今回で本当に最終話です。
関係無いですがガルリミでは本編であまり目立たなかったハクビの活躍が見れるので
興味のある方はどうぞ。
生い茂った樹木。
木漏れ日を浴びながら、
真司は石垣の階段を上っていた。
この階段の先には街の麓に建てられた一件の神社が存在する。
そこを目指しているのだ。
保冷バッグを片手に、少し距離のある階段を上ってると
前方から一人の青年が降りて来るのが見えた。
黒コートにシアンと白のメッシュが掛かった髪と、少し風代わりな出で立ちだ。
参拝客だろうか?
側を通過しようとした真司に、青年が声をかける。
「ねえ、そこの人」
「?」
「ツムリから話は聞いている。城戸真司、仮面ライダー龍騎、だよね?」
「! 君は?」
「俺はジーン。浮世英寿をギーツに選んだ、彼のサポーターさ」
嘗て英寿がやっていたのと同じく、得意気に右手で狐の形を象るジーン。
彼は元々ギーツを応援する為にこの時代に来ていたオーディエンスの一人だった。
しかし、スエルがグランドエンドを告知した為に未来に帰らざる得なくなった。
巻き込まれれば自分達も消滅しかねない。
推しとの別れ、英寿をサポートしたいと名残惜しくも、ジーンは渋々四次元ゲートを潜って行った。
その後は運営がギーツ達を支援するオーディエンスが来られぬ様に制限を課せたので暫くこの時代に来れず仕舞いだった。
全てが終わった後に四次元ゲートは復活し、再びこの時代へ舞い戻る事が出来たのだ。
なお、浮世英寿は。
彼は現在この世界に存在しない。
スエルに勝利した後、彼は自らの意思で自分の存在を世界から消した。
景和や奏斗などデザイアグランプリ参加者達すら覚えてないのもその為だ。
今、この世界で英寿を覚えているのはツムリや世界改変の影響を受けない未来人ぐらいである。
「君が英寿君のサポーター?」
しかし、真司は英寿の名前に明確な反応を示す。
訳あって彼は英寿に関する記憶をしっかり維持しており、その理由は後で語るとしよう。
明確に本人であると確信したジーンは話を進める。
「丁度良かった。実は伝えたい事が有ってさ。英寿にも関わる話だ」
「伝えたい事?」
「ああ。俺達未来人から見た、古代人への考え方。アンタ達のお陰でそれが少し変わりそうなんだ」
終幕のデザイアグランプリで起きた、運営に反旗を翻したジエンドライダー達の大乱闘。
ジーンの話によると、
英寿はただ仲間の手数を増やしたかっただけでなく、更なる目的の為もあっての行動だったそうだ。
それはこの時代の人間達の奮闘ぶりを、未来人達にも見せようと言う物。
未来人は文明レベルの格差や理解度の足りなさから、どうしても古代人達を蔑視しがちな者が多い。
スエルを倒せても意識改革させなくては、その様な人物が再び現代に現れ面倒事を引き起こしかねない。
それを少しでも防ぐため、
英寿はギロリに頼んで自分達の最後の戦いの映像を未来世界にライブ配信させてたと言う。
これは英寿の家で彼と再会した時から計画してた物だ。
スエルとの戦いが始まってから、古代人が未来人に立ち向かう映像をリアルタイムで未来に送ったギロリ。
戦いの一部始終を観戦するオーディエンスアイをハッキングしたのだとか。
英寿自身も予想を超える数の仲間が集合した事により、
撮れ高は凄まじく未来世界でも大きな反響を得たと言う。
( 英寿君は、そこまで計算してたのか.... )
伊達に2000年は生きてないなと、改めて英寿の策士ぶりに感心する真司。
「俺も未来で、アンタ達を応援させてもらったよ。心からね」
そう言って、ジーンは先の戦いを観ていた自分達の事を語りだした。
◇
遥か未来。
あらゆるデータが惑星間を飛び交う電子の街中。
「ジーン、あれを見ろ!」
鞍馬祢音のサポーターであるキューンが上空に突如現れた映像を指さし、
ジーンを含めた未来の住人達は一斉にその映像を凝視する。
ギロリが過去の世界から送って来た、運営に歯向かうジエンドライダー達の乱闘劇を映したライブ映像だ。映像の中にはタイクーン達と共にリガドΩに挑むギーツの姿も確認出来る。
彼らの会話の音声も、ジーン達の耳に届いていた。
『 お前を支持しているオーディエンスの心が揺らいでるんだ。散々見下して来た、俺達古代人の底力を目の当たりにしてな 』
『貴様、それが狙いで参加者を引き入れたのか?!』
『 さあな? 』
ギーツとリガドΩの会話からして、この光景が英寿による仕込みだと直ぐに理解した。
モニター内にデータとして組み込まれており瞬時に視聴者に伝わる様セットされている。
( こんな事が出来るなんて....やっぱり英寿は凄い! いや、彼だけじゃない。古代人皆の想いがスエル達に対抗してるんだ....)
