ギーツ&龍騎IF   作:巽★敬

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今回からエピローグですが、書く事が意外と多く投稿期間を開けたくないので
分ける事にしました。
やはり1話に収めるのは苦手です。


エピローグ・前

 

戦いは終わった。

 

スエルを倒した英寿は、自らの力を駆使し再び世界を造り変えた。

他者の不幸を喰い物にして来た身勝手なオーディエンスは全て消え去り、我が物顔で振舞っていた運営も消滅。

終幕のデザイアグランプリは無かった事になり、人々の記憶から消え去った。

 

こうして、世間には本来あるべき平穏が戻って来たのだった。

 

 

ただ一人の存在を忘れて.......

 

               ◆

 

街の中心部にある、野外のバスケットコート。

そこでは帽子をかぶった小学生程の少年が一人、熱心にシュートを繰り返していた。

世間では夏休みの時期であり、午前中に子供が遊んでいても不思議ではない。

少年はシュートを続けてるが、ボールは幾度と無くゴールに弾かれ思うようにいかない。

 

再び弾かれたボールは明後日の方角へ飛んで行ってしまう。

慌てて追いかける少年。するとボールが落ちた先には一人の高校生の男子生徒が立っていた。

男子生徒はボールを拾い上げる。

礼を言いながら駆け寄る少年に、男子生徒が言葉をかけた。

 

「もう少し肩の力抜いた方が良いよ」

「え?」

 

すると男子生徒は歩きながらドリブルを始め、ゴール前まで接近する。

 

「ボールの持ち方も、真横を持つんじゃなくて、こうやって人差し指と中指で中心を持つ様な感じで。膝の位置も調節して、真っすぐ腕を上げれば......」

 

シュートを決める男子生徒。ボールは綺麗な放物線を描いて見事ゴールする。

 

「凄い!お兄ちゃん上手だね!」

 

はしゃぐ少年に対し、男子生徒・墨田奏斗は眼も合わせず何とも言えない表情を浮かべる。

 

またも柄でもない行動をしてしまった。

夏休み中の登校日。下校中たまたま通りかかっただけだと言うのに。

そのまま通り過ぎても良かったが、神の悪戯か偶然彼のボールが自分の元へ飛んできた。

なまじバスケ知識が豊富故に間違ったフォームを繰り返す少年を見かね、ついレクチャーなどしてしまった。

 

終幕のデザイアグランプリ以降、自分は明らかにおかしくなったと感じて止まない。

少なからずあの時子供を助けてから自分の中で何かしらの変化が起きたと自覚はしている。

 

全てが終わって少しした後、奏斗は祢音の実家まで足を運んだ。

これまで彼女に行って来た無礼の数々、そして世紀末ゲームで彼女の母・伊瑠美を銃撃した件について謝罪する為だ。

他者の幸せを憎んでいた彼が何故その様に至ったのか。

実際の所、奏斗自身でも言葉で表現するのが難しかった。

ただ今までの経験が自分を変えたとしか言い表せない。

 

世紀末ゲーム終盤である人物を思う存分殴り飛ばしたが、結局残るのは虚無感だけだった。

あれだけ酷い仕打ちを与えた祢音すら、自分を救いたい対象と言って来た。

力で解決ではない、別の方法での対話は何かしら彼に影響を与えていたのだ。

 

最も、その殴り飛ばした人物が誰なのか覚えていないのだが。

誰かを殴り飛ばした様な気がする......と言った方が正しいか。

 

とにかく、運営が消滅した以上今更破滅の世界を望んでも空しいだけ。

デザグラに参加時の素行と態度の悪さは自暴自棄だった部分もあるが、

それ以上に日本消滅の危機と言う飛び切りのバットエンドを人間達は回避したと言う経験は大きい。

あれだけの危機を乗り越えてしまったら、世界はそう簡単に滅びそうにないと感じるようになったのだ。

戦いが終わった後、奏斗は今後どう生きていくべきなのかを考えるに至る。

 

事故にあって以降、捨てたくても捨てきれず閉まっていた憧れのバスケ選手のポスターを取り出してみる。

 

ああ....やっぱ、バスケしたんいだ.....

