異例なセカイの相談役になりました   作:クアのトロ

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第二話 あいどる…?

星乃さんと出会った次の日の夜、僕はまた世界に呼び出されていた。

昨日余計なことをぽろっと零したせいかまさかの二日連続である。あのですね、ああ言ったもののもうちょっと手心加えていただけると…あ、そんなものない?

 

とまぁ連日なわけだが、一つ問題があるのです。

というのもその問題は僕の目の前に既に存在しているわけで。

 

 

「…………あの、ここどこなんですか?」

 

 

少し離れた位置からまるで不審者でも見るような視線でこちらを貫く青髪の女の子がいる。僕が来た時にはぽかんとした表情で椅子に座っていたのだが僕が姿を現すとあら不思議、警戒心を強めこの状態へと落ち着いた。

昨日先に言ってくれってミクに言ったはずなんだけどなぁ…。

 

今すぐにでもため息つきながら項垂れたいがそうしようものなら目の前の女の子はより警戒心を強めることになるだろう。

それは一旦避けておきたい。正直言うとあの警戒心に満ちた目で睨まれると結構しんどい。メンタルボロボロになってしまう。

 

「いや、僕も知らないんだよねぇ…」

 

昨日星乃さんと会った時と同様に誤魔化してみる。星乃さんはうまく乗せられて騙せたのだがこの子もいけるだろうか。もしそうなら色々考えなくていいから結構楽になるんだけど。

 

「あの、嘘吐いてますよね?」

 

「へ?」

 

「ここを知らないって嘘ですよね?知らない場所に来たんだったら普通はもう少し驚いたり困惑してたりっていうのがあってもいいはず…。でもそれがあなたにはない、どうして?」

 

とてつもなく痛いところを刺された気がする。

僕はここに来るのは三度目、正直三回も同じようなことがあれば慣れてくる。目の前にいる子からすれば妙に落ち着いているという雰囲気と様子が何かおかしいと違和感を感じたのだろう。

 

流石に慣れを隠しきるというのはちょっと無理があったか。でもどこまで話していいかもわかんないしなぁ…。

頭を悩まして返答を考えるがいい内容が思いつかない。セカイのことまで打ち明けるのは抵抗があるし、ここが夢だと説明してもそこを信用されるかがわからなさすぎる。警戒をより強められるかもしれないし、どうすれば―――

 

「黙っていてもわからないんですが」

 

腕を組んで唸っていると目の前の女の子がより冷たい声で返答を催促する。

その表情を見てみると一目瞭然で明らかに敵意のある視線でこちらを睨み、「私苛立っています」とでも言いたげな雰囲気は僕を震え上がらせる。

彰人でもここまでの圧を出すことは厳しいのではなかろうか…。

 

これまで見たこともないような威圧的な表情に逃げてしまいたくなるが、ここに逃げ場はない。

この場から走って逃げようものなら鬼のような形相で追いかけられることだろう。で、絶対捕まる自信がある。他の逃げる手段であれば夢から覚める必要があるが、夢の中から自発的に覚めるなんて不可能に近い。

文字通り逃げ場のない状況。切り抜けるにはこの子が納得する説明を提示する必要があるが……この際だ、仕方ない。

 

「……今から言うことを信じるのであれば」

 

「内容によります」

 

「それじゃあ何から話そうかな……」

 

逃げ場がなくなり目の前の威圧感に耐えかねた僕はぽつぽつと話し始める。

記憶にない場所にいるのはここが現実にない場所で現実世界ではなく夢の中である事。どこかに連れ去ったわけではなくここに精神のみが存在しており現実では寝ているという事。

セカイのことは隠しつつ、順を追ってここが夢の中だという事を説明していく。

 

予想だにしていなかったあまりにもぶっ飛んでいる内容に先程まで不機嫌で怒っていますという様子だった女の子の表情がみるみるうちに怒りから困惑や懐疑的なものへと変化していく。

 

「……ということです」

 

「信じられると思います?そんなふざけた内容の話」

 

「とはいっても信用してもらうしかないんだけど…」

 

言っていることは事実なのでこれ以上の説明がない。

まぁ証拠なんてないし、そもそもここが僕の想いによってできたセカイだという事を隠しているという不足した情報を伝えているわけなんだが…。

 

