異例なセカイの相談役になりました   作:クアのトロ

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第三話 見つけたのは陰る綺羅星

僕は今眠くなり霞んだ眼をこすり、寝不足の体に鞭打って自宅への歩みを進めていた。

あくびが不意に出そうになるが、今いるここは大通りで人通りも多い。人前で大口開けるのも気が引けるのでかみ殺して我慢する。

 

寝不足な理由は単純でゲームに熱中したことによる夜更かしが原因だった。対戦系のゲームはやめ時が分からず、のめり込んでしまうのが本当にいけない。

勝ち続けていけば次も次もと再戦を続け、やめようと思った時に負けてしまえば次勝ったらやめようと対戦に潜って戦って潜っての繰り返しで坩堝にはまってしまう。

それが原因かは知らないが昨日はセカイへと呼び出されなかった。誰も来ていなかったのか、夢を見れるような時間がなかったのかは今となっては分からないが。

 

前回遥とセカイで会った後、少し気になったのでいろいろと調べてみた。

まず、桐谷遥が元々『ASRUN』という人気グループのセンターを張っていたという事。あの場ではグループに所属していたとだけ言っていたがまさかセンターにまでなっていたとは…。

そこまで調べた上で自分の対応を思い出してみるが、そりゃ遥もああいう反応になるものだと思う。国民的に知られていたアイドルだというのにそれでも知らない人がいるとなると彼女的には予想外だったはずだ。

もし僕が同じ立場だとしても同じような反応になるだろう。

 

そしてそれに加え出てきたネット記事のほとんどは彼女のグループ脱退とアイドル引退に関するものばかりだった。

事実のみを速報と称して記しているものもあれば脱退に追いやったのは他のメンバーだ、引退したのはこれが理由だと知る人が見れば神経を逆なでて不快にするような内容を羅列したものなど多種多様であった。

憶測に憶測を重ね、もはや真実とは言えなさそうなものまで書かれていたことからネットで匿名の誰かが楽しんで書いたものとかもあったのだろう。

とはいえやめたという事実はかなり大々的に取り上げられていた。

ネット記事以外だと公式の声明も見たが理由は完全に伏せられていた。それなら憶測が飛び交うのもわからなくはないが限度があるだろう。ネットの匿名性はほんとに怖いな…。

 

しかしそれよりも気になるのは意識が落ちる前に聞こえた言葉だ。

 

『私には…資格なんて…』

 

その言葉だけがどうしても引っかかる。ここでいう資格が世間一般の意味の視覚でないことは当然のことで、多分だがあの話から関連付けるならアイドルをやる資格とでもいうのだろうか。だがやめたというのに資格がどうのというのもおかしい気がする。それに加えてやめたと言っていた時の陰りのあった表情も気にかかる。

あの様子から考え付くのは"アイドル"というものに特別な思い入れがあり、やめたくなかったがどうしてもやめざるを得なかったのか。それか何か外的要因があってやめるまでに追い込まれたのかのどちらかだ。

 

とはいえ今の僕ができるのも推測だけで真実なんてものは分かりえない。もう一度遥に会うことができれば直接聞くこともできるだろうが、彼女が話そうとしない限りは聞きはしない。

だが気になるものは気になるので記事を読み漁ったわけだが、その戦果はまぁお察しのとおりである。

 

「ねむい……さっさと帰ろ」

 

人を避けつつ目的地である自宅を目指して歩くがまぁ人の多いこと。今日何かイベントでもあったっけと思いたくなるほどの人の多さだ。

こういった都会でしかも夕方なので帰宅ラッシュなのだろうが、そういうのってもうちょっと遅い時間じゃなかったっけと目の前の人込みを恨めしそうに眺める。

立ち止まっててもしょうがないので突っ切るしかないのだが、これがいかんせん難しい。人と人の間を縫って歩くというのはそこそこセンスがいると思うのだ。足を踏まないように空いている場所に足を踏み出し、体をぶつけないように隙間に体を通す。眠気で集中力のない頭を働かせながらなので何回かぶつかりそうになるが、力業で体をそらして避ける。やっとの思いで人込みを抜け、どっと疲れが増した体を無理やり動かしてセンター街を歩く。寝不足でやることではないなとしみじみ思いつつ、夜更かしもほどほどにしようと思っていた矢先だった。

 

「ねぇ、ちょっとくらいいいじゃん」

 

「いや、あのそういうのは…」

 

なんというかいかにもっていう感じで流行のものに身を包んだ青年とそれに絡まれている女子生徒が二人。あの制服は……どこだっけ。確か宮女と略されてる学校のものだったっけ。

なぜ知っているかって?クラスメイトが彼女自慢しているときにその写真を見せられたからです。決して疚しいことなどないです決して。

 

「ちょっとだけ!ちょっとだけだから、ね?」

 

「だからそういうのは…」

 