 

結局それが自分の正直な気持ちなのだと気づかされた。

だが罪を犯した自分が今更スポーツマンに戻るなど烏滸がましい。

なので兎に角胸の中のモヤモヤが晴らす必要があった。

 

それが鞍馬家への詫びである。

許されなくてもそうするのが重要だと思った。

寧ろ許されず責任を追及された方が、自分がどれだけ重大な事を犯したのか実感出来る。

謝罪を拒否されるならそれはそれでバスケを諦める決心も付く。

 

そう思い、屋敷を訪ね深々と頭を下げた奏斗だったが、

鞍馬家はあっさり許してくれたのだ。

 

伊瑠美からは「もう過ぎた事よ」と返され、祢音も奏斗が本当に改心した事を実感し歓迎した。

光聖も世界が造り変わった事で伊瑠美の傷は綺麗さっぱり回復したので今更咎めるつもりは無いらしい。

 

逮捕も覚悟だった奏斗は酷く呆気にとられるのだった。

 

 

こうして再び奏斗はバスケ選手を目指す気になった。

まだまだリハビリは続き長時間の激しい運動は控える状態だが、

再び生まれた目標は自分を前に進ませる原動力となった。

 

それでも自分のやって来た事にはまだ後ろめたさが拭えない。

思わずノリでやってしまったが、本来自分は偉そうに人を指導出来る人間ではない。

 

「とりあえず、今教えた通りにやれば。じゃあね......」

 

そっけなく少年と別れようとする。しかし少年が彼を引き留める。

 

「お兄ちゃん」

「?........!」

 

服の裾を掴まれ振り返り少年の顔を始めて見た時、奏斗は眼を丸めた。

 

服装も違い帽子に隠れ遠目では 判別できなかったが、その顔は終幕のデザイアグランプリで自分が助けた

あのバスケボールの少年だったのだ。

 

「良かったら.....バスケ教えてくれない?」

「僕が? 僕なんかよりもっと良い人に教われば?」

「いやだ。だってお兄ちゃん、よくここで練習してるよね?遊びいった帰りに、時々見掛けるよ?」

 

少年の言う通り、奏斗は夕方になると定期的にここで一人シュートの練習をしていたのだ。

なるべく足に負担がかならない程度にだが。

見られていた事に気づかなかったのは、それだけ久々に打ち込んでいたと言う事だろう。

少年は更に不思議そうな表情でお願いを続ける。

 

「それに....何だか知らないけど、お兄ちゃんから教わった方が良い。そんな気するんだ!」

「..................」

 

少年からすれば奏斗の事は一切覚えていない筈だが、何となく何処かで出会った感じがして止まない様だ。

子供からこんな風にせがまれる等はじめての経験だ。

一生懸命バスケに打ち込もうとする少年に奏斗は問いかける。

 

「君、バスケ好きなの?」

「うん! 今は下手だけど将来選手になって、皆と一緒に楽しみたい!」

「.............簡単なシュートだけなら」

「やったぁ!」

 

バスケ好き少年から熱い懇願に遂に折れる奏斗。

どうしてもと頼まれた。仕方が無く付き合うだけだ。

そんな言い訳が思い浮かぶが、不思議と悪い感じはしない。

 

その時、

 

 

〘 どうだ、人を助けた気分は? 〙

 

「 ! 」

 

 

ふと何処からか聞こえる謎の声。

目の前で練習を始める少年とは明らかに別人な、成人男性の声。

辺りを見回すがこの場には自分と少年しか居ない。

奇妙な気分だった。初めて聞いた筈なのに、

何処かで覚えがある様な...妙な憎たらしさがある。

 

(..........うっさいよ)

 

小声でつぶやく奏斗。

不思議とそう返したくなった。

何処に居るかも解らない声の主を見るかの様に空を見上げる。

 

言葉だけは相変わらず棘がある。

それでも今の彼の表情は

憑き物が取れた様に穏やかだった。

 

 

            ◆

 

