うさぎ(遺言)
「――――ぷはっ!!」
無事海面に出たプリズムは、割れた氷の上になんとか乗る。
周囲を見渡せば、バタフライは同じく氷に、ウィングはそこからさらに飛び立っているのが見えた。
(エクリプスと、スカイは・・・・!?)
二人、姿が見えないことに気が付いたと同時に。
海面が盛り上がって。
「――――ぶゎ、っは!!」
エクリプスが、文字通り上空に放り出される。
「ックソ!!」
「エクリプス!!」
音は聞こえずとも、明らかに舌を打ちながら身を翻したエクリプスは。
魔力の手のひらを足場に、岩礁の上に乗った。
「エクリプス!!スカイは!?」
「すまない!まだ海中だ!!」
バタフライの問いかけに、苦い顔をして。
「私をフォローしたばかりに・・・・!」
「ッ早く引き上げないと!!」
何故スカイが浮上してこないのか。
その理由を察した面々は、すぐに海中へ戻ろうとするが。
「させるわきゃないでショ、ランボーグ!!」
「ランボォーッグ!!」
メイテイの号令に、ランボーグがドバン、と海面から飛び出してくる。
「
「ランボーグ!!」
空気穴をきちんと蓋して、再び海面に降り立った。
両手を組んだアームハンマーが叩きつけられ、離れたところにも大波が迫って。
回避を余儀なくされる。
「ッく・・・・!」
「スカイは!?まだ浮かんでこない!?」
「まだだ!!姿が見えない!!」
氷や岩礁を足場にしながら、何とか応戦する面々。
スカイが未だに海中にいるということもあり、今一つ集中出来ていないのも。
苦戦の要因となっていた。
「――――ッ、わたしが!」
そんな中、光弾を足場にしていたプリズムは。
ランボーグの叩きつけを回避して飛び乗った、氷の上で声を張る。
「わたしが迎えに行く!!」
「プリズム!?」
「こんなに上がってこないなんておかしいよ!!わたしなら泳げるし、
確かに、理にかなっている言い分だ。
この不安定な足場において、まず飛べるウィングが前線を抜けるのは有り得ない。
バタフライもバリアとミックスパレットによる支援がある。
泳ぎが苦手なエクリプスは、残念ながら論外だ。
しかし、行き先は水中。
しかも、どこにスカイがいるかも分からない中に。
独りで行かせるのには、誰もが抵抗があった。
「相談事ー!?余裕あんねー!!」
「ランボーグ!!」
それはそれとして、メイテイ達が待ってくれるかどうかは。
また別の話である。
「すぐに戻るから!!待ってて!!」
結果として、ランボーグの猛攻をすり抜けたプリズムは。
バタフライが伸ばした手の遥か向こうで、海中に飛び込んだのだった。
◆ ◆ ◆
――――あー、やらかした。
ランボーグの速度に勝てないのは分かり切っていたのに。
エクリプスの救出も、自分の身の安全もって。
欲張ったのがいけなかった。
あそこは多少自分の安全を捨ててもよかったな・・・・。
(ランボーグにやられた挙句、まんまと海底に引っかかっちゃうし)
後ろをちらりと見れば、海底の岩礁にマントががっつり引っかかっている。
・・・・これのお陰で、あまり遠くまで流されずに済んでいるんだけども。
呼吸が結構ギリギリだから、これを取る余裕がない。
「・・・・ッ」
っていうか、さっきから視界が明滅して。
意識が何度も飛びかけている。
「がぼっ・・・・!」
あ。
もう、無理。
◆ ◆ ◆
「――――ッ」
塩分で痛む目を何とか見開いて、泳ぎ回っていたプリズムは。
不意に浮かんできた不自然な泡に、ひらめきの様なものを感じた。
「・・・・!」
体を反転させて深く潜れば。
ずっと探していた、スカイの姿が見える。
(見つけた・・・・!)
