ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、発現する

「――――あう!」

 

ぺちゃん、と。

無骨な地面に、エルが放り出される。

怪我はなく、しかし孤独を感じさせるには十分な一撃。

 

「ぅぅ・・・・」

 

薄暗く、星の一つも見えぬ世界。

心細さに目を潤ませたエルは。

 

「そら・・・・」

 

拠り所を、口にした。

それを。

 

「――――フフフフッ」

 

暗やみから湧き出た声が、せせら嗤った。

 

「哀れだな、プリンセス」

「ぁう・・・・!」

 

不安のままに、振り向けば。

闇が、うごめいている。

 

「お前の守護者は、来ることがない・・・・見るがいい」

 

言うなり、エルの傍に新たな闇が広がり。

映像が二つ、映し出された。

そこに映っていたのは、ローブの男に苦戦するプリキュア達と。

メイテイと一騎打ちをする。

 

「そらぁ・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

一閃を迎撃して、弾き返す。

続く二閃三閃も、蹴り飛ばしたり、回避したり。

酒臭い残り香に鼻をくすぐられながら、距離を取る。

 

「ヒヒヒッ、相変わらずやるぅ」

「・・・・クソッ」

 

再び迫る斬撃。

木を切れるほどではないと分かっているので、木立に紛れてやり過ごそうとするけれど。

目の前、さっきとは打って変わって、刃がするりと入ったのが見えて。

 

「――――ッ!!!」

 

思い切りのけ反る。

額を掠めた斬撃が、広範囲を伐採する。

 

「――――人の動きにゃ、調子(リズム)がある」

 

指で血を拭いながら、メイテイを視界に収めた。

 

「戦いにおいて、相手の調子をいかに崩すかが肝要だ。それはお前さんも分かってんだロォン?」

 

こちらが緊張しているのを面白がって、おべっかを止めないメイテイ。

 

「それで俺が選択したのは、『こちらの調子を読ませないこと』だ。我流『酔剣』だってその為の剣術」

 

『加えて』と。

これ見よがしに酒を呑むメイテイ。

 

「これで、更に読みにくくなるって寸法よ」

 

・・・・なるほど。

呑めば呑むほど強くなる。

それがあいつの戦術ってことか・・・・!

 

「効果のほどは・・・・お前さんがよォーく知ってるよな?」

「・・・・ええ、忌々しいですが」

 

呼吸を整えて、構えなおす。

 

「お仲間のとこ逃げてもいいよん?諸共に斬るだけだからサッ!」

 

こいっつ・・・・!

分かっていても、むっとならざるを得ない。

 

「・・・・ッハ、誰が!」

 

身を乗り出して、駆け出す。

――――確かに、奴の言う通りだ。

攻撃は不規則、軌道の緩急も絶妙。

何度も読み違えて刃が掠る。

このままではいずれ直撃を受けるだろう。

 

(――――でも!)

 

対応出来ないわけじゃない。

不規則な攻撃、それがなんだ。

絶妙な緩急の軌道、それがなんだ。

いずれ直撃を受ける、それがなんだ。

諦める理由には、ならない!!

 

「ヒュウウウウ―――ッ!!」

 

呼吸を、整えて。

 

「参ノ型 流々舞!!」

 

連撃を放つ。

防がれたり回避されたりするけれど、想定内。

 

「水流飛沫ッ!!」

「オウオウオウ、がんばるねー」

 

思い切り距離を詰めて、連撃を叩き込む。

・・・・力任せにしているのは、わざとだ。

メイテイも、これがわざとだと気付いているのだろう。

私の狙いを知ってか知らずか・・・・多分6:4の確率かな。

とにかく、これ以上悟らせないようにする為には。

 

(――――ここッ!)

「おっと?」

 

踏みとどまって、下がる。

メイテイの一閃が、空ぶって。

大きな隙が産まれる。

 

「――――漆ノ型」

 

さすがにリカバリーは早いけれど、

 

「――――雫波紋突き・穿ッッ!!」

 

これは避けられないよなァッ!?