仕事を終え、道長は現場作業員の仲間達と共に街中を歩いていた。

これから親方の家でバーベキューパーティをする事になっているのだ。

親方たちと会話を弾ませながら道長は目的地まで歩いている。

 

「随分嬉しそうだな道長。そんなに楽しみか?」

「はい。俺、肉大好きなんで」

「はは、そりゃ良い。誘った甲斐があったな」

 

元から仕事に関しては非常に真面目に熟す人間だったので職場での評判は良かったが、

スエルに勝利し世界に平和が戻ってからは毎日が上機嫌であり以前より人当たりが良くなった。

お陰で仕事仲間との関係はぶっきらぼうな頃と比べかなり良好になっていた。

 

何気ない会話を楽しみながら足を進める。

こんな平和な日々を過ごすのは何時ぶりだろうか。

道長の心は晴れやかだった。

 

そんな時である。

つい会話に夢中になり曲がり角で一人の男と肩がぶつかってしまった。

直ぐに謝罪する道長。

 

「すみません、余所見してて......っ!!!?」

 

しかし男の顔を見た途端戦慄し言葉が途切れる。

 

その男が、仮面ライダー王蛇こと浅倉威だったからだ。

 

思わず身構える道長。

しかし浅倉は道長を見ても対した反応を示さない。

見た目の恐さは相変わらずだが、少なくとも終幕のデザイアグランプリの頃の殺気は全く感じない。

 

「気を付けるんだな」

 

それだけそっけなく言うと、浅倉はナップサックを片手に何処かへ立ち去った。

道長は呆然と浅倉の後姿を茫然と眺める。あの様子だと自分の事は覚えてない様だ。

IDコアも砕き、世界が作り変わったのだからデザグラに関する記憶も重ねて来た罪の歴史も全て消えた事が伺える。

願わくは彼が二度と仮面ライダーにならぬ事を祈るばかりである。

 

「どうした道長、知り合いか?」

「あ...いえ。なんでもないです」

 

暫く立ち止まってたので親方が心配して声をかけた。

適当にはぐらかした後に再び視線を戻すが、既に浅倉は人混みの中に消えていた。

 

 

            ◆

 

 

 

街中のカフェのテラス席で、景和は勉強に取り組んでいた。

テーブルには参考書や警察官教養試験の問題集が置かれ、びっしりと回答が書かれたノートに只管シャープペンを走らせる。

 

「ふぅ~、ちょっと休憩~」

 

キリが良い所で筆を休め背伸びをする景和。

軽く深呼吸してコーヒーを飲んだ後、側に置いてたタイクーンのIDコアを手に取る。

 

スエルを倒してから3週間が経過した。

日本が消滅しかけた混乱が、今では嘘の様である。

この平和は自分達が守り抜いた証。

デザイアグランプリと関わる前は冴えない就活生だった景和。

戦いが終わった今、もう一度自分の将来を見つめ直す。これまでの経験を得て漠然だった世界平和と言う願いを自分なりに叶えたくなった。

自分が目指す平和とは何か、色々考えた結果、警察官と言う職業に行きついた。

故に現在は試験勉強に打ち込んでる訳である。

タイクーンにならなければこんな目標を持つ事は無かっただろう。

改めてケケラの事を思い出す。あの男に対しては未だに複雑な感情しかない。

許せない相手でありながらも自分が仮面ライダーになった切欠。故に一方的に憎めないのがもどかしい。

同時に自分を止めてくれた真司にも心の中で感謝する。

 

と、そこへ何やら荷物を肩にかけた真司が通りかかり声を掛けて来た。

 

「精が出てるみたいだな、景和」

「真司さん」

「警察官か。随分思い切った目標だな?」

「仮面ライダーとしての経験が生かせるかもって思ったんです。勿論、俺一人で出来る事なんか限られてますけど、これで少しは世界平和に近づける。って.....ちょっと生意気ですよね?」

「そんな事ない。君らしい願いだと思うよ。少なくとも景和みたいな警察官なら俺は安心する」

「いや流石に買い被り過ぎですよ。でも、ありがとうございます」

 

