今回出すウマ娘の大ファンです。
彼女の存在があったから当作を書いたといっても過言ではありません。
……ただ、その思いが暴走する余りに文章が長くなってしまいました……反省です。
『今年の有馬記念も既に終幕間近!ほぼ全てのウマ娘達がゴールし、残すのはあと1人のみ!』
トレセン学園内の、とある一室。
ウマ娘に関する膨大な資料が所狭しと置かれた室内の片隅に置かれたTV。
その画面内で流れている映像は、今年度より少し前の有馬記念レースの映像。
『集団から大きく離され、後方にポツンと1人。それでも諦めませんでした!駆け続けました!』
カメラが捉えているのは全16人の出場者の中で唯一人、未だにゴールしていないウマ娘。
勝敗は既に決した。最下位はもう確定している。
──それでも、辞めない。
小柄な体に残された力を振り絞り、桃色の髪を靡かせ、気持ちを途切れさせることなく懸命に走り続ける。
そんな彼女に注がれる大声援。
大観衆が彼女の姿に胸を打たれ、声を送り続ける。
その熱気が、画面越しにも伝わってくるようだ。
『満員のスタンドから割れんばかりの応援が注がれております!
結果は振るいませんでした。表彰されることはありません。
しかし、しかし!皆様ならすでに御分かりでしょう!
この有馬記念のスタートラインに立つ──それがどれほどの偉業であるかということを!』
観衆の思いは実況者も同様なのだろう。声には熱が籠っている。
『誰が想像したでしょう!?誰が予想できたでしょう!?
万年勝てなかった彼女が、こうして最高峰の舞台──有馬記念に出走することを!
例え結果に結びつかなくとも、ここに至るまでに積んだ膨大な努力の輝きは色褪せることはありません!』
栄光を掴むことができるのは勝者のみ。
それが華やかに見えるレースの、残酷な掟。
──だが。万雷の拍手が降り注ぐこの競技場には、その掟を超えた「何か」が存在していた。
『今、ゴールイン!今回見せてくれた勇姿は、多くの人々の脳裏に刻み込まれることでしょう!
本当に、頑張った──ハルウララ!』
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「懐古趣味に付き合わせて、すみませんな」
その声に乙名史悦子は画面から意識を戻した。
「いえ。私も当時のことを思い起こす良い時間になりました」
有馬記念の前日である今日、彼女が身を置いているのはトレセン学園トレーナー寮の一室。
その理由は、言うまでも無く取材活動。
有馬開催を間近に控えて、報道関係者はかの【常勝】の取材に目を向けている。
それも当然。
デビュー以来無敗。出走したレースは全てレコードタイムを刻んだ上での圧勝。
その【彼女】が、年末の大祭典である有馬記念でどんな走りを見せるのか──ファンの誰もが期待に胸を膨らませている。
報道に携わる以上はその流れに乗るのが自然な流れであるし。
何より、ウマ娘界に携わる関係者の身としてもファン達と同様の思いで心が沸き立つだろう。
だが、乙名史としてはどうしても会っておきたい相手──とあるトレーナーとウマ娘が居た。
そのために、今日はここまで足を運んだのだ。
レース直前という大事な時期、最優先すべきは相手方の都合。
もし支障があるようだったら直ぐに引き上げるつもりだったが、幸いなことに相手は快く受け入れてくれた。
そうして訪れた一室で、相手方はTVを視聴していた。
流れていたのは、今年度ではなく以前の有馬記念レースの録画映像。
シンボリルドルフやミスターシービー、マルゼンスキーを始めとした強豪達によって競われたレースは近年稀にみる大激戦となり、歴代の有馬レースの中でも屈指の名勝負として名高い。
互いの意地とプライドがぶつかり合った戦いは、時を経た今でも人々の記憶に刻まれている。
乙名史にしても、それは同様。
映像を見返しているとその時の興奮が甦り、既に結果が分かっているにも関わらず画面に見入ってしまった。