 

「――――ッ!!」

 

表情が初めて崩れた顔へ、刺突をねじ込む!!

 

「――――ッ」

 

直撃はしなかった、けれど頬を掠めた。

相手に隙が出来た!

 

「聚蚊成雷ッ!!」

「おおおうっ!?」

 

すかさず連撃を繰り出せば。

最初のいつくかは防がれたけど、残りは全部当てることが出来た。

クリーンヒットとはいかないけれど・・・・流れはこっちに寄せられたはず!

 

「はあ"あ"ッ!!」

 

このまま畳みかけるッ!!

 

「肆ノ型 打ち潮!」

「うぉっ」

「伍ノ型 炎虎!」

「っと」

「弐ノ型 爪々・科戸風!」

「ぬわぁ」

 

次々技を放って、猛攻を加えていく。

いちいちリアクションしているメイテイは、余裕がある様に見える。

・・・・反撃が中々こないのは不気味だけど。

 

「破魔ッ!!」

 

だからと言って、手を緩めるわけにもいかない!!

 

「竜 王 刃 ッ !!」

「おわーっ!?」

 

力任せの一撃を打てば、メイテイの体勢が崩れる。

 

「――――シャアアアアアアッ」

 

――――呼吸する。

『風』と『獣』を組み合わせて、気を練り上げる。

暴風を纏った剣を、振り上げる。

 

「――――風の」

 

――――本来のそれとは違うけども。

他にぴったりのものを思いつかなかったから。

だから、この名を叫ぶ!

 

「傷ゥッ!!!!」

「――――ッ」

 

巨大な獣が、全力で爪の攻撃をした様な。

複数の斬撃痕が、山肌に刻まれる。

・・・・よし、よし!

あいつは私を見失った。

 

「――――全集中」

 

すぐに見つけるだろうけど、

 

「――――炎の呼吸」

 

ほんの数秒だけで、十分!!

 

「――――玖ノ型」

「ッ・・・・!」

 

こっちを見つけたメイテイが、構える。

 

「酩狂・・・・!」

 

何か、技を繰り出そうとしているけれど。

 

「――――煉獄!!!!」

 

私が、一手速かったな!!!!

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

眼前の顔。

口元から目元にかけて。

『翼』が広がる。

望む未来へ進撃せんと、力強く浮かび上がる。

 

「ゥオオオオオオオオァァアアアアアアア―――ッ!!!!」

 

――――嗚呼、知っている。

その目を、太刀筋を。

知っている。

幻覚などではなかった。

夢などではなかった。

あの日見た『###』は。

決して見間違いではなかった・・・・!

 

「――――ハハッ」

 

歓喜に、笑みを零して。

技を、受ける。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「は、は、は、は・・・・!」

 

肩で息をしながら、もうもうと昇る土煙を見据える。

・・・・直撃、したはず。

手ごたえのとおりなら、そのはずだ。

倒した、とまで言うつもりはないが。

しっかりしたダメージは与えたつもりだ。

 

「は、は・・・・っ!」

 

呼吸を整えて、改めて身構える。

反撃か、沈黙か。

メイテイの状態がはっきりするまで、油断するつもりはなかった。

――――なかった、のに。

 

 

 

 

 

「――――出番だ、起きろ」

 

 

 

 

 

「――――常夜丸(とこよまる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

靴底を、地面に擦り付けながら下がる。

目の前には、『スキアヘッド』と名乗った新たな敵。

表情一つ動かず、呼吸を荒げることなく、汗一滴も流さず。

ただ、悠然と佇んで見下ろしてきている。

 

「っ、の・・・・!」

「ぁぁ・・・・!」

「っうぅ・・・・!」

 