年上相手に謙遜する景和を、尊重する真司の言葉に嘘は無い。

元から正義感が強かった景和が、大切な物を失う事の辛さや己の弱さを知り、それでも誰かの為に動ける。そんな景和ならきっと良い警官になれると本気で信じている。

過去に欲にまみれ悪事を働く刑事の仮面ライダーを知ってるので尚更そう感じるのである。

 

「真司さんも最近どうです?平和になる方法を探してるって聞きましたけど?」

 

照れ隠しのつもりで景和は別の話題を持ちかける。

立ち話も難なので荷物を地面に置き着席。

質問を振られ真司は言葉を濁した。

 

「うーん、相変わらず世の中単純じゃないってのが現状だな....」

 

真司はこれまで取材を元ネタに今の心境を打ち明かす。

彼は定期的に"少しでも争いの無い世界に近付くには?"をテーマに記事を書く事が有るらしい。

最近は特に異文化共生に関する事例に興味を示しているのだとか。

近年はインバウンドの都合で渡航せずとも外国人と接する機会が増えた。

 

世間の意識調査も兼ねて外国人旅行者や一般移住者に取材を行う事も有るとの事。

最初こそ真司は様々な文化が共同する傾向に好意的だった。

しかし多様性、多文化共生、グローバリズムと言う言葉がトレンドになってる昨今、

価値観や文化も違う者同士の共存はそう都合の良い物ではなく、国内で異国人関連のトラブルや犯罪が多発しているのが現状だ。

ただでさえ世界には宗教概念の違いで起こる紛争や人種問題、貧困により秩序乱れた国が数多いと言うのに、移民問題や増え過ぎた観光客によるオーバーツーリズムと言った問題も浮上している。

多民族国家にもなれば常識も宗教概念も入り乱れ、人々に更なる軋轢を生む事になる。

そして真面な異邦人が居る中、自分を最優先する無法者も目立っている。

 

平和に近づくにはまずは相手を知り話し合う事が重要だと思ってた真司だが、

ここ最近は上記の様な事例から、異文化人同士、テリトリーが違う者同士、時には互いに距離を置く事も重要だとも考える様になった。

世間では一刻も早い法整備など求める声が上がってるが、中々事が進まないのが現状だ。

持ち前の正義感からどうしても許せないと思える事例も起きてるが、下手に批判する記事を書けば一定数の人間が人権を盾に反論してくる。

SNSが支流となった昨今では今まで以上に自分の発言に気を遣う必要が有る。

 

争いの無い世界。

口で言うのは非常に簡単だ。

だが世間にはこんな身近な所にも、難題な争いの火種が存在する。

皆自分を優先する感情が強い程、軋轢が生まれる。

争う者の事情を知れば知る程、掲げる理想は遠のいていく。

 

「何が正しくて何が悪かは人によって違う。まして国が違えば、俺達じゃ考えられないような事がその国では常識だったりする。例え相手が間違ってるって感じても、頭ごなしに否定すれば批難も有る。こう言った話は利益や利権やらが絡むと更にややこしくなるしさ。下手な事を書けば何処から釘を刺される事も有るし.....」

 

真司の不満気な表情を見て景和も色々大変なんだなと察する。

邪神にも突きつけたが、我ながらかなり無理難題を掲げた物だと真司は思った。

行動力有る政治家にでもなれば多少マシな解決策が見つかるかもしれないが、

ジャーナリストと言う仕事に誇りを持つ真司に「転職」の文字はない。

結局、具体的な解決策も無いまま仕事に追われる日々だ。

 

「それでも.....」

 

少し間を置いて、真司は静かに言葉を繋げる。

 

「やっぱり憧れるんだよ....争いの無い、世界ってのを....」

「...........」

 

無言のまま景和は話に聞き入った。

真司は遣る瀬無い表情を持ちつつも、何処か澄み切った目で遠い空を見つめている。

そう願う程、13人のライダーバトルは彼に大きな影響を与えたのだろう。

暫し無言を貫いた後、色々な思いを込めつつ気が重そうに口を開く。

 

