異例なセカイの相談役になりました   作:クアのトロ

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今回から他者視点がたまに入ります。
《♪~♪~♪》←これの色が黒以外の時は他者視点に切り替わります。

黒だと基本は燈里視点になります。
あと今回は前回と比べて長いです。




第一話 夢とセカイと初めまして

セカイという場所に初めて呼び出されてから一週間が経った。

一週間という時が経ったのにもかかわらずあの時に記憶は鮮明に思い出せる。

 

セカイという誰かの想いで構成された世界。そこでは本当の想いを見つけることで想いが歌になるらしい。

正直あの時聞いたことを思い返してみても「何を馬鹿な」と笑い飛ばしてもおかしくない内容で、今考えてもそう思わなくない。

それにそんな馬鹿げたことを言い放った『初音ミク』という存在。ああいう状況じゃなけりゃ反応が違ったかもしれないが、もうそれどころじゃなかった。

知恵熱出してもおかしくない量のぶっ飛んだ情報の波に当分学校休んでやろうかとも思った始末なわけだが。

 

ただそんなことしようものなら笑顔の母さんにじりじり詰められて終わることになる。それだけは避けたかったためしぶしぶ学校には来ている。

 

「はぁ……」

 

「あ?何ため息ついてんだよ」

 

「そういうお年頃なんだよ」

 

「どういう年頃なんだよそれは」

 

滅多に人前でため息をつかない僕が大きくため息をついたことを気にしたのか、目の前に座っていたイケメンが訝しんだ表情で振り返ってくる。

 

オレンジ色の明るい髪の毛に黄色のメッシュが入った手入れの行き届いた髪にキリっとした目は見る人が見れば格好いいと思うだろうが、ほぼ大半は怖いと思うこと間違いない。その見た目からして陽の存在ということは容易に読み取れる。

しかしその見た目に反して好きなことには全力を尽くすという芯の通った努力家である。

 

前にそういうところは尊敬したいと思うが態度は直した方がいいと燈里は思うわけです…と言ったら殺気向けられ鬼のような形相で睨まれました。解せぬ。

そんな努力家少年こと東雲彰人(しののめあきと)がじっとこっちを見てくる。

 

多分悩んでることを少しでも話せば真面目に聞いてくれそうではあるが、内容が内容なため躊躇っている。

だけど友達に隠し事は……でも話しても……うーん堂々巡りで答えが出ない。

 

「まぁいろいろあるんすよ東雲さんや」

 

「口調どうした?そんなんじゃなかったろ」

 

「まぁまぁ落ち着きなされ彰人じいさんや」

 

「誰がじじいだ誰が。朝からコントやる気はねえんだよこちとら」

 

「冷たいねぇ…」

 

当然だろとでも言いたげな目をする彰人。

いやごめんて。そういうつもりじゃなかったんだってば…。

謝る姿勢を見せるとため息をつかれる。僕から仕掛けたことだ、どういう態度を取られても甘んじて受け入れよう。

 

「で、最近様子が変だが何かあったのか?」

 

「へ…?」

 

「へ?じゃねぇよ。明らかに挙動不審の時あったろ。ちょうど一週間前とか特に」

 

動揺は態度や行動に表れるらしいがまさかそんなことあるわけがない。

ここまで先生に目を付けられることなく波風立たぬように過ごしてきたのだ。そんな一つ理解を超えたことが起こったからといってそうそう挙動不審にはなったりしないだろう。

……というのを豪語したいわけだが生憎あの日は朝起きた時点で脳のキャパシティーがオーバーしていたため何が起きていたのかを覚えていない。

覚えていないからといってまさかそんな変なことなんて―――

 

「ほら、授業で当てられたときにもんどりうって椅子から転げ落ちたり変人先輩コンビに交じって馬鹿やらかしたり、変なことやってるかと思えば午後は電池切れたように机で項垂れて呆然としてるし」

 

異常of異常でもはや普段の行いすら消える度合いじゃないか。

というよりなんでそんなおかしすぎる行動が記憶に残っていないんだ!?それだけ変な行動してたら記憶に残りそうなものだし、クラスメイトから変な目で見られててもおかしくなさそうだが……。

 

僕の記憶にない行動の数々に頭を抱えていると、目の前の彰人がくくっと声を出す。

ん?と思って顔を上げてみると必死に笑いをこらえる彰人の姿があった。

こいつ、もしかして…。

 

「ふっ、くくっ」

 

「おい貴様」

 

「い、いや何も嘘はついてなぶっふふ…おっと失礼」

 

「よーしちょっと表に出ようか。久々にキレそうだ」

 