英寿だけでなく、過去の人間等による願いの強さと奮闘ぶりに圧倒されるジーン。
今のデザグラが誤った方向に向かってると理解しつつも自分は運営に歯向かえなかったのに、人間達は果敢に立ち向かっているのだ。
( 俺にも、何か出来る事は......!? )
今すぐにでも過去へ飛んで彼等をフォローしたいが、運営が管理する4次元ゲートに制限が掛かってるので無理だ。
歯痒い思いをしながらも自分が出来る事を模索してると、ジーンの目の前に小さな画面のショートメッセージが表示される。
それは英寿の意思を代弁してギロリが書いた物である。
内容は以下の通り。
皆が俺達古代人を応援する様促してくれ。と
( わかったよ英寿! )
メッセージの指示を早速実行するべく、ジーンは目の前の映像を自分の演説と共に世界中に共有、拡散する。
この世界の住人は全てデータ生命体なので、映像は瞬く間に世界中の住民に生き渡った。
「この映像を見ている皆!どうか古代人達を応援してあげてくれ!
彼らは今、自分達の大切な世界を守る為に命を懸けて戦っている。
確かに文明レベルは俺達より遥かに劣る。
でもそんなのは関係ない、持てる力を集結させて全力で抗っている。
彼らを侮っちゃいけない。甘く見てると痛い目を見る。
時には俺達でも想像の付かない手段で対抗してくる事も有る。
こうして運営と争えてるのが、その証拠だ!」
過去に英寿に言われた事を思い出しながら、ジーンは呼びかけを続ける。
「彼らは決して、遊びで戦ってるんじゃない。想像してみてくれ。
もし自分が短い期間しか存在出来ない事を。大切な誰かが、何時か永久に存在しなくなる事を。
彼らは常に『死』と言う概念の中で生き続け、今と言う短い生涯を必死に生きている。
だからこれだけの戦いが出来るんだ。俺はずっとデザグラが好きだった。
けど、過去の人間達を陥れるだけの今の運営はどうしても容認出来ない。
だから皆、どうかこの戦いを覚えていてほしい。
彼らの必死な生き様を。コンテンツじゃなく、一人の生命として」
ジーンの言葉に触発され、
一人、また一人と応援する未来人が現れる。
やがて大勢が一丸となって映像に映る仮面ライダー達を応援しはじめた。
「頑張れ古代人!」
「負けるなぁぁ!!」
「そんな運営倒しちゃえ~!」
「生きろ、祢音!」
ギロリの言う通り、こうして以前からスエル達を快く思わない善良な未来人も間違いなく存在するのだ。
例え過去の時代に言葉は届かずとも、大勢の想いが一つとなったこの出来事は、未来人にとっても歴史に深く刻み込まれる事となったのだ。
◇
「特に最後に起きたあの黄金の力。ホントに凄かった。凄すぎるよ古代人達!
