もっと物語の組立が上手くなりたいですね…
「いよいよ迫ってきたか」
西日の差し込む生徒会室にて、トレセン学園の顔とも呼べる存在であるウマ娘──生徒会長のシンボリルドルフは呟いた。
彼女が腰を下ろしている席の机の上に広がっているのは、競争ウマ娘達のことを取り扱っている何冊かの専門誌や新聞。
その紙面にて特集されているのは、年末の、とある大イベントについてのこと。
そのうちの幾冊かを手に取ったのは、同室していた2人のウマ娘。
「どの媒体も正確性が高くて信頼できるものばかり。さすが副会長だわ」
「同感。ここまでの情報を短期間に収集してくる手腕には感心させられるね」
常識外のスピードを持ち、何者をも寄せ付けない強さから〖スーパーカー〗の異名を持つウマ娘――マルゼンスキー。
どこまでも走ることを追求し、その果てに三冠をも勝ち取ったウマ娘――ミスターシービー。
三冠制覇という偉業を成し遂げ、学園内外において圧倒的な存在感を放つシンボリルドルフ。
その彼女と比べても全く遜色ない風格を2人は有している。
「できればエアグルーヴにもこの場に居てほしかったんだが……あまり引き留めるのも悪いと思ってね。先に帰ってもらったよ」
指示に忠実に従い、これだけの情報を集めてくれた生徒会副会長のエアグルーヴ。
この場には居ない己の片腕への感謝を、柔らかな表情で語るシンボリルドルフ。
しかし、その表情は次の瞬間には引き締まった。
「──どう思う?」
広げられた数々の資料に目を遣りながら発せられた短い問いかけ。
『有馬記念、今回は波乱無しとの見方でほぼ統一』
『対抗バ不在。無敗神話継続か』
各紙面にて特集されているのは、競争ウマ娘界の年末の大イベントである有馬記念。
その祭典の主役に祭り上げられている1人のウマ娘についてシンボリルドルフは尋ねているのだと、2人は直ぐに悟った。
デビュー以来無敗。それも全てレコード記録を刻んだ上での圧勝という圧倒的な実績。
そんな桁外れの強さから【常勝】と称されている【彼女】について聞いているのだ、と。
「案外、単純な娘だと思うよ」
ます口火を切ったのは、ミスターシービー。
「取っつき難さはラモーヌ以上。一見すると誘い所すら見せない難物に見える」
名門メジロ家の中でも至宝と称えられる存在であり、才色兼備という言葉を具現化したウマ娘──メジロラモーヌ。
研ぎ澄まされた立ち居振る舞いから多くの者を委縮させる彼女と、対等に接することができる数少ない存在であるのが、ミスターシービーなのだが。
そのラモーヌと比してなお、掴みどころが無いウマ娘。
それが、【彼女】……と評する訳ではなく。
「けどね。実際には地に足を付けて歩くタイプだよ、きっと」
人々の前で見せている姿は、あくまで表面上のものであると見立てた。
「普通に接していけば大丈夫な感じかな……最も、アタシとは深く関わることは無いだろうけど」
悪意などでは無く、あくまで流すように軽く続ける。
「アタシとは真逆。型に嵌ることを望んでいるよ、あの娘は」
自由をモットーとする自身とは真逆の方向性のウマ娘であるとミスターシービーは結論付けた。
「傲慢な言葉であることを承知で言わせてもらうけど……担当トレーナー君が、気の毒だわ」
続けて発言したのはマルゼンスキー。
その言葉はウマ娘では無く、その担当トレーナーに向けられたもの。
そこにあるのは驕りによる上からの目線によるものではなく、心から身を案じる眼差し。
「あの娘は、負けないでしょう」
確信に満ちた口振りで静かに告げた後、表情を憂いの色に染めて言葉を続ける。
「だからこそ、担当に掛かってくる責任は多大なものになるわ」
件のウマ娘が少しでも不調に陥ったりすれば、その原因の矛先が担当トレーナーに向けられ、辛辣な批判が浴びせ掛けられるであろうことは容易に想像できた。
「新人の段階でそんな危険性を背負いこむなんて、相当な負担のはず……ましてや彼は人一倍、誠実な性格って聞いてる」
一層深い憂いを口調に滲ませて続けた。