「冗談、冗談だって。悪かったよ」

 

「まったく…」

 

こいつは本当に…油断も隙もありはしない。こっちが隙を見せるとすぐこうなる。

 

彰人とは頻繁に話すようになってからは互いの隙を見てはこうやってからかい合う。やりすぎたときは取っ組み合いにまで発展するが、それもお遊びでお互いに小突く程度なため高が知れているのだ。

仲のいいクラスメイトというよりは悪友とでも表すのが正解だろう。

正直、知り合ったのも初めて話したのも高校に入ってからなのだがここまで仲良くなれたのは彰人くらいだ。中学時代をほぼ孤独に過ごした僕からすれば奇跡みたいなものだろう。

 

ひとしきり笑って満足したのか、彰人はその風貌からは感じられないくらい優しそうな表情になりこっちを見てくる。

 

「それはそうと何かあったら相談してくれよ。いつも愚痴聞いてもらってるしその礼くらいはさせてくれ」

 

「何か裏があったりは?」

 

「しねーよ。なんでそうなる」

 

「いや、やけに優しそうな眼をしてるからなんかこう、寒気が」

 

「あ?」

 

素直な感想を言うとすぐこうなる。というか微笑みを浮かべながら額に青筋浮かべるのやめてくれませんかね、怖いから。

 

「じょ、冗談だよ。何かあったら頼らせてもらうって」

 

「ったく……」

 

ため息を一つついて彰人は前を向てスマホをいじり始めた。彼なりの気遣いというやつなのだろうか。

その心にありがたいと思いつつも話せないことを申し訳なく思う。

 

いつか彼に話せる日は来るのだろうか。彰人の背中を見つつ、そんなことを思いながら目を瞑るのだった。

 

 

 

 

その後夢の中へと旅立ったことは容易に想像できるだろう。そしてHRで爆睡していることがバレて先生からはお叱りを、彰人からは『いいネタもらった』という愉悦感に満ちた笑顔を貰いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜、僕はあの日見た景色をもう一度見ていた。

霧が立ち込める場所で見上げると数多の星がきらめく星空が見える。僕の立つすぐそばには白いカフェテーブルと椅子が二脚。

この景色を忘れるはずがない。というよりも忘れられるはずがなく、強く記憶に焼き付いているのだ。

 

「二度目だね。久しぶり」

 

後ろから聞こえる声に振り返るとそこには嬉しそうに笑顔を浮かべる初音ミクの姿があった。

一週間ぶりだが、前見た姿に変化はないように見え、前来た時に一回見た曇ったような表情は欠片もなかった。

 

「久しぶりっていうほどなのか…?まぁ一週間も空くと思ってなかったけど」

 

「あれ、そんなに来たかったの?なら毎日呼べばよかったかな」

 

前言撤回。毎日はやめてほしい。考え事が増えすぎてキャパオーバーする。

朝に彰人が言っていた作り話が実現してしまう未来にならないためにも毎日はやめてほしい。

 

「呼ぶ頻度はさておき、今日はちょっといろいろあってね。君に任せたいことがあるんだ」

 

「任せたいこと?」

 

ここでの任せたいことというのは、おそらく前に聞いていた手助けの件のことだろう。確か他のセカイの子達の想いを見つけるための手助けとかなんとか。

だが具体的に何をすればいいかがわからない。そもそも簡単に言っていたが手助けなんて具体的にどう実行に移すんだろうか。それにそれをすることでこのセカイの不安定さが取り除くことにどう繋がるのだろうか。

ミクはおいおい説明すると言っていたが……この様子だと今日説明する気はないな。

そんなこんなで頭を悩ませているとミクがきょとんとした様子でこちらを眺めている。

 

「どうかしたの?」

 

「あーいやなんでもないよ。それで任せたいことってあのこと?ほら、手助けが何とかって」

 

「そう!」

 

目を輝かせながらミクは顔を近づけてくる。長いまつ毛に綺麗な透き通る澄んだ瞳、端正な顔立ちと白くきめ細かな肌がミクの可愛さを引き立てている。

じゃなくて近い。いやほんとに近い!至近距離にこんな美少女がいるのはいろんな意味で心臓に悪い。男子高校生だぞこちとら。

ミクはそんなことお構いなしで話を続けていく。

 

「今日からなんだ~。だから君には……え?」

 

ミクは説明を続けようとして何かに気づき振り返る。僕もそっちの方向を見てみるが霧が濃くて何も見えない。

そもそもこの場には僕とミク以外の気配がないし、足音なんかもしないので何が来ているのかがまったくもってわからない。

ミクの見た方向を必死に見つめるが変化はなく、そこには霧が立ち込めるだけ。

 

「あれ、予想より早いような…でも間違いないし…うーん、まぁいっか!」

 

何かぶつぶつとつぶやいているがよく聞き取れない。なんか早いとかなんとかは聞き取れたが……何が早いのだろうか。

あとなんか最後考えること放棄しなかったか?