だが、強豪達の決着よりもある意味で注目を集めたのが、今日これから取材するウマ娘だ。
その娘の有馬挑戦は、結果だけ見れば大惨敗。
一度も先頭争いに絡むことはできず。
早々に集団から脱落すると、そのままズルズルと順位を落とし続け。
最後は、1人だけ取り残されての最下位。
だが、その走りは確かに人々の心を打った。
どうしてトレセン学園に入学できたのか分からない──そう揶揄されていた、1人のウマ娘。
能力に乏しく、才能とは無縁。そんな彼女は、全く勝てなかった。
出場してもいつもドベの万年最下位。
表彰もされず、レコードにも絡まず、走っても走っても負け続ける。
──それでも、彼女は下を向かなかった。
いくら敗けようが、諦めずに走り続け。
どれだけ結果が悪かろうと笑顔を絶やさず、応援してくれた人々へ感謝する。
──そんな彼女が、有馬記念という国内最高峰のレースを走り抜けた。
その事実は、観ている者の心を震わせるだけの偉業だったのだ。
そんな彼女を導いたトレーナーが、今回の取材対象。
「わざわざ時間を割いて取材に来て下さったのに、お待ち頂いて申し訳ない。どうにも年を取ると融通が利かなくなっていけない」
一言で言えば、その姿は壮年の紳士。
髪は白く染まり、肌には皺が刻まれている。
だが、引き締まった体躯と洗練された仕草が老いを全く感じさせない。
引き締まった目元の奥の眼差しは鋭く、一見すると取っつき難く見えるだろう。
ウマ娘業界に報道を通して深く携わっている乙名史も彼との付き合いは長いが、出会った頃からその印象は変わらない。
──だが、最近はそんな彼の姿勢に変化が見られる。
「近いうちにトレーナーを引退されると聞きましたが……」
「流石にお耳が早い。その通りです。既に理事長を始めとした皆様には伝えてあります」
「現場からは惜しむ声も上がっているようですし。まだまだ御力を発揮できると思うのですが……」
そう言った乙名史の表情には口惜しさが漂っており、お世辞ではなく本心であることが解る。
それを受けて、彼の巌のような顔が微かに綻んだ。
「はは、あまりおだてないでください。貴女のような御若い方にそんなことを言われたら舞い上がってしまう」
必要なこと以外は喋らない昔気質の職人肌──それが、老トレーナーという人物だった。
常に張り詰めた雰囲気を漂わせ、他者を容易に近寄らせない。
取材等で口を開く機会があっても、話す口調も内容も固い。
終始厳しい表情を浮かべ、他人をうかつに近寄らせない威圧感を纏っている。
そんな彼が変わったのは、いつからだったろう?
こうして軽口を返すようになり、時には表情を緩める。
以前の彼からは考えられない変化だ。
そのお蔭で、こうして柔らかい空気の中で質問が続けられる。
「身を引かれるとなると、今、担当されている娘が最後の教え子ということになりますね」
「ええ。あの娘が笑顔を咲かせるところを見たい──それが私のトレーナーとしての最後の望みです。そのために力を尽くすことが、最後の務めだと思っています」
そう。
彼が変わったのは、今のウマ娘──ハルウララの担当になってからだ。
その彼女のことについて聞こうとしたところで、響いてきたのは廊下を駆けてくる足音。
それが誰のものであるかなど、幾度も取材に訪れた乙名史には解っているし。
老トレーナーに至っては、もはや日常の一部となっている。
「あら。噂をすれば、来ましたね」
「やれやれ。少しは落ち着きを持つように言っているんですが……全く直りません」
顔を見合わせて、互いに笑みを浮かべる。
その間にもどんどんと大きくなった足音が、この部屋の前でピタリと止まる。
そして、次の瞬間。
「トレーナー!」
弾むような声と共に勢いよくドアが開かれ、桃色の髪を揺らす小柄な影が室内に飛び込んできた。
そのまま駆け寄ってこようとしたウマ娘──ハルウララ。
だが、室内に先客が居ることに気付いて慌てて立ち止まる。
「わ!乙名史さん、来てたんだね!」
