暁の微風   作:fw187

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運命の子

 精神生命体アモン、中原を代表する策謀家の《和平交渉》が展開された密室。

 星船《ランドシアⅶ》搭載の第13号転送機、古代機械内部の操縦室で闇色の瞳が煌いた。

(アムネリスの侍女、イシュトとの間に生まれた息子?

 クム大公の正室、大公妃の嫡男になるかもしれないのですね。

 タリクが我が友、イシュトに太刀打ちできない事は明白です。

 長兄タルー、次兄タル・サンは既に討たれ、タリオ大公の直系は気の弱い末弟のみ。

 大公家も風前の灯だが、ゴーラに併呑されるなら戦いを選ぶ者も多いでしょう。

 でも、その《息子》が英雄の器を備えていれば、話は変わる。

 タリクの代で勝ち目の無い戦いは避け、次の代で旧ゴーラ三国の覇権を奪還すれば良い。

 そう説けば絶大な恐怖を纏う魔戦士、冷酷王との戦いを避ける者は多いと思うのですが)

 

 アルド・ナリスの思考が閃き、長命族の異星人が応える。

(この子は将来、大物になるだろう。

 そう思わせる《何か》、は確実に備えていますね。

 養子に貰いたい、と複数の有力者から申し込まれています)

(ほう、それは頼もしい。

 父親似ですか、母親似ですか?)

 水晶の護符が僅かに揺れ動き、古代機械内部の摩訶不思議な照明を映す。

 

 赤や青の直線と緑玉(エメラルド)色の曲線が複雑な模様を描き、微かに震動する壁の内部に消える。

 操縦席の前面を銀色の舞光(オーロラ)、七色の踊光(イルミネーション)が染めた。

(ゴーラ王の幼かった頃は、こんな風だったのではないか。

 そう思わせる資質、才気を備える子供です。

 ガウシュの村を出てから遭遇した人々、多くの庶民が《彼》に魅了されました。

 クム重鎮の貴族達も《彼》を一目見て、ゴーラ王の嫡子と確信しています。

 風貌も酷似しているが、王者の風格を備えている。

 人望がある、と言うには幼すぎますがね。

 年齢相応に愛らしく、残酷には見えない点も大いに作用しているのでしょう。

 面魂(つらだましい)、と云う言葉を連想します)

 

(ますます、面白い。

 イシュトの嫡男、アムネリスとの間に誕生した《王子》よりも年齢は上か。

 ゴーラ王位の継承権で揉めると、モンゴールを敵に廻してしまう。

 クム中の期待を《彼》に集め、ゴーラと敵対の空気を和らげる方向に運ばないと。

 イシュタルの玉座、ゴーラ王の右側に置いてある空席を使うかな。

 竜の紋章を帯びた椅子に、イシュトに良く似た男児が座る。

 (さそり)の紋章を帯びた椅子には、アムネリスに似た男児を座わせる。

 イシュトが真ん中に座り、新生ゴーラ王国の将来は安泰と暗示する肖像画を配ろう。

 モンゴールが鎮まった様に、クムも私の智謀で鎮めて見せますよ)

 策謀家の思考が閃き、814歳の若者が飄々と呟く。

 

(それはちと、甘いのではないかと思うがね。

 水の国クムは竜神信仰が盛ん、キタイ移民の建てた異境じゃ。

 ラン・ダル魔道伯、の名に何か思い当たりはせんか?

 レムス如きに遙か東の竜都(シーアン)、中原の聖都(クリスタル)を繋ぐ中継者(リレイヤー)の役は務まらん。

 カムイ湖には竜神の御使い、水蛇(みずへび)の大群も棲んどる。

 イーラ湖から現れた銀色の竜、ケス河の《大口》ならぬ巨頭(ビッグ・ヘッド)が出るやもしれんぞ)

 

「イシュトヴァーンの息子、アムネリスの侍女を敵の手に渡す訳にはいかん。

 クリスタルに軍を駐留させ、単身で確保を試みる方が良かろう。

 グラチウス、お前が最も事情に通じている模様だな。

 クム宮廷の暗躍者と渡り合う為、顔を貸して貰おうか」

 最も頼りになる漢、豹頭の追放者が現実路線に話を導く。

 

「なんと、人使いの荒い豹じゃ!

 老人をいたわる気は無いのか、この、薄情者め!!」

「俺が薄情であれば、シルヴィア誘拐の張本人を見逃しはせぬ。

 スナフキンの剣よ、お前の」

「わかった、解ったよ!

 主義には反するが、妖魔退治の専門家として振舞うとも!!」

 グインの右腕が輝き始めた途端、グラチウスは兜を脱いだ。

 

「クム国内の諜者、情報提供者から報告は届いていません。

 ルーアンに駐在の魔道師は総て、引き揚げてしまったのだったかな?」

「竜の門に対処する為、他国領に魔道師を残して置く余裕はありませんでした。

 神聖パロ帝国解散、解放軍に名称変更の使者も通常の伝令を使った私大でして」

「古代機械で魔道師を転送しても良いが、役に立つか疑問だね。

 老師の暗躍を邪魔する気は無いし、手械足枷になってしまっては申し訳ないよ」

 闇の司祭に無邪気な瞳を向け、天真爛漫を絵に描いた様な表情を装う貴公子。

 ニヤリと笑った従者、ヴァレリウスを物凄い眼が睨む。

 

「性悪の陰謀家共め、白々しい物言いはやめんか!