「...移民......紛争...貧困層......創世の女神なんて無くても、誰かの幸せの裏で不幸が有る......皆、ホントは幸せになりたいだけの行動が、結果的に誰かの迷惑に繋がる......」

 

それは忌々しいケケラから何度も聞かされた自論であった。

表情に影を潜め更に呟く景和。

 

「.......もしかしたらその人達の中にも、

デザグラに出た人が居たかもしれませんね......」

 

運営は過去から現在まであらゆる時代や地域に干渉しデザイアグランプリを開いて来た。

自分達が知らぬ何時かの時代、何処かの国の難民や貧困層の人間が藁にも縋る思いでエントリーしてても不思議ではない。治安が劣悪な地域で開催すれば日本以上に欲深い人間が集まりそうだ。

真司の話から不意にそんな考えが過り、今までの事を思い出す景和。

 

「" 幸せ "って、何なんでしょうね....?」

 

ふと、そんな疑問を呟く。

 

「デザグラの参加者も.....真司さんと戦ったライダー達も.....

皆自分の幸せを願って、誰かを犠牲にしようとした.......俺もその一人です..............

幸せって、そうでもしないと叶わない物なんでしょうか?.....

それって本当に、幸せって言うんでしょうか........?」

 

先程とは打って変わって、景和の声は徐々に沈んでいく。

ツムリを監禁し、女神に仕立てようとした事を彼は酷く後悔していた。

世紀末ゲームで真司から13人のライダーバトルの話を聞かされた事で、自分の行動の嫌悪感は増幅し、

心に刻み込まれているのだ。

 

" 幸せ "とは何か。

GDP内で散々聞かされたワードだからこそ、考えたくなる疑問だろう。

景和の心情を察した真司は少し沈黙した後、

 

「..........人によっては、それも有りだな.......生きる為には必要だから....」

 

と、言葉を選びながら返答する。

過去の戦いを思い返すと、どうしても自分の価値観だけで何が善悪など判断できない。

景和もそんな事情を承知で「そうですよね......」と呟き、言葉を付け加える。

 

「.....俺はもう、道を外したくない.....色々有りましたけど......やっぱり嫌ですよ.....

そんな幸せ..........今後、もっとそんな人達に会うかもしれませんけど.........」

 

俯き自分のIDコアを握る力を強める。と、直ぐに声のトーンを上げ顔を上げた。

 

「って駄目ですよね、警察志望がこんなんじゃ! 悪い奴を取り締まらなくちゃいけないのに。すいません勝手に黄昏て....」

 

景和は普段通りの笑顔を見せてるつもりだろうが、空元気感が否めない。

 

"やっぱり嫌だ"と言うのは過去の自分の過ちを兼ねた故の発言だ。

警察官を目指したのは元からの正義感も有るが贖罪の一環も兼ねてるかもしれないと、真司は思った。

彼も元々は戦いとは無縁の普通の青年だった。

趣味がボランティアで家族を愛し他者を疑う事すら嫌う、文字通り人以上のお人好しと聞いている。そんな彼もデザグラで人間の汚い部分を嫌と言う程見せつけられ、戻ったとは言え誤った願いで再び家族を死に追いやり、悪人の口車により道を外す寸前まで追い詰められてしまった。

GPD内でもその優しさを甘いだの色々言われた事だろう。

ツムリへの仕打ちは確かに褒められる事ではないが、当時の彼のメンタルは限界だった筈。

運営に関われなければあそこまでの悲劇を経験する事も無かった。

景和もまた、デザグラの被害者なのだ。

こうして新たな目標を掲げ前に進もうとするが、警察は犯罪者と言う人間の負の側面と立ち会うのが仕事だ。

心の奥底ではまだその事に抵抗が有る様子である。

 

やはり、彼はどうしても自分と重なって見える。

根は争いを好まないのに、願いを掛けた戦いに翻弄されてきた景和。

何か言葉をかけてやりたいと少し考えた後、真司は口を開く。

 