大勢の強い願いが集まれば、あんな奇跡だって起こせる。
これで未来の皆も、少しはアンタ達への認識を改める筈だよ」
ドラグランザーとダークレイダーが融合した奇跡の瞬間を思い出し、心を躍らせるジーン。
彼も以前まではべロバやケケラ程非常識ではないにせよ、推しが死のうが生きようがそれを見て自分が感動出来れば良いと言う、薄情な性格をしていた。
しかし英寿達と接して行く内にその見解を改めて行く事になる。
未来人は病気も存在せず生まれつき寿命も好きな様にデザイン出来る為、「死」と言う概念がどう言う物か今一つ理解してない者も多い。
だからこそ過去の世界を3.5次元の世界として自分の推しの人物をゲームに参加させ楽しむのだ。
現代人がお気に入りのアニメや映画などフィクションのキャラクターを応援する様に。
動画配信者に投げ銭を送る感覚とも言えるのかもしれない。
それがデザイアグランプリである。
自分が「感動」したいが故に英寿をギーツに選んだジーン。
彼がどんな人生を迎えるのか、時には死に様すらエンタメとして見るつもりだった。
故にその振舞いを英寿に非難され、後で己を恥じる事になる。
目の前に居る過去の人物は、架空でも何でもない実在の人物。
死と言う物がどれだけ辛い物なのか。
そしてその死を幾度と無く繰り返して来た英寿。
彼の正体と背負う物を知り、如何に自分が古代人の人生を軽く見ていたかを知り、深く後悔し涙したと言う。
この様に見方を改め成長する善良な未来人も存在する。
その事実を知れただけでも真司はジーンと出会えた事は得と感じた。
「是非そうなって欲しいな。俺だって、未来人皆が悪人なんて言いたくないし」
一つのコミュニティの中でその人物の一人が問題行動を起こし悪目立ちすると、世間にはその人物が属するコミュニティに全員が悪と認識され易い。
世代の違いによる軋轢など現代でも珍しい話でもない。
少ない非常識な未来人の為に、大勢の未来人を軽蔑するのは危険だと真司も自負している。
真司の反応を見てジーンは少し驚いた様な表情を浮かべた。
オーディエンス達の願いによる被害を考慮すれば、てっきり真司は未来人に良い印象を持たないと思っていたからだ。
「意外だな。英寿と同じように、アンタも未来人の俺を軽蔑しないの? ケケラや運営のやらかしを見てきたのに」
「あんなの一部だけなんだろ? 声が多きい人ほど目立つ。この時代も似たような物さ」
「そっか。そう思って貰えると助かるよ。それでちょっと相談なんだけど、近々またデザイアグランプリを開く事になったんだ」
「え?!」
「おっと、そんな顔しないでくれよ。もうあんな酷い運営じゃないから」
偏見はダメだとしても、
あれだけの事をしでかしたGPDにはどうしても悪いイメージを抱いてしまう。
怪訝な表情を浮かべる真司に対し、ジーンは空かさずフォローを入れた。
彼の話だと、
今回の一件でデザグラ運営は一度解体されるが、善良なオーディエンスの熱い要望により後に復活。
良い事悪い事色々有ったが数世紀以上も自分達を熱狂させたコンテンツを失うのは惜しいと言うのがジーンを含めたファン達の総意であり、スタッフを層入れ替えして1から出直すのだと言う。
優勝しても願いが叶うでもない、ゲーム内容も血生臭い戦闘もない。
あくまでも幸せを願う人間達の応援と言う名目であり、
この時代で言うスポーツバラエティー番組の様な方向性でやってくのだとか。
「新しい運営の良さは俺が保証するよ。
