異例なセカイの相談役になりました 作:クアのトロ
親指でやるの難しいけどフルコンできると嬉しくなります。
まだ下手だけど練習あるのみ…!
「―――ようこそ、セカイへ。待っていたよ燈里」
目の前に座り、微笑みながらそう言うミクは心底嬉しそうで、いうならば待ちに待ったといった様子だった。
何がそこまで嬉しいのかがわからないのだが、先程から感じている違和感がある。
「ここは―――」
「タイム。ちょっと待った」
「ん?何かな?」
「なんで僕の名前を知っている?自己紹介した覚えなんてないんだけど」
「あぁそういうこと」
僕の疑問は当然のことだと思う。現実にいないはずの初音ミクに当然ながら僕は会ったことなんてない。もちろんミクも僕には会ったことがないはずだ。
そういう初対面にもかかわらず名前を知っているのか、たぶんそれが違和感の正体だと思う。
ただミクはその疑問に驚くこともなくケロッとしている。
「
「いつも……?それに世界を生み出した想いの持ち主って」
「それを今から説明するの。質問は後で受け付けるから今は黙って聴聞するように」
いつも見守るって、それに世界を生み出したって一体どういうことだ…?
そういった疑問もミクの話で払拭されればいいが、と思いつついったん頭の中の疑問を端に追いやる。
ミクは咳ばらいを一つして話し始めた。
「まずこのセカイの説明。セカイっていうのは誰かの想いでできるものなの。そしてここは君の想いでできたセカイ。だけど……」
セカイというものが何かを話したところでミクの表情に曇りが見える。一瞬言い淀んで僕を見据えて言葉を発する。
「普通なら『Untitled』っていう無題の曲を再生することでセカイに入ることができる。けどここはそうじゃないの。ちょっとだけ他とは違って不安定でね」
「不安定ってことは崩壊するとか?」
「そこまでじゃないかな。精々自由に出入りができない、君の意思で入ることができないっていう制約があるくらいだよ」
そこまで聞いて少しホッとする。不安定と聞いて思い浮かんだのが突然床が崩れたり空が割れたりと想像したがそういうことはないそうだ。
そんなこと起きようものなら心臓が止まる程度で済みそうもないけど…。
「あーあと一つ。ここに燈里が入れるのは意識がない時で私が呼んだ時だけだね」
なるほど、なんとなく僕の今の状況が読めてきたぞ。
僕の最後の記憶は寝る前にベッドの上に転がった時のものだ。その後寝て意識がなくなった状態で僕はミクに呼ばれこのセカイに来たことになる。
そうであるならミクの説明にも納得がいくが、そうなると疑問が一つだけ浮かびあがる。
「じゃあなんだけどさ、現実で寝ているはずの僕がここにいるってことは今ベットの上はもぬけの殻ってこと?」
「ううん、そうじゃないかな。今ここにいるのは精神のみの君。基本寝てるときに呼ぶことになるから……そうだね、夢みたいなものかな」
「夢、か…。ならここから出たらここの記憶は」
「あなたは覚えておくことができるはずだよ。あなただけは」
なんか含みのある言い方で気になったけどそれほど問題のある内容ではないだろう。
つまり現実の僕は今も寝ており、夢を見ている状態と考えればすんなり理解が進む。まぁかなり突飛で現実味のない話ではあるけども。
ミクは僕が今の状況を飲み込んだところで話を続ける。
「ここからが本題。このセカイは不安定すぎて燈里の本当の想いを見つけても多分歌にはならないの」
「本当の想いと歌?」
「そう。本来は本当の想いを見つけることで『Untitled』が曲になる。そして本当の想いを見つける手助けをするのが私達の役目なんだけどね。こういう状況だからそうもいかなくて……」
そう言葉にするミクの表情は若干暗い。このセカイでのミク自身の役割が僕の本当の想いを見つける手助けってことが正直意外だったが、今それをなせないのはミク的にも本意ではないのだろう。
というより僕の本当の想いってなんだ……?心当たりが一切ないし、過去にそれに繋がるような出来事があったとも思えない。
それにセカイは誰かの想いからできるとも言っていた。だったらセカイは想いの影響を受けるはずだけど……。
霧が立ち込めた夜空のきれいな景色なんて僕は見た覚えがない。
それか想いの影響を受けないセカイも存在しているのか。
