「――――ランボーグ!!」
「・・・・ッ!?」
轟音と雄叫びを上げて、森から巨体が突き出た。
誰もがそちらを振り向けば、大岩を素体にしたらしいランボーグと。
その肩に仁王立ちしている。
「――――ミノトン!!」
「どこだ!!キュアスカイ!」
警戒に肩を怒らせるましろを無視して、ミノトンはソラを探して声を張り上げる。
「この場に集うは強者達!!巻き込まれる人も建物も無し!!貴様も存分に戦えるであろう!!」
「ランボーグ!!」
ミノトンの号令で、早速暴れ出したランボーグ。
「ちょっとちょっと!またあいつ!?」
「そんなにソラさんと戦いたいのか・・・・!」
「どちらにせよ応戦するぞ!!」
集まったプリキュア達は、それぞれにミラージュペンを構えて。
何よりもまず、変身することにした。
――――ちなみに。
「私も・・・・!」
ソラも応戦しようとしていたが。
「貴女は怪我人でしょうが!!」
「大人しく!!!!!する!!!!!」
「アッ、ハイ」
医務官達に取り押さえられ、非戦闘員に交じって退避していくのだった。
「貴様ら!!キュアスカイをどこにやった!?」
「忙しいから遅れるってさー!」
「ッほざけぇ!!」
颯爽と立ちはだかったプリズム達へ、ミノトンが怒鳴る様に問いかける。
バタフライが冗談めかして返事すれば、怒号とともにランボーグが動き出した。
岩の腕の叩きつけを、散開して回避。
「はぁっ!!」
続く二撃目へ、エクリプスが習得したばかりの『魔力の腕』を叩き込む。
プリズムとバタフライは、飛び散った瓦礫を足場に。
ウィングは合間を縫うように飛んで。
ランボーグへ接近。
「たぁっ!」
「やぁっ!」
「はぁっ!」
まずは一撃、お見舞いする。
「ハアアアッ!!」
「ぬうっ!!」
ミノトンへは、エクリプスが立ち向かった。
「この拳・・・・!」
「強者はスカイだけだと思うなよ!!ハァッ!!」
一際強い殴打でミノトンをランボーグから引きはがし、地面に叩き落とす。
「――――久しぶりだなぁ!筋肉野郎!」
「俺達護衛隊は初めまして!!ぶっ飛べ!!」
落ちた先に控えていたのは、護衛隊に騎士団の精鋭達。
エクリプスと並び立ち、ミノトンを見据える。
「――――たああっ!」
一方のプリズム達。
ランボーグの硬い体に、やや苦戦しながらも。
確実に攻撃を加えていく。
「ランボーグ!!」
「・・・・ッ!!」
再三の叩きつけ。
プリズムは光弾を乱射して削ろうとするが、間に合いそうにない。
「プリズム!」
間一髪のところウィングに抱えられて離脱。
その間も、乱射が止まることはなかった。
「ミックスパレット!レッド!ホワイト!」
バタフライがミックスパレットを行使。
仲間達をパワーアップする。
「ッヒィーロォーガァールゥー!!」
ランボーグの肩に降ろしてもらったプリズムは、すかさず両手を掲げて。
「プリズムショット!!」
「ランボーグッ!?」
顔面に、必殺技を叩き込んだ。
「ひろがる!ウィングアターック!!」
間髪入れずに、ウィングも同じ個所に必殺技。
プリズムが罅を入れた場所を、砕いてしまった。
「ランボォーグッ!!」
たまらず悲鳴を上げて、大きくのけ反ってしまった。
岩片を散らしながら、轟音を上げて倒れ伏す。
「っあ!」
そのいくつかが、広範囲に落下していることに気付いたプリズム。
一足先に気付いていたらしい騎士団や護衛隊が、対応しているのも見えるが。
自分が要因を作ってしまった事態に、苦い顔をした。
「――――かまうナァッッ!!!」
そこへ絶叫して話しかけたのは、アベラだ。
「集中!!!!!しろーっ!!!!!」
「・・・・ッ!」
やや荒っぽい『気にするな』の激励を受けたプリズムは。
口元を噛み締めて、前を向く。
「ランボーグ!!」
起き上がったランボーグが、豪腕を振り回す。
衝撃波は暴風となり、辺り一帯を薙ぎ払わんばかりに吹き荒れる。
「ッわぁ!?」
物陰に隠れることもままならず、プリズムは宙に放り出される。
体勢を立て直したものの、高い高度に多少の怪我を覚悟して。
「プリズム!」
駆けつけたバタフライに、受け止められた。
「ありがとう!」
「いーってことよ!」
ぱちんとウィンクする背後で、ウィングが弾丸の様に飛び出したのが見えた。
いつの間にか、スピードアップを授けられていたらしい。
「はあああああ――――ッ!!」
彗星と見紛う残像と軌跡を残し、駆け抜けたウィングは。
またたきの間に複数個所を攻撃。
再びランボーグにクリーンヒットを見舞った。
