(すみません、ナリス様!
とんでもない事を、申し上げてしまいました!!)
身も蓋も無く真実を言い当ててしまった魔道師、ヴァレリウスは驚愕。
本能的な確信を糊塗する事も出来ず咄嗟に閃いた思考、心話が狼狽の極に在る内心を暴露。
アルド・ナリスも痛烈な一撃を受け極度に動揺、感情の嵐は魂の従者に劣らぬが。
己の直感に基き直言した魔道師を咎めず、冷徹な思考者に徹し断固として謝罪を遮った。
(実に的確な例えだ、私が長年に渡り抱いていた疑惑を見事に表現している。
良く言ってくれた、感謝するぞ)
ヴァレリウスは慌てて、見え透いた言い訳を並べようと焦ったが。
ヨナも論理的な思考を閃かせ、掌に力を籠めた為に辛うじて惑乱を抑え込む。
(真実を怖れず現実を直視しなければなりませんが、断定するには情報が不足しています。
ナリス様、古代機械に質問していただけますか。
ファイナル・マスターとセカンド・マスターの相違点、資格条件や権限範囲を説明せよと。
権限の適用範囲と該当する条件、認定する方法、必要とされる資格。
古代機械の反応を見る限り、ナリス様の質問は無視せず却下の根拠を説明しています。
少しでも多くの情報、判断材料を引き出し検討する必要が有ると思われます)
(そうだね、狼狽え騒ぐばかりでは何も解決しない、建設的に行動する方が遙かに有益だ。
敵を知らず己を知れざれば百戦百敗、古代機械から情報を獲得する機会を逃す訳には行かない。
三人寄れば文殊の知恵、と言うが賢者の遺した言葉は真理だな!
対等に渡り合う術策を練る為には敵を知る事が肝要だ、早速聞いてみるよ)
接触心話の思考は聴取不可能な筈ではあるが、まるで出鼻を挫くかの様に。
銀色の光を思わせる古代機械の心話が、3人の脳裏に響いた。
( ファイナル・マスターの許可が下りました、被治療者を除き直ちに退室して下さい。
手術の申請を受諾した個体の罹患部、脳細胞の大半は既に壊死状態で機能を停止しています。
未知の腫瘍組織へ細胞の変質を確認、修復は不可能と判断され代替手段を選択。
クローン細胞増殖及び置換を実施の後、マザー・ブレイン登録データの上書きを実施します。
当技術は規定の公開可能レベルを大幅に逸脱しており、現地惑星住民の見学は認められません。
退出を拒否する場合には麻酔薬を散布し意識喪失の後、搭乗口から強制的に搬送されます )
機械的な合成音声が告げる宣告、無情な審判も或る程度までは想定の範囲内。
問答無用で強制排除される最悪の想定を免れ、アルド・ナリスは勇気を振り絞り思考を投射。
「ファイナル・マスターの公正な判断、並びに最高責任者と連絡を付けてくれた事に礼を言う。
貴君の指示に従うが重大な確認事項がある、質問の権限を求め再度の連絡を乞う次第である。
ランドックのグインは必ずや御理解を賜り、例外のケースと認定するであろう。
或いは手遅れになるやも知れぬ故、ファイナル・マスターに回答の可否を問い合わせ願う」
ナリスの質問に答えるな、とグインが応じる確率は限り無く低い。
ファイナル・マスターの御墨付きが有れば、古代機械も質問の回答を拒否は出来ぬ筈。
弁舌の魔術師は本領を発揮、巧緻な論理を展開し異世界の機械に立ち向かうが。
3人の心を冷徹な思考が貫き、鋼の感触を伝える銀色の光が複雑な迷宮の闇を照射。
大宇宙《グレート・コスモス》の黄金律を求め、敢然と挑戦を試みる野心家。
神々に立ち向かう人類の旗手、夢想家の期待は無情にも打ち砕かれた。
( セカンド・マスターの判断を参考とする非常事態、過去の事例は皆無ではありませんが。
ファイナル・マスターと連絡の可能な現在只今の所、セカンド・マスターは基本的に不要。
未開惑星原住民の質問に答える事は、当機の任務に含まれておりません。 )
想像を遙かに超える痛烈な返答、明確な拒絶の意思を示す異世界の機械。
ナリスの瞳から闇色の宇宙空間を背景に煌く星々の輝き、不屈の光が消えた。
精神平面の決闘で竜王にも屈せぬ意志力の喪失、虚脱状態を如実に示す蒼白な表情。
深層意識も激震を免れぬ強烈な衝撃、心理的打撃を受け脆弱な一面が露呈。
