カルデアでうっかりカーミラに絡んでしまったカッツが、必死に戦ってみるバトル短編。組み合わせた理由は、マイルームのランダム表示にしたら二人が出たから。戦闘時の仕様はゲームシステムと本編描写の折半です。Pixivにも同時投稿。

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織田信勝がカーミラと戦う羽目になった話

「ひぃぃぃ~!!」

 

 一体なんだよ、あの蝙蝠みたいな仮面女は!? 

 露出の多い恰好のどこから、あんなに大量の拷問器具が取り出せるんだ!? 

 

 19世紀ロンドンを模した煉瓦の街。

 霧の立ち込める無人の通りを、旧日本軍を模した緋色の軍服に、赤銅色のコートと帽子で覆った肌白の少年。

 長い黒髪を一本に結んで垂らし、その瞳は赤く狂気を帯びながら、顔に浮かべるのはただ困惑と焦りの形相である。

 

「いけぇ、ものども!」

 

 少年の指示に、物陰や屋根の上に隠れていた伏兵たちが火縄銃の引き金を引いた。

 放たれた弾丸は真っ直ぐに、少年の背後に迫っていたアサシンのサーヴァントに降り注ぐ。

 

「馬鹿ね」

 

 女が手を翳すと、地面から鋼鉄の塊が出現する。

 人が入れるほど巨大な釣鐘状の拷問器具には、アサシンと向かい合うように乙女の姿が象られ、ガバッと大きく観音開きに中央が開いた。内部には夥しい棘。入れば全身に穴が開き、溢れる血で鉄が赤く染まる。

 

 世間に知られたその名は、鉄処女(アイアン・メイデン)

 

 彼女の宝具でもあるその武器は並大抵の硬さでなく、火縄銃の弾からアサシンを守り抜く盾となる。

 

「あら、坊やは上手く逃げたみたいね」

 

 脳を撫でるような美声で、女は微笑む。

 豊満な肉体を際立たせるゴシックな衣装。ウェーブのかかった白髪から伸びる2本の角。蝙蝠姿のマントに露出の多い漆黒のドレス。

 金属の格子(パニエ)格子》がむき出しのスカートは、妖絶ながら彼女の異常性をむき出しにしている。

 なにより目元を覆う仮面の奥には、落ち着いた雰囲気の中で、黄金に光る吸血鬼の目があった。

 名門バートリ家の気品ある伯爵夫人、村娘を次々殺害した殺人鬼。

 2つの側面を持つ彼女は、優雅なまま奇抜で、大人びながらどこまでもサディスティック。

 反英雄である彼女だが、乙女の鮮血で湯浴みすることで得たと言われるその美貌は、確かに仮面ですら隠しきれぬほどだった。

 

 

 そんな血の伯爵夫人がギロリと再度火縄銃を構える兵士たちを見回す。

 

 

「男ばかりで、顔も平凡……全員、今一つね。無様に死になさい」

 

 

 アサシンが手を振れば、鋭く伸びた爪が煉瓦でできた壁すら切り裂く。

 不用意に近寄れば、魔力を吸われて干からびていく。

 

 ならば遠距離の攻撃で仕留めるべきだ、というのが少年の指示だった。

 例え少年でなくても、従来の戦であればこれが常套手段であろう。

 しかし相手はサーヴァント、たかが遠くから攻撃をされた程度で退くことはない。

 

 地面を一つ蹴れば家より高く飛翔し、気を取られれば背後から遠隔操作された鉄処女が音もなく現れ、襲い掛かる。

 

『あの女とは直接戦うな、鉄砲がダメならすぐに距離を稼ぎつつ逃げろ』

 

 少年が事前に伝えた戦略の通り、兵たちは銃で牽制しながら街の細い路地を巧みに使って逃げる。

 アサシンは、それをあえて追うようなことはしなかった。

 そんなことをせずとも、兵士より流れた血をその嗅覚は逃さない。

 負傷した相手が戻る先といえば基地にほかならず、アサシンは上手く逃げたつもりでいる兵士たちの後ろ姿を見て、小さくため息をついた。

 