情報の多さに唸っていると、ミクは暗い表情から切り替えてパンと手をたたいて明るい表情になる。
「そこで君にはやってもらいたいことがあるんだ!ここの不安定さを取り除きつつ、君の想いを見つけるために!」
「やってもらいたいこと…?」
「セカイっていうのはね、一つじゃないんだ。いろんな人が大切な想いを持っている。そのセカイごとに私のような存在もいるけどね。そこで!君にはそのセカイの子達の手助けをしてあげて欲しいんだ!」
……ちょっと待ってもらいたい。
さっきセカイは一つではなく、複数あると言っていた。ここまではいい。セカイにはそれぞれここにいるミクのような存在がいる。ここもまぁ問題ないだろう。
問題はその次だ。
「待ってほしい。それと
「まぁそこはおいおいね」
「それにミクみたいな存在がいるなら僕の手助けなんて必要ないよね…?」
「それがそうもいかないんだよね。想いを見つける手助けはできても直接的に手を貸すんじゃなくてこう、道を示して背中を押すくらいだろうし、精神面までは面倒見れないというか…つまりはそういうことなの!」
どういうことなのかさっぱりわからない。
「それに、その手助けはきっと君の想いを見つけることにも役立つはずだよ」
「想いを、見つける……」
ミクの言う本当の想いが何なのかが全然わからない。
けど本当にあるなら、そういうものが僕に本当にあるんだとしたら―――
僕はその身に覚えのない想いをどうするんだろう。
「説明はこんなところかな。何か質問はある?」
こちらを見据えるミクに僕は首を振って答える。正直身に覚えのないことや突飛な状況に気圧されたのか、理解しようとするので精いっぱいだ。
聞いておきたい質問が浮かぶほど余裕はない。
「それじゃあ今日はこの辺かな」
ミクは椅子から立ち上がり、とある方向を見つめる。その表情は何かを慈しむように優しく変化している。
何を見ているんだろうと同じ方向を見るとそこには明るくなり始めた空があった。
「この景色好きなんだ。綺麗で、暖かくて」
濃紫色の夜空に広がる青みがかった白色は夜空にきらめいていた星を徐々に飲み込んでいく。その領域が広がるにつれて眩い光が霧で霞む視界の先で姿を現す。
ミクはこれで霧がなかったらな~とぼやいているが、確かにそれがなければ絶景間違いなしだろう。
「さてと、もう夢は終わり。良い子は起きる時間だねってことで」
途端、視界がグラつく。瞼が重く、視界が明滅し、思ったように立てない。テーブルに手をついて体を支えるのでやっとだ。
ミクの方を見ると視界が霞んでいたが確かなのは先程の景色を見ていた表情と同じく優しい表情だったということだけだ。
「最初はこの感覚に慣れないだろうけど、じきに慣れるから」
瞼がだんだんと降りてくる。意識を保とうと意識を強く持つが全く抗えない。
ミクが何か喋っているが、それもだんだんと聞こえ辛くなっていく。
「大――、―は―――想―を―――れる。だ―――時は―――」
ミクが言い終わる前に電源が落ちるかのようにぷつんと感覚が遮断される。
最後に何を言ったのかを聞き取れないまま、倒れると同時に僕の意識は闇へと消えていった。
《♪~♪~♪》
目を開けるとそこは見知った天井だった。
先程までの嘘みたいな光景から一変、いつもの日常に戻ってきた感じがした。
「セカイに、本当の想いか」
記憶に残る信じられない非日常の光景に目が回るような感覚を覚える。その感覚も五月蠅く鳴り響くスマホからのアラーム音にかき消される。
「うるさっ」
手を伸ばして届く位置に置いてあったスマホを手に取ってアラームを消す。
「……ん?なんだこれ」
消す時に目に入ったのはロック画面に表示された再生停止中のプレイリスト。その曲名は『u{tiW�d』という文字化けした文字列だった。
こんなもの入れた覚えがないんだけどな、と思いつつ再生ボタンを押してみるが反応しない。
再生自体ができないのか停止ボタンが灰色になっており、ロック画面ではなく音楽アプリでも同じようにタイトルが文字化けして再生できなくなっていた。
これがミクの言っていた不安定というものだろうか……。
起きたばかりなのに考えることが多すぎる。
「一体これからどうなるんだよ」
まとまらない思考に一抹の不安を覚えつつ、朝から重苦しいため息をつくのだった。