――――しかし。
(もしかして、意識がない・・・・!?)
近付いてなお理解させられる、ぐったりとした様。
潮の流れに揺られる様子は、まるで海藻の仲間になってしまった様で。
(脈、ある・・・・まだ間に合う!!)
スカイの圧倒的なフィジカルを、説明不要とばかりに知っているからこそ。
プリズムは、まだ手の打ちようがあると確信していた。
(引っかかっているマントを取る?ダメ、わたしの息が持たない)
『ならばどうする』という悩みは、早々に解決した。
(空気・・・・呼吸が出来るなら・・・・!)
スカイの力の源から、今一番必要なものをピックアップ。
次に思案するのは、ボンベもない現状で、どうやって空気を届ければいいか。
(――――ぁ)
思いついたのは、いつかテレビで見た映画のワンシーン。
スカイと同じく、海中で溺れてしまった主人公の為に。
ヒロインが奮闘する姿。
(・・・・ちょっと、恥ずかしいけれど)
時間が残されていない。
他に手はない。
腹を決めたプリズムは、海底を蹴って一気に浮上した。
◆ ◆ ◆
空気を、吸い込んだ。
「――――ごぼ」
一瞬ぼうっとして、すぐに自分が海中にいることを思い出す。
何事かと、見開いた視界の中。
「――――!」
泣きそうな、ほっとしたような顔のプリズムが見えた。
私の意識がはっきりしたのを確認した彼女は。
灯り代わりの光弾を置いたまま、一度浮上。
海面の上で何事かした後、また私の所に潜って来て。
「フゥーッ・・・・!」
空気を、口移しで送ってくれた。
・・・・正直、助かる。
(これなら・・・・!)
再び浮上しようとしたプリズムを引き止めて、引っかかっていたマントを外す。
(――――全集中)
それから片手でプリズムをホールド。
(風の呼吸、肆ノ型)
剣を、構えて。
(昇上砂塵嵐ッッ!!)
生み出した海流に乗って、一気に水面から飛び出す!!
「――――ッハァ!!」
「ぷはっ!」
「スカイ!プリズム!」
「よかった!」
まず眼下に見えたのは、こちらを見上げる仲間達とランボーグ。
メイテイって名乗ったおっさんは・・・・相変わらず呑んでるな。
「おかえりー」
ものすごく馴れ馴れしく手を振ってくるし・・・・。
「すみません!心配かけました!」
「ドンマイドンマイ!!」
「無事でよかったです!」
波紋を練って、海面に立つ。
近くに他の足場は無いので、プリズムはホールドしたままだ。
「次はどーするのーん?」
「ええ、終わらせます!!」
おっさんの問いかけに、切っ先を突き付けてやる。
「行きますよ、プリズムは掴まって!!」
「ッはい!」
プリズムを抱えなおして、ランボーグの一撃を回避。
「ハアッ!!」
私達に夢中になっている隙をついて、エクリプスのライダーキックが突き刺さる。
うわ、痛そ・・・・。
「バタフライキッス!!」
「ひろがるッ!ウィングアターック!!」
そこへ更に、バタフライとウィングの連携によるダメ押しで。
ランボーグは今度こそ倒れ込んでしまった。
「スカイ!」
「ええ、行きましょう!」
手ごろな岩礁に飛び乗って、プリズムを下ろす。
・・・・新手もいるから、あんまり強い技使って情報を渡したくないかな。
バタフライを両断しかけた先ほどの光景を思い出しながら、ちらりと目くばせすると。
意図を理解したとばかりに、こっくり頷いてくれるプリズム。
二人でスカイミラージュを構えて。
「「プリキュア!!」」
「「アップドラフト・シャイニング!!」」
動けないランボーグに、容赦なく浄化技を叩き込んだ。
「スミキッター・・・・!」
「たーまやー!」