 

「本当、これが戦いなのが残念。もし暇があれば、一人くらい捕まえて拷問してあげたのに」

 

 

 カーミラという名は、真名であり真名でない。

 後世の創作である吸血夫人の要素を取り込んだエリザベート・バートリー。

 実在しない鉄乙女すら己の狂気の具現として使いこなす彼女、カーミラは人々が見とれるほど美しい横顔を、窓に映しこんでいた。

 

 

 □□□

 

 

「……ない勝てない勝てない、勝てないって!! なんで僕があんな露出癖の女と戦わなくちゃならないんだよ」

 

 シティ・ロンドンで展望台となるほど巨大な教会、セント・ポール大聖堂を陣取った兵士たち。

 その埃被った壁の隅でぶつぶつと文句を言いながら震えているのは、弓兵(アーチャー)のクラスを持つサーヴァント。戦国時代の日本における武将にして、三英傑が一人である織田信長の実弟、織田信勝である。

 

 生前ではどうであれ、サーヴァントとしての彼は弱小の部類に入っていた。

 過去になした偉業、後世の逸話、世界的な知名度によりサーヴァントの霊基や宝具は強化される。

 一方、それらが何もないのが信勝であった。

 当初カルデアに召喚されたときも、偉大な織田信長の像が日本や世界に存在するからこそ、「信長の弟」ということで辛うじて知名度によりサーヴァントとしての霊基が保てているにすぎなかった。

 

「くそぅ、大体なんで僕が単騎でこんな目に……」

 

 彼の持つサーヴァントそれぞれに特有な能力、スキルは全てサポート向け。

 形勢逆転も狙える奥の手、宝具ですらも、彼の場合仲間がいなければ効果が十分に発揮できない。

 

 では、彼が口にするように、なぜカーミラと戦うことになったのか。

 理由は単純で、カーミラに「悪趣味な相手と模擬戦闘したい」と言われたマスターが食道に行ったところ、姉上の盃(ドクロ)に興奮していた信勝がいたからである。

 最初は嫌がった彼も、じゃあ代わりに信長をカーミラに紹介しようとマスターが言ったのを聞き

 

「女の血を浴びるのが趣味な奴を、姉上に近づけさせるだなんて何を考えているんだ! そんな下衆な相手の前に姉上を出すくらいなら、僕が言ったほうがマシだ!」

 

 と大声を上げたせいだ。

 なんならそれを、すぐ横にカーミラに聞かれていたせいでもある。

 

「人のことを散々言ってくれるじゃない。なら、貴方が相手をしてくれるのよね」

 

 と問答無用の迫力にすぐさま折れ、断ることもできず今に至った。

 

『僕は戦闘が得意じゃな武将じゃない。本領は軍を動かす将だぞ』

 

 ということで、何とかシミュレーターにより再現された兵30人を連れ立ったが、ご覧の有り様である。

 そんな彼を軽くこづいたのは、

 

「ノッブ!」

 

 織田信長を模したような、何だか分からない二頭身の生物ノッブだった。

 あまりに姉を尊敬しすぎるが故に信勝が生み出した使い魔とも、彼が召喚されるより以前に

 から存在する謎の生物ともされるが、関係者は皆口を噤むため詳細は不明。

 信勝も何処から湧いてくるのか、よく分からないながらにノッブを引き連れている。

 

「いたぁ……くはないけど、何するんだお前! 姉上なら手打ちものだぞ!」

 

「ノブノッブ」

 

「卑屈になっていたから目を覚まさせようとした? そ、そんなわけないだろ。僕はちゃあんとアサシンに勝つ方法を考えていたところだ」

 

「ノブ~? ……ノブノブ」

 

「本当に〜? なら良いか、って全く無礼なやつだな。でもそうだ、僕だって姉上の弟なんだ、やられっぱなしじゃ駄目だよな」

 

