――――やっぱり火傷を負っていたソラを始めとした。
負傷者の手当てを済ませたプリキュア達。
そのまま領主の館で一泊した彼女達は、再び祭壇を訪れていた。
昨日少人数で歩いた道は、今は打って変わってたくさんの人で賑わっている。
なんでも、神事を間近で見られる席を、毎年地元民限定で抽選しているらしい。
領主の娘と共にミカヅキを討伐したプリキュアは、来賓として招かれた。
「――――プリキュアの皆さん、改めまして、この度は大変ありがとうございました」
「夫共々、深く深く感謝いたしますわ」
ソラ達に深々と頭を下げるのは、ツムジの父にして領主の『ゲイル・ダーファン』と。
その妻『サルルン・ダーファン』だ。
骨折故に、車いすに乗った夫に付き添っている。
「いえ、ツムジ先輩・・・・じゃなくて、ご息女には大変お世話になっていますから!」
「ええ、一番辛かった時に、気遣っていただきました」
一番接点のあるベリィベリーとソラが頭を下げると、娘が褒められて嬉しいのか、夫妻は顔を綻ばせた。
「お館様!お館様!」
「我々からも彼女らにお礼を!」
そこへやってきたのは、地元の有力者たち。
「いやぁ、この度は誠にありがとうございました!」
「私に限った話ではありませんが、皆この祭りを楽しみにしておりましてな!」
「左様左様!」
ソラ達も顔合わせしたことがある、警備隊の指揮官を始め。
ダーファン領を拠点にしている各商会のトップなどが。
どやどやと詰め寄って来る。
「もちろん、いじわるハリケーンの抑制も肝要なのですが、やはり商売人にとっては逃せない稼ぎ時!!」
「トビマンダーの出現でよもや中止も危ぶまれ・・・・どれほど気を揉んだことかッ・・・・!!」
「あ、はは、そんな・・・・」
「ツムジさんがいなかったら、私達もただじゃ済みませんでしたよー」
入れ代わり立ち代わり、次々握手を求めて来るほとんどが友好的で大歓迎なのは幸いだったが。
元々、どちらの世界においても、実に一般的な出自が大半のプリキュア達。
普段関わりのない様な身分の人々に囲まれて、どこか落ち着かない気持ちを抱く。
「ほらほら、あまり詰め寄らないの」
「大の大人が、年頃の娘さんに寄ってたかる者ではないぞ!」
領主夫妻がとりなしてくれて、なんとか一息付けた中で。
――――神事が、始まる。
ダーファン家開祖『ミナカタ』の、怪鳥退治を表した祈りの舞を奉納するツムジに。
家宝『ダーファンの指輪』で怪鳥そのものに変じ、豪快な羽ばたきで気流を整えたロック。
本来領主夫妻が執り行う儀式を、姉弟は見事にやり遂げた。
「――――二人ともかっこよかったね!」
「とりしゃ!おっきー!」
「あはは、ねぇー!」
無事に神事を見届けて、街に戻る
エルを交えて、口々に感想を言い合うあげはとましろ。
「私も直に見るのは初めてだ、あそこまでだったとは・・・・」
「僕も、音に聞くダーファンの神事を、この目で見られるなんて!」
「ええ、あんなに荘厳だったとは・・・・
ソラやツバサ、果ては地元民のベリィベリーも。
情景を思い出しながら、しきりに感心している。
「でも、お楽しみはまだまだあるよ!」
「はい!」
鳥車の窓を覗いてみれば、ランタンに照らし出されたダーファンの中心地が見えていた。
◆ ◆ ◆
ハーア!!祭りだ祭りだ!!(某サブちゃん風に)
ダーファン領主のおひざ元、開祖『ミナカタ』の名前がついた街は。
街中が怪鳥を模したランタンに彩られていた。
「
「プニバードと言えばこれ!ヤーキターイ買ってってー!」
「飴細工はいかがー!?リクエストも受け付けてるよー!」
会場に指定された大通りは、所狭しと屋台が並んでいる。
「うっひゃぁ、分かっていたけどすごい人!」
「皆さん、はぐれないように」
そして、それに負けないくらいの。
人!人!人!
「少年、鳥になって誰かに乗せてもらったら?」
「そうですね。これだけの人ごみ、はぐれてしまいそうです」
ツバサくんも、普段は断りそうなあげはさんの提案を受け入れて。
見慣れた小鳥に変身すると、ベリィベリーさんの肩に乗った。
曰く『はぐれても土地勘がありそう』、だそうだ。
「はぐれた場合の待ち合わせ場所も決めましょうか」
「そうだね、それじゃあ・・・・あ、あれは!?」
ここはスカイランド、スマホはもちろん通じない。
万が一を考えて、周囲を見渡したあげはさんが見つけたのは。
大広場に展示された巨大なオブジェ。
向こうの世界で一番近いものを言うなら、『ねぶた』だろうか。
モチーフになっているのは、やはり『開祖ミナカタの怪鳥退治』だ。
めっちゃ人気者ですね、ミナカタさん・・・・。
「確かに、あれなら分かり易いな」
「よぉーっし、それじゃあどこから・・・・って、あれ?」
何はともあれ、どこから回ろうかとした時だった。
「ましろんは?」
・・・・そういえば、さっきから声がしないような。
嫌な予感に、周囲を見渡すと。
「あっ!あそこです!」
ツバサくんが指し示す先。
人ごみに流されて、ぐんぐん離れて行ってしまうましろさんの姿が・・・・って。
「ましろさん!?」
ちょっとォッ!!フラグ回収早すぎんよー!!