その時は是非、そっちも参加してくれると嬉しいんだけど、どう?」
ジーンからの誘いを受け、思考する真司。
元々デザイアグランプリには宝探しや神経衰弱など戦闘を含まなくても良いミッションも多々存在していた。
命の駆け引きでないのなら、デザグラに出るのも悪くないかもしれない。
「そうだな。考えとくよ」
笑顔でそう返すが、ここで条件をお出しする。
「その代わりだけど、俺からも一つお願いして良い?」
「何だい?」
「君がさっき話した、未来で伝えた事。俺達古代人の人生感を、今後も未来人たちに伝え続けてくれないか? デザグラの参加者はエンタメじゃなく、ちゃんと生きてる一人の人間だって事を。
解ってるだろうけど、君達と違って俺達は本来一度しか人生が無い。
何時か終わると知ってるから、皆今を大事にして、生きる意味を見出そうとしてる。
例え何度歴史を造り変えようと、掛け替えのない時間を削って俺達は生きてる。
それがどう言う意味なのか、もっと知り渡ってほしいんだ」
人の死生をエンタメとしか見れない。
20代の頃にこんな人物と出会ってたら感情任せに否定し胸ぐらを掴んでたかもしれない。
だが彼らは解らないだけなのだ。死と言う意味を。
あらゆる物をデザイン出来るのが「当たり前」過ぎて、
人生と言うの価値観がこの時代と違うだけなのだ。
真司は自分の人生を重ねてみると解り易く思えた。
公衆電話が主流だった時代、携帯で場所時間問わず動画が見れるなんて考えもしなかった。
AIが発展し文字を入力するだけで様々が画像が誰でも作れるなんて考えもしなかった。
そんな嘗ては考えもしなかった事が何時か「当たり前」になり、世界に浸透していく。
今で言うZ世代・デジタルネイティブ世代もネットが無い世界の事は想像するしか出来ない。
そうやってあらゆる「当たり前」が何時か別の「当たり前」に変わり続ける。
ジーン達未来人はその延長戦だ。
未来人は終わりが無いのが当たり前で、
古代人は終わりがある事が当たり前。
それだけの違い。
争いが無知から生まれるのは、何時の時代も変わらないらしい。
文明レベルが違い過ぎて全ての人間と理解し合えるのは難しいだろうが、
ジーンの様に話し合えば古代人の事情を理解出来る者が居るなら
それに越した事は無い。
古代人の事を知らないなら、学べばいい。
何でも実現出来るなら、それこそ未来人とも互いに手を取り合える筈だと、真司は踏んだのだ。
「言っとくけど、別に死ねって言ってる訳じゃない。あくまで考えてほしいだけなんだ。それに君等がそうなった理由、何となく解る様な気がするし」
「え?」
「死の概念が無くなった理由。その技術を最初に作った人は、単に皆の役に立ちたかっただけ、だったんじゃないか? 世界の破滅から、死の恐怖から皆を助けたかった。
俺はそう思うんだけど、違うかな?」
これは未来人の真相を知った真司なりの一つの仮説だ。
自分の死、大切な誰かの死を拒み続けた人物なら過去に何人も見て来た。
なので死から解放させたい気持ちが何となく解ってしまう。
将来世界の破滅なんて物が来ようなら尚さらだ。
故に全ての未来人達を悪と決め付ける気持ちにはどうしてもなれない。
「.....流石に俺もそこまでは知らないかな。生まれた時から、俺達はこれが当たり前だったから...考えた事も無かった....」
少し俯くジーンを見て、真司も返答を待つ。
”死”と言う概念その物が隔世な住人には難儀だろうか?
