異例なセカイの相談役になりました 作:クアのトロ
更新は多分不定期。
夢というものにはいろいろな意味がある。
将来実現させたい事柄、現実から離れた楽しい空想や考え、そして睡眠中に見る現実の経験のように感じられる心象。それら全てに意味があると僕は思う。
将来のことを思い夢を見るのはいいことだ。何せなしたい目標ができることで活力がわいてくるというものだ。
楽しい空想に浸るのもいい。そう言った時間こそが心を癒し、豊かにしていく。
夢も内容によってはいいと思う。良い夢は気分を良くするに違いないだろう。
さて、ここまで余計なことを考えていたが一旦僕自身の状況を説明しよう。
白く霧が立ち込めた場所にぽつんと佇む白く塗装された木製のカフェテーブルに椅子が二つ。空には数多の星々がキラキラと光を放っており、濃紫色の夜空に映えている。
そんな光景で立ち尽くす僕、
なぜかって?それはね。
「どこなんだよここは……」
僕も知らない。
というか僕が知りたいくらいだ。なんでだよ、さっき寝たばっかなんだぞ。今日はなんか心地よく寝れそうだなーって寝ころびながら思った矢先にこれだ。
意味が分からないことが多すぎて思考がまとまらない。
「ふふふっ、ようやく来たのね」
頭上から声がする。……ん?頭上?
声がした方向を見上げると空中に浮かび、こちらを楽しそうに微笑みながら眺める少女が一人いた。
人って飛べるんだな……いやそうじゃなくて。
「浮いてる……?なんで??」
「あら、あまり驚かないのね?驚くと心臓止まっちゃうっていう噂があるらしいから見たかったのに残念」
「いやそれただの言葉の綾だし、驚くたびに心臓止まったら命がいくつあっても足りないよ」
「それもそうね」
そう言って少女は地面に降りてきた。
夜空と同じ色の濃紫色と所々星の意匠が散らされた衣装に灰色の音符型の髪留めを前髪に止めている。髪はツインテールにまとめており、先に行くにつれて美しい緑色から色素が抜け落ちたような白色にグラデーションがかかっている。
顔は……どこかで見たことあるような……?
少女はにこっと微笑んで口を開く。
「私は初音ミク。よろしくね、燈里」
「ああうん……うん??」
初音ミク。そう聞こえた気がした。いや、間違いなくそう言っていた。
待ってほしい。初音ミクってのは現実には実在せず、言ってしまえば架空の存在だ。バーチャルシンガーと呼称される仮想世界の歌い手であり、合成音声でどんな曲でも歌いこなせるため彼女の歌は電子の海に数多に存在している。それ故に『電子の歌姫』という二つ名がつけられるほどすごい存在なのだ。
だから今の状況が理解するのを拒む。目の前にいる少女が「自分は初音ミクです」って自己紹介して「あ、そうなんだよろしく~」って流す馬鹿がどこにいるというのか。そう返せるならそいつはとんでもない大物だろう。
いや待てよ。目の前にいるのが本物ではなく着ぐるみを着た誰かなのかもしれない。それか完成度の高いホログラムかそれに似た何かか。
目の前に立った自分をミクだという少女に手を伸ばして頬をつまむ。
触った感じはすべすべで張りがあり、いかにも女の子といった触り心地がする。もちもちのクッションとか触ってて癖になるようなもののそれに近い。
ムニムニと頬を触っているとされるがままになっていたミクが不満げな唸り声をあげる。
「むー、いきなり触るとはどういうつもりなのかな?」
「……あ、ごめんつい」
つい、で触っていいものではないだろうが触ったことでわかることもある。
人だ。目の前にいるのは幻覚でもホログラムでもない。ちゃんとした人が、聞いたことのある声とあまりに有名すぎる名を持った少女が、目の前に生きた状態で存在している。
理解を拒んでいた脳が現実味のない状況に痛みを伴いながら悲鳴を上げ始める。もう一回寝ればこの変な状況から抜け出せるのかな。うん、多分そうだそうに違いない。
思考を放棄してもう一度眠りにつこうとするが、目の前のミクはそれを許さない。
「何寝ようとしてるの。はい、ここに座る」
その場に横になって寝ようとする僕の腕を掴み、カフェテーブルの近くに鎮座している椅子を指さす。
無視して寝ようとも思ったが、目をつむっても寝れる気がしないし掴まれた腕の感覚でわかるのだが、このミクは多分力が強い。がっしり掴まれており、振りほどける気がしない。
こんな細腕から出していい力じゃない気がする。下手すると男の僕でも負けてそうで心にダメージを負いかけるが、さすがにないだろと頭を横に振って嫌な考えを振り払う。
寝ることを諦め、ミクの言うとおりに椅子に座る。椅子の作りは簡素だが、意外としっかりとした作りなのか座っただけでも丈夫なものだとわかる。
「さてと。さっきのは不問にするとして、いろいろと説明をしないとね」
「説明?説明ってなんの……」
「今燈里の陥ってる状況の説明。ま、今回は簡単にだけどね」
正直願ってもないことだ。僕の頭ではどうしても今の状況が理解しきれない。というよりわからないことが多すぎる。
目の前に座る初音ミクのこともそうだし、なぜこんな意味の分からない場所にいるのか。
理解できないことが次々に浮かんで唸っている僕を尻目に、ミクはこちらに手を出して微笑む。
「さて、それじゃあ……うん、まずはこれだよね。
―――ようこそ、セカイへ。待っていたよ燈里」
そうやって微笑むミクの優しそうな表情と裏腹に、何かとんでもないことに巻き込まれているんじゃないかと不安になるのだった。