コラボが……くる……?しかも金曜日に発表?
バカな、俺たちは月曜日の絶望を紛らわせるためにシロコの先ちょを見て癒されるだけだったはず……
「朝食はあれだけで足りた?良ければもう少し作るけど……」
「いえ、大丈夫です!」
「そっか、それなら良かった」
食べ終えた食器を片付けて、改めて少女と向き合う。
少女はピンと背筋を張って口を噤んでいる、分かりやすく緊張MAXの姿勢って感じだ。
ここまでくると面接じゃなくて警察の取調べかな。なんだか聞こうとしてるこちらが申し訳なくなってきたな。
「君についてまだ知らないことも多いし、色々と聞いていくね」
「はい、なんでも聞いてください……!」
「うん、それじゃまずは……」
まずは初めに、少女自身のことについて質問をしてみた。
「名前は、ツキと言います」
「いい名前だね」
「え、あ、ありがとうございます……」
少し照れくさそうに髪をいじりながら、返事をしてくれた。褒められたりするのにはあまり慣れていないのかな。
うん、ツキちゃん……か。綺麗でお淑やかな名前だ。
「見たところ学生だよね、どこの学校なの?」
「トリニティ総合学園というところの1年生です」
「ん?……初めて聞く学校だな……私立の学校なの?」
この辺では全く聞かない名称、実は遠い地域の子だったりするのだろうか……もしや、家出してきた子という可能性もあるのかもしれない。
「私立……?というのは分かりませんがかなり大きい学校だと思います。」
「うーん、そうなのか」
まあ、聞き覚えは全くないし、間違いなく県外の学校なのだろう。
「……そういえば、起きたときに僕を先生って呼んでたよね?」
「はい、呼びましたね……」
「それはどうしてなのかな?僕は教師の経験は無いけど……」
そう質問した途端、ツキちゃんは少し複雑そうな顔を浮かべていた。何か言葉に詰まっているようだ。
それから途切れ途切れに、こちらの顔を伺いながら話を紡いでいく。
「えっ、と、その……信じてくれるのかは、分からないんです、けど……」
「大丈夫だよ、怖がらずに話してみて」
酔っていたとはいえど、僕がツキちゃんを家に招く選択をするほどの理由があるのだ。それなのにこの子のことを信じてあげなくて、一体どうすると言うんだ。
「ではその、キヴォトスという名前を知っていますか?」
「……全然ないかな」
「やっぱり、そうですよね……」
納得した反応をしてから数秒後、彼女は何か意を決したような表情で口を開いた。
「多分ですけど……私は、ここでは無い別の世界から来たんだと思います」
「……えっと、じゃあその頭の上の輪っかはもしかして」
「ヘイローのこと、でしょうか?私のいた世界の住人には基本的にこういったものが付いているんです。」
「……そうかぁ……そうなんだ……」
思考が止まった状態でなんとか口に出せたのは、そんな気の抜けたような言葉。
頭の片隅の方でわずかな可能性としては考えていた、だが確実に選択肢の中には入らなかった答えが返ってきてしまった。
フィクションの中の出来事が起こって欲しいと思うことは人生の中で何度もあった。しかし実際に現実に起こったとしたらどうだ?自分は今後の数日、数ヶ月、数年、どう対応するだろうかと事細かに思う事などあるはずが無い。
妄想の中の自分に都合の良い行動を取るキャラクターではなく、間違いなく生きていて、自分の思考から外れた行動をしてしまう空想上の筈の他人が目の前にいる。それを想像することなどあるはずが無いのだ。
しかし事実として目の前に、確かに存在してしまっている。それを認識した途端、頭の中にある疑問が次々と生まれ破裂しそうな程に膨れ上がってくる。
「君は、どうやってこの世界に?」
「わかりません……学園の庭のベンチに座ってボーッと空を眺めていたら、いつの間にか眠ってしまって……それで目が覚めたら見たことない公園のベンチに座っていた、としか……」
突発的な転移というものだろうか。偶然が起こした奇跡か何らかの魔法か、その原理は一切不明だが、とにかく彼女自身におそらく原因は無いのだろう。
「よく分からない場所に突然来て、どこに行けばいいのか分からなくて、とにかく不安で潰れそうだったんです。でもそんな時に……知っている顔を見つけたんです。それが先生でした」
「知っている顔……君の世界にも、僕がいたってことかな?」
「はい……私のいたキヴォトスでは、あらゆる自地区の統括する組織が設立したシャーレというところに所属する、キヴォトスで唯一の先生でした。」
これが合っているかは実際不明なのだが、僕は相当特殊な立場に居たらしい。しかし、僕が教師か……
ハッキリいって、想像もつかない。他人に知恵を授けられるほどの知識は持っていないし、子供たちの模範になれるほど出来た人間では無い。
「……君は、これからどうするつもりなの?」
そう言うと、彼女は俯いて黙り込んでしまった。それから少しして、その姿勢のまま首を横に小さく振る。
「……そっか」
分かってはいた。もし自分が同じ年齢でこんな状況に陥ったなら、この子のようにどうすることもできずただ立ち止まっていただろう。
けれど正直なところ、まだ自分の中では葛藤がある。
自分が見ず知らずの少女の身柄を預かるよりも日本の警察に任せた方がいいのでは無いのだろうか、という考えが何度か頭の中を過ぎっていた。少なくとも、身の安全という観点ならその方がいい可能性だってある。
けれど、それは同時に心配な部分もあった。自分は法に詳しいわけではないが、少なくとも今のあの子には当然だが戸籍や身元を証明するものはおろか、この世界の常識すらもない。
その場合は一体どういう扱いになる?異世界の少女というあまりに特殊な事例に、はたして対応できるのか?
