタンが言うには、「これは資料」との事らしい。
「…して、ボス殿の考えをお聞かせ願いたい。この『資料』から何を学べと?」
「………『恋愛』、を!」
「れ、『恋愛』…?」
「…メロちゃんが最近、すごくかわいくなることがあるん。もともとかわいいけど」
「それが『恋愛』とどのような関わりが?」
つい一昨日の日のこと、ピーニャはボタンと通話をしながらギターを弾いていたという。そこへ休憩がてらにいつものお礼も兼ねて、お菓子を差し入れようとメロコがカップケーキを買ってきた。だが彼も彼でお菓子を用意していたので、自分のは日持ちするものだからとお茶を淹れようとした。彼に休憩をしてほしいのに動かせてしまったので、彼女なりの気遣いの言葉をかけたらしい。
「メロちゃん、なんて言ったと思う?」
「…想像に容易いでござるな」
彼女は「動くな」と言ってしまった。そして彼を無理やり座らせ、自分で全てやろうとした。カップを取ろうと戸棚に手を伸ばしたが見事に届かず、ボウジロウに手伝ってもらおうと振り返ったとき、ぽすっと何かにぶつかる。いつの間にか背後にいたピーニャに抱きとめられたのだ。
恥ずかしさが全身を駆け巡り、走って逃げようと辺りを見回したが部屋の角のため道は細く、無理に動くと更にぶつかってしまう。右も左も後ろさえも、行き止まりになってしまったことに耐えきれずに何でいるのかと怒ったところ、メロコでは届かないと思ってと彼は返した。カップを置いて「危ない目に合わなくてよかった」と笑うピーニャの腕の中で、悔しそうに、でもとても嬉しそうにしていた彼女を見て、ボタンは確信したのだ。
「…うち、恋愛経験ないけど、あれは恋する女の子の顔だと思って…」
「表情にて判断可能なのでござるか?」
「もともとは…出会ったとき、メロちゃんはあんな顔する…できる子じゃなかった。酷いことをされすぎて、人のことが怖いって、ずっと言ってるみたいな顔してたんよ」
「ふむ…それを解きほぐしたのがボス殿とピーニャ殿、ということでござるな」
「え!?うちはそんなんしとらん!ピーちゃんのおかげ」
何故だが遠慮をし始めたボタンにシュウメイは困惑した。あんなに助けてもらったのにと自分でも思っているのだ。確かにメロコとピーニャの力添えもあったが、それでは届かないようなことをやってくれていたのにと感じていたのでなんとか伝えようと言葉を選ぶ。
「ボス殿、その謙遜は
彼が考え込む姿勢になるのを止めるように、スマホロトムの向こうから慌て声が聞こえる。
「ま、待って!今はうちの話じゃないから、あとで!
今はメロちゃんのことを相談させて!」
照れているのか、怯えているのか分からないような雰囲気に、シュウメイの方が折れざるを得ない。腕を組むのをやめて電子書籍の方へ視線を戻すと、それにほっとしたのか先程の続きを話し始めた。
「えっと、えっとね。恋愛経験ない、から…小説とかで勉強して、メロちゃんの役に立ちたいなって。
でも、うちが恋愛とかするはずないし、甘ったるいし、その…一人じゃ読めないから、手伝ってほしいんよ」
ボタンのその言葉に、ほんの少し胸が傷んだ。彼女もまたいじめられていた側で、人との関係性への未来を見出すことが難しくなってしまっている。けれどもそれが彼女と自分を繋ぐ共通点であるなら、助け合ったり、補い合ったりする事ができる。頼られたことも嬉しく感じたシュウメイは、一度頭を下げた。
「仰せのままに、なんなりと」
彼の中での感謝の意を伝えるための仕草だったのだが、彼女にとっては特殊な「ツボ」に入るようで、突如として冷静な返事をされた。
「実写最高なんだが。録画していい?」
「2.5次元ではないでござるよ…」
二人は同じ作品を読み進めつつ、理解のできないシーンについては意見を出し合い、見解を深めた。登場人物たちの心情はなんとも理解し難いが、物語の展開には面白いものがある。とあることに気づいたシュウメイは、ボタンに向かって声をかけた。
「ボス殿、大事なことをひとつ伺いそびれていたでござる」
「ん?なに?」
「肝心のピーニャ殿は、メロコ殿をどう想っておられるのか…我には想像もつかないでござるよ」
それがスイッチだった。ボタンの中の気持ちが熱となり、高速タイピングのように言葉がずらずらと並べられていく。
「それ聞いちゃう!?止まらなくなるけど?
