誠にありがとうございます。
ましろん覚醒回です。
「えあーい!」
「あはは、エルちゃんも応援してくれるのかな」
エルちゃんと戯れ始めたましろさんを見守る。
将来について悩み始めたみたいなので、スカイランドのことわざを絡めて少しお話してみたんだけど。
元気が出たみたいで、よかった。
前世の私なんて、同じころはちゃらんぽらんしてたよ。
そんで高校卒業近くになってあたふたしたんだ・・・・。
ましろさんには、そんな学生生活送ってほしくないなぁ。
君の未来に幸福有れってね。
(――――だから)
ちらっと、視線を向ける。
・・・・・・ものすっごい心当たりがある豚が。
あからさまな罠の前で、こちらを執拗にチラ見してきている。
か、関わりたくねぇ~~~ッッ!!!
これ絶っっっっ対ぇあいつだろ。
だいぶサイズダウンしてるけどカバトンだろ。
こんな、こんなわっかり易いトラップ、無視してええぇ・・・・。
「そ、ソラさん、あれ・・・・」
「無視です、無視。スルーがジャスティス、触れたらダメです」
「あ、はい・・・・」
ましろさんも気付いたけど、スルーだスルー。
あんなんに触れるバカがどこに・・・・。
「誰だ?こんなところに毒キノコなんか置いたのは!?この豚もどこから来た!?」
アッ、アッ、アッ。
それは予想してなかった。
学校の職員さんらしき人が、カバトン(豚のすがた)と罠にずかずか近づいていく。
「・・・・ましろさん、逃げる準備をお願いします」
「は、はい!」
「える・・・・!」
ましろさんが身構えると、エルちゃんも心なしか気合を入れたように見えて。
その様にこっそり癒されながら、立ち上がった時だった。
「ムキャーッ!なぁんで引っかからないのねん!!」
「う、うわーッ!?」
抱えられた途端、変身を解いて正体を現すカバトン。
職員さんはあまりのことに腰を抜かして、挙句気を失ってしまった。
「こうなったら・・・・!」
いつもの通り、カバトンは地面に手をたたきつけて。
「カモーン!アンダーグエナジー!!」
いつもの様にランボーグを呼び出す。
媒介にされたのは、山でも見かけた毒キノコ。
現れたランボーグは、キノコらしく菌糸の様な糸を出して。
気を失っている職員さんを縛り上げた。
「さあ!選ばせてやるのねん!こいつの命か、プリンセスを引き渡すか!!」
くそ、やっぱりそう来たか・・・・!
「ひ、卑怯だよ!」
「卑怯もらっきょうもないのねん!YOEEEEE奴は黙ってろねん!!」
ましろさんの抗議もどこ吹く風。
カバトンは梃でも動かないつもりらしい。
くそ、どうするか・・・・!
「ましろん!ソラちゃん!」
「あげはちゃん!?」
悩んでいるところへ、あげはさんが駆け寄って来た。
「こいつ何!?何が起こっているの!?」
「まーた脇役が増えたのねん!!」
「出会い頭になんなの、こいつ!!」
カバトンの注意が、職員さんから逸れた。
今だ、変身の暇はない!!
「セイッ!!」
「ラアンボッ!?」
「え、ちょっと!?」
「ソラさん!?」
生身でランボーグに殴りかかったからか、ましろさんとあげはさんが驚愕している。
ランボーグもびっくりしたのか、職員さんの拘束が解けた!
ヨシ!
「ましろさん!逃げて!あげはさんも早く!」
「で、でも!」
「いいから駆け足ッッ!!エルちゃんを絶対に渡さないで!!」
「ッましろん!」
あげはさんが、ましろさん達を連れて逃げていく。
駆けこんでいったのは、専門学校の校舎。
ランボーグの図体が大きいから、そこには入れないだろうという算段の様だ。
「こんにゃろう・・・・!」
気絶したままの職員さんを、ベンチの傍まで運んだところで。
カバトンが睨んで来る。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか、『
「ッ生意気なのねん!」
「ぐあっ・・・・!」
・・・・・横っ面を殴られた。
見た目だけじゃないな、かなりの腕力だ。
くそ、さすがに無茶だったか。
意識が・・・・!