法というのは一見強固なようで実際の所緩い部分が多い。もし、都合が悪いからというくだらない理由で精神病や違法入国の類として処理されてしまったらどういう対応をされる?
少なくとも、彼女が望まぬ状況が続くだろう。関わりを持ってしまった以上、僕としてもそんな悲劇は避けたいのだ。
けどしかし、自分の家に匿うというのはどうなのだろうか?親しいとは言えない男とたった2人で、生活を共にするというのはあの子にとって不安なのでは無いだろうか。
頭の中でずっと2つの感情がせめぎ合っている。いつまで経っても決断をくだせない自分を殴りたいとさえ思う。
「ふぅー……」
徐々に苛立ち始めた心を落ち着けようと一度深呼吸をしてからチラリと窓の外を見てみれば、僕らの感情等など知る由もなく雲ひとつ無い青空が広がっていた。
……それを見ていたらふと、1つ思ったことがある。
この子は、別世界ではあるが僕のことを知っている。右も左も知らないままで、この子は恐らく僕に対して微かにでも希望を見出して家まで着いてきたのだ。
「……ねえツキちゃん」
彼女は少し顔を上げた。髪の微かな隙間から覗く目元は、今にも泣きそうになっている。
「君に選んで欲しいんだ。確証も無いけれど、もとの世界へと戻る目処が見つかるまで僕の家にいたい?それとも安全に帰るため国に保護してもらいたい?」
「……え?」
「もし家に住むことを選ぶのなら、帰る手段を探す手伝いもするよ。決して見捨てたりもしない」
「もし保護してもらうことを選ぶのなら、事情の説明にも最後まで立ち会うし、出来る限り君のサポートをして貰えるように話を通してみるよ」
自分が勝手にツキちゃんの行く末を決めてしまうわけにはいかない。あの子の人生を決めるのは、あの子自身だ。
僕はあの子の望む形の先生では無いが、僕が実際に先生だったらという体で考えるのなら……大事な選択は本人に選ばせた上で、最悪の道を辿りつかぬように導く、きっと『先生』ならばそうすると思った。
「……わたし、は……」
「うん」
その先の言葉を、彼女の意思を聞き逃さないように、しっかりと耳を傾ける。
「……私は、先生の傍がいい、です」
「そっか、なら決まりだね」
「でもその……本当に、いいんですか?」
「当たり前だよ。だってそれが大人のやるべきことだからね」
元々、少し退屈に感じていたような人生だ。今日の分岐点がこの先の生活が幸運か不運のどちらに転ぶかなど現状分かりはしないが、このくらいスパイスがあってもいいだろう。
「じゃあ今日からよろしくね、ツキちゃん」
「……はい!」
ようやく頭を上げたツキちゃんの顔には華のような笑顔が咲いていた。それを見て、僕も不思議と口角が上がっていた。
思えば、この子の笑顔を見たのはこれが初めてかもしれない。いや、本来ならばこんな表情をいつも浮かべていたのか。
ならば僕はこの笑顔を絶やさないように頑張らなくてはいけないだろう。そんな決意を新たに、朝の話し合いは終わりを迎えた。
───さて、これからはツキちゃんと二人での生活が始まることになる訳だが、そのために準備することが幾つかある。
ひとつは彼女の部屋、まあそこについては問題ない。あまり使っていない部屋がひとつあるからそこを改装すればすぐに彼女の生活スペースとして使えるようになるだろう。
それから歯ブラシなどの生活必需品だ。まあこれは近場の薬局などに買いに行けば問題ないし、ネットショップでも簡単に取り寄せることが出来る。
そして最後なのだが、これが一番の問題を抱えていた。
「服……どうやって用意しよう……」
ツキちゃんとの生活を初めて一日目にして、キヴォトス人という種族の壁……いや、世界の壁が立ちはだかろうとしていた。