「――――むかしむかし、あるところに」
スカイランドはダーファン領から戻って来た、ある日のこと。
ましろはエルに、いつもの様に自作のお話を読み聞かせていた。
「あーう!」
目の前で仕上がっていく、ましろっぽい村娘と、ソラっぽいヒーローガールの話。
目をキラキラさせて、胸を躍らせているとはっきり分かるエルの様子に。
ましろが微笑みを零していると。
「――――ましろさーん!ちょっと、いいですかー!?」
「ぁ、なんだろう?はぁーい!」
一階から、ソラの呼ぶ声がする。
確か、ヨヨやあげはと一緒に。
今日のおやつを作っていたはずだと思い出しながら。
ましろは一度手を止めて、そちらに向かうことにした。
「続きはあとでね、すぐに戻るから」
小さな頭をひと撫でして、部屋を立ち去っていくましろ。
「・・・・んふふー」
ぱたんと扉が閉じた後で、エルは自信満々に色鉛筆を手にした。
◆ ◆ ◆
――――今日のおやつはプリンだったんだけど。
思いのほか原液がたくさん出来てしまったので、ましろさんにヘルプを頼んだ。
で、蒸しの作業はあげはさんとヨヨさんに任せて。
自作のお話の途中だったという、ましろさんのお部屋にお邪魔したんだけども・・・・。
「――――これ!えるだよ!」
私達を出迎えたのは、スケッチブックいっぱいに自分の似顔絵を描いた。
エルちゃんの笑顔だった。
ううーん、普段なら褒めるところなんだけども。
ましろさんの絵を、潰しちゃう形で描いてるのがなぁ~・・・・。
「あはは・・・・エルちゃんはこのあと、お花の中から可愛く誕生する予定だったんだけどなぁ・・・・」
さすがのましろさんも、苦笑いを禁じ得ない様子。
「もう、メッですよ」
「・・・・ぶぅ」
これは一つ、お小言を言わねばと。
まずはそう言いながら見下せば。
案の定、不服そうにほっぺを膨らませるエルちゃん。
・・・・かわいい。
じゃなくて!!
「ぃ、いいんです!手の届くところに置きっぱなしだったわたしが悪いですし・・・・」
「気持ちは分かりますが、ここはちゃんと言っておかないとエルちゃんの為になりません」
なお、全力で甘やかした結果がうちの弟である。
グラスイーグルのヒナを世話する様になってからは、やや落ち着いたけれども。
やっぱり一日一回はお父さんorお母さんに『コラッ!!』と言われるわんぱく坊主だ。
「なので!エルちゃん、もうましろさんの絵に、勝手に触ってはいけませんよ」
なるべく威圧しないように言い聞かせながら、『約束しましょう?』と小指を差し出すけれど。
エルちゃんは黙って立ち上がり、きゅっとましろさんに抱き着いたうえで。
こちらをねめつけながら、言うのだ。
「そら、きらい」
――――一撃必殺とも言うべき、その言葉を。
「――――ぐはぁっ」
「そ、ソラさーん!?」
▼ いちげき ひっさつ !!