◆ ◆ ◆
「ッソラさん!!」
「えーうぅ!!」
変身しないまま立ち向かったばっかりに、あっけなく倒れたソラを見て。
不安に声を上げるましろとエル。
「早く、こっち!!」
一方のあげはは、混乱しつつも、それ故に却って冷静でいたために。
こちらに向かってくるランボーグの分身が見えたので。
ましろをせかす。
「エルちゃんを私に!!」
「う、うん!」
あげはにエルをバトンタッチしてから、二人で階段を駆け上がっていく。
「これって何が起こってるわけ!?あの豚男は何・・・・!?」
あげはが吐き出す疑問に答える余裕もないまま、屋上まで一気に駆け上がる。
「える・・・・・ぅ?」
だっこ紐の中で、不安そうにしていたエルは、ふと。
気配を感じて、振り向く。
そこには、必死に走るましろがいた。
「――――ひとまず、これでよし。大丈夫だよエルちゃん、お姉ちゃん達が守ってあげるからね」
辿り着いた屋上。
二人は協力して、見つけたロープでドアを固定すると。
ソラの様子をうかがうべく、看板の陰から校舎前の広場を見下ろそうとする。
『あー、マイクテッス、マイクテッス』
見えるか否やのタイミングで、カバトンの呼びかけが聞こえた。
ましろの視界には、メガホンを持つカバトン。
それから、今意識を取り戻したらしいソラが、こちらと視線を合わせてきていた。
「ソラさん、よかった・・・・」
『無駄な抵抗はやめるのねん!大人しくプリンセスを連れて出てこい!!』
無事を喜ぶのもつかの間、カバトンは勝気に投降を促してきた。
カバトンの手には、ソラのミラージュペンが握られている。
気絶している間に取り上げたらしい。
「おい、お前も一言言うのねん。『私たちの負けです、カバトンさんにごめんなさいしましょう』ってな!」
「では遠慮なく・・・・・ましろさんッ!!!絶対に出てこないでくださいッッ!!!あげはさんも!!!私はいいので、とにかく逃げてッッ!!!」
「この、お口チャック!!」
鍛えた肺活力を駆使して、ソラはなお逃げる様伝えてきた。
それが気に入らないカバトンは、額の宝石を光らせてソラの口を塞いでしまう。
「ソラさん・・・・!」
「ましろん、ダメ!」
あげはに制止されるものの、ましろの目の前でソラがさらに縛りあげられていく。
首にまで及んだ触手は、まるで真綿で締めるような緩やかさで。
ソラの呼吸を止めにかかっていた。
「金属バットを拾ってワンチャン・・・・・いや、それでどうにかなるの・・・・!?」
(――――これで、いいの?)
頭を抱えるあげはの隣で。
ましろは、息を呑む。
(また、見てるだけなの?)
何度も、何度も。
守ってくれた、守られてきた。
立ち向かう背中を、傷つく姿を。
物陰に隠れて、見ているだけだった。
(それで、またソラさんに怪我させるの?わたしだけ無傷で?)
思い出す、初めて会った日。
額を血で濡らしても、背中に瓦礫を受けても。
・・・・・プリキュアで、なくても。
ソラは、立ち向かっていた。
(これでいいの?また突っ立っているだけでいいの?)
彼女の様に、鍛えているわけではない。
彼女の様に、強いわけじゃない。
彼女の様に、特別な力を持っているわけじゃない。
・・・・・だけど。
「――――行かなくちゃ」
自問自答の末に出た結論を、ましろは茫然と呟いた。
「そんなの分かってる!でもどうすれば・・・・!?」
「――――それでも!」
焦燥にかられるあげはの言葉を、断ち切る様に。
彼女にしては珍しいくらいの、強い語気で。
ましろは、叫ぶ。
「行かなくちゃだよ!!」
刹那。
光が迸る。
(あの光は・・・・!)
「おい、おいおいおいおいおい・・・・・!!」
その輝きに、ソラも、カバトンも。
心当たりがあった。
ランボーグのキノコの特性を用いて、さらに巨大化させることで屋上を覗いてみれば。
思った通りのものが。
ソラのものとはまた違う、ミラージュペンが現れていた。
「バカな、あんな脇役が・・・・!」
カバトンが愕然とする一方で、ましろもまた戸惑っていた。
しかし、それは一抹の期待に変わる。
「わたしも、プリキュアに」
もう、見ているだけじゃない。
隣に立って、戦える存在になれる。
ソラを、友達を。
助けることが出来る・・・・!