 勝てなくても良いという浅慮は捨てた。

 これは姉を守るため、信勝自らが始めた戦である。なら最後まで足掻いてやらなくては、姉に顔向けできない。

 

「みていろ、吸血鬼。僕の知略に恐れ慄くが良い! ふっはははは!!」

 

 そう高らかに笑う姿は、確かに同じ血を引く魔王の面影を持っていた。

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 

 

「坊や、もう逃げるのは止めたのかしら」

 

 

 街の大通り。

 カーミラは信勝の前に立った。

 背後に兵を待機させ、その先頭に彼は立っていた。

 

「雑兵じゃお前に傷を与えられない、どころか血を抜かれてお前の魔力源となるだけだ。だったら僕が出張るしかないだろ」

 

「そう、臆病な子供と思っていたけれど、案外細身に似合わず勇猛なのね」

 

「侮るなよ、吸血鬼め。僕こそは、尾張の虎たる織田三郎信秀を父に持ち、かの天下布武せし信長公(あねうえ)と同じ血を引く、織田勘十郎信勝だ!」

 

「感心したわ。御礼にいっぱい可愛いがってあげる」

 

「砲撃隊、構え!」

 

 直線の通りには横道や障害物がなく、カーミラは射撃を迎えうつしかない。

 

「放て!」

 

 ダン ダン ダン!! 

 

 訓練された3段の射撃に、カーミラは手を地面にかざし、再び鉄処女を召喚する。

 前と同様に弾除けの壁とするつもりだろう。

 

「今だ、者ども!」

 

「ノッブー!」

 

 バッと頭上から、小さな二頭身の影が7つ落下してきた。

 

「な……!?」

 

 ノッブたちの手には大縄。

 そのまま鉄処女を四方にぐるりと囲むと、縄をかけて動きを封じる。

 

「たああ!」

 

「チッ……!」

 

 驚く暇も与えず、信勝は己が太刀を抜き、カーミラに飛びかかった。

 魔王の縁を辿り炎を纏うその魔剣は、弱小サーヴァントの信勝の武器であれど、斬られれば無事では済まない。

 

「邪魔くさいわね、7人の小人(ドワーフ)を従えるだなんて、白雪姫(スノー・ホワイト)のつもりかしら……! そういう童話(メルヘン)脳は、ドラ娘だけで十分なのよ!」

 

 この程度で汗を掻くカーミラではなかったが、反撃に出ようとした瞬間、信勝は後方に飛び退き、再び兵へ合図を出す。

 

「放てぇ!」

 

 避けようとしたカーミラは、縛られた鉄処女を側に呼ぼうとする。

 しかしノッブたちは小さな身体の全力を以て、その動きを押し留めた。

 

「厄介なことしてくれるじゃない……!」

 

 ダン ダン ダン!! 

 

 カーミラーは手元に長杖を取り出し、くるりと振り回して殆どの射撃を弾き飛ばした。

 だがわずかに、2、3発がその肌に傷を作る。

 垂れる血を指で拭い、カーミラは目標をノッブたちに定めた。

 腕をぷるぷると振るわせる小柄な相手など、一つ手を振るえばすぐさま瓦解するはずだ。

 

 

 『吸血』

 

 

 スキルとして昇華されたその残虐は、直接相手に噛み付く真似をせずとも、近くにいさえすれば相手から魔力を奪い取る。ノッブ程度なら、一瞬で干涸びさせることも簡単だと。

 カーミラは指先を一生懸命に紐を引くノッブに向けた。

 

 

「僕から目を逸らさせるわけないだろ!」

 

 

『戦乱の徒花』

 カーミラがスキルを放つ寸前、その指のさす方向は信勝へと捻じ曲げられた。

 

「指が……!?」

 

 群雄割拠の時代、何も成せぬまま死んだ人々は信勝を含め数知れず、然して己の犠牲により戦国という時代を築き上げた。

 このスキルはその逸話を逆手に取り、己に味方の礎となるべく死へ近づける性質を付与する。

 