絡まれている女子生徒のうち一人は背中に隠れて不安そうな表情を浮かべており、もう一人は顔は見えないが青年に対応し続けるのはやはりどうしても辛いものがあるだろう。

この状況で見て見ぬふりをするのは鬼にもほどがあるし、良心が痛むというものである。

 

でもどうしようかな。物理的に実力行使に出ようものなら反撃を食らってしまう気がする。逆に普通に説得しようとしてもああいう場合は聞き入れてくれない場合が多いだろう。

ともなると取れる手段は限られる。やるしかないかと決心を固める。

 

「あ、あーお待たせ~…」

 

青年の背後から二人に向けて声をかける。

とった手段は『二人と待ち合わせしていた友達』を装う事。一番リスクが少なく、安全に解決できると判断した結果だ。

ただこの作戦には欠点がある。それは―――

 

「え?」

 

「いっちゃん、知り合い?」

 

「う、ううん。知らない人、かも」

 

作戦が相手側に伝わらない(こうなる)こと。

ですよねーと思いつつも演技を続ける。何、この青年が去るまで続けてしまえばこっちの勝ちだ。

 

「あ?なんだよお前」

 

「そっちこそ僕の知り合いに何か用ですか?」

 

もちろん赤の他人で知らない人なので口から出まかせである。

 

「でも知らない人って言ってるじゃねぇか」

 

「忘れてるだけでしょ」

 

「そんなわけあるか!いい加減なこというのも大概にしろよお前」

 

「わーこわーい」

 

「こいつ…!!」

 

僕のふざけた様な態度に徐々に怒りを露わにしていく青年。そのボルテージは僕とのやり取りが増すごとにだんだんと上がっていく。

次第には額に青筋が浮いてくる具合だ。

 

「まぁなんでもいいですがさっさとお帰りください」

 

「この野郎、ふざけやがって…!!」

 

我慢の限界だったのか拳を振り上げるしぐさを見せてくる。学生に手を上げるって相当まずいと思うんだけどそのこと頭に入ってるのか?

 

「なんでもいいけど周り見た方がいいんじゃないですか?」

 

「あぁ!?」

 

周囲を見るように促すと青年は怒り心頭といった様子で周りを見わたす。周囲には先程までとはいかないまでもまばらに通行人がいる。

通行人は遠巻きではあるが僕らの様子を見てはひそひそと話している。

誰が見てもどっちが悪く見えているのは明らかで、冷ややかな視線が青年に注がれている。

 

流石にそれが効いたのか、その表情は怒りの表情からだんだんと青ざめていっている。

いたたまれなくなったのか、青年はくそっと声を漏らしてその場を去っていった。とりあえず一件落着かな。

 

「じゃあ僕はこれで」

 

女子生徒たちの顔も見ずその場を立ち去ろうと足を踏み出すが、鞄をグイッと引っ張られて後ろにのけぞる。

振り向くと後ろに隠れていた金髪の少女が鞄を掴んでいた。

 

「あの、ありがとうございました!知らない人に声かけられて、ちょっと怖くて…」

 

「まぁそれはそうだよね…。二人でいるとはいえ知らない男に絡まれるのはね」

 

言ってしまえば僕も知らない男に計上されるのでブーメランが刺さるわけなのだが、そこは目を瞑ることにする。

 

「ほら、いっちゃんも!」

 

「あ、えっと、ありがとうございました。困ってたので助かりました」

 

金髪の子が振り返り一緒にいたもう一人の子の方へと振り返る。視線をそっちにずらすとぎょっとする。だってそれは、

 

「あ、そうだ!私達今からタピりに行こうとしてたんですけどご一緒にどうですか!お礼も込めて!」

 

「さ、咲希…?」

 

夢のセカイで会ったことのある―――

 

「私天馬咲希って言います!この子は星乃一歌ちゃんです!」

 

「咲希!?」

 

星乃一歌、その子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪~♪~♪》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天馬さんに連れられてきたのは道沿いにあったタピオカを専門に扱っているお店。多種多様なフレーバーがメニュー表に陳列され、どれを飲もうか悩んでしまう。

ちなみにここに来る前に自分はいいよと遠慮したのだが天馬さん曰く、「受けた恩は必ず返すのが流儀」と武将みたいなことを返され拒否しきれず今に至るわけだ。

お礼だからといってお金まで払われてしまった。さすがにそれまではと拒否したが聞き入れてくれなかった。

 

流されるがまま、数あるメニューの中から甘さ控えめのものを選び、待っていると二人の楽しそうな声が後ろから聞こえてくる。

 

「ソフトテニス部に入部が決まった咲希ちゃんとかんぱーい!」

 

「はい乾杯。部活決まってよかったね」

 

「うん!見学付き合ってくれてありがと!」

 