手を、伸ばそうとして。
「やめろ!お前みたいな脇役に何が出来る!!」
カバトンの絶叫が、現実に引き戻してくる。
「お前に何の力がある!?自分だってわかっているんだろう!?」
「・・・・ッ!」
そうだ、これは遊びじゃない。
ソラの様に、その為に鍛えてきた人ならまだしも。
ランニングすらまともについていけない自分が、力を得たところで。
「ほら!!」
ましろの手が止まったのを見て、鬼の首を取ったように勝ち誇るカバトン。
一連のやり取りを見ていたあげはが、険しい顔になったところで。
屋上のドアも破られようとしている。
「早く、プリキュアにならなきゃだよ・・・・でも・・・・わたしなんかじゃ・・・・!」
逼迫した状況に、ましろの心が押しつぶされかけた。
その時だった。
「――――ましろん」
あげはが、名前を呼ぶ。
凛としたその声に、ましろの焦燥が遮られた。
「それを手に取ったらどうなるのか、プリキュアってなんなのか。私にはよく分からない」
『けれど』と、一歩進んで。
あげははまっすぐましろの目を見つめる。
「ッそこ!うるさい!今取り込み中だよ!!」
ドアを破ろうとする分身体に一喝してから、あげはは改めて口を開いた。
「・・・・・今から、本当に大事なことを言わせて」
――――それは、あの紙芝居の続き。
『こんな家出てってやる!』と飛び出した、幼い日の記憶。
河川敷で泣いていたあげはを見つけたのは、ましろとその母親だった。
『おてがみだすよ』
『でんわもするよ』
分かれるのが悲しくて泣いているところに、そんなことを言われるものだから。
幼いあげはは責めたのだ。
『ましろんは悲しくないの!?』
振り向いたその先、幼いましろの両眼には。
涙がいっぱい溜まっていた。
同じくらい悲しくて、寂しいはずなのに。
彼女はそれでも、笑って言うのだ。
『かなしいよ』
『でも、わたしがないたら、あげはちゃんはもっとないちゃうでしょ・・・・』
本当は、声を上げて泣きたいはずなのは、一目瞭然だった。
それでも、自分よりもずっとずっと幼いあの子は。
あげはが流す涙を、少しでも減らそうと。
必死に、笑っていた。
笑いかけてくれていたのだ。
「――――私、あの日ましろんに教わったよ。優しいは強いってこと」
幼いましろの献身を、あの日救われた自分を想起しながら。
あげはは思いの丈を、叫ぶ。
「『わたしなんか?』そんなこと言うな!誰にも言わせるな!ましろんには、『優しさ』っていう、誰にも負けない力があるんだよ!!」
敵を圧倒することは出来ない、そもそも戦うための訓練は受けてない。
それでも、ましろには力がある。
『手を差し伸べる優しさ』という、ずっとずっと尊い力が・・・・!!
「ハン!なぁーにが優しさなのね――――」
「ラ"ン"ッッ!!?」
小馬鹿にしかけたカバトンの言葉を、『バンッ!!』という音が遮った。
(オメーは
音の出所を見れば、ソラが鬼の形相で睨みつけてきている。
ランボーグが悶えていることから、足をうまく使って背後を蹴っ飛ばしたようだった。
「・・・・っ」
そんなソラを見て、ましろはふと。
自分の両手を見た。
『将来、ましろさんの手が、どんなことが出来る様になっているか』
『そう考えると、ワクワクしませんか?』
将来が定まっていない、なりたいものが何もないと焦っていた自分。
そんな、何の夢もない空っぽの手を。
いつか、嵐の様な大きなことを成し得る手だと言ってくれた。
ソラの言葉。
(――――本当は、わたしじゃなくてもいいかもしれない)
屋上入り口が、とうとう破られる。
ランボーグの分身体が、顔を覗かせる。
(けれど、この手が空っぽなままなのは・・・・嫌だ)
静かに、握りしめて。
前を向く。
(見ているだけの自分は、もう嫌だ!!!)
祈る様に閉じた目を見開いて。
ましろは、ミラージュペンをつかみ取った。
「ぷいきゅあー!」
すかさずエルが光を放ち。
ましろは、ソラと色違いのスカイストーンを受け取る。
「――――逆転するよ!」
降り立ったランボーグを前に。
ましろは、いつかソラが言った言葉を真似して。
ダメ押しに己を鼓舞した。
「――――スカイミラージュ!」
「トーンコネクトッ!」
「ひろがるチェンジ!プリズム!」
淡い赤毛だったロングヘアが、大きく伸びてピンクに染まる。
足元には、白いロングブーツが履かされた。
「煌めきホップ!」
頭に大きなリボン。
耳元には、スカイとデザイン違いのピアス。
「爽やかステップ!」
白にピンクが映えるワンピースドレス。
ワンポイントのネイビーに、一番星がきらりと輝いていた。
「晴れ晴れジャンプ!」
白のロンググローブ。
最後に、かわいらしいウェストリボンも揺れて。
光から飛び出した彼女は、高らかに名乗るのだ。
「――――ふわりひろがる優しい光」
「キュアプリズム!」
『小鳥だって鷹をつつく』は、自分でも上手い表現だなと思っています(笑)