自分ですら彼らの価値観を理解してる訳じゃないのに。
別に未来人全てを意識改革なんてする気は無いが、それでも何もしないよりは良い。
何でも直ぐデザイン出来るなら、学習だって簡単な筈。
やがて顔を上げるジーンだが、その表情は明るかった。
「でも解った。オーディエンス仲間に伝えとくよ。
俺ももっと知りたいからさ。推しが守り抜いた、この時代の事を」
「ありがとう。頼んだよ」
ジーンの返答に満足し、真司は希望の笑みを浮かべながら彼と別れた。
◆
山奥に佇む一件の神社。
ここは終幕のデザイアグランプリ以降、世界が再構築された際に創り出された場所である。
その事実を知るのはごく一部の人間のみ。
景和や道長、祢音などデザグラに関わった者達でさえ、
神社が元から存在した物だと思い込んでいる。
これも英寿が望んだ世界改変の産物だ。
ツムリは巫女としてその神社の管理をしていた。
昼下がりの中、彼女は庭の中央に建てられた祠を見つめている。
祠の中に祭られていたのは九尾の狐を模った様な一個の石。
その石は彼女が良く知る狐のライダーが扱っていた物に酷似していた。
ブーストマークIXレイズバックル。
それを見つめるツムリは懐かしみと僅かな物悲しさが混じった様な微笑いを浮かべている。
と、ここで鳥居を潜り抜けた真司が現れた。
軽く手を上げ挨拶を交わす真司。
「やあ、ツムリさん」
「あら城戸真司様、ご無沙汰してます」
ツムリも柔らかい笑みで会釈を返す。
「今日は参拝ですか?」
「それも有るんだけど、どうしても届けたい物が有ってさ」
「届けたい物?」
首を傾げるツムリに対し、真司は持っていた保冷バッグをその場で開けてみせる。
中には2つのタッパが入っており蓋を開けて見せると白い小麦粉の布に包まれた小さな袋が10個以上、
綺麗に並べて入れられていた。
この時代なら古くから親しまれた食べ物だ。
「これは....餃子ですか?」
「色々世話になったし、ずっと英寿君に何か奢たかったんだけど、そんな暇無かったからさ。
好物とか聞きそびれちゃったし、結局、一番得意な物送るのが良いかなって思ったんだけど.....」
「得意って、御自身で作られたのですか?」
意外な特技を知り目を丸めるツムリ。
一つはお供え用.....のつもりだ。
もう一つはツムリにおすそ分けである。
世紀末ゲームで景和と共闘した頃から、真司は自分に再びデッキを渡したとある人物、
浮世英寿に礼をしようと考ていた。
後にバットエンドゲームによって龍の置物にされたり日本崩壊の危機が起きたりと
真面に趣味の話などする暇も無く目まぐるしい日々が続いていた。
餃子は真司が昔から大得意としている料理である。
が、どう見ても神社には適さない上にツムリが油モノに抵抗が無いか確認もしなかったので、
不躾な態度を見せてしまう。
これではお供えと言うより差し入れではないか。
「.....やっぱ、お供え向けじゃないよな?....口に合うと良いんだけど.....」
「そんな、とても美味しそうです! 私、以前からこの時代の文化に興味が有ったので。有難く頂きます!」
「よかった。もし食べきれなかったら景和達に分けると良いよ。あ、この保冷バッグ使って良いから」
長い間デザグラのナビゲーターを務めた事で感情を育んだツムリ。
創成の女神の後継者として作られたとは言え、こうして様々な物に興味を持てる様になった。
彼女の言葉に安堵した真司は祠に置かれた狐の石をしみじみと眺めた。
「にしても....変な気分だよなぁ。知り合いが神様になるなんて」
「ふふ、そうですね」
「今更言うのも難だけど、英寿君。何も自分の事消さなくても良かったんじゃないか?」
「仕方ありません。彼はそう言う人ですから....」
スエルを倒した直後、英寿は世界を改変すると同時に世間から自らの存在を抹消した。
景和や奏斗などデザイアグランプリ参加者達すら覚えてないのもその為だ。
景和と祢音がデザイアグランプリを知り始めた頃から
英寿はデザ神の報酬として自らを世界的大スター、スターオブザスターオブザスターになる願いを叶え