「ぐうぅ……!!」

 

 カーミラの吸血により、呻く信勝。

 内臓を掴まれたような、魔力の絞り取られる感覚。

 大抵のサーヴァントであれば少し貧血を起こす程度の『吸血』だが、魔力ステータスが最低ランクの信勝にとっては霊基を保つことさえ難しい。

 

「自分から死に急ぐだなんて、馬鹿な子」

 

 もう一度吸血を行えば、その衰弱した肉体を止められるはずだ。

 けれどカーミラはそうしなかった。身体に信勝の魔力が流れ込んだとき、言い表せない嫌な感覚を覚えたからだ。それはこれ以上、下手に取り込んではいけない何かがあった。

 

(まるで呪われた身体……血の一滴にまで強い概念が詰め込まれているような感覚だわ)

 

 その直感は当たっていた。信勝の身体は、ある種の毒を含んでいた。

 一瞬カーミラが躊躇したことにより、先に動いたのは、信勝だった。

 稚拙な謀略は、こうなることを読んでいた。

 

「はッ……これでも、食らえ!」

 

 再び剣を構えた信勝に、カーミラは応戦しようとする。

 しかし信勝は剣を片手に持つと、空いた右手で懐からそれを取り出した。

 

 

 ダンッ!! 

 

 取り出だしたのは、火縄銃によくいた拳銃であった。

 カーミラと織田信勝、2人の生きた16世紀において、それは未だ作られていない。

 拳銃が日本で広まるのは、幕末の動乱の最中。坂本龍馬のリボルバーを始め、アメリカの南北戦争終結により溢れた最新鋭の銃火器が日本へ輸入された。

 新撰組の隊士も戊辰や函館戦争の折、その銃弾飛び交う戦場を駆け巡る様になる。

 加虐嗜好のカーミラは、以前拷問好きと聞いて声をかけたサムライを思い出す。

 銃と刀を携え、火炎の化身がごとく憤怒を燃やして戦う土方歳三が信勝と重なってみえた。

 

 瞬きすれば、そこにはひょろりとした白肌の少年しか見えない。だというのに、身から湧き出る炎は確かに消えていない。

 

 カーミラは、確かに信勝を侮っていたことを認めた。

 

「サムライっていうのは、どこまでいっても厄介ね……!」

 

 信勝は刀を捨て、恐怖と疲労で震える両手で拳銃を撃つ。更に近づきすぎれば火薬玉で距離を取り、小さくも確実なダメージをカーミラへ与えていく。

 勝てるわけのない戦い、それでも全てを出し尽くすことで1秒先へ繋げていく。

 しかし杖で右肩を砕かれ、痛みにすくんだ信勝の喉を、カーミラの手が掴み取った。

 

「がッ……」

 

「よく足掻いたわね。褒めてあげる」

 

 カーミラは空いた爪でそっと信勝の顔を裂き、血を舐めた。

 強者の味には程遠く、しかし喉を焦がすような熱さがある。

 

「でももう終わり。その血を、私に捧げなさい」

 

「…………終わり、なのは……お前だ」

 

 

 

 ドクン

 

 

 

 カーミラは目前の死にかけた身体から、大きなうねりを感じ取った。

 残された魔力が、湯水の湧く様に溢れ出し、霊核すら不安定にさせながら彼を包んでいく。

 

(真名開放……!)

 

 

 宝具を使う兆候。

 信勝が宝具を使う想定を、カーミラがしなかったわけではない。

 ここまでカーミラ自身が真名解放をしなかったのも、信勝の宝具を警戒して、先手で魔力を大量消費することを避けたからだ。

 そして、この弱り切った中で宝具を使えるほどの魔力がないと判断した。

 

 その判断こそ、信勝の宝具が求めていたことだった。

 

(僕にはわかる……こういう弱者をいたぶるのが好きな奴の思考が)

 

 だって、かつての僕がそうだったから。

 油断はないと言いながら、その実自らを高貴さによって慢心している。

 信勝は青ざめていく顔で、高らかに笑った。

 死地に追いやられ笑う姿に、初めてカーミラは冷や汗を覚え、徹底的に相手を敗北させるべく、遂に切り札を使った。

 

 

 

「……真名開放、

 

幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』!!