天馬さんの楽しそうな声ははつらつとしており、とても楽しそうに弾んでいる。対する星乃さんは微笑ましそうにその様子を見ているが時折天馬さんを心配するかのように声をかけている。

見ているととても仲がよさそうに見える。親友、もしくは幼馴染というものなのだろうか。傍から見ているこちらも微笑ましくなってくる。……同い年だけど。

 

「あ、そうだ!改めてありがとうございました!その制服って神高のものですよね?」

 

「咲希、知ってるの?」

 

「うん!お兄ちゃんがそこに通ってるんだ!」

 

天馬さんのお兄さんが神山高校に……天馬、天馬かぁ。

神高でトップレベルに有名人である二人組のうち、片割れが天馬という苗字だったはずだが流石にそんな偶然があるわけないだろう。そうであってほしいと祈っていると自分の注文したものが手渡される。

一口飲むと口いっぱいに甘さが広がりタピオカのグニグニとした触感が味わい深い…気がする。甘さ控えめでもこの甘さ、普通のなら胸焼けするレベルだろうなと流行りの飲み物の恐ろしさを垣間見る。

 

「それで、あの……」

 

「ん?……あーそういや自己紹介がまだだった。十六夜燈里です、どうぞよろしく」

 

「燈里君だね!よろしく!」

 

初っ端名前呼びってマジですか。え、下の名前で呼ぶのってハードル高いものなんじゃないの?それとも天馬の名前を持つものってぐいぐい来る陽キャばかりなのか!?

目の前の女の子に戦慄しつつ、視線を少しずらすと顎に手を当てて何かを考えている星乃さんの姿がそこにはあった。

 

「あの…十六夜さん。私達ってどこかで会ったことあります?」

 

瞬間、ドクンと心臓が跳ねるのを感じる。

ミクは以前あのセカイの説明をした時に僕以外の記憶は夢として処理されるため鮮明に覚えておくことはできないはずと言っていたはずだ。だからだろうか、星乃さんの記憶にはぼんやりとしか残っておらずどこかで会ったことがあるのでは?と疑問に思っているのだろう。

だからここで馬鹿正直に会ったことあるよというわけにはいかない。まぁ実際に現実世界で会ったのはこれが初めてだから間違ってはない。

 

「…ないね、初対面だよ」

 

「そうですか…思い違いかな?」

 

星乃さんは不思議そうに首をかしげる。ある意味思い違いではないのだが、ここで言及する必要はないだろう。

その後も歩きながらタピオカを味わっていたのだが、目の前では天馬さんと星乃さんが楽しそうに話している。体調崩さないようにとか病院食とかあまり聞かないような単語も聞こえてきたが、それでも二人の顔は笑顔だった。

 

その話題が次第に昔の話へと変わっていき、幼馴染の話に花を咲かせていた。

その内容は実に微笑ましいもので、聞いているこっちも楽しくなってきていたのだがそれも長くは続かなかった。

 

「ふたりだけだと、ちょっとだけ寂しいね」

 

「…………うん、そうだね」

 

その幼馴染間で何かあったのだろうか、先程までの楽しい雰囲気は霧散し、何とも言えない空気が流れ始める。

天馬さんがハッとしてこちらに振り向いて笑顔を向けてくる。

 

「あはは、ごめんなさい。こんな空気になっちゃって」

 

「いや僕は大丈夫だけど…二人こそ大丈夫?なんかあったっぽいけど」

 

「大丈夫!きっとまた一緒にいられる日が来る、はず……」

 

天馬さんは何とか明るく振舞おうとするも次第にその勢いはしぼんでいく。僕にできることがあればいいが幼馴染間であったことに部外者がおいそれと首を突っ込んで良い気があまりしない。

 

「……何があったかは僕には計り知れないけど、きっと何とかなるよ。諦めない限りは」

 

「え?」

 

「諦めなければ夢は叶う、ともいうしね」

 

「ですよね。そうですよね!よーし頑張るぞー!!」

 

何の確証もなく無責任で人並みの言葉しか吐けなくて申し訳ないが、それでも元気は出たようで天馬さんは輝くような笑顔で拳を振り上げる。

その後ろで前向きになっている天馬さんとは対照的に表情に陰りを見せる星乃さんの表情があまりにも暗く見えてしまう。

 

そんな対照的な表情があまりにも印象的で僕の脳裏にこびりついて離れなかった。

 

 

その後は帰り道が違うとのことで二人と別れた。

別れる前、天馬さんから「連絡先交換しよ!」と笑顔で詰め寄られ、断ることもできずなし崩し的に二人と交換することとなった。

ついでに別れ際に苗字で呼んだら名前で呼んでと天馬さんにこれまた詰められ、流石にそれはとやんわり断ったが押しに押され了承してしまった。

 

 

今度押しに強くなるためにはどうすればいいか彰人に聞いてみよう…。

 

 

 

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