 

「それじゃあ後はうまくやるようにね!」

 

ミクは短くそれだけ言い残すと僕の横を抜けて歩いていく。何の説明もなしで何をうまくやれというんだと問い詰めようと振り返るが、ミクの姿はすでにそこにはなかった。

瞬時に消えるってセカイってのは何でもありなのか……。一体全体どういう仕組みで動いているのか、興味を惹かれはするが今はそんなタイミングじゃないと頭を振って余計な考えを振り払う。

 

するとどこかから足音が聞こえてくる。しかも先程ミクが消えた方向じゃなく、全く別の方向から聞こえる。

一体誰が、と足音がした方向を見ると霧の向こうに人影が見える。霧の向こうのぼんやりと見えるシルエットがこちらに向かってきているのか、だんだんと濃く大きくなっていく。

 

「誰かいるんですか…?」

 

そうして霧の向こうから現れたのは癖のある黒髪のクールそうな見知らぬ女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと知らない場所に立っていた。

一面に霧が立ち込めた不気味で不思議な場所。見覚えがなく、何の物音もしないから驚きを感じるよりも怖いと思う方が先だった。

 

「……さっきまで曲聴いてたはずなんだけどな」

 

ついさっきまで今日出たミクの新曲を聞いていたはずなのに……。

そこではっとなり両手やポケットの中を探してみるが持ってあったはずのスマホがどこにもなかった。

どこかで落としたのかな、と辺りを見渡すがスマホらしきものは見つからない。

 

それにしてもここはどこなんだろう。家から出てここに来た、はさっきまでの行動と矛盾する。それに外出するにしても今は23時過ぎで、よほどのことがなければ外出なんてしない時間帯だ。

でも部屋にいたはずなのに一体どうして…。

不意に上を見上げるとそこには吸い込まれるような色をした夜空があった。そこに無数の星が鎮座していてキラキラと輝く星が夜空をより際立たせていた。。

 

「綺麗……」

 

つい見入ってしまう。こんな状況でもなければもっと見ていたいけど、そうもいかない。

できることなら早く戻りたいのだけど……。

 

「どこに行けばいいんだろ」

 

周囲は霧のせいで遠くまでは見えない。目印になるようなものもなければ道標なんてものもない。

暗中模索ていうやつなのかな。とりあえず止まってても仕方ないし歩きながら考えよう。

 

 

 

 

 

どれだけ歩いただろうか。歩いても歩いても景色が変わることがなく、進んでいるような感じがしない。もしかしたらここから抜けられないんじゃないかと一抹の不安が襲ってくる。

一人で知らないところにいるからか心細く感じ、だんだんと嫌な方へと思考が寄っていく。

きっとなんとかなると心を強く保とうとするが、それも長くは続かない気がしている。

 

もう歩くのもやめて諦めようかなと思った矢先だった。

今まで変化のなかった霧が突然濃くなり始めた。足元すら見えにくくなっていき、次第には自分の下半身すら霧で霞み始める。

明らかな景色の変化に折れかけていた心が持ち直し、前に進めば何か変わるんじゃないかと希望をくれる。

 

一歩一歩前に進むと誰かの声が聞こえてくる。話しているのだろうか、だとしたら二人以上私と同じ状況の人がいるのかな。

そう思うと少しずつだけど心が軽くなっていく。

ひと際霧が濃くなり、何かを突き破るような感覚を覚える。進んだ先は霧が薄くなっていてそこには円形のテーブルに椅子が鎮座していた。

その傍にはこっちを驚いたかのように見る男の人がいた。

 

鈍色の外はねした髪に茶色の瞳の釣り目、格好は私と同じで私服っぽい。

印象的にはクールそうな印象を受けるけど、どこか優しそうな感じもする。

この人ならここからの出方もわかるんじゃないかな…。なんか驚きすぎで言葉も出ないような表情しているけど、流石に話はできるよね…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の目の前に女の子がいる。しかも見たこともない初対面の子だ。

ミクさん、あなたもしかしてこの子と話をして想いを見つける手助けをしろっていうんですか。そんな直接的な手法ってある…?いや夢だから直接ではないんだろうけど。

そもそもこのセカイってミクと僕以外も入れるのか…知らなかった。

 