ー 本人はこの呼び名は少し長過ぎたと後悔していた ー、
世間では至る所で彼の映る雑誌や広告が映され、顔を見ない日が無いと言って良い程の盛況ぶりだったが、今ではそれが見る陰も形も無い。
とは言え元々は行方知らずの母・ミツメに自分の存在を知らせたかった故の願いだ。
彼女と再会し別れも終えた今、著名人になる必要は無い。
何故、真司は英寿の事を覚えているのか。
その訳は彼等が邪神を倒した直後まで遡る。
◆
「世界から消える?」
〘 ああ。俺は自分の存在を世界から抹消する。 創成の力は人間には過ぎた力だ。
そのままにしておけば母さんの時みたいに、またこの力を悪用したがる輩が現れるかもしれない。だから居ない事にするのさ〙
創世の女神の様な絶対的存在になってしまえば、狂信者が続出したり再び心無い未来人に目を付けられる可能性が有る。
自らが居るか居ないか解らない、曖昧な神様になる事で英寿は要らぬ争いを防ぐつもりなのだ。
普通なら耳を疑う様な言葉を何食わぬ顔で吐く英寿。彼の表情から既に決心が固まってるのが伝わって来る。
「それが、君の選択なんだな?」
〘 最初から決めてた事だ。タイクーン達とは既に話を付けてある。それに今、世界中で俺のファンが悲しんでるしな。そんな記憶、忘れるに限る 〙
英寿はデザ神となった事で世界的スターとして名を轟かせている。
戦いで気にしてる暇が無かったがゲーム内で黒ツムリが英寿の死を大々的に公言した為、事情を知らない英寿推し達は混乱状態である。
自分の人気など、目的の為に女神の力で知名度を上げただけの幻かしに過ぎない。
これは要するに世界の記憶整理。幾度と無くデザ神として世界を造り変えて来た責務と認識してるらしい。
〘 それに......今の両親の為にもな..... 〙
「あ.......」
表情に僅かに影を落と英寿の表情を見て真司は察した。
ミツメはあくまで転生する2000年前の実母。
現代なら浮世英寿としての生みの親がしっかり存在する訳だ。
もし今の両親が英寿の秘密を知らず、突然我が子の訃報を聞いたとすれば....。
世界への記憶抹消はその両親の為でもあるのだ。
〘 ただし、アンタ達の記憶は残しとくよ 〙
「え?」
予想外の言葉に真司と蓮は眉を顰めた。
英寿の話だと、真司と蓮はデザグラに関わる前から数多くの記憶改変の跡が有るらい。
英寿は事情を知らず、真司や蓮も朧気だが、これは恐らく過去の戦いで神崎士郎が歴史を繰り返しライダー達の記憶をリセットしてた事が関連してると思われる。
下手に仮面ライダーの記憶を消去してしまうと、2人がミラーワールドで経験した出来事まで一緒に消えてしまう可能性がある。
邪神との最後の戦いで見せた黄金の力。
あれは真司と蓮の「争いを終わらせたい」「大切な人を守りたい」と言う強い願いによって引き起こされた。彼らが20年前の戦いを覚えていたからこそ、あそこまで強い力を発揮された奇跡の産物だったのだ。
願いとは、人一人の人生その物。
下手に消してしまえば人格や生活に大きな変化を与えてしまいかねない。
現にデザグラで脱落した者はDGPに関する記憶を全て失うと共に、自分が本来抱いてた願いすらも消えてしまう使用だった。
主な例として桜井景和は一度脱落後、世界平和と言う願いを忘れた事でボランティア精神を失い、宝くじにのめり込むと言う豹変ぶりを見せた事がる。
万が一" 蓮の愛する人を守りたい "と言う願いと、真司の" 争いの無い世界 "と言う願いが消えてしまっては元も子も無い。
なので、下手に彼らの記憶には触れないでおこうと言う訳である。
これから世界的スターが神となり、世界を造り変える。
あまりに常軌を逸した展開に、側に居た蓮は「最早着いて行けんな」と一言漏らし、
英寿と真司はホントにそうだなと苦笑い。
やがて英寿は〘 さて 〙とタキシードの襟を正す。
〘 そろそろお別れだ。色々世話になった。タイクーン達によろしく頼む 。
それじゃ。 アンタ達も、幸せになれよ 〙
そう言って英寿は背を向け、去って行くが.....