「…………分かりました。疑問は残りますが、その話を信じます」

 

そういう女の子は不満げで、言葉では信じるとは言っているものの内心そこまで信じていない様子。とりあえず警戒が解け、威圧的な空気が消えたことに安堵しつつ女の子を見る。

 

青髪のショートカットに宝石のような碧眼。この子外国人のモデルさんか?と思ってしまうような美人さんである。

ここに来る子達ってみんなとんでもなく美人(こんな人)ばかりなの?ミクの趣味なのか?と疑問を思ってしまう。まだ来たのは二人目だけども。

 

「とりあえず信じてもらえたようで何より…。あ、そういや自己紹介がまだだった。じゅうろくによるって書いて十六夜、難しい方の燈すに里で十六夜燈里です。多分同い年くらいかな?」

 

「同い年…?年上の方じゃないんですか?」

 

透明な言葉の針が僕の心を突き刺す。前回星乃さんには年上に間違われることがあると言ったがそんな矢先になるとは思わなかった。

というより僕ってそんな老け顔なのか?そんなに上に見られることあるのか。ある意味それって才能……いや欲しくないなこんな才能。

 

「ハ、ハハハ、いやだなぁまだぴちぴちの高校一年生ですよ~」

 

「ぴち、ぴち…?」

 

「きょとんとしながら言うのやめて!余計に傷つく!」

 

「あ、えっと…ごめんなさい?」

 

そんなきょとんとして謝られても心に刺さった針は抜けない。

今度若く見える術を彰人に……いや弄られるネタが増えるだけだ。あいつにだけは相談しないでおこう。

 

「私は…桐谷遥っていいます」

 

「桐谷さんね。よろしく」

 

目の前の青髪の女の子、桐谷さんは綺麗にお辞儀をしながら名乗ってくれた。

自己紹介しながらきちんとお辞儀する人なんて初めて見た。自分の周囲にそこまで礼儀正しい人がいないというと語弊になるが、ここまでの人は初めてだった。

僕?もちろんしたことがない。そもそも自己紹介って相手に自分の名前とかもろもろが伝われば問題ないからここまでする必要もないとしか思ってなかった。

 

「え、それだけ…ですか?」

 

「え?それだけって?」

 

「いや、なにかこう、他にあるものかと」

 

僕の反応があまりに淡泊だったからだろうか、桐谷さんが別の意味で困惑している。

 

自己紹介に対する返しってこんなもんじゃないの?と脳内で疑問符を浮かべるが、なぜ困惑しているのかが僕には見当もつかない。

なにか質問でも返すべきだっただろうかと考えてみるが、浮かんでくるのは他愛のないものばかり。こんなことを気にするわけがないと断言できるものばかりだ。

一体何が彼女の中で引っかかっているのかが分からず頭を悩ませていると、桐谷さんが口を開いた。

 

「その…私のことで何か聞いたり…」

 

「え?いや別に…趣味とか聞けばいいの?」

 

「そうではなくて…でもそんなことって…」

 

もっと他にといわれても…初対面の子に質問するのなんてそこらあたりが関の山なのではと腕を組んで唸る。

だがどれだけ考えようとも桐谷さんの欲する回答にたどり着けない気がする。

 

「うーん、僕としては本当にないとしか…。だって僕君のこと知らないし」

 

「え、しらない…?」

 

「うん、知らない」

 

「ち、ちなみに『ASRUN』って知ってます?」

 

「いや、知らないね」

 

『ASRUN』という単語は聞いた覚えがない。何かの英単語だろうか、と思ったがただの単語ならわざわざそんなこと聞いてこない気もする。

そもそも『ASRUN』という単語と桐谷さんにどういう関係性があるのかがまず予想もつかない。

そんなことを思考している僕のことはつゆ知らず、桐谷さんは本当に知らないという素の返事に驚きを隠せないといった様子だ。そこまで驚くことでもないだろうに…。

 

「……本当にですか?」

 

「いや本当に知らないって。そもそもその…『ASRUN』だっけ?それってどういう意味?」

 

「『ASRUN』はアイドルグループです」

 

『ASRUN』はアイドルグループ。

 

「私はそこに所属していました」

 

所属していた。……ん?

 

「まぁ、もう辞めちゃいましたけど」

 

辞め、んんん???

