とっても楽しかったです(小並感)
「――――ソラさんが怪我したって!?」
「無事なのか!?」
「ましろさん、ベリィベリーさん」
その火急の報せが届いたのは、もう寝ようとしていた時だった。
泡を食ったましろと、彼女の焦りを諫めるベリィベリーが救護テントに飛び込むと。
簡易病床に寝かされているソラが、無事をアピールするように手を上げる。
「すみません、お恥ずかしいところを」
「ッそんな場合じゃないでしょう!!」
「あう、すみませんでした」
ニコニコ笑ってはいるものの、周囲に散らばる真っ赤な止血帯が。
怪我の程度を物語っている。
ソラはそれでも笑顔をやめないので、ましろに一喝されてしまった。
「ましろちゃんからも言ってやってくれよぉ、ベリィベリーもぉー」
「ハヤテさん」
「ハヤテ先輩」
問い詰めようとするましろの肩を叩き、一度クールダウンさせたのは、ハヤテだ。
「こいつ明らかに襲われてんのに『転んだ』の一点張りでよぉ」
「だって本当に転んだんですもん、他にどう言えと・・・・」
「転んでつく傷かよ!!どう見ても誰かに刺されてんだろうが!!」
「大声出さない!」
「アッハイ」
――――『転んだ』。
医務官に一喝されて、大人しくなったハヤテが聞いたらしい言葉。
明らかに誰かを庇っている言い訳に、プリキュア二人が目を向けると。
ソラはばつの悪そうに視線を外した。
「~~~ッ!」
痺れを切らしたましろが、もう一度問い詰めようとした時。
「――――ソラ」
「隊長」
シャララが入ってきてしまい、再び出鼻を挫かれてしまう。
「何があった?」
「その、実は・・・・」
ハヤテとベリィベリーが敬礼で出迎える中。
静かな問いかけに、ソラは気まずそうな苦笑いを浮かべて話し始めた。
「寝る前に、自主的に見回りをしようと思って、本当に、周辺を歩くだけのつもりだったんです。でも、うっかり躓いて転んでしまって・・・・」
「転んで、刺し傷か」
「枝が刺さっちゃったんです」
供述が終わると同時に、沈黙が下りた。
まさか黙るとは思っていなかったソラは、だんだんおろおろし始める。
「―――――はぁーっ」
やがて、シャララは盛大にため息をつくことで、沈黙を終わらせた。
「あの・・・・」
「ん・・・・いや、いい・・・・養生することだ」
「は、はい」
「隊長!!」
それ以上追及しないシャララに、ハヤテは異を唱えようとしたが。
「――――ハヤテ」
「・・・・ッ」
視線に射貫かれた上で、指を動かして呼ばれたことで。
押し黙ってしまった。
「とにかく、今日はもう遅い。本格的な調査は明日にしよう」
「ッス・・・・」
「ではな、ソラ。養生することだ」
「はい、おやすみなさい」
『おやすみ』とそれぞれ返してくれたハヤテとシャララへ。
ソラは、安心したような笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
(――――なんとか、誤魔化せたか)
シャララ隊長の背中を見送りながら、ほっと息を吐く。
・・・・こんなに序盤からリタイアしてしまうのは痛いけれど。
でも、想定される悪い状況になるよりは、ずっとマシのはずだ。
(――――私で、よかった)
包帯が巻かれた腹に触れながら、しみじみしていると。
「ッ、ましろさん?」
ましろさんが黙って歩み寄って来た。
当然の様にベッドに乗り上げて来た彼女は、無防備な私の頬を掴んで。
「んっ」
「んっ、ぐ・・・・!?」
唐突に、唇を奪ってきた。
「・・・・あの?」
「こうでもしないと、自分を大事にしてくれないでしょ?」
「ヴッ・・・・その、はい、ごめんなさい・・・・」
・・・・どこまで見抜かれているかは、分からなかったけど。
少なくとも、また自分を蔑ろにしてしまったのはバレてしまっている様だった。
誠にすみません・・・・。
ベリィベリーさんにも、チベットスナギツネみたいな目を向けられるし・・・・。
「ちゃんと治してくださいね?」
「はい」