「君もな! 英寿君」
〘!...................〙
呼び止められ一度振り返ると、真司と蓮が笑みを返している。
英寿も軽く手を振りながら再び歩み始める。
背を向けてる為、真司達は直接顔を見る事は出来なかったが、
英寿は喜色満面で光の中へと消えていった。
◆
こうして、真司は英寿の記憶を保持したまま今に至る。
ただの別れではなく、ツムリにとっては慕っていた人物が世界から消える事態。
ましてや英寿は次期創世の神と言う運命を肩代わりした。
そんな人物が居ない、今の彼女の心情を真司は訪ねたくなった。
「ツムリさんは大丈夫なの?」
「大丈夫、と言いますと?」
「いやほら、英寿君が居なくなって大分立つし....皆からも忘れられちゃった訳だし.....」
問われたツムリは少しの間だけ俯く。
「.......全く寂しくないと言えば嘘になります。でも......こうして彼が残してくれた物が側にあって、色んな人に想いが届いてる。それだけでも何だか安心した気持ちになれます。それに.....」
そして直ぐに顔を上げ、明るい表情を向けた。
「英寿は必ず帰ってくる。そんな気がするんです」
「.....そっか」
ツムリの表情は帰還を確信している。
本人がそう思うなら、此方が気にするのは野暮と言う物。
真司はそれ以上は追求せず、今度は興味本位で英寿の神社を見回る。
そして大量に架けられた絵馬を見つけ、そこに書かれた願いの数々に目を通す。
— 目指せパンクロッカー! 晴家ウィン —
— 上手い肉を沢山喰う! 吾妻道長 —
— "白馬の王子様"を捕まえる。 鞍馬祢音 —
— 世界平和 桜井景和 —
— 穏やかな日常。あと、一生祢音ちゃん推し!それから祢音ちゃんとショッピングに行く。あと料理が景和みたいに上手くなる!他にも給料UP、もっと小顔に~.... 桜井沙羅 —
— ジャマトと共存する世界。五十鈴大智 —
— 生涯現役 丹波一徹 —
— 家族の健康 我那覇冴 —
— 再びチャンプの座を我が物に! 轟戒真 —
— 娘の幸せ。夫婦円満。 鞍馬光聖 鞍馬伊瑠美 —
— Hapiness for OJYOSAMA Ben ・ John —
— バスケがしたい 墨田奏斗 ―
他にも数多く飾られた純粋な願いの数々に、真司は顔をほころばせる。
( みんな、良い願いだな..... )
嘗ての顔ぶれは違えど、仮面ライダー達が互いを潰し合う事無く願いを書き記し前に進もうとしている。
自分が観たかったのはこう言う光景だったのかもしれない。
途中、更に見知った名前の絵馬を見かけ、顔を近づける。
— この幸せがずっと続きますように 恵理 ー
昔馴染みの女性の名前だが、その女性の名前の直ぐ側に、非常に小さな文字で" 蓮 "と書かれてる事に気付く。
(アイツ.....)