パロ聖王家の青い血を引く野心家は瞳を硬く閉ざし、辛うじて自尊心を掻き集めた。
億劫な仕草で頭を軽く振り、水晶を髣髴とさせる表示盤に呟く。
「セカンド・マスターは基本的に不要、か…了解した、勧告に従い直ちに退室する。
ファイナル・マスターに宜しく、と伝えてくれ」
( ファイナル・マスターへの伝言、承りました。
治療の推定時間は約20ザン、対象者の搬出時に施術後の経過と観察結果を報告します )
相手を思い遣る心情とは無縁の音声信号、冷酷非情な銀色の思考が精神平面に波紋を描く。
光り輝く水晶の壁が滑らかに割れ、左右に開き退出用の通路が出現。
アルド・ナリスは想定を遙かに超える不慮の事態に遭遇、半ば放心状態であったが。
古代機械の共同研究者と腹心の魔道師に支えられ、虹色に煌く水晶の部屋を後にした。
「レムスの奴が妙な書状を送って来やがったぜ、見てくれよ、ナリス様。
ちょっと見ただけなんだけどさ、何だか頭がくらくらして来るんだよな。
妙な小細工と踏んだけどよ、ヴァレリウスなんぞとは口も利きたくねぇ。
魔道師の連中にゃ何されるか分からねぇ、何か仕込んであんのかな?」
ヨナと別れ魔道師軍団の精鋭と共に閉じた空間を経由、ナリスが天幕に戻った直後。
ゴーラ軍の陣中を騒がせ興奮気味の最高指揮官、イシュトヴァーンが駆け込んできた。
「確かに何等かの魔力が放出されている様だが、この文書は焼き捨てて構わないよ。
植え付けた催眠暗示命令を発動させる文様か、鍵となる言葉が組み込んであるのだろう。
そなたに植え付けられた催眠暗示は無効、既に解除されているのだからね。
レムスには何も出来ないし、命令の内容も知らぬだろう。
そなたがどんな動きをする様に仕組んであったか、解析するまでもあるまい。
竜王の本体は本当に一時撤退を選択したと見えるが、どちらにせよ大した問題ではないよ」
「どうしちまったんだよ、ナリス様?
昼間とはまるで違う反応じゃねぇか、あんなに調子良さそうだったのにさ。
俺、何か悪い事したか?
もっとゆっくり、進まなきゃいけなかったのかな?」
パロ聖王家の正統後継者と古代機械が認める夢想家者、アルシス王家の遺児アルド・ナリス。
ゴーラ王は素っ気無い返事を素直に受け取り、力無い微笑を見せる盟友を心配そうに覗き込む。
「私も大丈夫だと感じていたのだけれど、思ったより疲れが溜まっていたのだね。
マルガから戻った後、急に具合が悪くなってしまったのだよ」
実際には肉体面の負担過重に非ず、心理的な打撃から立ち直る事を得ず活力を喪失。
意気消沈の常套句では遙かに及ばぬ暗渠の罠に陥り、精神平面の重傷を患う黒い月。
精神集合体の竜王も一目を置く高い知性を誇り、運命に屈せぬ気概を秘めた真理の探求者。
闇色の瞳に白い炎を秘め、聖王国を護り真紅の濁流を遮る運命の王子が物憂げに応えた。
「考えてみりゃ無理も無ぇか、ほんの少し前まで車椅子から降りれなかったんだものな。
ナリス様に元気を出して貰うにゃどうすりゃ良いかな、俺に何か出来る事は無ぇか?
そういやぁ今夜に話す筈だったけどさ、俺は誰よりも多く海や陸の秘境って処へ行ったぜ。
死の砂漠ノスフェラスにも行ったし、幽霊船を操る怪物クラーケンを見た事もあるんだ。
また法螺話だと思って笑ってやがるな、本当に嘘じゃねぇんだって!
タルーアンのヴァイキングや女戦士のニギディア、オルニウス号のカメロンも一緒だったんだ。
死の都ゾルーディアへ潜り込んで不死身の化け物や、死の娘タニアをやっつけたりもしたよ!
女だらけの村ヴァルハラで寝首を掻かれそうになって、命からがら逃げ出した事もあるけどな!!
国盗りの軍資金を手に入れようってんで、氷雪の国ヨツンヘイムを護る怪物を出し抜いたりさ!
千年生きてる氷雪の女王クリームヒルドから、見た事もねぇ財宝を貰ったりしたんだよ!!
モンゴールで旗揚げする時の軍資金、ゴーラ王に成り上がる為の元手にしちまったけどな!
嘘八百だと思うのも無理は無ぇけどさ、疑うんなら豹の大将に聞いてみりゃ解るだろうぜ!!」