最後の締めにチートタグが盛大に仕事をしますので、苦手な方は御注意下さい。
原作設定・整合性無視の妄想大爆発モノとなっています。
世界一──誰もが一度は憧れる、夢の頂点。
競争ウマ娘の世界で、その王座を決めるレース──凱旋門賞。
その決戦の火蓋が、欧州の地で切られていた。
『今年も開催された世界の頂──凱旋門賞!そのフィナーレが近付いてきました!
ロンシャンの長い直線を、ウマ娘達が駆け抜けます!』
世界各国から選び抜かれた最精鋭のウマ娘達の激走。
その中でも一際鋭い走りを見せる3人のウマ娘が居る。
「さあ、バ群から抜け出した3つの影!誰をも魅了すると言われる鋭い末脚が炸裂!」
伝統ある母国の栄誉を背負い、魂と誇りを抱いて駆け抜ける。
他者を薙ぎ払うような走りは、見た者の目を虜にするだろう。
──けれど。
『彼女達にとっては、ここは負けられない戦い!
昨年に続いて今年までも頂点を獲られるわけにはいかない!
覚悟と矜持を持って、追走します!』
──先頭は、その遥か先だった。
『凱旋門賞を獲るのは、今年も日本から来たこの娘なのか!?
後方からの必死の追い上げは届くのか!?』
独壇場。
そう表現するしかないほどの差を付け、単騎でロンシャンを駆け抜けていくウマ娘。
栗色の長髪を靡かせ、小柄な体躯が栄光への道を疾走する。
それを阻止すべく後方から追い上げる3人のウマ娘達だったが、現実はどこまでも残酷だった。
『──縮まらない!差は更に広がります!誰も、その背を捉えることができない!』
一瞬、縮まるかに思えた差が、瞬く間に開いていく。
それは、埋めがたい力の差があることを如実に物語っていた。
『[向かうところ敵無し]という言葉が、これほど似合うウマ娘が居るでしょうか!?
昨年は[日本ウマ娘は勝てない]というジンクスをものともせずに圧勝!
そして今年も!
世界の強豪が集う最高峰のこの舞台を、2年続けて蹂躙するウマ娘が居ようとは……誰が予想したでしょう!?』
凱旋門賞連覇。
競技史に刻まれるであろう偉業が達成される瞬間を目前にし、大観衆が熱狂する。
だが、当事者であるウマ娘は一切の浮付いた様子を見せない。
極めて端正ながらも感情を窺わせない面持ちのまま、地鳴りのような大歓声の中を走り抜いていく。
飛翔しているかのような力強くも美しいその走りは、見る者に畏敬の念を抱かせる。
そんな一線を画した存在感から、このウマ娘にはとある呼び名があった。
『世界最高峰の凱旋門賞ですら、この娘には──【独裁者】には独り舞台に過ぎなかったのか!?』
些か誇大に聞こえるこの呼称が決して大袈裟なものではないことは、【彼女】の戦歴が無言のままに物語っている。
日本だけでなく世界を転戦して幾多のレースに出走、ほぼ全てに勝利。
それも己の影すら踏ませぬ大差勝利がほとんど。
悪魔的な強さで駆け続けた結果、現在では世界各地の主要大会のほぼ全てのレコード記録者が【彼女】の名前で埋まってしまっている。
その圧倒性は、競技内に止まらず業界全体にまで影響を及ぼした。
競技ウマ娘界を支える観客・ファンは、強いウマ娘を見たいと思う者が多い。
そんな彼らにとってみれば、凄まじい強さを見せた【彼女】は恰好の応援対象になった。
そうした観客・ファンが【彼女】の動きに注目し、出走するレースを追うようになる。
注目されたレースには人が集まる。
その人の流れはレースの盛り上がりに繋がる。
その盛り上がりが、関連商品売上等の商業収入に繋がっていく。
こうした循環が形作られていたのだ。
また、その影響は興行面だけでなく競技面にも及んだ。
【彼女】が出走するところには大量の人が集まる。
できるだけ多くの人に見てもらうことを重要視するレースにとって、それは無視できない点だった。
強力無比なウマ娘が出走することでレースの名前は上がり、より多くの人を集めることに繋がるからだ。
そして、競技者である他のウマ娘に与えた影響も大きかった。
【彼女】が出走するであろうレースへの出走を回避する者も出てきたのだ。
彼女達とて人生を費やして競技に臨んでいるのだ。
少しでも勝率の高いレースを目指すのは当然の選択であり、他者がそれを臆病と罵る資格は無い。
こうして【彼女】は周囲からの耳目を集める存在となった。
ただ、これは【彼女】に限ったことではなく、スターと呼ばれたウマ娘達の多くが通った道だ。
だが、参戦=勝利とすら称されるほどの隔絶した実力の持ち主である【彼女】は、その規模が段違いだった。
その挙動で、他ウマ娘の動向・レースの盛り上がりから興行面に至るまで競争ウマ娘界全体に影響を与えるまでに至った規格外の存在──それが、【彼女】だ。
一介のウマ娘でありながら、己の意思1つで業界全体の流れを決してしまえる──
そんな様を、人々は畏怖を込めて【独裁者】と呼んだ。
しかし、その立場は【彼女】を満足させることは無かった。
──最後まで。
『今、ゴォォォル!凱旋門賞、決着!