――――ところ変わって、エクリプスとミノトン。
「――――ぬうう、やりおる!」
「オオッ!!」
「むぅっ!!」
圧されていくランボーグを見上げている横っ面へ、エクリプスが肉薄。
ミノトンは即座に受け止めて投げ飛ばしたが、その背後からハヤテとアベラが飛び掛かった。
「オラアッ!!」
「ダアァッ!!」
片やダガー二刀流を、片やロングソードを叩きつける。
「魔法攻撃!用意!」
「
「ちいっ!!」
その場にミノトンを縫い留めたところへ、騎士団が魔法による飽和攻撃をお見舞いした。
「ヘヘッ!伊達に地獄の特訓をこなしてきたわけじゃねぇよ!」
得意げに笑ったハヤテを筆頭に、闘志高らかに構えなおす精鋭達。
ミノトンが改めて構えなおしたところで、シャララが降り落ちる様に一閃を放つ。
「よそ見とはずいぶん余裕じゃないか、武人殿?」
不敵な笑みに、みるみる顔を険しくした。
「援護は任せろ!ガンガン行け!」
「ハイッ!!」
騎士団と護衛隊の援護を受けながら、段々と圧倒していくエクリプス。
ミノトンは、彼女と彼らの成長に、一瞬だけ驚いた後。
打って変わって、好戦的で獰猛な笑みを浮かべたのだった。
さて、プリズム達に戻ろう。
「――――そんな!?」
目の前の光景に、愕然とする三人。
せっかく砕いた場所が、新たな岩を引き寄せることで復活していたのだ。
「コラーッ!卑怯だぞー!」
「野次飛ばしてる場合じゃないでしょう!とにかく止めますよ!」
「ッ目くらましするよ!二人はタイタニック・レインボーの準備を!」
『分かった!』という力強い返事を背に、プリズムが飛び出した。
「ランボーグッ!」
「・・・・!」
何度目かの叩きつけを、スライディングして避けると。
光弾を無数に展開。
時折ウィングの手も借りながら、足場を駆け上がっていく。
「ップリズムショット!!」
「ラァーンッ!」
必殺技を放てば、同じ手は食わないとばかりに腕が伸ばされるが。
「曲がって!」
「ランッ!?」
「きらめけ!」
「ラァーンッッッ!!!!」
するりと腕を避けた光球は、ランボーグの眼前で眩く瞬いたのだった。
閃光に目がくらみ、のたうち回るランボーグ。
「ミックスパレット!すべての色を一つに!」
すかさずバタフライがミックスパレットを行使。
ウィングが、七色の輝きを纏って。
「「――――プリキュアッ!!」」
「「――――タイタニック・レインボ―!!」」
「――――アタックッ!!」
でっかい虹色のプニバードに、圧し潰されてしまったのだった。
――――しかし。
「ウウウウゥゥゥゥ・・・・!」
「ちょ、ちょっと!?」
「タフ過ぎないかな!?」
一同の目に映ったのは、虹色のプニバードをしっかり受け止めているランボーグの姿。
今まさに浄化されて行きながらも、その根性とタフネスに、敵ながらとんでもないと舌を巻く。
「って、感心してる場合じゃなかった!!」
「あーもっ!とっとと潰れちゃえー!!」
ウィングも中で力んだのか、虹色のプニバードが鼻息を荒げる。
「はああああああああ!!」
「ランボオオオオオオオオオッグ!!」
両者共に一歩も譲らない押し合いと圧し合い。
最終的に制したのは、バタフライとウィングのバディ。
「だああああああ――――ッッ!!」
「ウウ・・・・す、スミ・・・・!」
ランボーグはとうとう、浄化されそうになるが。
「ウウウウウウ!!タダジャスミキラナーイッッ!!」
「わぁっ!?」
瞬間、地面を思いっきり叩きつけて。
自らの体を構成していた大岩を粉砕し、周囲に飛び散らせたのだった。
「ッいけない!!」
プリズムは光弾を無数に乱射したことで、そのほとんどを撃ち落とし無力化していくも。
やはりいくつかは取りこぼしてしまう。
「――――こっちに来るぞ!」
「迎撃態勢!!民間人を守れーッ!!」
非戦闘員の待機場所。
騎士団が前に出て次々岩片を撃ち落としていく。
「ッ俺も・・・・!」
カイン少年もまた、大人達に交じって魔力弾を放ち続けるが。
狙いを定めた岩片は、彼の力量では削り切れない大きさだった。
「や、やば・・・・!」
なおも打ち続けるも、己の手に負えない事態を前に。
判断を間違えたと、後悔しかけて。
「――――ひろがるチェンジ!」
飛び込んだ、蒼に。
スカイに、庇われた。
「ぐうっ・・・・!」
スカイが岩片を受け止めて間もなく、はっきり聞こえる『ぷつっ』という音。
続けてプリキュアの衣装が、じゅわじゅわと赤く染まっていく。
(クソッ、さすがに無茶だったか・・・・!)