親しい人物が来ていたことを知って喜色を浮かべたが、すぐにその表情が曇った。
「……お話、邪魔しちゃった?」
話を中座させてしまったことに申し訳なさを覚えているのか、その耳が垂れ下がる。
そんな彼女を安心させるように、乙名史は柔らかい笑みを浮かべた。
「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ、邪魔しちゃってごめんなさい」
「これから商店街に行ってくるのか?」
気に病む時間を与えないよう、乙名史の返答に老トレーナーが質問を重ねる。
それが功を奏したのか、すぐにウララは元気な表情を取り戻した。
「うん!皆、明日はお店休んで応援に来てくれるって!だから、たくさんお礼を言っておかなくちゃ!」
「そうか。顔を出すのはいいが、皆さんの迷惑にならないようにするんだぞ」
「わかった!トレーナーも後で来てね。皆、渡したいお土産があるってこの前から言ってるよ」
「またか」
ウララからの伝言に、老トレーナーは困ったように渋い表情を浮かべる。
ただ、それは相手の行為を嫌がるものでは無い。
「皆さんの大事な商品を対価を払わずに受け取るというのは、些か以上に気が引けるんだがな……」
それは、相手の立場や事情を慮る気遣いからでたもの。
「皆、自分達で『上げたい』って言ってるんだから、気にしなくても良いと思うんだけどな~?」
「そうもいかん。下手なお返しは受け取ってもらえんし……さて、どうしたものか」
不思議そうに首を傾げるウララを余所に思考に沈む老トレーナー。
そんな姿を乙名史は微笑ましい気持ちで聞いていた。
これまでの彼であったら、他者とのコミュニケーションはあくまで形式的な範疇で済ませていたはずだ。
それが、今や相手の事情を慮るようになっている。
「(やはり、変わられましたね)」
人が変化するのに年齢は関係なし。
変化を齎してくれる相手がいれば、如何様にも変われるのだろう。
その相手であるハルウララと言えば。
元々、出掛けることを伝えるために立ち寄っただけだったのだろう。すぐに身を翻す。
「じゃあ皆待ってるだろうし……先に行ってるね、トレーナー!」
今にも駆け出さんばかりの様子を見て、止めても無駄と悟ったのか。
老トレーナーは苦笑を浮かべて彼女を見送る。
「あまり帰りが遅くならないようにするんだぞ。明日はレース本番だからな」
「わかってるわかってる!」
そう言い残して走り去ろうとして、その前に乙名史に顔を向けた。
「乙名史さんも、来てくれてありがとう!」
一点の曇りもない笑顔は、来訪を心底から喜んでくれている証。
そんな輝くばかりの顔を向けられれば、自然と表情も緩むというもの。
「ええ。明日の有馬記念、楽しみにしていますよ」
柔らかな笑みを浮かべる乙名史に対して、ハルウララも同様に笑って。
──そして、こう言った。
「うん!明日の優勝インタビューは乙名史さんにお願いしたいな!」
──そこにあるのは、驕りでもない。傲慢でもない。
勝つのは自分だと。
自らを信じる心と周囲への感謝の気持ちによって形作られた、揺るぎのない自信。
そして、ウララは今度こそ走り去っていった。
来た時同様、あっという間に遠ざかっていく足音。
「慌しい姿をお見せしました」
溜息を吐いてその姿を見送った老トレーナーだが、彼女を見送る柔らかい眼差しは好々爺そのもの。
「いえ。こちらも良い気持ちにさせて頂きました」
つられて頬を綻ばせつつ、乙名史は自分の展望を述べる。
「有馬記念、良い戦いが出来そうですね」
「そう言って頂けて幸いです。──何とか夢を叶えさせてあげたい」
早くも校舎の外に出て夕闇の中を駆けていくウララの姿を見ながら、老トレーナーは思いを告げた。
それがどれほど困難であるかは老トレーナーとて解っている。
それでも。彼女を傍で支えてきた身としては、そう願わずにはいられない。
「……勝算は?」
それに共感しながらも、報道に携わる記者という中立的な立場から乙名史は尋ねる。
その相手が誰かなど、確認するまでもない。