◆ ◆ ◆
「――――プチイヤイヤ期かもしれないね」
「プチイヤイヤ期?」
リビング。
ソファの上でぶすくれるエルを見守りながら、ことの次第を聞き終えたあげはが告げた単語を。
ましろがオウム返しする。
「『こうしたい』『ああしたい』、自分の意思が通らないと、すねたり泣いたり。大きくなる中で、どんな子も通る道!」
『だから』と、視線を滑らせた先。
「ソラちゃんが落ち込むことはないよ・・・・いや、どんだけサガってんの」
まさしく『どんより』としたオーラを纏って項垂れるソラに。
やや呆れた声で苦笑いを零した。
「ぅう、分かってますけど・・・・!」
「まあ、見てて!」
今にも泣きそうな彼女へ、パチンとウィンクしたあげはは。
エルと視線を合わせる。
「エルちゃんのことも、描いてほしかったんだよね?」
「・・・・ぇゅ」
優しい語り掛けに、わずかながらもはっきり頷くエル。
「でも、勝手に描いたら、ましろんがえーんしちゃうよ?だからダーメ」
柔らかい声で、『分かった?』と問いかけるあげは。
その貫禄は、とても頼りがいのあるものだったが。
エルは再び、黙ってましろに抱き着いて。
「あげは、きらい」
「――――がはぁっ」
またしても、殺傷力の高い一言を放ったのだった。
「ソラちゃん、ごめん・・・・これは効く・・・・!」
「いいえ、いいんです・・・・さすがはエルちゃん・・・・ぐふっ・・・・」
どんよりに加わったあげはと、勝手に追加ダメージを受けるソラ。
「参ったな、まずは機嫌を直してもらわないと」
「ああ、このままでは二人とも使いものにならんぞ」
抜け殻の様になった年長組を見て。
残った三人が頭を抱えていると。
「だったら、このチラシが役に立つかもしれないわね」
ヨヨが、助け舟を出してくれた。
「ソラシド写真館?」
「お子さんのとっておきの写真を残しませんか?」
「レンタル衣装は100種類以上!」
「おしゃれキッズもニッコニコ・・・・」
市内の写真館をPRしているらしい文言を読み上げた面々は。
「――――ッハ!!」
刹那、雷に撃たれたようにひらめいて。
――――おしゃれキッズ発見!!
「・・・・えぃやーぃ!」
◆ ◆ ◆
「――――ミノさんやべー」
ソラシド市内、スポーツジム。
その一角で、ひたすらベンチプレスに勤しむ男を見て。
利用者の一人が零す。
「ミノさん?」
「ああ、ここんとこ毎日来てるよ」
来るのが久しぶりらしい、中年の利用者に。
『彼』について話していく青年。
「ベンチプレス500キロとか、マジ人間超えてるって」
「人超えてるっていうか・・・・」
青年利用者の言葉に、訝しげに『彼』を観察する中年利用者。
額の宝玉(?)に口元の牙(?)。
そして何より、頭にそびえる二本角。
「あれ?人間?」
「・・・・言われて見れば確かに」
利用頻度が低くとも、人生経験では上回っている相手の言葉に。
揃って首を傾げた、その時だった。
「――――ん、なんだこれ?」
「アルコール?酒?」
「おいおい、誰が・・・・」
――――彼らの記憶は。
そこで一度、途切れている。
「――――貴様」
「ヨーォ、ミノさん」
「おひさしー」
◆ ◆ ◆
「――――では、こちらからお衣装を選んでください」
バイクやピヨちゃんに乗ってしばし、無事にソラシド写真館についた私達。
比較的空いていたのもあって、スムーズに受付を終わらせて。
今は衣装選びだ。
「ゆ、夢みたいな可愛さだよぉー!!」
「ああ、より取り見取りで迷ってしまうな・・・・!!」
「お二人の為に来たんじゃないですよ?」
「「うっ」」
クオリティの高い衣装を前に、ましろさんや、珍しくベリィベリーさんもはしゃぐ中。
あげはさんと一緒に衣装を見ていたエルちゃん。
と、何かお気に入りを見つけたのか、はっきり顔が明るくなって。
「えっ、ちょ、これ・・・・!?」
「・・・・これは」
目をキラキラさせるエルちゃんとは対照的に、ギョッとした顔のあげはさんに。
何事かとタブレットを覗き込んでみれば。
ものすっっっっっごく見覚えのある服が、『六着』も並んでいて。
「こちら、当館オリジナルのお衣装となっております。街で噂の謎のヒーロー、その名は――――」
「――――ぷりきゅあ!!」
「あら、知ってたのね!」
た、たくさんの応援を頂いているのは知ってたけど。
ここまでとは・・・・!!