「ウマ娘本人に批判が向けられようものなら自ら矢面に立って彼女を庇うことは間違いない。そして、全てを自分の責任として引っ被るでしょう。……余計なお節介でしょうけど、そのダメージが心配だわ」
かって、強すぎるが故にレースの成立すらままならず、それでもなお走り続けた──
その懐の深さを以て、マルゼンスキーは【彼女】の担当トレーナーである青年を慮る。
そんな2人の意見を受け、シンボリルドルフは呟いた。
「……やはり、あの娘で決まり、か?」
脳裏に蘇るのは、あの夜、校舎裏で駆けていた【彼女】の姿。
例えようも無い衝撃を受けた飛ぶようなその走りは、レースを重ねていく中で更に研磨されている。
底知れず進化を続ける姿を見ていると、もはや【彼女】は前人未到の域に達しつつあるのではないかと思えてならない。
特に際立っているのが、後半の爆発的な加速力。
ウマ娘達のレースでの走法は、各々の脚質や性格等によって大きく4つに分類される。
最初から先頭に立ち、最後まで逃げ切ることを狙う〔逃げ〕。
スタート後は前方集団に属し、機を見てトップを窺う〔先行〕。
序盤はやや抑え目に入り、後半になるまで脚を溜める〔差し〕。
最終局面になるまで我慢を重ね、ラストスパートに全力を注ぐ〔追込〕。
この中で【彼女】の走法は最後に挙げた〔追込〕に該当するが、その最終速は異次元の一言。
走行よりも飛翔と形容されるのが似つかわしい、風を斬るようなスピード。
他ウマ娘にとっては、後方から一気に迫られる恐怖の象徴。
観戦者にとっては、心を鷲掴みにされる憧憬の対象。
それが、最終局面にて繰り出される【彼女】のスパートだ。
その駆け出しの一歩目は、まるで大地を揺らすかのように感じられるという。
無論、それは錯覚に過ぎない。
ただ──それだけの畏れを抱かせる規格外の存在が、【彼女】なのだ。
「決め付けるような言い方は好きじゃないけど……如何ともしがたい、というところだね」
「繰り返しになっちゃうけど……負ける方が難しい。そういうレベルよ、あの娘は」
ミスターシービーとマルゼンスキー。
学園内……いや、国内にて間違いなく最高峰の実力者である彼女達の見立ては、共に同じ結論。
──今回の有馬記念は、【常勝】1強。
「──いや」
だが、2人と同格であり、学園ウマ娘達の頂点でもあるシンボリルドルフは異なる見解を示す。
「今回の有馬、【常勝】は隔絶した実力を持っている。他の出走者にも頑張ってほしいが……埋め難い力の差があると言わざるを得ない」
他のウマ娘のことを慮る情の深さを覗かせる一方で、頂点の一角にまで上り詰めた〖皇帝〗としての眼で冷静にレース展望を述べる。
……けれど、続けた言葉は、その見解とは異なるもの。
「……だが。あの娘なら、もしかしたら──」
脳裏に思い描いたのは、とある1人のウマ娘。
「この場面でルドルフに驚かされるなんてね。対抗バが居る、と?」
「私も思いつかなかったわ。よかったら見立てを聞かせてもらっても?」
深い付き合いのシービーとマルゼンスキーからしても、その意見は意外だったのだろう。
驚きと共に問いかけが投げ掛けられる。
「正直、対抗と言えるほど実力は伯仲していない。【常勝】が大本命であることは変わらない。
……しかし、そこに番狂わせを起こせるとすれば──あの娘だ」
そんな前提の後に、ルドルフは言葉を続けた。
「──―」
紡がれたのは、1人のウマ娘の名前。
それを聞いた2人の顔は一瞬だけ驚きに染まるが……すぐに得心がいったのか、小さく頷いた。
「……あの娘ならば、確かにね」
「あれだけ強い気持ちで走り続けられる──アタシもあの娘は尊敬しているよ」
彼女達の表情に浮かんでいるのは、敬意と親愛。
それはルドルフも同じ。
「あの娘ならば、もしかしたら──」
学園内でも最強の一角である3人が揃って期待を寄せるウマ娘。
…
……3人は知る由もないが。
そのウマ娘は、件の【常勝】が出走表で名前を確認して固まった存在でもあった。
そのウマ娘の名は──
今回、拙作を読んで頂いて誠にありがとうございました。
ここからもっと精進していきたいと思います。