 

「待って。あいどる…?君が?」

 

「元、ですけどね」

 

今とんでもないことを聞いた気がする。

僕が何かの英単語だと思っていたものはアイドルグループの名称で、桐谷さんはそこに所属していたらしい。

どうりで何かを聞いてこないのかとか言っていたわけだ。元アイドルという事ならば名前さえ知っていれば聞きたいことなど山ほどあるだろう。それがファンならばなおさらのことだろうが、生憎僕はアイドルというものに詳しくない。というよりそもそも見ても曲いいなぁ程度でアイドル個人に興味を惹かれたことがあまりない。

 

なるほど、ということはだ。目の前にいるのは正真正銘のアイドルだった人というわけで…。

 

「有名人だったのか…」

 

「さっきも言いましたけど、"元"です。アイドルは辞めましたから」

 

そう告げる桐谷さんの表情はどこか寂しげに影を落とす。辞めた、という事は何か理由があったのだろうと察すると同時に何故と気になる気持ちを制する。

理由があったにせよ初対面の人間が不躾に聞いていいものではないだろう。他人の決断や気持ちを土足で踏み荒らすのは人としてもあまり褒められたものではない。

先程までと違い、僕たちの間に重苦しい空気が流れ始める。

 

「そっか…人には人の理由があるからね。なんで辞めたかは聞かないし言いたくないならこの話題はもう出さないよ」

 

「え?聞かないんですか?」

 

「いや聞かないよ。そこまでデリカシーないわけでもないし、それに目の前にいるのは桐谷さんであって"アイドル"の桐谷遥じゃないんでしょ?」

 

だったら聞く必要はないと桐谷さんに投げかけられた言葉を否定する。

桐谷さんは目を丸くしてきょとんとしている。あそこまで聞いたら辞めた理由まで聞くだろうと予想でもしていたのだろうがそれは外れることになった。

言った通り、目の前にいるのがアイドルとしての桐谷遥でない以上聞くのは野暮というやつだ。こちらにも相応の理由があるなら聞く理由はあるかもしれないが今はそういったものもない。

 

でもこの桐谷さんの反応を見る限り、辞めたときは相当第三者に色々聞かれたんだろう。なぜ辞めたのか、何かグループに問題があったのではないか、今後はどうするのかなどなど。軽く考えるだけで彼女を知る人ならば聞きそうなことが出てくる。そんな言葉ばかり投げつけられてたらこんな反応になることも頷ける。

 

「そう、なんだ。そんなこと言ってくれたの、あなただけかも」

 

「そんなことないんじゃない?」

 

「そんなことあるよ」

 

桐谷さんは胸に手を当てて目を閉じる。

僕としては自分の持っている自論を述べただけなのでそこまで特別なものでもないのだけれど…。

 

「そういや桐谷さんは―――」

 

「……遥」

 

「え…?」

 

「遥でいいよ。桐谷さんって呼ばれるのは慣れてないから、そう呼んで」

 

「いやでも…」

 

「いいから」

 

呼ばれ慣れてないからという理由で名前呼びというのはいささか抵抗があるしハードルも高い。

それに女の子と話した経験がそうない僕が易々と名前呼びができるわけがない。なにせ経験のないことだ、やってと言われても無理のあることだってあるのだ。

だが、僕が渋っていると桐谷さんはジト目でこちらを見てくる。呼ぶまで待つぞとでも言いたげな目線に後ずさりする。だが相も変わらず逃げ場などなく、誤魔化そうものなら問い詰められて袋小路へと追い込まれるのがオチだ。

 

「まただんまり?」

 

「……あーもう分かったよ!遥、これでいい?」

 

「うん」

 

少し嬉しそうに微笑む表情に先程までの敵意のあった表情見る影もない。

何がそこまで嬉しいのか、僕には見当もつかない。名前で呼ばれるのってそんな嬉しいものだっけ…?