それに対して、プリキュア達は満身創痍だった。

プリズム含めて、心まで折れてはいないが。

一様に全身隈なくズタボロとなった彼らは、顔を苦悶に歪めて呻いている。

――――こちらの攻撃は、悉く防がれた。

タイタニック・レインボーアタックはおろか。

シャララボーグを浄化した、エクリプスとプリズムの連携も退けられてしまった。

相手が使っているのは、恐らくアンダーグエナジーそのもの。

ランボーグすら召喚していないのもそうだが、攻撃にも防御にもエネルギーを纏っている。

その威力と技巧のほどは、言わずもがなだ。

 

「は、は・・・・んっ、ぐッ・・・・!」

 

ねばついた唾を、無理やり呑み込んで。

プリズムは伏した身を何とか起こそうとする。

身を沈めにかかる、痛みと倦怠感は尋常ではなく。

まるで、背に大岩が乗っているのではと錯覚する。

肘を立てるのが精いっぱいで、起き上がる事すら難しくて。

 

「ぁ、ああ・・・・!」

 

それでも、諦めないのは。

助けたい人がいるから。

 

「ッ~~~・・・・!!」

 

唸るような声を上げて、やっと上体を起こした。

地べたから解放されて、開けた視界では。

スキアヘッドの姿が、良く見えた。

 

「――――諦めろ」

 

一人、一人を。

冷たい目で丁寧に射貫きながら、スキアヘッドが口を開く。

 

「守るべきプリンセスは、もういない。お前達は、敗北したのだ」

「――――ッ違う!!」

 

こちらの都合の、何もかもを考慮せず。

だというのに、己らの都合は押しとおされて当然とばかりの。

無機質で、無遠慮で、無感情な断定に。

プリズムは、真っ向から『否』を叫ぶ。

 

「まだ、戦える、まだ、立てる・・・・!」

「そうだよ!私達、まだ負けてない!」

「プリンセスを守ると決めたんだ!こんなところで折れてたまるか!」

「私達の限界は、私達が決めるものだ!お前じゃない!」

 

あるいは倒れてしまわないように、あるいは立ち上がるために。

互いの手を、硬く握り合う。

 

「何があっても諦めない。エルちゃんもスカイも、絶対に助ける・・・・!!」

 

未だまともな攻撃を放てずとも、痛みで足が震えても。

折れることがない彼女達へ。

 

「そうか」

 

スキアヘッドは、淡々と事実確認のような相槌を打った。

その次の瞬間。

 

「ゎ・・・・!?」

 

――――ッカァン、と。

すっ飛んできた何かが、地面に転がる。

それがバーストカリバーだと理解するや否や、雑木林の一画が爆ぜる。

 

「あ"あ"ッ・・・・!」

 

土煙の中から、ごろりと転がったのは。

スカイだ。

 

「――――オウオウ、よう粘るネェー」

 

負けず劣らず全身隈なくボロボロになった彼女を追いかけるように、土煙から現れたのは。

まさしく、『鬼』。

惜しげもなくさらされた上半身は、真っ赤に上気。

長さも量も増えた髪は、まるでライオンの鬣の様。

怪し気に光る金色の目や、口元からはみ出る鋭い牙。

そして、額から伸びて天を衝く二本角。

 

「おじさん、うっかり本気だしちゃった」

 

その口から出る声で、辛うじてメイテイだと分かった。

――――異様な部分は、もう一つある。

剣だ。

あの、てっぺんから切っ先まで真っ黒だった直刀は。

七つのかぎ爪が付いた、両刃の剣に様変わりしていた。

 

「・・・・『始末しろ』と言ったはずだぞ」

「そりゃないよ、金柑頭ァ!こっちは結構ヤバかったんだからァ!」

 

スキアヘッドと話し始めたことで、メイテイの注意がスカイから逸れる。

 

「だぁいたい!チビっ子はもうひいさんのとこに送ったんでしょ!?もーいーじゃん!」

「何一つよくない、遊ぶな」

「ぶー!!」

 

『好機だ』と駆け出した、プリズムの視界。

きろりと戻った、メイテイと視線がかち合うと。

 