「いってきます!」
「任せた!」
ましろさんは、何とかこっちに戻ろうとしているけれど。
数歩進んだところで、また新しい人ごみが雪崩れ込んで引き離されて。
やばいやばい、早く合流しないとマジで見失う!
「ソラちゃーん!無理に戻ってこなくていいからー!なんならそっちで回っててもいいからー!安全第一ー!!」
「はぁーい!」
手を振るあげはさん達に手を振り返して。
一路、ましろさんの下へ急いだ。
何度も何度も、あちこちをぶつけてしまいながら。
一歩一歩確実にましろさんの下へ近づいていく。
「わっぷ・・・・ソラさん・・・・!」
水の中じゃないのに、溺れているような様子のましろさん。
伸ばされた手を、何とか掴んで。
「ぶはっ!」
「はぁっ・・・・!」
這う這うの体で抜け出したのだった。
「けほけほっ・・・・ありがとうございます、助かりました」
「いえ、、こちらこそ、気付くのが遅くなってすみません」
人通りが比較的少ない、通りの隅っこで。
ましろさんと一緒に息を整える。
「あげはちゃん達とはぐれちゃった・・・・!」
「合流は・・・・難しそうですね」
元々いたであろう方向を見つめてみても、仲間達の影すら見つけることが出来ない。
・・・・これは。
「あげはさんが言ってくれた通り、こっちはこっちで回るのがいいかもしれませんね」
「それはそうですけど・・・・どうやって合流しよう・・・・?」
そういえば、ましろさんはさっきの話し合いの時にはもういなかったのか。
「大丈夫です。ついさっき待ち合わせ場所を決めておいたので、ほとぼりが冷めたら向かってみましょう」
「確かに・・・・この中に突っ込む勇気はないです・・・・」
予め集合場所を決めておいてよかったと思いながら、
「では、手を。またはぐれたら大変ですから」
「はい!」
ましろさんの、手を握る。
◆ ◆ ◆
「大丈夫かな、ソラちゃん達」
「無事合流出来たようだし、心配はいらないだろう」
ソラとましろが消えて行った、雑踏の一画を見つめながら。
言葉通りの心配そうな声になるあげは。
そんな彼女を宥めたベリィベリーは、『それよりも』と。
祭りの空気に浮かされた雑踏を前に、やや警戒するような目を向けて。
「私達も気を付けないとな」
「確かに、この人ごみですもんね」
「油断したら、私達どころか、エルちゃんも潰されちゃう」
実際に、群衆雪崩による事故の例もある。
そのうえで、どう会場を歩くか考える三人。
「える、ぺったんこ?」
「ああ・・・・ううん、大丈夫だよ」
「僕達でお守りしますからね、プリンセス!」
不安げに見上げて来るエルを、慰めている時だった。
「――――あれ?ベル?」
「ん?」
話しかけて来る声がする。
ところが、最初に気が付いたツバサが周囲を見渡すも。
それらしい人影が見えない。
「おーい!ベル!」
「この声は・・・・」
声の主の位置に気付いたのは、二度目の呼びかけだった。
今度は全員が認識。
他の三人がキョロキョロする一方で、ベリィベリーはすぐに上を見上げる。
「ロメラ!?」
「アハハ!やっぱりベルだった!」
果たして。
他の面々も一緒になって見やった、街灯の上。
まさしく『猿人』と言うべき姿の少女が、屈託なく笑っている。
担ぎ棒の先に、四角い重たそうなものを吊り下げていた。
「おしゃるさん!」
まさしく、あげはも抱いていた感想を。
エルが小さな指を向けて言った、次の瞬間。
ベリィベリーとツバサが、目に見えてギョッとした顔になった。
「プッ!?ぷぷぷぷプリンセス!!」
「す、すまない!この子はヒヒトを見るのが初めてなんだ!!」
二人の変わりように、目を丸くする一方で。
『ああ、色々とデリケートな種族かぁ』と、あげはが納得していると。
「赤ちゃんのコメントで目くじら立てたりしないよぉ」
件の少女は苦笑いしながら、目の前で軽やかに着地したのだった。
「ベリィベリーちゃん、知り合い?」
「ああ、幼馴染だ」
「ロメラでーす!よろしく!」
首を傾げたあげはの疑問に、ベリィベリーが答えると。
少女『ロメラ』は、『ペカー!』だなんてオノマトペが尽きそうな溌溂とした笑顔を見せてくれたのだった。
――――『ヒヒト』。
ダーファン領から臨む、ウイテルケワシーで暮らす少数民族。
まさしく『孫悟空』が物語の世界から飛び出してきたような外見の彼らは。
山に吹き荒れる強風に負けない、強くしなやかな身体能力を持っている。