うちはピーちゃん脈ありだと思ってる。距離近いし、嬉しそうだし。というかあの子たちはかわいすぎる」
「ボス殿?」
「カップの話の後なんだけど、ピーちゃんその日ずっとギター弾いてたんよ。なんかうまくいかなかったみたいで。
でもメロちゃんがそれをイカすからもっと聴かせてって言ったら、もうノリノリ!ポケモンセンターで流れてる曲ギターアレンジしてたもん」
「それは聴いてみたいでござるな」
「めちゃめちゃかっこよかった。ピーちゃんハイスペ。
極めつけは今日!二人でお出かけしてるし、しかも二人から同じタイミングで同じ内容のメッセージ、送られてきて!
安くておいしいご飯のお店知ってる?って。位置情報送るから、近い場所にあったら教えてって!『シンクロ』しとるやないかい!かわいすぎるわ!!」
バンバンバーン!とリズミカルに机を叩くような音が聞こえてきたので、あの二人のことが本当に大好きなのだと伝わってくる。二人に幸せになってもらいたいという、優しい彼女の心に触れていると彼女自身にも良い未来があれば良いという思いが募った。
誰かのことをひたむきに思うボタンの力になりたくて、もう一度気合を入れ直し、小説のページをめくる。
「脈ありならば、我らが力をつければうまくいくやもしれぬ。そうと決まれば履修を進めるでござる」
「そ、そだね。気を取り直して…」
彼女にクールダウンを促しつつ、再び勉強を再開した。
刻々と時間は過ぎ、時刻は6限目を回った。お出かけ二人組は未だ帰ってこないままだ。
暖かな午後の温度が心地よく、物語も面白いので小説を読む手が止まらない。主人公たちの色とりどりの感情は自分の中には無いものだが、読む分には興味をそそられる。送られてきた2冊目を読み終えると、ため息が聞こえてきたのでスマホロトムの方を見た。
「うう…やっぱり甘ったるすぎる…。これが恋愛……。
シュウメイは大丈夫?疲れてない?」
へとへとになっているボタンが身を案じてくれているが、そちらの方が心配だ。せめて元気づけられるようにと返事をする。
「我は問題ないでござる。未知の世界感や感情を勉強するのに、とても良い機会になったでござるよ。物語も面白く、ボス殿には感謝しかござらん」
シュウメイの言葉に何かが引っかかったのか、彼女は
「未知…ってことは、シュウメイも、あんまり恋愛とか考えたことなかったん?」
その手が自分の過去にそっと触れようとしているのを感じる。隠すことも無いだろうと、彼はそれを握り返した。
「…幼少の時より、『人間』の友達がいなかったでござるから。恋愛など考えたことも無かったでござるよ。
合気道の稽古場も大人ばかりで、我一人浮いている状態なのでござる」
「…そっか。だからあんなに強かったんだ…。大人の人と、同じレベルでお稽古を……。
うちも、小さいときから、友達いなくて。どうしたらみんなと同じふうになれるかもわからんくて。だからシュウメイの気持ち、わかるかも」
スマホロトムの向こうで穏やかに微笑む彼女のことを思うと、どうしても納得できない気持ちが生まれていく。何故彼女がいじめられなければいけなかったのか、アカデミーに来られなくなるまで追い詰められなければいけなかったのか。どうして誰も、彼女を助けなかったのか。
悔しい思いが湧き溢れ、飲まれそうだと思ったとき、ボタンからやさしげな声が発せられた。
「…だから、ずっと…ずっと、夢見てるみたい。
話せる人がいて、相談させてくれる人もいて。なんか、うちが…『ここにいる』感じ、すごくする。って言っても、スマホロトム越しだけど…。
だから、できること全部やりたくて。もしこれが夢だったとき、覚めちゃっても後悔しないように…」
シュウメイははっと目を見開いた。彼女も自分と同じような感覚で、今ここにいる。彼女の強さと儚さが心臓に突き刺さり、波が引くように負の感情が遠のいていく。ボタンが誰かのためにがんばるのなら、彼女のためにがんばるのは自分でありたい。そうでなければ今までの苦労に釣り合わない。彼女には、今までに受けた苦しみを超えるぐらい、幸せになってもらいたいのだ。
「夢では…ないでござるよ。ボス殿」
「え…」