「こ、子どもに人気なのは知ってたけど・・・・!」
あげはさんと一緒に、狼狽えているところへ。
店員さんは、さらに爆弾をぶっこむ。
「――――どのプリキュアが一番好き?」
――――下手をすれば、仲間割れを起こしかねない。
禁断の質問を・・・・!!
「「「「「――――ッ!?」」」」」
刹那、全員に緊張が走る。
みんながいくら優れた人格者であろうと、人である限り承認欲求はある。
かく言う私も、もちろんだ。
誰もかれもが一度は考えて、『いや、あまり気にしてもな』と振り払って。
それでも何度か気にしてしまう事柄。
「うー・・・・?」
悩み始めたエルちゃんを。
「うううー・・・・?」
固唾を呑んで、見守って。
「うううううー・・・・?」
もはや祈る様な気持ちになった頃。
エルちゃんは、パァッと笑顔を咲かせて。
「――――みんな、しゅき!!」
誰も傷つかない、平和な答えに。
揃ってほっとしたのは、内緒である・・・・。
「――――それじゃあ、撮りますよー?」
――――気を取り直して。
幸い、選んだコースは衣装に制限がないタイプだったのと。
何よりエルちゃんが望んでいることもあり。
ちょっとわんぱくに、全部の衣装を着ることになった。
「――――ふわりひろがる優しい光!」
「きゅあぷりずむ!」
プリズムに。
「――――天高くひろがる勇気!」
「きゅあうぃんぐ!」
ウィングに。
「――――月下にひろがる裁きの雷鳴!」
「きゅあえくぃぷす!」
エクリプスに。
「――――アゲてひろがるワンダホー!」
「きゅあばたふらい!」
バタフライに。
大好きだと言ってくれたプリキュアになれて、すごく嬉しそうなエルちゃん。
「――――無限にひろがる青い空!」
「きゅあすかい!」
もちろん、スカイの衣装も着てくれた。
しっかり新旧二パターンだ。
「――――レディー!ゴー!」
最後は、良く似合う紫のドレスを着てもらって。
「ひろがるスカイ!プリキュア!」
みんなでパチリ!
いやぁ、エルちゃんの為に来たのに。
結局私達みんなで楽しんじゃったや・・・・。
満足か不満足かで言えば、もちろん大満足なんだけどもね?
「――――ありがとうございましたー」
そんなこんなで、撮影を終えた頃には。
すっかり夕方になっていた。
たくさん素敵な衣装を着て、たくさん笑ってはしゃいだエルちゃん。
今はすっかり夢の中だ。
「ふふ・・・・」
私の腕の中で、すやすやと立つ寝息。
思えば、今日一日。
拗ねたり、笑ったり、はしゃいだり。
たくさんの表情を見せてくれたね。
「楽しかったですねぇ」
「・・・・んぅ」
囁き程度だったけれど、この子の耳には届いてしまったらしい。
目を開けたエルちゃんは、ぼんやり私を見上げると。
微睡んだままへにゃりと笑って、
「そら、だいすき」
そんな、嬉しいことを言ってくれた。
「・・・・はい、私も大好きですよ」
答えながら、手を握る。
本当に本当に、ちいさな手。
加減しないと、傷つけてしまうのではと心配になるくらいの。
儚くて、温かくて、愛しい手。
――――いつか、アンダーグ帝国との戦いが終わって。
プリキュアに頼らなくていいほどの平和が訪れた時。
エルちゃんは、『私達のプリンセス』じゃなくて、みんなのプリンセスになる。
永遠なんてない、ずっとなんてない。
どれほど切実に誠実に願っても、『いつか』はきっとやってくる。
分かっている、はずなのに。
(エルちゃんの成長を、隣で見ていたい)
そう願ってしまう私は、きっと。
身勝手で矮小な存在なのだ。
「ソラちゃーん、そろそろ行くよー」
「ああ、はい」
あげはさんの声で、我に返る。
お会計が終わったらしい。
未だ夢の中にいるエルちゃんを、チャイルドシートに乗せてあげた。
「――――よい夢を」
今はただ、その安寧を願って。
額に、唇を落とす。