拒否する理由もないので、こっくり頷いて。
テントから出ていくましろさんを見送る。
◆ ◆ ◆
「そんな、ソラちゃんが・・・・」
テントに戻ったましろとベリィベリーは、エルの寝かしつけを引き受けてくれた仲間達に。
事の次第を話し終えた。
聞き終えたあげはは、怪我の具合の心配半分、再びの自己犠牲に呆れ半分と言った表情をする。
「・・・・いいえ、思えば当然のことですよね」
次に口を開いたのは、一緒に話を聞いていたツバサだ。
「キルミラが大暴れして以来、スカイランドとクシザスには、蟠りが存在しています」
「そうだな・・・・今回の訓練も、主目的は、恐らく」
ツバサの意見に、ベリィベリーも深く頷く。
――――プリキュアがランボーグを浄化した為に、スカイランドは首都の壊滅を免れている。
しかし、先に襲撃を受けていたクシザスは、未だに復興途中だ。
既に帰還したクックファイターたちのお陰で、目覚ましいスピードで立ち直りつつあるものの。
やはり、スカイランドとクシザスの両国間に、蟠りが一切ないと言い切れない状態にあった。
それだけではない。
「ソラのこともあるな」
「はい」
今度は反対に、ツバサがベリィベリーの言葉に頷いた。
「洗脳されていたとはいえ、ソラさんに恨みを持つ人は大勢います。それは、一般人よりも事情を知っている護衛隊や騎士団であっても同じはず」
「いずれにせよ、起こる事態だったってこと・・・・!?」
愕然とするあげはに返って来たのは、首肯だった。
「何より、ソラさんが犯人について黙秘を貫いていますから」
「身内の仕業っていう何よりの証拠じゃん・・・・」
がっくりうなだれるあげはの隣で、ましろは顔を強張らせた。
「とにかく、私達で気にかけていよう。ソラが弱っている今、犯人はもう一度仕掛けてくるかもしれない」
「ああ、今夜は医務官もいるから、強行はしないだろうが・・・・」
「じゃあ、気を付けるなら明日から、だね!」
確認を兼ねて、各々を見渡すあげはに。
即座だったり、緩慢だったりの違いは有れども。
首肯を返した面々なのであった。
「――――すっかり庇われてしまいましたね」
「嗚呼・・・・こちらも、そちらも、な」
翌日。
どうしても納得がいかなかったましろは、休憩時間にソラが発見された現場を歩いていた。
生々しい血痕が残る箇所を中心に、周辺を探索していると。
「――――?」
ざぶざぶと、水をかき分ける音が聞こえた。
茂みをくぐって、向こう側に出てみれば。
小さな小川を発見。
さらに、そこに膝まで浸かって川底を探っている子どもを見つける。
もうすっかり見慣れた、全身を覆うローブ。
吸血人だ。
「どうしたの?」
「・・・・ぁ、わッ!?」
何事だろうかと声をかけると、びくりと肩を跳ね上げて。
挙句、バランスを崩してしまった。
「ッ危ない!!」
思わず飛び込むましろ。
子ども共々、派手な水しぶきを上げて転んでしまった。
「うぅ・・・・」
「ぐう・・・・!」
そろって全身満遍なく濡れネズミになるましろと子ども。
ましろが、伝う雫を何とか拭っていると。
「ッぁ、あった・・・・!」
その横で、子どもは探し物を見つけていた。
濡れて張り付くローブにもたつきながらも、川底から何かを拾い上げた。
――――短剣だ。
「――――ッ」
瞬時に、昨夜を想起するましろ。
息を呑んだのが分かったのか、子どもも口元を噛み締めて神経を尖らせる。
「・・・・あなた、それ」
「あ!いた!カイン!」
「ッ、アベラさん」
追及しようとすると、騎士団員がやってきてしまう。
『なんだかこういうのが多いな』と、ましろは苦い顔をする一方で。
子どもの、少年の名前が。
『カイン』というらしいと知った。
「って、うわっ!?ずぶぬれじゃない!?」
『アベラ』と呼ばれた吸血人は、川のど真ん中でその通りずぶ濡れになっている二人を見て慄く。
「あなたは・・・・プリキュア、よね?大丈夫?」
「は、はい!・・・・っくち!」