「我がその証となろう。ボス殿が確かにここにいること、存在することの証明に。
同じようなことを考えていたのでござる。我もまた、夢のようだと感じていた…。居場所がある事は、当たり前ではない故。
ボス殿の祈りは、我が全て叶えて見せる。それが恩を返すということ…。ボス殿の願いは、我の願いでござる」
有るがままの気持ちをありったけに込めて、届くようにと言葉を繋いだ。すると涙ながらの、震えた声が返ってきた。
「……やだ…」
「『やだ』!?…申し訳無い!変な事を口走っていたでござるか!?」
「…そうじゃない!シュウメイだってちゃんとここにいる。夢じゃない!」
ボタンの涙は、彼女自身に向けられたものではなかった。自分を思って泣いてくれる彼女の姿が、とても尊いもののように映る。
鼓動が全身に回るのは、「今ここで生きている」感覚を教えてくれているからだ。恵みの雨のもととなった「手放したもの」の中には、彼女やピーニャ、メロコから絶え間なく注がれる、「自分が確かにここにいる」ことを知ってほしいという気持ちが含まれているのかもしれない。
「ボス殿、お願いが…あるでござる。
…我の……ここにいる『証』に、なってくださらんか」
大分贅沢なことを頼んでいる。それによる申し訳無さを噛み締めながら伝えたが、想像とは違う角度の答えが返ってきた。
「だったら、恩返しとか、無しにして。
利害とかじゃない。シュウメイに、ここにいてほしいから」
頬をぷくっとさせているのか、ボタンは少々怒っているようだ。それがあまりにも可愛らしいので、シュウメイはふふっと笑った。
「承った。そんなふうにお願いされたら、断れないでござるな」
「……なんで笑うんよ…」
「言ってもいいのでござるか?」
「やっぱナシで。やな予感する」
彼女の頭の回転の速さに、流石だと関心しながらも伝えたかったのにとも感じる。どうやって伝えたら裏をかけるのかと考えていると、ボタンからお礼の気持ちを伝えられた。
「改めて、ありがと。顔も知らないうちのこと、こんなに気にかけてくれて」
そう言われてしまうと、「会いたい」と口走ってしまいそうになる。けれども彼女には彼女の理由があって、今の在り方をしている。一番この場所に居たいと願っているのはボタンに違いない。
それを諦めるほどのつらい事や理由があるのだろうと自分に言い聞かせるが、どうにか解決できないかという気持ちが消えない。
なので考え方を変えてみる。彼女は部屋にこもりきりだが、全く外出をしないという訳ではないはずだ。どこかで不意にすれ違ったりしたときに、自分を識別してもらえるようにと工夫を凝らす。
「ボス殿だから気にかけるのでござる。先程伝えたとおりで、ボス殿のことをみんな支えにしているのでござるよ」
「わっ、待って!その話は後で!」
明らかに自分の話題になると逸らそうとするボタンを見ていると、二人で読んでいた恋愛小説のヒロインを思い出す。もし小説から学んだ通りであるなら、直接聞いて確かめればいい。
「照れておられるのでござるか?」
彼女は黙りこくってしまった。ここは畳み掛けるところだと、シュウメイは予習の通りに駆け引きをすることにした。
「返事をされないのなら、照れていると認識するでござる」
「…うう、後で!後にして!」
「後なら聞いてくださると?」
「そう、後なら聞く!」
一生懸命にはぐらかそうとしているので、それが有耶無耶にされないようにと柔らかく釘を差す。
「
「は!?」
「では、それはまた後で話すとして…」
「ちょっと待って!何を企んで…」
「我の妙案を聞いてほしいでござる」
「強引だな!」
スマホロトムの向こうであたふたする姿が目に浮かぶ。笑いを必死にこらえながら、自分の顔を指差した。
「…同じ学校に通っているのなら、どこかでボス殿とすれ違うやもしれぬ。その時に我のことを見つけやすいように、素顔をボス殿に見ていただこうかと」
「いや、そんなエキセントリックなパーカー着てたらそっちの方が目立つでしょ…」
「それはそれで嬉しいのでござるが…
ボス殿が『顔も知らないのに気にかけてくれてありがとう』と仰っておられた際に感じたのでござる。我もほぼ顔を隠してばかりだと」
「…忍者リスペクトだからいいんじゃね?