浮き輪とキラキラエナジーを残して消えていくランボーグへ。
メイテイは呑気に掛け声を上げる。
・・・・アンダーグ帝国にも、花火へのコーレスってあるんか。
しかも『たまや』って・・・・。
「しゃてしゃて・・・・それじゃあ・・・・」
のろりと立ち上がったメイテイは、チューハイ缶を惜しむ様に舐めると。
悠然と私達を見下ろして。
「一通り顔合わせも終わったし、おじさんは帰るわ」
「そのまま引きこもってくれてもいいんですよ?」
「ハハハッ、そりゃあ無理なお話だぁ」
『こっちも仕事だもの』と、長い前髪の下の宝玉を光らせた。
「メイテイテイ」
黒い靄と共に、撤退していったのだった。
・・・・うん。
とりあえず。
「エルちゃんには近づいてほしくない輩でしたね」
「分かる!ちょーお酒臭そう!!」
砂浜に戻って変身を解きつつ零すと、あげはさんがびしっと指を向けて同意してくれた。
だよね。
なんか、こう。
たばこの副流煙並みに、アルコールたっぷりの健康に悪い息吐いてそうな奴だった・・・・。
「ミノトンに続く、新たな刺客ですか・・・・」
「ああ、一見ふざけている態度だが、油断ならない相手だ」
不安そうなツバサくんに、神妙な顔のベリィベリーさん。
・・・・確かに。
あのメイテイって野郎。
ただ者じゃなかった。
直接刃を交えたら、いったいどうなるのやら・・・・。
「はいはいはい!くらーい気持ちはそこまで!」
「までー!」
これからのことに頭を抱えていると、あげはさんの明るい声が響いた。
腕には、物陰に隠れていたエルちゃんが抱っこされている。
「確かに結構油断ならないやつが出て来たけど、今回も無事なんとかなったんだしさ!」
「それは、そうですが・・・・」
「それにせっかくの海だよ?まだまだたっぷり楽しまないと!」
『ねー?』と笑いあうあげはさんとエルちゃんを見て、燻ぶる不安が薄らいで行くのを感じた。
「・・・・まあ、確かに。ああいう輩に阻害されるのは癪だな」
「ですね!時間的にもう少し遊べますし!」
『そうと決まれば』と、声を弾ませたみんなが。
走り出すところへ、ついていこうとして。
「ああ、そうだ。ましろさん」
「っ、はい?」
ふと、言わなければならないことがあったのを思い出して。
ましろさんを呼び止めた。
「先ほどはありがとうございました。お陰様で、助かりました」
「ああ、そんな!いいんですよ」
頭を下げると、ましろさんはあたふたと手を振った。
「その、わたしだって、いつも助けてもらってばかりなので」
「ふふふ、そうですか」
照れくさそうに顔を赤らめるましろさん。
んふふ、可愛い。
そろりと指を絡めて手を握ると、少しだけ驚いた目を向けられる。
「いやでした?」
「いえ・・・・このままで」
問いかけると、そのまま握り返してくれるのだった。
――――嗚呼。
夏が終わるなぁ。
◆ ◆ ◆
「なぁんか、ちょっと違ったネェ・・・・」
帰還してからもなお、酒をたしなみながら。
ぼんやり考える。
想起するのは、今日の戦闘。
――――ではなく。
「これから、ああなるんかネェ」
あの頃の太刀筋を、一つ一つ思い出しながら。
杯を傾ける。
拙作オリキャラ紹介
メイテイ
長い髪をひとくくりにし、着流しを着た気怠い佇まいの酔いどれ剣士。
前髪も伸ばしっぱなしで、だらしない印象を与える。
ミノトンに続く刺客として現れた。
300年以上前からアンダーグ帝国に仕えているらしい。
常に酒を手にしており、酔っ払っている。
「
実際に酔えば、更に動きが複雑化し、見切れなくなる。
ネーミングはそのまま「酩酊」から。