目の前に立っている女の子もぽかんとしているというか困惑したかのような感じで状況を飲み込めていない様子だ。

それもそのはず、いきなりこんな世界に呼び出されて理解の追い付かない状況に直面していたのだ。おかしくはない。

でもこれってどうすればいいんだろう。やっぱりある程度知っている僕から話を切り出すのが適切なんだろうか。だとしても何を言うべきか……。

 

数刻の思考の後、意を決して発する一言は、

 

「あの…えと…こ、こんにちは…?」

 

盛大に間違えていた。

こんにちはにしては遅い時間だし、完全初対面の女子と話した回数もそんなにないから言い淀みまくっている。極めつけには声が上擦ってしまって変な声になっている。

穴があるなら入りたいと言い残した人の気持ちが今わかった気がする。というか穴がなくても掘って入って埋まりたいレベルかもしれない。恥ずかしい、声かけようとしてこんな結果って嘘だろう…。

 

脳内で羞恥心を紛らわすために叫んでいたところ、ふふっと笑い声が聞こえてくる。

顔を見上げると女の子が先程の表情から一転、僕の第一声と様子が可笑しかったのか堪えきれず笑っていた。

 

「あ、ごめんなさい!笑っちゃって…」

 

「あーううん、いいよ大丈夫。僕が変な声出したのが悪かったよ」

 

女の子が咄嗟に謝ってくるがこの子が謝る必要はない。だって僕が冷静に挨拶すればそれでよかったはずなんだから。

 

目の前の女の子はさっきのやり取りで安堵してくれたのか表情が柔らかくなった。僕の黒歴史を一つ増やしたのを引き換えになったが、状況は好転したと思う。

黒歴史は僕の脳裏に刻まれるので自分が苦しむことになるのがそこも一旦頭の片隅に追いやる。

 

「あ、あの、ここってどこなんですか?私、気づいたらここにいて…」

 

これは……なんと返すのが正解なんだろうか。

 

『ここはセカイ!誰かの想いでできた場所なんだ!』

普通になしだろう。というよりもセカイのことをおいそれと話すわけにはいかない気がする。

それにミクは他のセカイの子達の手伝いと言っていた。この子がもしそうならば話すことで余計なことになりかねない。

 

『ここは夢の中なんだ』

初手で不思議なところにいる頭のおかしい人にはなりたくないしそんな話に信ぴょう性がなさすぎる。なしだ。

 

となると無難な返しは―――

 

「僕もなにがなんだか…。気づいたらここにいたんだよね」

 

自分も知らない風に装うことだった。これが一番無難だろう。

すると女の子は少し驚いたような表情を見せる。予想外だったのだろうか。

 

「え、そうなんですか?えっと……」

 

「そういえば自己紹介がまだだった。十六夜燈里、たまに社会人と間違われるけど高校生一年です」

 

「あ、じゃあ同い年かも。星乃一歌(ほしのいちか)です、よろしくお願いします」

 

同い年だったのか…。雰囲気がクールで落ち着いた印象に見えたからもう少し上、少なくとも自分よりは上じゃないかなと思っていたが予想が外れた。

 

それにしてもミクはどうして星乃さんをここに呼んだんだろうか。謎が深まるばかりだが考えたって仕方ない。

それにまたミクが説明してくれるだろう。それがいつになるかは不明だけど。

 

「それにしてもここって不思議な場所ですよね。霧が出てるのに空ははっきり見えるし」

 

「そうだよね。満天の星空なんて久しぶりに見たな」

 

「え、そうなんですか?夜なら結構見えません?」

 

「いやぁ、東京ってどうしても明かりがあるから見えにくいんだよね」

 

「そうかな…。夜歩いてると結構見えるんだけどな」

 

星乃さん、いくら最近そういった物騒な話を聞かないからと言っても夜道を女の子一人で歩くのは結構危険ではなくて?

天然なのか肝が据わってるのかがわかんないな。

 

で、だ。ここからどうしろっていうのだろうか。まさか初対面の二人を置いてそのまま放置なんてことはないよね?だって電子の歌姫のミクさんだもの。会わせるだけ会わせといてお任せ~なんてことないはずだ。

だけどあのミクのことだ。一旦全部丸投げして後で説明すればいいやと考えている可能性がある。というかそう思っているに違いない。

どうすべきか空を見上げながら考えていると、星乃さんが突然その場に座り込む。その表情は苦しそうというよりは何かに必死に耐えているような感じがする。

 

僕はこの状態に覚えがある。以前初めてセカイに来た時にこのセカイを去って現実に戻るときに酷似している気がする。

今でもその感覚を鮮明に思い出せる。途端瞼が重くなり、全身に力が入らなくなる。微睡むような感覚が次第に強くなっていき視界が霧に塗れるように霞んでいく。最後には抗えなくなり意識が落ちる。まるで現実で眠気が極限状態になって睡魔に抗えなくなって寝落ちするかのような。

これがここのセカイから去る方法なのか、と前は頭を抱えたっけ…。

 

って考えてる場合じゃなかった!

