フィーバーレイズバックルを装備してナーゴファンタジーとバッファに挑むダパーン。
実力とスペックだけ鑑みてもナーゴ達に負ける要素は見当たらないのだが、ダパーンは様々なフォームに変身し攪乱していく。フィーバーレイズバックルはスロットによりランダムで武装が変更出来る。如何なる装備が来るか使用者本人も予測出来ないのは対応が難しく割と面倒な戦法である。
遂にはブーストを引き当て、ダパーンがブーストフォームへと変化。
素早い動きで動き回るが、ナーゴFの透過能力の前では大したダメージは与えられない。
しかしナーゴFからは必要以上の攻撃を加えなかった。
何故なら.....
「ぐ!....ううぅ...」
被弾してもない片足を抑え蹲るダパーン。
リハビリを終えたと言えど本来彼は激しい運動は控える身。長時間の戦闘により事故の古傷が痛みだしたのだ。
「もう止めて、それ以上戦ったら貴方の足が...」
「黙れ!幸せな人間が同情なんかしてんじゃねぇ!」
ブーストパンチャーから炎を吹かし、心配するナーゴFに殴りかかるダパーン。
ナーゴFはそれを透過能力を使わず受け止めた。
下手に交わせば攻撃を繰り返す度にダパーンの足が悲鳴を上げるからだ。
対するダパーンは更に炎を吹かして少しずつナーゴを押し出していく。
「どうせ世界をバットエンドにするんだ、僕の体なんざどうなろうと知った事か!」
「そんな事.....」
拳を掴んだまま、ナーゴFの心に揺らぎが生じる。
自分は彼を救ってはいけないのか?
嘗ては生き方を縛り付け何度も家出しようと両親と衝突するも、ある事件を切欠に仲直りした今、自分は幸せを感じている。
この喜びは愛する家族や仲間が居てこそ出来た喜びだ。
だがダパーンにはそれが無い。
どうすれば彼を救える?
彼の言う通り、自分は墨田奏斗の怒りと絶望を完璧に理解する事が出来ていない。
それは自分が幸せだからか?
幸せな人間は不幸な人を救ってはいけないのか?
何処までも自分を否定され、ナーゴFの中に迷いが生じ始める。
するとそこへ....
「おい」
「!...ぐあぁっ!」
ナーゴFにばかり気を取られ過ぎた。
割り込んできたバッファがゾンビブレイカーで斬りかかり、ダパーンを弾き飛ばす。
「道長.....」
呆気に取られるナーゴF。
地面を転げ睨みつけるダパーンに対し、バッファは静かに怒りの言葉を突きつける。
「.....さっきからムカついて仕方ないんだよ.......」
「何だと?」
「お前、ギーツの事は知ってるか?」
「はあ? 何でアイツが出てくんだよ?」
「答えろぉ!!」
回答を強いるバッファに対し舌打ちしながらダパーンは面倒くさそうに答える。
「ああ、世紀のスターなんたらで不敗のデザ神が今じゃ神の力も手に入れた究極の勝ち組様だろ? それがどうした?」
「アイツは2000年探してた母親を失ったんだぞ!」
「!」
「アイツの最初の親は、デザグラ運営に2000年以上もゲームの道具として散々利用された。その母親だけじゃない。アイツは時代が変わる度に新しい家族や仲間を何度も失って来た筈だ。2000年も輪廻転生なんて俺達みたいな一般人じゃ全然実感沸かねえ、そんな途方もない苦しみを幾度と味わって来た筈だ。お前はそんなヤツの気持ちが解るか?」
さっきまで饒舌だったダパーンの口が止まる。仮面で隠れてる以上表情を窺う事は出来ない。もしかしたら輪廻転生など突拍子の無い話を信じてないかもしれない。それでも親が死んだと言う事実には少なからず何か答える物が有るのだろう。
ナーゴFも同じ反応だった。
彼女は過去に、英寿がサポーターであるジーンに自分が転生者である事を打ち明けるのを聞いていた。その時英寿は「大抵の不幸は経験した」と話してたのだ。
一見魅力的に見える転生、その大抵の不幸とは何か、2000年の人生を経験するとどんな事が起きるのか。真っ先に思いつくのは愛人や友人、家族など近しい人の死を何度も目の当たりにする事。
現代人の寿命など精々100年、まして医療も発達してない江戸時代など大昔となれば50歳程度だろうか。
自分だけが長い人生を生きる孤独。それがどれだけ辛い物なのか、想像するだけでも恐ろしかった。