 

 

 

「「「ノブーッ!?」」」

 

 カーミラの宝具仕様に伴い、勢いよく回転した鉄塊は、ノッブたちを忽ちに振り払い、扉を大きく開いた。

 鋼鉄の棘で彩られた怪物の口が、信勝に迫る。

 宝具を使われる前に、こちらが確実に倒す。カーミラは手に力を入れ、信勝の喉を潰した。

 

「……ッ!」

 

 口をパクパクとさせる少年の顔は、紫色に染まる。

 これで詠唱はできない。

 

「さようなら、小さなサムライさん。次は喧嘩を売る相手を間違えないことね」

 

 吸血鬼は、鉄処女の中へ信勝を放り投げる。

 そして扉は無惨にも、閉め切られた。

 

 

 ガシャン

 

 

 剣山地獄。

 信勝の体は上下左右から切り裂かれる。

 その流れた血は、何十、何百人もの乙女の血を浴びた吸血鬼たるカーミラの魔力へ還元される、それがこの宝具であった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。君の悪い子だったわね」

 

 嘆息しながら、カーミラは帰還の準備をしようと考えた。

 けれど視界を鉄処女からずらしたとき、違和感に気づく。

 

 信勝という主を失ったはずの、兵士やノッブたちに気力が満ちていく。

 吸血、そして奪ったはずの魔力が注ぎ込まれているのだ。

 一介の兵士たちが、サーヴァントを倒すうかもしれぬ軍団へと急激に成長した。

 

「ノッブー!」

 

 ダダダダダッ!! 

 

 

 銃の速度も威力も、何より連携が明らかに向上している。

 主君を失った敗残兵の特攻、などでは説明が付かぬほどに。

 どこからそんな力が、とカーミラは鉄処女を通して流れてくるはずの魔力がないことに気づく。

 

 それが信勝の、『戦乱の徒花』というスキルの効果でもあり、彼の宝具が重ねて発動した証左でもあった。

 あの最期に見せた高笑いこそ、彼の命を賭した詠唱だったのだ。

 

 

「『幻想の鉄処女』を受ける寸前に、自滅宝具を発動したのね……」

 

 お陰でカーミラは、宝具による大量の魔力消費をしながら、補充もできぬまま連戦へ持ち込まれる。

 死をもたらすのが暗殺者というクラスの特性であるとすれば、自ら死へ飛び込む織田信勝のような宝具はまさに天敵ともいえた。

 

 銃弾飛び交う中、攻撃を防ぎきれないカーミラは撤退を選択する。

 すでに一対一という個々の戦いでは、自分の勝利で決着がついたのだ。

 聖杯戦争であれば、サーヴァントが勝ち残ることこそ勝利条件。

 だがこの場では、サーヴァントが消滅することで彼らに勝ち筋が見えている。

 

 付き合ってられない。

 騎士道精神などを持ち合わせる気もなければ、これ以上相手をする必要もない。

 自由になった鉄処女を再び魂避けにしようと、カーミラは手をかざした。

 

 

 バコン

 

 

「……なんの音?」

 

 

 言いながら、カーミラは気付いていた。

 彼女自慢の拷問器具、入った者を死へ至らしめるはずのその鉄の胴体が、内側から殴られたように大きく凹んでいた。

 

 

 ガコン

 

 

 再び鈍い音がして、今度は乙女の顔が描かれた表面が歪に曲がる。

 隙間のない剣山地獄で暴れられる者がいるとすれば、それは地獄より来たる怪物。

 信勝が自らの宝具により呼び寄せた、第六天魔王に他ならない。

 

 

 ガンッッッ!!! 