頂点に輝いたのは、やはりこのウマ娘──【独裁者】!
雪辱に燃える世界の強豪達をまるで寄せ付けず、連覇を達成!
世界最強の座を確固たるものにし、有終の美を飾りました!」
──今回の凱旋門賞を最後に引退する──
レース開催前に【彼女】が発した宣言に、世間は仰天した。
絶大な影響力を持ち、未だに実力の底を見せないウマ娘の、突然の引退表明。
一線を退くことについては各所から惜しむ声が上がり、原因について様々な意見が取り沙汰された。
しかし、当の【彼女】はこれまでと同様に多くを語らなかった。
そのため、引退を決めた理由についての真相は闇の中だ。
様々な考察がされる中で、最も有力とされているのが──冷めてしまったのではないか、という意見だった。
『史上最強とすら呼ばれるその走りの前に敵は無し!結局、最後まで「待った」をかけるウマ娘は現れませんでした!』
母国日本だけでなく、世界各地を転戦し、名だたるレースを制覇してきた【彼女】。
その戦いの中で誰一人として同じ土俵で争える存在は居なかった。
世界中の強豪・名バ達と対戦し、その全てを、己の影すら踏ませずに一蹴し続けてきたのだ。
『競技人生を通して喫した敗北は、ただ一度!母国日本での有馬記念での2着のみ!
それ以外のレースは全勝!
他の誰も寄せ付けない様は、正しく【独裁者】の異名通りでした!
競争ウマ娘界に消えることの無い軌跡を残し、今日、競技から去ります!』
他者と競い合うはずのレースで、いつも独走。それは、例えようも無いほどの孤独なのかもしれない。
そんな現状に空虚感を感じ、身を引くことにしたのでは──
何の根拠も無い憶測でしかないが、誰もが納得できる響きに満ちた話だった。
『絶対的強者ゆえの孤独。そんな状況でも走り続けた姿に魅られたファンは数知れず!
ターフを去っても、その名は不朽のものとして歴史に刻まれるでしょう!」
レース場は、彼女の勝利を祝福する声と、惜別の声で埋め尽くされていた。
誰もが【彼女】という絶対王者の走りを忘れないだろう。
そして、その栄光が色褪せることも決して無いだろう。
『では、最後に! ターフを去りゆく彼女に、今一度大きな声援を!』
その呼び掛けに応じ、大気を揺らすかのような万雷の歓声が降り注ぐ。
膨大な熱量をその身に向けられて──
しかし、【彼女】は常日頃の冷静さを微塵も崩さなかった。
【独裁者】と呼ばれる前、かって【常勝】と呼ばれていた頃から変わらない佇まい。
感情の動きを見せることなく、声を送る観衆に向けて静かに手を振り返す。
その立ち居振る舞いは、見る者の心を打ち、感じ入らせるものがあった。
……だが、【彼女】自身の心の内はどうだろう。
他者の追随を許さない強さ故に抱いたであろう孤独感。
最後まで埋められることのなかった心の隙間を抱えたまま、この先の人生を歩んでいくのだろうか?
空前絶後の記録を残したスターウマ娘の引退の花道を見送り、胸を熱くする者が数多く居る中。
そんな憂慮を抱いて、去り行く【彼女】の背中を見送る者も居たのだった。
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競技場内から通路に入り、他者の目が無くなったことを確認する。
そうしてようやく、強張っていた体から力を抜くことができた。
「……ふう」
立ち止まって背を壁に預け、胸の中に溜まっていたものを吐き出すかのように溜息を吐いた。
…
……【常勝】から、【独裁者】。
そんな仰々しい呼び名とも、これでようやくお別れだ。
──皆、勘違いしている。
自分はそんな大層な存在では無い。
育ててくれた両親への恩に応えたいという思いを、恵まれたチートボディのお蔭で叶えることのできた、運の良いだけのへっぽこだ。
レースが空しくなった?競う者がいない孤独?
──自分は、そんなことを思うほど高尚な存在では無い。
もう一度、小さく息を吐いて歩き出す。
足取りが軽くなっているのを感じる。
この先に待っていてくれる[彼]に会えるから。
自分が引退を決めた理由は、たった1つ。
[彼]──あのお人好しのトレーナーと過ごす時間を、もっと増やしたいと思ったからだ。
もっと近くで。もっと一緒に。
そんな我儘な欲求に従ったに過ぎない。
他の人は勘違いしているけれど、自分は神でも何でもない。
ただ、好きな人と一緒に居たいと願う、1人のウマ娘なんだ。
最後まで拙作をお読みいただき、誠にありがとうございました!
何とか終わらせることができました。
至らないところばかりの拙作ですが、完結まで漕ぎ着けることができた点だけは満足してもいいのかな、と思います。
掲載の場を設けて下さっているハーメルン様への御礼を申し上げさせて頂きます。
そして、お読み頂いた皆様には感謝の言葉もありません!
私一人ではここまで辿り着くことは絶対に出来ませんでした。
見て下さる皆様のお蔭でギリギリで続けてくることができました。
話を終わらせることが出来た満足感を味わえたのは、皆様が居て下さったからに他なりません。
繰り返しになってしまいますが、本当にありがとうございました!