「その反応だと知らなかったようだな?ナーゴだってそうだ。自分の真実を知った時、どれだけ地獄に叩き落とされたか!それでも2人共、誰かの幸せを守る事を選んだ。何でか解るか? 不幸を知ってるからだろ!」
「道長......」
ふと、ナーゴF・鞍馬祢音の事にも触れるバッファ。
彼女の出生には秘密が有った。
実は祢音は鞍馬家の本当の娘ではない。
デザイアクランプリのスポンサーである父・光聖が創生の力を頼りに作り出された存在。それが祢音である。
元々、鞍馬家にはあかりと言う名の実娘が居たが、あかりはとある事件に巻き込まれ死亡。悲しみに打ちのめされ運営と契約した事で祢音は何も知らずあかりの代わりとして鞍馬家の娘として過ごしてきたのだ。
ダパーンが脱落して復帰するまでの間、べロバは祢音を極上の不幸に陥れる為、この真実を暴露。彼女を応援していたオーディエンス一同は「作り物応援されていた、嘘つき野郎」と勝手に逆切れし祢音を非難。小競り合いは有りつつも生まれ育った家族も、自分の存在すらも嘘だった事を知り、祢音は居場所を失い戦いを続行できない程絶望に苛まれたのだ。
この時のべロバの行動にはジャマト達と結託していた道長さえも深く憤りを感じていた。
しかし様々な苦難を乗り越え、彼女は両親と和解。今では本当の家族として鞍馬家は再建している。
あえて自分の出生をハッキリ語らないのは道長なりの気遣いなのだろう。
更に道長・バッファはダパーンの今までの行動の矛盾を指摘する。
「それに引き換えお前は何だ?......不幸を知らないだと?....とんでもねえ絶望を味わったナーゴを何で痛みつける?」
「.......」
ダパーンは反論しない。他人の不幸を壊したい等と言いながら、上記の様な経験を味わった祢音を攻撃した。これはダパーン本人が祢音の上辺だけで幸せだと判断していた事に他ならない。
「何も知らないのはお前の方だろうが。結局、お前は相手が幸せか不幸かなんてどうでも良いんだ。幸せを壊したい。そう思い込まないと自分を保てないからな?」
「........黙れ........」
ダパーンは俯いたまま、フィーバースロットバックルのゴールデンレバーを倒し、スロットを回す。
どうやらまだ反撃する気らしい。
消えそうなぐらい小さな罵倒が聞こえた気がするが、バッファはゾンビブレイカーを構えながら尚も論破し続ける。
「そうやって勝ち組だの負け組だの勝手に区分けして、見境無く色んなモンぶっ壊して満足か?
自分だけが全て失ったみたいに言い訳して。とことん可哀想な奴だな?」
「黙れよ........」
《HIT! MAGNUM》
停止したスロットに表示されたのは《MAGNUM》の文字。武装としてかなり強力だが心を乱されたダパーンには当たりを喜ぶ余裕が無い。そんな彼にバッファが畳みかける。
「お前はガキだ! 所詮不幸自慢でマウント取りたいだけのタダのガキなんだよ!」
「黙れえええええええええええええええ----!!」
《FEVER MAGNUM!》
怒号と共にダパーンは再度姿を変える。黄金のスカーフを首に巻き、上半身、下半身共にマグナムの装甲に身を包んだ姿。
仮面ライダーダパーン・フィーバーマグナムフォームへと。
直ぐに身構えるバッファとナーゴF。
しかし変身を完了するや否や、ダパーンはその場で高くジャンプし空中でバックルを操作し必殺技を発動する。
「どいつもコイツも、消えて無くなっちまええええええー---------!!」
《GOLDEN FEVER VICTORY!》
両手足に装備されたアーマードガンを展開、そのまま全身を回転させながら銃弾を巻き散らす。
この技は本来、多方向にばら撒いた銃弾を最後は一転集中して敵を攻撃する技である。
しかし今のダパーンは弾を集中させる気が全く無い。自暴自棄に銃弾を拡散させているだけだ。
ここは市街地のビルの屋上。
長距離射撃も可能なマグナムシューター40Xの弾丸が辺り一面に散らばったらどうなるか。
何処までも飛んで行く流れ弾が何人もの通行人を巻き込んでしまう。そんな事態はバッファとナーゴも容易に想定で来た。
「ダメ、このままじゃ!」
「何処までも面倒な奴!」
直ぐに対応しようと動くバッファとナーゴF。
しかし.....
