暁の微風   作:fw187

59 / 62
ガルムの標的

「畜生、汚いぞ!

 食物に毒を仕込む悪役、その儘じゃないか!?」

 赤い激流の様に渦巻き、光り輝く物凄い眼で睨みながら喚く精神生命体。

 アモンの憤怒、激情を冷徹に観察する聖王家の重鎮。

 パロ解放軍の指導者、アルド・ナリスが慎重に言葉を選ぶ。

 

「ありがとう、最高の褒め言葉だ。

 眼には眼を、歯には歯を、毒を以て毒を制す、とは言わないがね。

 私も竜王の手先に酷い目に遭わされたのだから、お互い様だよ。

 肉体的苦痛と身体機能の壊死、損壊に等しい精神構成要素の離脱を避ける道は唯一つ。

 古代機械で時を遡り、《世界を創る者》に遭う唯一の機会を提供する。

 代償は竜王僭称の精神集合体と戦い、キタイ解放の一助となる事だ。

 誓約に叛けば、君の精神崩壊は避けられないよ。

 私達が敗れた時、古代機械は自爆するのだから。

 逃げ道は、無い。

 時が来た、覚悟を決めて貰おう。

 手を組む、と言いたまえ」

 アモンの眼が追い詰められた者の恐怖、狂気に繋がる盲目的な感情の嵐を映す。

 

 

「精神生命体には酷な展開、と申し上げなければなりませんね。

 人間と異なり、彼等に誓約を破る事は出来ない。

 誓約を破る事は意思中枢、自我を破壊する事に他なりません。

 エネルギー凝集の要を喪い、星間物質に還元されてしまう。

 人剣と尊称された賢者もまた、否定する事の出来ぬ明白な論理を以て先住者を説得した。

 敬服します、アルド・ナリス殿下」

 サリウの身体に宿る長命族の精神が囁き、アモンの瞳から魔力が失せる。

 

「余計なお喋りがいなけりゃ、誤魔化せたんじゃないかな、と思うけど。

 力を蓄えた後で、ヤンダルを喰ってやる心算だったんだから、同じ事か。

 しょうがない、手を貸してやるよ。

 その代わり、必ず、約束を果たして貰うからね!」

 子供の様に小さな身体が震え、不安定に揺れる。

 輪郭を包む淡い光が薄れ、消え失せた。

 

(見えなくても、問題は無いだろ?

 古代機械の気配を隠す為に、《パワー》が要るんだ。

 結界を張り、偵察を遮断しなきゃなんない。

 白状するけど、空腹でね。

 誰か、喰わせてくれないかな)

 異質な思考が閃き、5人の裡を戦慄が疾り抜ける。

 

 

「相互理解に達した様だね、宇宙の種子殿。

 竜王打倒の為、手を組む。

 もうひとつ、確認しておく。

 君は《人間》ではないのだから、王位継承権は認められない。

 互いに相手を必要とするが故に、信頼し合う関係は脆弱だ。

 常に裏切り、騙し合い、反逆の機会を窺う味方は要らないよ。

 キタイ解放後も契約の破棄、同盟の解消は最悪の結果を招く事は承知しているね?

 グインの許可を得られず、精神的骨格も壊れる事になるだろう。

 

 老師様、お尋ね申し上げます。

 竜王が美味しい餌を確保した為、寝返った黒魔道師の名は?

 ドール教団最高導師の座を狙う弟子、目障りな馬鹿者を退治しませんか?」

「なんて腹黒い奴だ、黒魔道師をアモンの餌にする気か!

 生贄を要求する魔剣、そのものじゃ!!」

 冷徹な声が響き、グラチウスも喚く。

 トパーズ色の瞳が煌き、厳かに告げた。

 

「イヤなら、無理にとは言わんぞ。

 世界最強の称号は単独で竜王、精神生命体を倒した勇者の物だ」

「わかった、わかったよ!

 ほんとに嫌味な豹じゃ、犬にでも喰われろ!!

 ルールバ、エイラハ、ババヤガ、だな。

 他にも寝返った者はおるが、大した魔力は持っとらんからの」

 闇の司祭は意気消沈した風情で呻き、ヴァレリウスが溜飲を下げる。

 

「お褒めに与り、光栄至極でございますが。

 3名では審査の基準が厳しすぎるのではないか、と思われますね。

 老師の弟子、ではなくても構いませんよ。

 グラチウス殿の覇権に挑戦する輩、不届き者はいませんか?