一度も敗北を味わったことの無い、異次元の存在。
今年の有馬で優勝確実と謳われている、かの【常勝】だ。
別格中の別格である【彼女】を相手にして、勝ち目があるのか。
「あります」
「……ふむ」
即座に返された答えに、だが乙名史は違和感を感じた。
自信ありげな言葉とは裏腹に、老トレーナーの顔が非常に苦し気だったからだ。
そのことについて、さらに踏み込んで聞いてもいいものか。
乙名史がその判断を下す前に、老トレーナーが再度、口を開く。
「……貴女は、我々に対して一切の色眼鏡を向けなかった。非常に感謝しています」
浮かべている穏やかな笑みが、その言葉が心底からのものであることを物語っている。
ハルウララが再度、有馬記念に出走する──
そのニュースに、マスコミ各社は興味を示した。
……ただ、そこで勝利を予想している者はほぼ居ない。
前回の惨敗が、良くも悪くも記憶に残っているのだろう。
かっての万年最下位ウマ娘が、かって跳ね返された国内最高峰レースに挑む──
そのドラマに興味は魅かれつつも、再び打ち砕かれて精神的なダメージを負わないか危惧する意見もあるし。
中には、単なる売名行為ではないかと受け取る者すら居る。
逆に絶好の喧伝のタネとして、必要以上に美談に仕立て上げようとする者も。
彼らにとってのウララは、あくまで有馬に光を添える舞台装置。
世間の眼を引くための、都合の良いやられ役でしかない。
彼らは、ハルウララの有馬記念挑戦は思い出作りでしかないと思っているのだろう。
前回も、そして今回も。
だが、知っているだろうか?
前回の有馬記念終了後。
人々から有馬出走を健闘と称えられて評価された彼女が、どれだけ涙を流したのか。
「1着、トレーナーにプレゼントするからね!」
レースを走る前、そう言って向けてくれた花が咲くようないつもの笑顔が──
レース終了後には、グシャグシャになっていた。
「ごめんね……!」
目を腫らして。涙を止め処なく流して。
「1着、取れなくて……ごめんねっ……!」
彼女は思い出作りのために有馬に出たのではない。
勝つために走ったのだ。
周囲がどう思おうと、彼女は本気だったのだ。
感情が抑えきれず、涙となって溢れてしまうほどに。
彼女を、勝たせてあげられなかった。
彼女を、泣かせてしまった。
その時の無念さと悔しさを、老トレーナーは片時も忘れたことは無い。
折に触れて当時のレースの映像を見返すのも、有馬出走という過去の栄光に縋るためでは無い。
当時の、身を焦がすような悔しさを思い返すためだ。
それ以来、老トレーナーは綿密な計画を立てた。
当時のウララは老トレーナーの下で成長し、ダートの強豪としての地位を固めていた。
……だが、それだけの走力を有していてもなお、有馬記念の壁は高かった。
しかし、それも仕方ないことかもしれない。
ウマ娘達がレースを行うコースは2種類。
育成された芝によって覆われ、スピードが乗り易く加速力が試される〔芝〕。
土砂が敷き詰められた走路が中心となり、足場が不安定な中で体を支えるパワーが肝となる〔ダート〕。
それぞれに特色があり、必要とされる能力が異なるこの両面を両立することのできるウマ娘の数は多くない。
ウララが主戦場とするのはダートの短距離レース。
対して、有馬記念は芝の長距離レース。
適性が真逆。まるで噛み合わないのだ。
ここを改善しなければ、また同じことを繰り返してしまう。
老トレーナーはこの問題に当然気付いており、何とか対応できないかと苦心したが……前回は本来の戦場であるダート部門での足場固めに精一杯であり、そこまで手を回す余力が無かった。
故に、今回は時間をかけて改善を重ねてきた。
ダート強者としての地位を固めつつ、他のウマ娘達の協力の元で芝への適応、長距離走行への慣れを少しずつ進め。
そして、態勢を万全にして今回の有馬記念へと挑む。
「……そうやって練習を積む我々に対し、貴女は真摯に向き合ってくれた。本当にありがたかったです」