まさか照れてるのだろうか? お互い随分長い付き合いだろうに。
そう言う所もある意味彼らしくは感じる。
不器用な友人を思い浮かべ微笑してると、横からツムリが絵馬を差し出して来た。
「書いて行きますか? 真司様も」
「ああ。そうしようかな」
絵馬を受け取ると、真司は自らの願いを書き記し、絵馬所に飾る。
— 争いの無い世界 城戸真司 ―
最後は拝殿に手を合わせながら、心の中でメッセ―ジを送った。
( なるべく早く、皆の所に帰ってやれよ? 英寿君 )
こうして、参拝を終えた真司は神社から去って行った。
彼を見送り終えたツムリは日陰に置いていた保冷バッグに歩み寄る。
興味深そうな表情で保冷バッグの蓋を開けてみる。
しかし。
「あら??」
途端に眼を丸くした。
つい先程まで2つ入ってた筈のタッパ1つ、いつの間にか消えている。
◆
神社へ続く石垣の階段。
その更に先の上り坂を登り終えると、ベンチが置かれた展望台へ辿り着く。
ここは広大な街一体を見渡せる人気スポットであり、
元旦には初詣を楽しみにする人々で溢れる事だろう。
タキシード姿の英寿は、一人この展望台から街を眺めていた。
展望台は非常に見晴らしがよく、街の先の海、地平線まで見渡す事が出来る。
再び平和が戻った街。
一件何気ない日常風景だが、世界には様々な悩みや不安を掲げ、自分の今日を生きる者ばかり。
世の中は素敵な事ばかりではない。
前を向いていく事を億劫に感じる者も多いだろう。
それでも懸命に今を生きていく行為は輝いてるのだと言う事を皆にも知って欲しい。
自分が望んだ、誰もが幸せになれる世界と言うのは、
諦めず前に進めば誰にでも願いが叶うチャンスを与えると言う、極自然な意味だ。
創世の女神の様に誰かの犠牲の元に、どんな願いも簡単に叶えさせる世界ではない。
絵馬に掛かれた願いは全て読み通している。
自分はあくまで願う者の背中を、ほんの少し押してあげるだけだ。
あり触れた日常でも、世界は日々変わり続けている。
沢山の辛いことも、幸せな事も一色淡にしながら
今日も一日が回り続けているのだ。
何故自分は何度も転生するのか?
ある意味、自分の人生は生きる意味を探す度だった。
その意味が今ようやく形になった。
自分はこれからも世界を見守って行きたい。
世界を仇なす敵が表れた時は再び戦いの場に出向くだろう。
それ以外の揉め事は今を生きる人間達に任せなくてはならない。
人々が前に進む力を失わない為にも、
自分は積極的に干渉するべきではないのだ。
〘 皆、きっと叶う。願い続ける限り....... 〙
英寿は一枚の硬貨を手に取り眺めた。
これは最初の母親であるミツメから別れ際に貰った物だ。
何度も転生し、全くの別人として人生を迎えても、このコインは何故か必ず自分の手元へ渡って来た。
自分が転生する謎、母の唯一の手掛かりとして持っていたこれも、今では形見となったコイン。
これが数世紀以上自分とミツメを結び付けた。
これからはこのコインに誓って、幸せになろうとする人々を応援していこう。
〘 この世界も....人も。幸せになれる..... 〙
快晴な空を見上げると同時に軽くコインを打ち上げ掴む。
ふと、城戸真司に言葉が頭を過る。
— 君もな! 英寿君 ー
〘 ......俺も幸せに、か....... 〙
他人だけだく自分も幸せであれとはよく言った物だ。
人だけでなく、神様の幸せまで願うか。
英寿は小さく笑う。
デザグラで何度も見せた不敵な笑みとは違い、確かな幸福を表す笑みだ。
ああ言う人間が居てくれる限り、世界は捨てた物じゃない。
コインを暫く握りしめると大事に懐に仕舞った。
そして、軽く深呼吸を終えると背後のベンチに歩み寄る。
ベンチの上にはいつの間に解凍したのか、真司の餃子が乗ったお皿と割り箸が置かれていた。
先程こっそりツムリから拝借したのだ。
せっかくのお供え物を神様が頂かない通りは無い。
ベンチに座り、皿を顔の前に近付ける。
暖かい湯気と特有の香ばしい香りが鼻を衝く。
〘 いだだきます 〙と手を合わせ、割り箸で丁寧に餃子を口に運ぶ。
頬張った途端、
肉汁が口内に充満し、
英寿は目を見開いた。
〘 ―――うっまっ !! 〙
- 終 -
このあと直ぐ、あとがきや制作秘話を掲載予定。
※絵馬の願い事は仮面ライダー展で判明した事を知らず、一部修正しました。