 アモンに邪魔者を喰わせ、枕を高くして眠る方が得策でしょう」

 ナリスが囁き、八百十数歳の若者は深い溜息を吐いた。

「ヴァレリウスの気持が良く解ったわい、痛い程にな。

 ランダーギア出身の黒き魔女、タミヤ。

 アグリッパ由来の合成生物、イグ=ソッグ。

 その辺で、勘弁せい」

 優雅に頭を下げる貴公子、皺深い顔を顰める老齢の暗躍者。

 参謀長ヨナ・ハンゼ博士、パロ最強の魔道師が笑いを噛み殺す。

 

 

「話は纏った、と判断する。

 グラチウス、貴様は黒魔道師を聖王宮に誘い込め。

 アモン、レムス達は何処まで来ている?

 此処に着くまで、あと何タルザンだろうか?」

 

(ヤンダルのせいで、《父上》の衰弱が酷いんだな。

 《母上》に背負われなきゃ、闇の回廊を抜ける事も出来やしない。

 古代機械の結界、切って貰えるよね?

 《扉》を開くから、手を貸してやりなよ)

 他人事の様な思考が閃き、グインの繭が跳ねる。

 思念波の命令に応じ、不可視の障壁が消えた。

 水晶の様な壁に囲まれた制御室の一角に、闇が渦巻く。

 銀色の髪、金色の髪が揺れる。

 ヴァレリウス、ヨナ、グインが覚束無い足取りの男女を支える為に動いた。

 サリウの身体を操る精神から思考が閃き、ナリスに思念波入力モード操作手順を解説。

 

 

「大丈夫です、グイン殿。

 深層睡眠状態に置き脳細胞の賦活化、記憶改変等を併用すれば数分で済むでしょう。

 問題ありませんよ、魔道師殿。

 私の思考は精神生命体にも、闇に司祭にも読み取れません。

 ナリス殿に遠隔感応、暗示波を送り自爆の危険を冒す覚悟は無いと思いますよ」

「どうしたの、ヴァレリウス?

 『失敗った!』と、顔に書いてあるよ」

「私も、心配していました。

 丁寧な解説、ありがとうございます」

 ナリスが囁き、灰色の眼が白黒した瞬間。

 ヨナの涼しい声が響き、サリウの瞳が微笑う。

 ヴァレリウスは唸り、サイコ・シールドを極限まで強めた。

 

「伯爵、レムス達を頼む。

 健康を取り戻し、アモンに関する記憶を消してやって貰えれば助かる」

「グイン殿の御依頼、確かに承りました。

 レムス陛下の衰弱は許容量を遙かに超える魔力、瘴気の浸蝕が原因です。

 ナリス殿と異なり、松果腺刺激手術は要りません。

 脳内細胞と神経組織の賦活化、生体エネルギー補填で動ける様になりますよ。

 王妃の精神治療、正気を取り戻す為には記憶を書き換えればよろしい。

 出産も無かった事にする為、細胞組織《修復》の所要時間は同等です」

 トパーズ色の瞳に衝撃が疾り、名状し難い感情が渦巻く。

 沈黙に関係無く第13号転送機の標準装備、ファイファ・システム関連装置の表示盤が明滅。

 数タルザン後に紫色の瞳、グインと再会の時には機械人形の様だった聖王妃の瞳が開く。

 

 

「レムス、アルミナ。

 私は、謝らなければならない。

 君達を追い詰め、パロを破滅の淵に追い込んだ最大の原因は、パロ宮廷にある。

 情けない話だが、忘れていたよ。

 16歳の頃、私も執拗な嫌がらせを受け、復讐を誓った事を。

 私にも、解っていた筈だった。

 パロ宮廷は負の感情が渦巻く底無し沼、奈落の底に通じる魔の聖域に他ならないのだと。

 

 今なら、言える。

 君が、悪いんじゃない。

 最初は誰もが経験不足、試行錯誤を避けて通る事はできないのに。

 私も貴族達も真剣に君の補佐役を務め、親身になって相談に乗ろうとしなかった。

 自分達は楽して甘い汁を吸う為、14歳の君に統治者の重責を背負わせた罪と罰。

 誰かを蔑み、苛める事を楽しむ集団心理が、パロに破滅を招いたのだよ。

 

 君の気持は、良く解るよ。

 妬み、嫉み、批判の種を引き出す為の罠を仕掛け、足を引っ張る陰湿な手練手管の数々。

 恨まれて当然の故に募る底無しの恐怖、不安に怯え責任転嫁を図る闇の論理。

 正義の鉄槌から逃れる為に被害者を装い、自分は絶対安全な裁く側に回る貴族達への怒り。

 陰湿な貴族達に、思い知らせてやりたい。

 相応の罰を与え、報復してやる、と考えて当然だ。

 自己正当化の技術を磨き抜いた精神的ガルム達の標的、生贄にされた君達は最大の被害者だ。

 本当に、申し訳の無い事をしてしまった。

 アルド・ナリスの謝罪、受け容れて貰えるだろうか?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。