「そこまでだ」
「!?」
その時、ダパーンは一瞬だけ一つの影を視認した。
神々しく輝く、白い狐の影を......
◆
人気の無い裏路地を一人の女性が息を荒くしながら走っている。
丈の長い白装束を身に纏い輝かしい銀の長髪はどうもこの世界の者とは思えない神秘的な雰囲気を醸し出していた。
創生の女神になり掛けてるツムリである。
ジット率いる運営に囚われの身となっていた彼女は英寿達の仲間である晴家ウィンの決死の策略によりツムリの開放に成功。
現在こうして人気の無い道を選びながら追ってに見つからぬ様逃走を続けていた。
向かう先は英寿と景和の決闘場である。
ギーツとタイクーンの戦う前に逃走した為、龍騎がバトルを阻止済みな事を彼女はまだ知らない。
「景和様.....英寿.....お願い....戦わないで.....」
不完全でありながら創生の力を酷使させられた事で体力も限界状態。
それでも彼女は息を切らしながらも走り続けた。
2人の戦いを止める為に。
◆
「.....畜生......何で.....」
そこには既にダパーンの姿は無い。
ビルの屋上ではダパーンの変身前である墨田奏斗が激痛を堪えながら倒れていた。
側には粉々に粉砕したデザイアドライバーの残骸、そして無傷のIDコアが転がっている。
それを無言で眺めて佇む一人の人物。
仮面ライダーギーツⅨ
ほんの一瞬の出来事だった。
必殺技の途中でこの白狐の姿が視界に入った途端、ダパーンは何をされたかも理解しない内に捻じ伏せられたのだ。
ミツメより創生の力を受け継ぎ進化したギーツの最強形態を前に、一介のデザイアライダーでしかないダパーンが敵う筈も無い。
「何で......何で皆...不幸にならないんだよぉ.......」
「当たり前だ。世界にはハッピーエンドを望む連中だって居るからな」
痛みに悶える奏斗に、ギーツⅨから変身を解除した英寿が吐き捨てる。バッファもナーゴも続けて変身を解除した。
「ギーツ、お前見てたならさっさと出てこいよ?」
「主役は遅れて来るもんだろ」
少々不機嫌そうな道長のぼやきに何時もの軽口で受け流す英寿。本当は少し前まで酷い倦怠感に襲われていたのだ。理由は定かではないが創生の力の使い過ぎが原因ではないかと英寿は考察している。
ミツメから力を受け継いだとは言えまだ完璧とは言えない。グランドエンド後の壮大な世界改変、鞍馬光望、祢音や城戸真司、秋山蓮へのIDコアとカードデッキの生成と、この数日間で幾多も力を行使した事を考えれば他に思い当たる原因が無い。
もっとも真司と景和が戦い始めた頃には大分体調も整っていたし、直ぐにでも道長と祢音を援護する事も可能だった。
英寿が無闇に自分の弱味を打ち明ける性格では無いことは2人も承知だ。
「それに、コイツにはどうしてもやっておきたい事があってな」
「やっておきたい事?」
英寿の言葉に首を傾げる祢音。
すると英寿は真っ直ぐ奏斗の元へ歩み寄った。
「ダパーン、俺が憎いか?」
声をかけられた奏斗は苦痛に耐えながらも鬼の様な形相で睨み付ける。
そんな彼に一切臆する事なく、英寿は意外な言葉を放つ。
「他の奴は誰も傷つけさせない。でもそれじゃお前の気が晴れないだろ? なら俺を殴れ」
「!?」
「ギーツ!?」
「英寿、何言ってるの!?」
「デザグラに脱落して以降、こいつはギラギラを失い少なくとも平和に過ごしてた筈だ。こうしてまたダパーンとして誰かを憎みだしたのには少なからず俺にも責任がある」
困惑する奏斗、そして道長と祢音に英寿は説明する。
デザイアグランプリで脱落した物はデザグラに参加していた頃の記憶を失う。しかしそれは記憶だけでなく、理想の世界を叶えたいと願う心すらも失うのだ。叶えたいと願う心のエネルギーを運営はギラギラと呼んでいるが、本来の願望が無くなると言う事は性格すら豹変すると言っても過言ではない。
記憶とギラギラを失ってからの奏斗の生活は空っぽその物だった。誰かを憎む事は一切せず惰性で日々を送るのみ。それでも何事もなく彼の心は平和だったかもしれない。
英寿が創生の力を手にした事で全ライダーの記憶は蘇り、奏斗も本来の心を取り戻した。
誰かの幸せを憎む、本来の心を。
「そう言う訳だ。さあ、俺を殴れ。それで気が晴れるなら幾らでもサンドバックになってやるよ」
両手を広げ、見下ろす英寿を奏斗は無言で睨んだまま動かない。
「どうした? お前の大嫌いな勝ち組様が無防備だぞ? 好きなだけ殴れ」
英寿は無表情だった。笑いもせず、哀れんでもない。
それでも目だけは決して折れない何かを感じさせた。
それが奏斗には余裕ぶってる様に見えた。
「っぐ....っくうぅ.....」
何とか立ち上がり左脚を引きずりながら英寿まで歩みよる。
殴れだと?