「大丈夫じゃないわね・・・・二人とも、こっちに。お昼ご飯用意してくれてるとこで、火に当たるといいわ」
『アベラ』と言うらしい騎士は、『カイン』と言うらしい少年とましろに手を貸して。
川から引き揚げてくれた。
「で?二人して何してたの?」
「ええと、この子があの川にいるのを見つけて・・・・」
道すがら、アベラは当然の疑問を口にしてくる。
「『何してるの』って声掛けたら、この子が転んじゃって。それでつい体が動いて・・・・」
「なるほどねぇ・・・・」
ましろの話を聞き終えたアベラは、今度は『で?』と咎めるような視線をカインに向けた。
「このお嬢さんが濡れネズミになった原因のあなたは、何してたのかしら?」
「・・・・その」
『溺れたらどうする』という、至極真っ当な心配と叱責をを言外に告げられたカインは。
少しばかり口ごもってから、
「・・・・昨日、姉ちゃんのダガーを落としちゃったから、探してたんだ」
「リリスの?」
また新しい名前を口にしたアベラへ、カインはこっくり頷く。
「あの、リリスさんって・・・・」
「ぁ、えっと・・・・」
何気なく、リリスという人物について。
ましろが問いかけると。
「――――お前の仲間が殺した、俺の姉ちゃんだよ」
困った顔で口ごもるアベラとは対照的に、カインは怒りを滾らせた剣呑な声で答えた。
「ッカイン!」
「間違ってないだろ」
慌てたアベラに咎められるも、ぶすくれるだけで反省する様子はない。
他にも何か言いたそうであったが、アベラに睨まれて賢く口をつぐんだのだった。
「はぁーっ・・・・ごめんなさいね、気にするな・・・・っていうのは、無理だろうけど」
「あ、いえ、その・・・・大丈夫、です」
そんな様子のカインに、ため息をついたアベラは。
反対隣を歩いていたましろへ、フォローを入れてくれる。
そこでましろは初めて、自分が沈んだ表情をしていたことに気付いたのだった。
「あ、見えて来た」
『いけないいけない』と頭を振ったところで、ちょうど昼食会場が見えて来る。
焚火の一つに事情を話して、火に当ててもらえることになった。
「大変だったわね、ましろさん。よかったらこれ使って」
「ありがとうございます!」
歩み寄って来たレミが、ましろとカインにタオルを渡してくれた。
「わぁ、あったかぁい・・・・」
焚火であぶっていたのか、乾燥機にかけたようなほかほかふわふわぶりだ。
思わず顔をうずめて思いっきり堪能。
すっかり冷えていた体には、大変うれしいものだった。
「・・・・」
落ち着いたところで、改めて隣のカインに目を向ける。
ましろと同じく、あったかいタオルに顔を埋めてリラックスしている様子は。
年相応に見えた。
(・・・・そう、だよね)
隠す様に、顔にタオルを押し付けて。
ましろは一人、結論付ける。
(たまたまそれっぽいものを持っていただけで、犯人扱いはダメだよね・・・・)
ぷはっと上げた顔に、昼食のおいしそうな匂いが漂ってきた。
確か今日は、『キーター』という大型の鳥を使ったブラウンシチューだと言っていた。
大勢に炊き出しとなると、どうしてもレパートリーは鍋物に偏りがちになってしまうが。
キョーヘン村の人々が、護衛隊や騎士団が飽きてしまわないように工夫しているのが分かるので。
身も心も温まるのであった。
(しっかり味を覚えて、ソラシド市のおうちでも食べられるようにしたいな)
すっかり心を持ち直したましろは、静かに息を吐き出した。
「――――右を見ても強者、左を見ても強者」
「ここなら、あやつも文句はあるまい・・・・!!」
ひろプリにおける鶏肉問題。
拙作では、人間と猿のように、『似ているけど決定的に違う存在がいる』という独自解釈でやっていくことにしました。
具体的には。
プニバードや遊覧鳥さんみたいな、しゃべってコミュニケーションが取れる人たちは『妖精』として人権に値するものを持ち。
そうではないものは狩猟や牧畜にしても問題ない『動物』とする。
みたいなニュアンスで・・・・。