「自分の信じる物を持つこと」

「え?」

「昔、尊敬する人に言われたんだ。

ライダー同士の戦いを止めるか止めないか。答えが出ない時、” お前が信じる物 "だって。

悩むのは良くても、自分の中にしっかりした芯が無きゃ、真面な話し合いにもならない。

要するに、自分は一番何がしたいか?って事。

もう戦いは終わったけど....辛い時や悩んだ時、その言葉は今でも俺の支えになってるよ」

「......自分が...........信じる物........」

 

真司の言葉を聞いて、景和は神妙な表情で自分のIDコアを見つめる。

嘗ての自分の師ともいえる人物の言葉をそのまま景和に伝えた。

元は小さなモバイルネットニュース配信会社の上司だ。

SNSが支流になってからは会社は閉鎖に追い込まれ、一時期は路頭に迷う事も有った物の新たに企業しその人は立ち直った。

かつての同僚も時の流れによりそれぞれの道を歩み散ってしまうも、今でも定期的に連絡出来る程の関係は保っている。

とは言え、1人の記者として誰かの言葉を借りるだけでは駄目だ。自分の言葉も含めなければ。

 

「幸せは千差万別でも、浅倉やケケラ達みたいに他人を陥れて平然と出来る連中を俺は許せないし、

助けを求めてる人に手を差し伸べる事が間違いだとは思わない。俺はこれからも、争いの無い世界を模索して行くよ。無駄だと言われても、やらなくて良い理由なんて無いからさ」

「...................」

「誰かを犠牲にする幸せなんて嫌だって思うなら、それがもう、景和の" 芯 "なんじゃないのか?」

 

無言でIDコアを見つめる景和の表情は、徐々に綻んで行く。

それを見て真司も安心する。

 

生きていく限り、人に悩みは付き物。

今後景和の身には凄く嫌になる事態が起きたり、難題が降りかかってくる時が来るだろう。

警察官ともなればなおさらだ。

デザグラでなくとも世間に夥しい数の欲で溢れている。

景和の様な所謂Z世代と称される人達は物心付いた頃からネット環境が充実し、様々な意見に触れ翻弄される事も多い筈だ。

だからこそ真司にとっては今の言葉が少しでも彼の支えになってほしかった。

景和の表情を見た事で、言葉を聞かなくても彼ならきっと大丈夫だろうと思えた。

 

と、ここで本来の自分の目的を思い出す真司。つい長話をしてしまった。

 

「......おっと、長居し過ぎた。悪いけど俺はそろそろ行くよ。邪魔したな」

「いえそんな、何処かへ向かう途中だったんですか?」

 

席を立ってはじめて気づいたが、真司の手には少し大きめの保冷バッグが握られていた。

景和に尋ねられ真司は保冷バッグを軽く見せて笑みを介した。

 

「まあ、ちょっとしたお礼参りってとこかな。それじゃ」

 

去って行く真司の背中に向かって景和は席を立ち無言で頭を下げる。

本当に色々見透かされて、頭が上がらない人だ。

つい気を使わせてしまった事に感謝と負い目を感じつつ、景和は空は軽く見上げた。

 

「俺の......信じる物......か....」

 

それが有れば、今後も嫌な事や迷い事があっても、自分の支えになるかもしれない。

要するに自分が一番何をしたいかだ。

 

やっぱり自分は人助けがしたい。

周りが笑顔である事が、姉や自分にとっての幸せ。

それが何れ自分が望む世界平和に繋がると信じたい。

創成の力と言う頂上的な力ではなく、自らの力で叶えたい。

自分なりの世界平和を。

 

そう言う想いを馳せていた時、

 

 

〘 お前ならやれるさ。タイクーン 〙

 

「 ! 」

 

 

突如聞こえた.......様な気がする謎の声。

振り返るがそこには誰も居ない。

気のせいだろうか?

 

しかし何故だろう。

何処かで効いた様な声だと、首を軽く捻る。

自分を応援してくれる謎の声。

何処か懐かしい様な、不思議と勇気が湧いてくる。

 

「............よし、頑張ろう」

 

軽く深呼吸を終えた後、

景和は席に着き再び問題集を解き始めた。

 

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