「いえ、褒めて頂くほどのことではありません。私は自分の思いに従っただけですから」
全てのウマ娘が輝くべき存在。
そんな乙名史にとっては、懸命に努力するウララの姿はとても魅力的に映ったのだ。
「こうして素晴らしい取材をする機会を下さって、私の方こそお礼を言いたいぐらいですよ」
そんな彼女に対し、老トレーナーは眩しいものを見るように目を細めた。
「……本当に素晴らしい人だ、貴女は」
そして息を吐くと、言葉を続けた。
「だからこそ、そんな貴女には本音を伝えたいと思います」
「――お伺いします」
寄せられた信頼の重さを自覚し、乙名史は気を引き締める。
「勝算はあります──ただし。最大限、運が味方してくれることが大前提です」
唇を噛み締めるように発した言葉に籠められたのは、例えようも無い悔しさ。
その意味は、話さずとも解る。
「五分の条件では、勝てないと?」
「──非常に厳しい。こちらに極めて有利な目が出なければ、勝負することすらできない」
血を吐くような思いで滲み出た言葉。
勝負事には運が付き物だ。
……だが。そもそも同じ土俵に上がることすら運に委ねなければならないなど、ウマ娘を育む身としては最も口にしたくない言葉の1つだろう。
ましてや、老トレーナーはハルウララの血の滲むような研鑽を誰よりも近くで見てきた身だ。
その立場でこんな言葉を出すこと自体、無念の極みだろう。心中は察するに余りある。
今までの取材を通して既に乙名史にも解っていたことではあるが、確認のために改めて尋ねる。
「やはり、【常勝】の名は伊達ではありませんか」
その言葉に思考を整理するかのように目を閉じ、老トレーナーは続けた。
「私は今までのトレーナー生活の中で多くのウマ娘を見てきました。国内だけでなく、凱旋門の開催国を始めとした海外にも足を運んできました」
そこで再度開いた彼の目の奥に浮かんでいるのは──戦慄。
「その中で、【彼女】とまともに勝負できるウマ娘を……誰一人として思い浮かべることができません」
その言葉に、乙名史は思わず息を呑む。
この世界に長く身を置いている彼の言葉ならば、そこに疑う余地は無い。
老トレーナーはそのまま続ける。
「能力の高さに胡坐をかくような面があれば、まだやりようはあった。……だが、【彼女】はそんな隙を見せない」
担当トレーナーの下で忠実にトレーニングをこなす【彼女】の姿からは、驕りや傲慢といった感情が欠片も伝わってこない。
そして、話を結ぶかのように老トレーナーは言葉を紡いだ。
「【彼女】と同じ時代に生を受けたことは、ファンや関係者にとっては幸運でしょう。これから先、歴史が次々と塗り替えられる瞬間に立ち会えますから。ただ、同じ舞台で競わねばならないウマ娘達にとってみれば悪夢でしかないでしょうがね」
1つの時代を築くであろう特異点。
それが、【常勝】。
「……でもね」
だが。そんな【彼女】に屈することなく挑む存在が、ここに居る。
「私は信じているんですよ。あの娘なら……ハルウララなら、【常勝】に勝てると」
先程まで自らの口で説明してくれたのだ。
それがどれほど険しい道かは、老トレーナー自身がよく分かっているはず。
それでもなお、ハルウララの勝利を信じる──
とうに見えなくなった彼女の背中を見送るかのように、窓の外の夕陽に向けられた穏やかで澄んだ眼差し。
そこには、揺らぐことの無い担当ウマ娘への愛情が感じられた。
「……有馬記念、楽しみですね」
彼の教え子であるウララに送った言葉を再度口にしつつ、乙名史も外に視線を転じる。
今まさに沈んでいこうとしている太陽。
その茜色の残滓は、まるで明日の激闘を予兆しているかのようだった。
今回、拙作を読んで頂いて誠にありがとうございました。
ハルウララちゃんサイコー。
ただ、その思いを前面に出し過ぎて文章の読みやすさを失念してしまいました……反省です。
ここからもっと精進していきたいと思います。
次回、やっと有馬本番です。
少し遅くなります。