「ぇ」

 

まばたき一つの後に。

黒い切っ先が、眼前に迫っていて。

 

「――――プリズムッッ!!!!」

 

誰かの絶叫が、耳に届いた頃。

青い背中が、スカイが。

割り込んでいた。

 

「があッ・・・・!」

 

刃物が生肉を突く、鈍い音。

 

「――――お前さんに、攻撃を当てるなら」

 

庇われたことを、飲み込むのに。

プリズムは、しばし時間を要した。

 

「やっぱりこの方法だよネェ?」

「っあ、ぐ・・・・!」

 

やっと呑み込んだ頃には、目の前のスカイの右肩から。

切っ先が頭を見せていた。

 

「やや!お嬢ちゃん!ちょうどいいトコいてくれてぇ、助かったよー!」

「っ、う"う"・・・・!」

「――――ぁ、ぁあ」

 

メイテイの笑顔と、スカイの呻く声に。

悲鳴を上げそうになったところへ。

 

「――――諦めろ」

 

畳みかけるように、スキアヘッドが再び口を開く。

 

「お前達は、負けたのだ」

 

だから、言う通りにするのが当然なのだ。

実に実に一方的な言い分に、反撃したのは。

 

「――――るせぇ」

 

まるで、地を這うような。

人のそれだと、理解が追いつかないくらいに低い声。

 

「ん?」

 

同じく、誰が発したのかよく分からなかったメイテイへ。

 

「――――うるせぇっつったんだよ!!ペドフィリア共ッッッ!!!!!」

 

スカイが、咆哮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんの謂れがあってあの子を狙うッ!?なんの謂れがあってあの子を襲うッ!?』

 

――――闇の向こうで。

大好きなヒーローが、見たこともない顔で怒っている。

 

『エルちゃんに何の罪がある!?あの子が一体何をしたと宣うッ!?』

 

肩に深く刺さった黒い剣を、砕かんばかりに握りしめて。

怖い顔と、怖い声を出している。

 

『よしんば、スカイランドに非があったとして!!それを生まれて間もない、言葉も歩みもままならぬ赤んぼにぶつけるのはッ、どういう了見だァッ!?ア"ア"ア"ッ!?』

 

けれど。

 

『お前達への要求はッ、ただ一つ!!』

 

その言葉の全てが。

 

『――――エルちゃんを!!!!返せ!!!!』

 

自分の為だと分かるから。

だから、目を逸らさずにいられる。

 

『ッそうだ、返せ・・・・プリンセスを、返せ・・・・!』

 

傍にいてくれる、ナイトが立ち上がる。

 

『別に滅べとか言ってないもんね・・・・大切な人を、家族を、返してほしいだけ・・・・ただ、それだけ・・・・!』

 

色んな輝きを教えてくれる、素敵な人が立ち上がる。

 

『私達にとって、もはやかけがえのない子だ・・・・だから・・・・!』

 

守ってくれる、守り人が立ち上がる。

 

『・・・・そう、だよ』

 

たくさんの優しさをくれる、

 

『エルちゃんを、返して・・・・!!』

 

お姉ちゃんが立ち上がる。

 

『――――諦めるのは、お前達だ』

 

そして、

 

『諦めて、エルちゃんを返せ!!!』

 

何があっても、絶対に駆け付けてくれる。

大好きなヒーローが、立ち上がる。

 

「そら・・・・!」

 

――――嗚呼。

自分も、そうありたい。

いっぱい怪我をしても、いっぱい怖い目にあっても。

『大丈夫』って、笑って。

安心させてくれる。

優しくて、あったかくて。

いっぱいいっぱい、大好きな。

みんなを、家族を。

この手で。

 

「――――何?」

 

――――そうして、スカイランドの姫君は。

静かに祈りを捧げた。




いつぞやの返信で、『痣は出さない』と申したと思うのですが。
ごめんなさい、嘘になりました()
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