何処までも見下しやがって。
ああ解ったよ。
言われた通りにしてやる。
その整ったしたり顔が何処までも歪むくらいな。
「ぅぅぅぅううううあああああぁぁぁっ!」
「ぐぶっ.....」
声を張り上げ、奏斗は残った力を振り絞り英寿の頬を殴り飛ばした。
大きく後ろに転んだ英寿に奏斗は馬乗りになり殴り続けた。
ただただ一方的に殴られる事に痛まれなくなった祢音を道長が制止する。
「英寿!」
「よせ」
「でも...」
「アイツにはアイツなりのやり方が有るんだろ....」
とは言え道長自身も英寿がこんな荒行に出る事に少々驚いている。
勿論、これは英寿なりの考えがあっての行動だ。
ギラギラを取り戻した事の責任とは言ったが、本音は奏斗の気持ちを受け止める事だった。
英寿とて、ただ盲目的に全ての人間の幸せを願ってる訳ではない。奏斗の様に自ら幸福になる事を拒絶し荒れる者もいる。そう言う人物に対してはどうすれば良いのか。
そのヒントをくれたのが城戸真司だった。景和に対し彼は真摯に向き合い体を張って心を開かせた。あの戦いを陰ながら見守っていた英寿は自分も同じ事をしようと思ったのだ。
どれだけ長生きしても他人の心を100%理解する事は出来ない。それでも他人を少しでも理解するには向き合うしかない。
奏斗の拳を浴びる間、英寿は真司の事を考えていた。
(もしかしたら龍騎も、何度もこんな状況になってたかもな....)
己の願いの為に命を懸けた戦いを、真司は何度も止めに入ったと言う。
デザグラを何度も経験したからこそ解る。皆命を懸ける程の願いを簡単に手放す気になれなかった筈だ。彼もこうして幾度と無く拳を浴び続け、耐え抜いて来たのかもしれない。
そう思うと自分も同じ様に行動してみたくなったのだ。
暫く奏斗の拳に耐え続ける英寿。だが次第に殴る力とテンポが弱まってる事に気が付く。
遂には自分の頬の側の地面を殴りつけ、攻撃が止んでいた。
そして奏斗の方へ視線を向けると.......
「ううう....うううう..........」
泣いていた。
顔を歪ませ、奏斗の目から大粒の涙が溢れていた。
「何だ? もう終わりか?」
「..........うううう......」
体を起こし、切れた口の血を冷静に拭う英寿の問いに奏斗は一切答えない。
「俺を殴って......何か変わったか?」
結局、誰かを攻撃しても彼の心が晴れる事は無い。
得たのはどうしようもない空虚感だけだった。
「ううううう.....うううあぁぁぁぁぁ......」
出るのは涙だけ。
最早そこに居るのは無差別攻撃を加える危険なライダーではない。
夢が潰え、路頭に迷い、絶望し、誰かに気持ちを共有したかっただけの
ただ泣きじゃくる少年であった。
次回、やっと龍騎とタイクーンの戦いに戻ります