確かにカメラ越しだとフードの影で、あんまりよく映らないけど…」
「違うのでござる。我が、知っておいてほしいと思ったのでござるよ。助けてくださったことを、いつか直接御礼を言えればと考えていたでござるから」
フードに手をかけて上げようとすると、ボタンが叫び始めた。
「ま、ちょ、ほんとに待って!!
心臓に悪いって!だって、なんか……パーカー変える前に目元、見えてたけどきれいだったもん。だから無理!!」
スマホロトムにぷいっとされてしまった。言っていることがよく分からないが褒めてくれていることはわかる。なんとかこっちを見てもらえないかと、言葉での誘導を試みた。
「そちらを向いてしまわれるなら、ボス殿をみんながどう思っているかの話でもするでござるか」
「あ!?それ、後でって!」
「もう、すっかり『後』でごさるよ。後でなら、聞いてくださると仰られておられたが」
「な、な…」
今頃小説のヒロインのように、ふるふるしているのだろうと思われる声色だ。履修した物語をなぞらえるような展開になってきている。
ここで少し驚かせようと、シュウメイはごそごそと手を動かしながら話を続けた。
「我らにできないことを補ってくださるのがボス殿でござる。データで証拠を取って置くなどどうやればよいのか、皆目検討もつかないでござるよ。
ピーニャ殿とメロコ殿も、ボス殿の『二人を守りたい』という気持ちに感づいておられるはず。だからこそ、ボス殿を守ろうとがんばられているように見えるでござる。我もそのようになりたく、できることを探したくなる…。助け合っていきたいのでござるよ、ボス殿と」
「…もう聞いた!十分!だから…」
カメラを元の向きに戻すと、なんと彼はマスクを外していた。その代わりにフードを深くかぶり、鼻から上は見えない。両手をこちらに振りながら、にこにことしている。
飲み物か何かを強く吹き出した音がして、またしてもボタンは叫ぶ。
「心臓に!悪いって!!ドキドキさせないで!!」
ガタン、ガチャンと物が倒れるような音まで聞こえてきたので、流石にやりすぎたかとすぐにマスクをつけた。
「す、すまぬ。少しずつならよいかなと…」
「やばっ、こぼした!キーボードは!?無事か…
あっ、待って!サンダース!今拭くから、ちょっと!」
画面の向こうでは大騒ぎが起きているようだ。反省しなければとうなだれていると、画面の切り替わる音がした。それに反応してスマホロトムに目をやると、なんとボタンの後ろ姿が一瞬だけ映ったのだ。
暗い部屋の中ぼんやりと見える、水色と赤が混ざった短い髪と、大好きなのであろうイーブイがプリントされたパーカーを食い入るように眺めた。
「…ボス殿…?」
するとそれを遮るように、彼女の手持ちであろうニンフィアがカメラをのぞき込んだ。笑顔でこちらにウィンクをした後、通話が終了して何も映らなくなった。
ボタンの姿を見たことで、一気に現実感が湧き上がる。
彼女の「ドキドキさせないで」と言う言葉が恋愛小説のヒロインとリンクし、そのセリフが使われたシーンを思い出すと、好きな相手に向かって使われていたことに気づく。
「えっ………!?」
急いでフードとマスクを外し、カメラで自分の顔を見ると、耳まで赤くなっている。自分が彼女を誘導したときの気持ちでさえも物語の描写と同じで、想っていることを伝えているとき、可愛い態度を取られるとどうも刺激したくなってしまう。
彼女がどんな表情をしていたのか、想像しようとするだけで鼓動が早くなる。その事実に顔をしかめ、左手で口を塞いだ。
これは劇薬だ。毒とは比べ物にならないほどの。
「……飲み干せ、と……。
確かに、甘すぎるでござるな……」