 

 

 扉の左半分が大きく弾け飛ぶ。

 真っ暗な内側から、折れ曲がった針が溢れ出る。

 ポタポタと地面へ流れ出る赤い血を、黒い軍靴が踏み締めた。

 煌々たる紅い瞳が、内側よりヌッと現れ、そしてカーミラをギロリと睨みつけた。

 

 ギィィと、もう片方の扉が軋む音と共に開かれる。

 英雄たる逸話なき織田信勝が唯一持ち合わせる宝具、それは「己の死によって姉が、身内すら殺し覇道を勧む戦国大名へ生まれ変わった」という因果によるもの。

 

 

 

 

 

 宝具『魔王回天・曼殊沙華』

 

 

 

 

 

 即ちそれは、第六天魔王・織田信長を、この世に呼び寄せるというものであった。

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「面白い戦いだな。まさか大殿を奥の手に使うだなんてよ!」

 

 稀代の鬼武者、森長可は豪胆に笑った。

 その横で茶々は膨れっ面を見せている。

 彼女にとって、叔父とはいえ子供姿の身内が命を軽々と捨てる様は説教ものらしい。

 既に1時間弱、信勝は正座を強いられている。

 シュミレーターの出来事のため、仮に擬似的な消滅をしても、再び記憶や成長を維持したまま復活できるのがカルデア式召喚の良いところだ。

 

「んで、結果はどうなったんだ。やっぱ大殿が勝ったんだよな?」

 

「いえ姉上は、『ロックフェスの準備中に突然狭いところに喚びおって。儂は帰るぞ」といって、部屋に戻られました」

 

「ブハハハ、大殿らしいぜぇ!! ハッハハハ……ロックじゃねえか」

 

「そこの森くん、感心しないの!」

 

(こんなに怒られるくらいなら、大人しく負けを認めた方が良かったかも……)

 

 三者三様の表情を浮かべながら、部屋の騒々しさは暫く続いていた。

 

 

 □□□

 

 

「私も、随分と丸くなったものね」

 

 カーミラは古今東西の拷問器具に囲まれた部屋で、仮面を外し憂いてみせた。

 カルデアに来て以降、穏やかで平和主義なマスターに、愉快な仲間たちと頓智気なイベントをこなしてきたせいだろう。

 あの場にいる全員を皆殺しにするくらい、カーミラは容易かったと考えている。

 

 しかしあの軍服の少年を見たとき、戦いを続けたほうが成長させられると感じたのだ。

 

「それに、私の宝具は乙女を嬲るためのものよ。いくら可愛い顔していても、あの坊やでは気乗りしないわ」

 

 あるいは……彼女の食指をそそらせるほど、信雄が成長していれば。

 次、彼と戦う機会はいつになるだろうと考えながら、紅茶を啜るカーミラ。

 その近くの鏡台には、一人微笑む美女の姿が映っていた。

 

 外から聞こえる、幼い頃の自分のような聞き覚えのある声が複数、何かまたトラブルを起こして叫んでいるのも、気づかぬふりをして。

 

 

 

 ———もし、あれがシミュレーターによる試合でなく、本当の闘いであれば、最後に立つのは誰だったか。

 

 強化された兵士と織田信長の勝利か。

 あるいは、街の人々が存在する設定であれば、カーミラは吸血によって力を蓄え、より一方的に信勝を倒せていたのではないか。

 記録映像をみた職員やサーヴァントたちの多くはそう想像し、そして首を振る。

 そんな想定はできるわけない。

 

 もし信勝が戦いに出るとすれば、そこには必ず最初から姉の姿があるはずだと。

 

 

 

 彼が真に立ち上がるのは、いつだって姉のためなのだから。

 

 

 

 






 星1が星4に勝てないと思いつつ、カッツが頑張ったらどうなるんだろうと書いてみました。宝具の設定はぐだぐだ邪馬台国や15人の理知的なメガネたちを参考にしています。

 また本編ではみれないサーヴァントたちの組み合わせで話をかいてみたいな…


 ここまでお読み頂きありがとうございました!

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