暁の微風   作:fw187

53 / 62
豹頭王の挑戦

「払暁と同時に、進軍を開始する。

 イーラ湖から離れる為だ、クリスタル直行は避けろ。

 俺は黒魔道の術を封じる為、アルド・ナリスに幾つか確認せねばならぬ。

 

 白い霧が現れたら、迂闊に動くな。

 布を濡らし、口と鼻を覆い、催眠薬の吸引を防げ。

 夢の回廊に引き込まれぬ様、2人一組で交互に相手が起きているか確認せよ。

 誰かに揺り起こされれば、アモンの術は即座に解除される。

 俺が策を講じて戻り次第、一気に敵を叩くぞ!」

 グインの重厚な声が響き、ケイロニア各軍の指揮官達は表情を引き締める。

 

「今度は不覚を取りません、必ずや信頼に応えて見せます!

 クリスタルに向け、出発!!」

 豹頭王が同行せぬと知り、動揺を隠せぬ指揮官達であったが。

 黒竜将軍トールが断言し選帝侯ディモス、金犬将軍ゼノン、ガウス准将も頷いた。

 

 

 ゴーラ軍も約1ザン後に進発するが、深傷を負った国王の姿は陣中に無かった。

「俺の部下共は、豹の大将に任せる。

 大丈夫さ、マルコ。

 ひょっとしたら、血を流す奴は出ねぇかもしれねぇな。

 奴は意外に頭が切れやがるし、1人で敵の巣窟に乗り込むのが好きだからよ。

 あっと驚く様な手で、クリスタル全部、丸ごと片を付けちまうんじゃねぇか?

 心配は要らねぇ、そういう点じゃあ、絶対に期待を裏切らねぇ奴なんだ」

 

 イシュトヴァーンは冗談交じりに嘯き、マルコの目を白黒させたが。

 ゴーラ王が先陣争いに固執すれば、面倒な外交問題に発展しかねない所だった。

 パロ聖騎士団・カラヴィア軍・ケイロニア軍、ゴーラ軍の緊張は無視出来ない。

 敵に惑わされ同士討ちとなった場合、多数の犠牲者を出す確率も高い。

 無責任な放言は兎も角、イシュトヴァーンの下した判断は状況に適するものであった。

 

 アルド・ナリス、ヴァレリウス以下数名の魔道師達は既に姿を消している。

 数ザン前に閉じた空間の術を起動し、サラミスの古代機械に向かった。

 上級魔道師ギールと数名の部下達が念を凝らし、閉じた空間の結界を開く。

「頼むぞ。

 トール、ゼノン、ガウス、ディモス」

 微かな呟きを残し、豹頭王の姿が風の中に消えた。

 

 

「お呼び立てして申し訳ありません、グイン殿。

 リンダが重要と思われる事柄を思い出してくれました。

 私の拙い言葉より精神接触、心象《イメージ》の方が良いと思います」

 パロ聖王家の鍵を握る姫は唇を閉ざした儘、健気に微笑。

 トパーズ色の瞳が煌き、感謝の視線を投げる。

 

 第13号カイサール転送機の装備《オプション》、念話増幅装置が起動。

 数分後アウラ・カーの言葉を伝えた暁の后、予知者の《記憶》が勇者達に託された。

 

「私の知らない所で頑張ってくれたのだね、リンダ。

 グインと私と君の体験を照らし合わせた結果、アモンの正体を解く鍵は揃ったと思う。

 必要な情報《データ》は総て揃った、君のお陰だよ」

 冷静な声が響き、リンダの瞳が輝く。

 

「素晴らしいわ、ナリス!

 何の事か私の頭では良く分らないけれど、パロは救われるのね!!」

 リンダを抱擁する良人、グイン、ヨナ、ヴァレリウスの視線が交錯。

 北の豹、ランドックのグインが4人を代表して口火を切った。

 

「夢の回廊を自在に操る魔王子は危険だ、クリスタル進軍中の部下達が気になる。

 グラチウス、出て来い!

 どうせ結界に姿を隠し、聞き耳を立てているのだろう?

 姑息な真似はやめ、姿を現せ!!」

 

 痛烈な面罵にも等しい宣告に驚き、紫色の瞳を瞠る聖王妃。

 対照的に顔色を変えず、暗躍者の登場を待つ解放軍の指導者達。

 白魔道師の結界は無力、との指摘にも等しいが。

 ヴァレリウスも実力の差は弁えており、仏頂面の儘で無言を貫く。

 グインの獅子吼に応え闇の司祭、暗黒魔道師連合の総帥が登場。

 悠然と一同を見回し、豹頭の追放者を睨み付ける。

 

「失礼な豹めが、己には学習能力が無いのか!?

 何度も言わせるな、老人には敬意を払わんかい!

 わしは世界三大魔道師の一角、現世に留まる最強の人間じゃぞ!