 仰せの通りじゃ、引っ込んどれ!!」

 古代機械と自爆装置の恫喝を無視できず、思考の盗聴を控える黒魔道師が喚く。

 豹頭の戦士は鉄面皮を崩さず、ヨナも表情を変えぬ。

 

「申し訳ありませんが、私は暫く眠らなければなりません。

 ルーアン宮殿には複数の暗躍者が潜み、互いに隙を窺っている。

 敬虔な信者を装う赤い眼の怪物、ミロクの使徒を操る催眠術師も潜んでいます。

 グイン殿には鎧袖一触と思われますが、シレノスの貝殻骨にお気を付けください」

 冷気を漂わせる典雅な貴族風の男、立体映像が瞬き返事も待たずに消えた。

 

「もう少し話を聞きたかったが、まあ、やむを得んだろう。

 グラチウス、イシュトヴァーンの息子達が居る場所を教えろ」

 闇の司祭が眉を顰め、つるりと顔を撫でる。

「無茶を言うな、儂だって知らんよ!

 お主の様に馬鹿でかい気なら感じ取れんでもないが、普通の子供なんじゃろ?

 ちょっと偵察してみたが、異常な気は見当たらん。

 千里眼の術は疲れる、閉じた空間で直接ルーアン宮殿に行った方が早かろう」

 

「クムの新たな大公、タリクは凡庸と聞き及びます。

 ラン・ダル魔道伯とやらの操り人情、傀儡でしょうか?」

「うんにゃ、違うと思うね。

 竜の配下共は気配を悟られぬ為、身を潜めておる。

 大公の意に染まぬ結婚、タイス伯爵の野望には噛んでおらんよ。

 クムは竜神信仰の盛んな地じゃが、ミロク教徒も徐々に増えとる様だな。

 暴力否定の教義を逆手に取り、中原全域に勢力浸透を図っとる事は知らんのか?」

 冷徹で感情を読めぬ精神波、水晶(クリスタル)の様に透明な思考が響く。

 

「老師、詳しく教えて下さい。

 魔の胞子を操る竜の門、キタイ侵略者の暗躍は見過ごせません。

 ミロク教の聖都ヤガ、沿海州、草原地方に魔手が及んでいるのですね?」

「まだ、其処までは行っておらん。

 タリア伯爵領も含め中原の東部を抑え、南と西に展開の謀略も闇の司祭様には通じぬ。

 戦乱の続いた旧ゴーラ三国、モンゴールは危ういがな。

 ノスフェラス経由の通商路、辺境を固める為の布石を敷いておるのじゃ。

 巧妙な策だが、儂の叡智には及ばぬ。

 《種子》を植え込まれた事にも気付かぬ馬鹿者と違い、総て、お見通しよ」

 反射的に湧き出た感情を抑え、無言で睨み付けるヴァレリウス。

 

「俺は古代機械を使い、ルーアン宮殿に転送して貰う。

 グラチウス、お前もだ」

「ちょっと待て、勝手に決めるな!

 何処に飛ばされるか、知れたもんじゃない!!

 意趣返しをされてはかなわんからな、閉じた空間の術を使う方が安心じゃ!」

 グインは答える手間を省き、転送室の椅子に鎮座。

 ナリスの操作で豹頭の戦士が姿を消し、グラチウスも続いた。

 

 一瞬の眩暈(めまい)、総てが溶解する異様な感覚を経て転送は終了。

 薄暗いが身を隠す場所の無い廊下、見通しの良い壁際を避け最も近い扉に駆け寄る侵入者。

 次の瞬間。

 音も無く扉が開き、イシュトヴァーンの面影を宿す幼児が長身の偉丈夫を睨んだ。

 トパーズ色の瞳に黒い瞳が映り、名状し難い衝撃が身体の奥深い処を貫く。

 

(王よ、騙されるな!

 そいつは、偽者だ!!)

 心話が響き、グインを硬直から解き放った直後。

 頭上で、空間が割れた。

 強大な念波が結界を破り、力場(フィールド)の性質を変える。

 幼児の顔が歪み、背後に佇む若い女性の貌を恐怖の大波が覆う。

 

傀儡(くぐつ)使いのアブラヒム、お前如きの術が儂に通用すると思うたか?

 人形を操るしか能の無い馬鹿者め、邪魔するでない!)

 グラチウスの面罵に応え、エイシャの顔が膨れ上がった。

 一気に床一面と天井を覆い、巨竜の(アギト)にも劣らぬ獰猛な(きば)を剥く。

「スナフキンの剣よ、お前の力が必要だ!」

 豹頭の戦士が叫び、悪夢を叩き斬った。

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