 

「星乃さん大丈夫!?」

 

「だい、じょうぶ……じゃ、ないかも」

 

「一旦横になって。多分その方が楽だろうから」

 

この状態を初めて見たかのような反応で星乃さんの横にしゃがむ。星乃さんの表情は青白くなっており、荒く息を吐く。頭を押さえて地面を見ているがその瞼はほとんど開いていない。

起きているよりかは楽だろうと思い横たわらせる。

 

女子に許可なく触れるのは駄目だ、優しく接しなさいよと口うるさく言っていた母親の影がちらつくが今はそういうのは置いておく。緊急事態だから許してほしい。

横になった星乃さんは幾分か楽になったのか、呼吸がだんだんとゆったりとした深いものへと変わっていく。

星乃さんは不安げな表情でこっちを見てくる。口を動かしてはいるが言葉を発する余力はないのか何を言おうとしているのかは聞き取れない。

 

「……大丈夫。元居た場所にはちゃんと帰れるよ」

 

そう告げると星乃さんの瞼が完全に閉じる。

そのすぐ後に星乃さんの体は光に包まれ、セカイから消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星乃さんがセカイから去った後、少ししたらミクは戻ってきた。

ミクの表情は今日ここに来た時よりも明るく、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。

 

「初めましてはどうだった?」

 

「とりあえずまるっと全部話してから消えてほしかったかなって」

 

「ご、ごめんって…。今日説明してからにしようとしたんだけど思ったより来るのが早くて」

 

満面の笑みから一転、申し訳なさそうに委縮する。ほんとに表情豊かだなこのミクは。

それにしても来るのが早かったってどういうことなんだろう。まさかミクが意図的に呼んだんじゃないのか?

 

「えっとね、この夢のセカイは夢を通して他のセカイの子達とやり取りすることができるんだ。誰が来るかは来るまでわからないけれど」

 

「夢を通して…?」

 

「このセカイの今の不安定さでも問題ない方法だからね。逆に言ってしまえばこれしか方法がないともいうんだけど…」

 

ってことはここを抜ける時は夢から覚める時、つまりは現実のその人自身が目が覚めて起床する時ってことになるのか。

じゃあ星乃さんは今現実で起きたってことなんだろうか。

 

「あとね、さっき言ったけど誰が来るかは今日みたいになってみないとわからないの。これだけはどうしても無理。だって私、外の世界を自分の力で『観測』も『干渉』もできないんだもの。君を通してなら別だけど」

 

「じゃあ今日星乃さんがここに来たのも?」

 

「偶然。来ることは分かるんだけどね~」

 

じゃあ今度からは星乃さんだけでなく、他の想いを持った子達がランダムで来るってことなのか。

これ結構ハードモードなのでは…?

 

「あ、あとここであったことは夢ってことで現実では曖昧になる。逆にここでの記憶は次に来た時には引き継がれるよ」

 

「ってことは…どういうこと?」

 

「星乃さんでいうと、次このセカイに来た時はさっきの時までの記憶はあるけど現実では夢として認識されるから曖昧になるの。なにかあったけどあんまり思い出せないな~って感じかな」

 

ミクの言っていることはなんとなく分かりはするがそんなことあるのだろうか。ご都合主義にもほどがないだろうか。

釈然としないがそれがこのセカイの法則なんだろうな。

 

「まぁ今日の様子見てた限りだと大丈夫そうだったけどね!やっぱり君なら何とかなると思ってたよ~」

 

ミクはまたもやニコニコと笑みを浮かべ始める。何がそんなに楽しいのか嬉しいのかがわからないが、まぁ笑っているうちは順調ってことなんだろう。

ミクの目的はあくまで僕の本当の想いを見つける手助けになることだったはず。だからだろうか。目的地にどれだけ向かう速度が遅くともミクとしては嬉しさを感じるのかもしれない。

 

嬉しそうに笑うミクとは裏腹にこの先訪れるであろう苦労に項垂れるのであった。

 

「じゃあ次もよろしくね!」

 

「やりはするんだけど誰か来るなら事前に言ってくれ!」

 

 

事前の報連相と心の準備、ほんとに大事。

 





多分次回以降もうちょっと短くするかも…?
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