 己は先刻承知かも知れんが、少し位は楽しませてくれたって良いじゃないか!!」

 八百と十四歳の若者は憤然と喚くが、年齢不詳の戦士は歯牙にも掛けぬ。

 尚も言い募ろうとする闇の司祭を遮り、一瞬で沈黙させた。

 

「ナリス殿と俺は魔王子アモン打倒の為、古代機械を使って聖王宮に転移する。

 ヤヌスの塔が隠す地下格納庫、空洞部は崩壊しておらぬからな。

 お前が希望していた通り、彼奴を退治する絶好の機会《チャンス》だぞ。

 精神生命体が真に消滅したかどうか、貴様自身で確かめてはどうだ?」

 闇の司祭は咄嗟に言葉が出ず、眼を白黒させて黙り込んだ。

 

 グラチウスは珍しくも真面目な表情、神妙な顔で暫し黙考。

 抜け目の無い商売仇に優るとも劣らぬ鉄面皮、内心の窺い知れぬ猫の様な仮面を被る。

「そりゃあ、願ってもない!

 アモンの畜生め、には煮え湯を飲まされたからな!!

 何も無い世界に放り込まれ、ユリウスの様に干乾びる所だった!

 喜んで同行するさ、奴が真に消え失せたかどうか見極めてやろうじゃないか!!」

 

 飄々と嘯き、気紛れな猫の様に豹変する闇の司祭グラチウス。

 鉄面皮を崩さず、冷ややかに眺める豹頭の戦士グイン。

 悪戯っ子の様に微笑み、他人事の様に両者を見比べる第2王位継承権者アルド・ナリス。

 ヨナ・ハンゼは瞳を伏せ、懸命に無表情を保つ。

 ヴァレリウスは散々、煮え湯を飲まされた先達の醜態に溜飲を下げた。

 

 ヤーンの糸に導かれ、ランドックの秘蹟に集った6人の面を様々な表情が過ぎる。

 各々の思惑が交錯する一瞬が過ぎ神話のシレノス、豹頭の追放者が壮厳に宣告を下す。

「透視透聴の術を自在に操る闇の司祭なれば、既に御存知かと愚考するが改めて確認して置く。

 古代機械に関し最終的な権限を持つファイナル・マスター、グインが設定した至上命令をな。

 

 パロ聖王レムス憑依の精神集合体、竜王ヤンダル・ゾック及び眷属と思われる竜の門。

 王太子アモン詐称の精神生命体、怨念を糧として孵った神の種子《フモール》。

 闇の司祭グラチウス以下、暗黒魔道師連合の構成員。

 上記の存在が第二管理者《セカンド・マスター》に精神接触の際、自爆せよ。

 

 推定影響範囲は謎の古代王国ハイナム、草原地方、ミロク教の聖地ヤガ、沿海州も含む。

 三千年前に帝都カナンへ星船が墜落して爆発し、死の砂漠ノスフェラスが生じた刻と同じだ。

 竜王の故郷と疑われるハイナムを含め、キレノア大陸の西半分は死の砂漠と化すだろう。

 キタイの竜王は道連れに出来ぬが、中原の全住民が精神寄生体の奴隷になるよりは良い。

 パロ聖王国を代表してナリス殿が提案され、新生ゴーラ王国の宰相カメロン殿にも同意を得た。

 アキレウス大帝には申し訳も無いが、ケイロニア王国に関しては俺が責任を負う。

 

 クム大公国や沿海州諸国、草原地方や自由国境地帯の自治領は同意を得ておらぬが已むを得ぬ。

 キタイの民を蹂躙する異世界の精神集合体を駆逐する為、別の調整者が派遣されると期待する。

 俺は中原を守護する調整者として面倒な精神生命体を駆除する為、相討ち共倒れを厭わぬ!」

 

 トパーズ色の瞳と剥き出しにされた獰猛な牙を煌かせ、野獣の形相で吼え捲くる長身の偉丈夫。

 黄金と黒玉に彩られた豹頭の戦士と対照的に、艶消しの黒で統一された闇の司祭が怒鳴った。

 

「やめんか馬鹿たれ、おのれは限度と云う物を知らんのか!

 虚仮脅かし《ハッタリ》や虚勢《ブラフ》の類も時と場合に拠る、好い加減にせんかい!!

 表情の読めぬ豹面が冷静な口調で宣うと真剣に怖いわ、本当の本気に聞こえるじゃないか!

 おまけに王は常々とんでもない事を平気でやってのけるのだからな、平然と実行しかねん!!

 中原全域が死の砂漠と化すも已むを得ぬ、とは何と云う無責任な言い草じゃ!

 背筋が凍り寿命が縮むわい、苦言を呈し無辜の民を代表して発言する!!

 

 調整者の手先か中原の守護者か知らんが、ケイロニア国王には違いあるまい!

 おんどれは難破した星船の主、風来坊かも知れんが中原を救う希望の星なんじゃ!!

 ナリスもナリスじゃ、豹頭の追放者と異なり貴様は中原の人間じゃろうが!

 掟破りの馬鹿者を嗾けてどうする、少しは引き止めようと思わんのかっ!!」

 

 曲がりくねった杖を振り廻し怒号する齢814歳の若者、グラチウスの狂態に眼を丸くする2人。

 ヨナとヴァレリウスの観察結果を、古代機械の念話増幅装置が中継。

 ナリスの思考が閃き、グインと視線を交錯。

 鉄面皮の豹頭王に代わり、弁舌の魔術師が爽やかな声を響かせる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。