みるみる大きくなる赤い水たまりに、スカイが脂汗を浮かべた。
「いい加減に!!やられろー!!」
その光景を間の当たりにしたバタフライとウィングは。
とどめだとばかりに雄叫びを上げて。
「す、スミキッター・・・・」
とうとう、ランボーグは浄化されてしまったのであった。
◆ ◆ ◆
「は、は、は、は、は」
――――熱い。
体の中で、マグマが煮えたぎっている様だ。
ううーん、やっぱり無茶しちゃった。
受け止めるんじゃなくて、あの子を掻っ攫うくらいはすればよかった・・・・。
「――――ソラさん!!」
ふいごみたいな呼吸でうるさい中。
明滅を繰り返すピントを何とか合わせると。
泡食って駆けつけてくれたプリズムが、泣きながらこちらを見降ろしている。
「ソラさん!ソラさん!しっかりしてください!ッソラさん!」
「は、は、は、は・・・・ぁ・・・・ま・・・・しッ・・・・!」
なんとか名前だけでも呼びたいけれど、それすらままならない。
錘を付けていないはずなのに、全身が重たくて。
思う様に動けなかった。
・・・・ああ、そうだ。
ましろさんも心配だけど。
(あの子は・・・・?)
・・・・昨夜。
この腹の傷をつけた、あの子は。
やるせない怒りを、どうにも出来なくて。
苦しんでいる、あの子は。
大丈夫だろうか。
「は、は、は・・・・!」
なんとか目を向けると。
あの、短剣を握りしめているのが見えて。
――――嗚呼、頼むから。
せめて、ましろさんにだけは。
その刃を向けないでくれるだろうか。
「――――大丈夫か?」
暗転する直前。
今まさに振りかぶられようとした凶器を。
シャララ隊長が、引き止めたのが見えて。
――――よかった。
隊長なら、きっと。
正しく、みち、びいて。
◆ ◆ ◆
「ッソラさん!!ソラさん!!」
血溜まりに沈んだ仇が、仲間に揺さぶられている。
駆けつけた別の仲間が、絵描きパレットの様なものを駆使して傷を塞いでいた。
「は、は、は・・・・」
少年は。
カインは。
その光景を、どこか他人事のようにぼんやりと眺めていた。
抜き放った短剣を収められないまま、呆然としていると。
「――――隊長!」
シャララが短剣を抑え込んでいるところへ、ハヤテを始めとした隊員達が続々と集まって来た。
「・・・・隊長、そいつ」
「カイン、あんたまさか」
そして、引き止められているカインと、ソラを見比べて。
みるみる目を見開いていく。
「ッなあ・・・・!」
「待て」
追求しようとするハヤテを、シャララはカインを庇うことで制した。
「隊長!!もういいでしょう!?」
昨晩の、ソラ襲撃の『重要参考人』が現れたのだ。
険しい顔をするハヤテへ、シャララは首を横に振って。
「――――ソラが『転んだ』と言い張り続けた、その理由をよく考えろ」
「・・・・ッ!!」
静かに諭されたハヤテは、はっと隣を見た。
怒りで我を忘れかけるほどだったハヤテとは対照的に、アベラの顔色はとても悪い。
――――今回の合同訓練の目的は。
ソラを切欠に出来てしまった、青の護衛隊とクシザス騎士団の亀裂を修復することにある。
今ここで、ソラの傷害事件について追及してしまえば。
両者の蟠りは決定的なものになってしまうだろう。
「・・・・クソッ」
曲がりなりにも次期隊長候補である彼は、その事情を瞬時に察した。
同時に、後輩に今もなお降りかかり続ける苦難に。
小さな悪態をつきながら、拳を握りしめたのだった。
「――――さて」
護衛隊と騎士団、双方を諫め終えたシャララは。
まるで世間話でもするトーンで、カインに語り掛ける。
「時に少年、この辺りの山道は、もう歩いたかな?」
数秒、ぽかんとしていたカインは。
おずおずと首を横に振った。
「私も準備運動で少しばかり走ったのだが、とても走り易かったよ」
そんな彼に微笑みかけて、シャララは続ける。