 

「じゃあ私も燈里って呼ぼうかな」

 

「なんで!?」

 

男友達か両親くらいにしか名前で呼ばれてなかったためか、どうも自分の下の名前で呼ばれるのがこそばゆい。

というか僕を名前で呼ぶ必要は、と言いかけたところで桐谷さん…遥の何か文句でも?という意味のこもった目線を投げかけて訴えてくる。

 

……僕は女の子のこういう圧に弱いのかもしれません。助けて神様。

 

「いいよね?」

 

「うん、もう好きにして……」

 

有無も言わさないって雰囲気出していたくせに首をかしげながら聞いてくるのは卑怯ではないですか?こっちは拒否権なんてないも同然なのに。

嬉しそうに微笑む遥を見て吐きそうになっていたため息を飲み込む。まぁ表情が明るくなったならそれでいいかとしれっと流される僕はかなり甘いのかもしれない。

 

 

 

その後は遥と他愛もない話を続け、気づくと机に突っ伏して寝ている遥の姿がそこにはあった。見知らぬ場所に知らない人となれない状況が続いたからだろうか、規則正しい寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

それにしても夢でも寝ることがあるんだなと思ったところで空が明るくなり始めた。水平線の向こうからは眩い光を放つ太陽が少しずつ顔を出してくる。

 

このセカイというものは現実世界の時間とリンクしているらしい。他のセカイがどうかは知らないが、このセカイは朝が来るとこうして夢の終わりを告げるかのように太陽が昇ってくるのだ。そうして気が付けば現実に戻っている。少なくとも前回はそうだった。

ここに初めて来たときの僕や昨日の星乃さんは猛烈な感覚に襲われていたが、どうやらあれはイレギュラーらしい。故意に無理やり夢から覚めようとしたり、誰かの呼びかけで夢から覚まさせられたりといった予期せぬ目覚めの時はああいった感覚に襲われて意識を失うらしい。あれは結構不快感が大きいから僕としてはもうあの感覚は味わいたくない。寝覚めも悪くなるし。

そんなことを考えながら背中を伸ばしていると心地よい眠気が襲ってくる。前みたく抗う理由はないなと椅子に深く腰掛けて目を瞑る。

 

「私には…資格なんて…」

 

視界が真っ暗になったすぐ後、眠っていたはずの遥がぽつりと呟く。ただの寝言だろうか、ぼそっと呟いたその言葉は小さく聞き取りにくかったが確かに聞こえた単語がある。

『資格』。いったい何の資格というのだろうか。

一体何の、と聞こうとするも時すでに遅く、僕の意識は深い暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝焼けの光が満ちるセカイに二人の少年少女がその光に照らされる。片や年相応のかわいらしい寝顔を浮かべた少年、片や苦しそうに表情をゆがめる少女。二人は眩い光を浴びているが目を覚ます様子はない。

私はそれを机の正面に立って眺める。

 

「まだ始まったばかり、か…」

 

このセカイでの私の役割は彼の本当の想いを見つける手助けをすること。答えに導いてあげるのでは意味がなく彼自身が彼の手でその想いにたどり着いてこそ意味がある。他のセカイの私たちはどう考えているかは知らないけど、このセカイの私はそうじゃないといけないと確信している。

 

完全に忘れ去られてしまった彼の想いを呼び起こすには他の誰かの想いに触れ、刺激を受けた方がやりやすい。だからこの手法をとる。この不安定なセカイで手助けしようとするならこうするしかないから、というのもあるけど。

すでにここに来た想いの持ち主は二人。他の持ち主がここを訪れる日も遠くはないだろう。

それが明日かはたまた一週間後かは未来が見えているわけではないから正確には分かりえない。それに役者が揃ったとしても本当の想いを見つけるまでどれだけの時間がかかるかわからない。気の遠くなるほど時間がかかるかもしれない、その過程で彼自身が苦しみ傷つくことがあるかもしれない。それでも。

 

「君には見つけてほしいんだ。じゃないと――――」

 

その後の言葉は私の中に留めておこう。

今は夜明の朝。暗い雰囲気は合わない。

 

だったら、と歌を口遊む。記憶の中にある歌を、明るい歌を、誰かの背中を押す歌を。

こうして夜は完全に明け、眩い朝日がその姿を青空にすべて晒した頃、二人の少年少女は光に包まれこのセカイから姿を消した。

 

「頑張ってね燈里、きっと君なら…!」

 

一人ぼっちのセカイの中心で歌が響く。

空には星空に変わり、驚くほどの澄んだ晴天が広がっていた。

 

 

 

 





架空のキャラカードを考えてみたいからある程度進んだら後書きに書きます。

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