普段は、各集落への物資や人々の運搬、それから治安維持も引き受けている。
「私の父は、ヒヒトと人間のハーフでな。育ちもヒヒトの集落なんだ」
「クォーターだ!かっこいい!」
「ありがとう」
ちなみにヒヒトにとって、『猿』は侮辱の言葉に他ならない。
ロメラの様に、赤ん坊や初対面の人間には寛容な態度を取る者もいるが。
中には烈火のごとく怒り出す者もいるので、注意が必要である。
「で、ロメラちゃんはどうしてここに?」
「ダーファン祭りだからー、出稼ぎに来たのー!」
気を取り直して。
あげはの問いかけに、明るく答えたロメラが。
おもむろに棒に吊り下げていた箱を開けると。
白く吐き出される冷気の中に、いくつかの瓶が詰め込まれているのが見えた。
「ジャーン!『トトジュース』!ニルビ村名産のケワシートトを100%使ったー、絶対においしいヤツだよー!」
「トトって、桃のことだよね?おいしそー!」
ベリィベリーの知り合いなら、と。
あげはが財布を取り出そうとすると。
「あー、いいよー。みんな来賓のバッジ付けてるでしょー?」
「そういえば・・・・」
ロメラの指摘に、そういえば羽根型のスカイジュエルに、金細工が施されたバッジをもらったことを思い出す面々。
「それつけてる人はねー?お祭りでいろんなサービスが受けられるんだよー?」
『で、うちのはー』と、ロメラはジュースを人数分取り出して。
「最初の一本ー、無料でどうぞー!」
「わぁー!ありがとー!」
瓶の栓を抜き、きゅっと一口。
「んー!おいしー!」
「へへー、でしょー?」
桃とは少し違う、まったりとした甘みが。
口の中いっぱいに広がった。
そして何より、とても冷たい。
聞けば、彼女が先ほどから担いでいる箱は、スカイジュエルの力で冷やしている、言わば『小型の冷蔵庫』なのだと言う。
「結構重たいんじゃない?」
「普段はもっと重いもの持ってるからー、へーきー」
「そうなの?」
「ああ、ロメラは普段荷運びの仕事をしているんだ。私も護衛隊に入る前はやっていた」
「なるほど、ウイテルケワシーは指折りの暴風地帯。空よりも陸の方がまだ動きやすいですもんね」
「そーいうことー」
『あはは、うふふ』と、笑いあっていると。
「ロメラ!こんなとこで、何道草食ってるの?」
再び降ってくる声。
そちらを見上げると、もう二人のヒヒトがこちらを見降ろしている。
「シーナ!」
「あら、ベルじゃない!久しぶり!」
こちらもまた、ベリィベリーの知り合いだったらしく。
ロメラと同じく軽やかに着地した。
「そっか、プリキュアなんだっけ?」
「ああ、ダーファン家からの依頼でここにな」
「なるほどね」
シーナというらしい彼女は、やや落ち着いた佇まい。
しかし膂力は負けず劣らずの様で、ロメラと同じく『小型冷蔵庫』がぶら下がる棒を担いでいた。
「・・・・ん?でも、五人いるって言ってなかった?」
「ああ、実は・・・・」
面々を見渡したシーナの疑問に、ベリィベリーは答えようとして。
ふと、何かを思いついたのか、言葉が不自然に途切れる。
「ベリィベリーちゃん?」
「ベル?」
「ベルー?」
各々が心配そうに様子を伺う中、しばし考え事をしたベリィベリーは。
やがて、小さく頷いて。
「――――シーナ、ロメラ。頼みがある」
真剣な面持ちで、もう一度口火を切った。
拙作オリキャラ設定
ゲイル・ダーファン
ツムジパパ、ダーファン領主。
トビマンダー出現時、自ら警備隊を率いて立ち向かったけれど。
こてんぱんにされてしまった。
実は入り婿。
ネーミングは英語の「疾風」「強風」。
サルルン・ダーファン
ツムジママ、ダーファン領主夫人。
夫が倒れている間、代わりに領主の仕事をしていた。
ネーミングは、アイヌ語のタンチョウを意味する「サルルン・カムイ」。
ロック・ダーファン
ツムジ弟、次期ダーファン領主。
怪我で動けないパパに変わアリ、神事をこなした。
ネーミングはシンドバットに出て来る「ロック鳥」。
ミナカタ
ツムジ一家のご先祖、女性。
ダーファン初代当主。
領内の困りごとの一つであった怪鳥ダーファンを叩きのめして屈服させ、その力を手に入れた功績で領主になる。
怪鳥はこの時のことがトラウマで、指輪になった今でも『ダーファンの女』ってだけでもうムリ。
怖くて何も出来ない、入り嫁でもダメ。
だから初代以外は男性が当主を務めている。
ネーミングは日本の風神「タケミナカタ」。