ちなみに『少しばかり』と言っているが、目を見開いて驚愕している護衛隊員の反応から。
一般的な『少し』ではないのは、押して図るべし。
・・・・話を戻そう。
「地元では『なまくら街道』と呼ばれているらしい」
『なまくら』、カインも聞き覚えがある通り名。
仇の、ソラの二つ名だ。
「あの子が、ソラが・・・・日々の鍛錬で、大岩を押していった跡らしい」
「・・・・え」
呆けたカインを、あえて無視して。
シャララは話し続ける。
「毎日毎日、自分の二回り以上も大きな岩を、汗だくになりながら、道が均され、削れれば新しいものを調達し、再び押す・・・・」
そういえば、と。
カインはぼんやり思い出す。
この周辺には、一辺が不自然に平らになった岩が、あちこちに転がっていることを。
先ほどのランボーグも、その例に漏れなかったことを。
「押し続けて、動かし続けて、努力し続けた・・・・ひとえに、ヒーローになるために・・・・」
そう。
自分の記憶を、人生の全てを失って、折れかけて。
それでも立ち上がって目指した、道しるべ。
「それを『面白いから』という、ただそれだけで、おもちゃにされて、踏みにじられて・・・・残ったのは、自分の夢を、自分で汚したという結果だけ」
悲しそうな目が、カインの顔を覗き込んだ。
「恨むなとは言わん、憎むなとは言わん、そんなことを言う資格は、ない」
『だけど』、と。
見守る様に、頭を撫でて。
「アンダーグ帝国の脅威が、去るまでだけでも・・・・その刃を、憎悪を、どうか収めてはくれまいか」
短剣を握った手が、もっと抑え込まれる。
完全に、切っ先が下を向く。
再び、刃を向ける気概は。
無くなってしまっていた。
「カイン!」
アベラが、カインに駆け寄る。
「この、ばか・・・・ばか・・・・!」
力いっぱいに、抱きしめた
と、
「――――イ"ッ!?」
突然の衝撃。
頭を押さえながら目をやると、ヴェオウルフが鋭く見下ろしてきていた。
彼はしばしカインを見つめた後、深くため息をついて。
「シャララ殿、此度は我らの
ため息と同じくらいに、深々と頭を下げたのだった。
「どうか頭をお上げください、閣下」
それに対し、シャララは穏やかに頭を上げる様に促す。
「緊急事態につき、得物を手にするのは当たり前のことでしょう。先ほどの魔法も、その年の子どもに比べれば実に練り上げられていました」
『何より』、と。
背を向けながら、微笑む。
「そもそも、ソラは『転んだ』のです。『犯人』なんてものは、最初から存在しない」
断言して、護衛隊の下へ戻っていくシャララ。
その背中をしばし見つめたヴェオウルフは。
アベラ含めた騎士団員と共に、深々と頭を下げたのだった。
拙作オリジナルキャラ
カイン
クシザス騎士団の、騎士見習の少年。
姉の形見の短剣を常に携帯している。
キルミラが侵攻したあの日、自分を守った姉が目の前で殺されて以来。
ソラへ憎悪を抱いていた。
洗脳されていたのも、決して望んでいなかったのも理解している。
しかし、胸に巣食った憎悪と向き合う方法を、少年はまだ知らなかった。
姉を殺したのは、あいつだ。
ネーミングは、聖書における世界初の殺人加害者から。
アベラ
クシザス騎士団の女性騎士。
リリスとは親友であり、彼女が亡くなって天涯孤独となったカインの面倒を見ている。
カインが自分の感情で苦しんでいることに気付いてはいたが、ケアが今一歩足りなかった。
国の復興で多忙な彼女を責めるのは、さすがに憚られる。
キルミラが侵攻した日は、民を逃がす班にいた。
ネーミングは、聖書における世界初の殺人被害者から。
リリス
クシザス騎士団の女性騎士、故人。
カインの姉でアベラの親友。
卓越した防御魔法の使い手だった。
鉱山勤めだった両親を事故で亡くして以来、ずっとカインの面倒を見て来た。
キルミラが侵攻した日、殿となって民が逃げる時間を稼いでいた。
ネーミングは、アダムの最初の妻から。