ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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偽物、焦燥

気付くと、暗闇に立っていた。

体を見れば、キュアスカイに変身している。

 

「――――助けて!!ソラさん!!助けて!!」

「ましろさん?」

 

ふと、声が聞こえた。

ましろだ。

もはや悲鳴とも呼べる声で、助けを求めている。

 

「ましろさん!!どこですか!?」

 

視界は相変わらず、自分しか見えないまま。

声を張り上げて、返答を待っていると。

 

「なっ、この・・・・!」

 

何かがまとわりついてきた。

そいつはあっという間にスカイに覆いかぶさると、容易く動きを封じてしまう。

 

「助けて!ソラさん!!ここです!!助けて!!助けて!!」

「ましろさん!!っく・・・・!」

 

ましろの声は依然聞こえている。

まとわりついてきたそいつは、段々と重たくなってきて。

依然、動きを阻害してくるので。

 

「邪魔だッ!!」

 

らちが明かないとばかりに、斬り伏せた。

 

「ましろさん!!ましろさん!!返事をしてください!ましろさん!!」

 

名前を叫びながら走り出すが、すぐに気付く。

ましろの声が、止んでいる。

 

「ましろさん!?ましろさんッ!!」

 

静寂に焦燥を募らせ、何度も名前を呼ぶ。

 

「ましっ――――」

 

暗闇を見渡して、振り向いた時。

唐突に見えたものに、声が途切れた。

・・・・ましろが、いた。

夥しい血だまりの中に、倒れ伏している。

 

「ましろさん!!!!!」

 

自分でも驚くほどの大声を出して、駆け寄ろうとして。

ふわっと、すぐ近くで鼻をくすぐった血の臭いに気付く。

恐る、恐る。

見下ろせば。

 

「――――ああ」

 

鮮血に塗れた、自分の両手が。

 

「あ、ぁあ!・・・・ぁぁぁああああああああああああ!!!」

 

剣を取り落とし、悲鳴を絞り出しながら後ずさる。

 

「そんなっ、そんな・・・・あああああ・・・・!!」

 

顔と髪を汚しながら、頭を抱えて。

再び前を見ると。

ましろは跡形もなく消えていた。

代わりに、小さな人影がこちらを指さして。

 

「ぁ、な・・・・たは・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ひとごろし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・・は・・・・は・・・・は・・・・!!」

 

浅く、早く、呼吸しながら。

眠りから覚めていること、自分が半身起こした状態であることを段々と理解する。

部屋の中は未だ暗く、夜明けはまだまだ遠いことを雄弁に告げていた。

ゆりかごの中のエルは、静かに寝息を立てている。

手で顔を覆えば、水っぽい感触。

 

「ひっ・・・・!?」

 

慄いて確認してみれば、寝汗で濡れただけだった。

・・・・今度、こそ。

あの光景は、夢まぼろしであったことを確信して。

 

「・・・・・はあぁーっ」

 

深く、深く。

安堵の息を吐き出した。

枕もとの時計を確認すれば、やっと丑三つ時を超えたくらいだろうか。

とはいえ、到底眠る気になれないので。

気分転換を求めて、なんとなしに部屋を出た。

 

「・・・・は」

 

リビングのソファ。

足を投げ出した、やや行儀の悪い姿勢で深く座る。

真っ暗な天井を見つめていると、先ほどの夢を思い出しそうになる。

それが恐ろしくて、必死にものを考えないようにしていた。

 

「――――大丈夫ですか?」

「・・・・ッ!?」

 

そんな気を這っていたところに声をかけられたものだから、思わず威圧的に視線を向けてしまえば。

 

「・・・・貴方、でしたか」

「ぁの、すみません。とても参っている様だったので、つい」

 

薄明りの中。

夕焼け色の目が、心配そうにこちらを捉えていた。

 

「いえ、こちらこそすみません・・・・心配してくれたのに、なんてことを」

「お気になさらず」

 

あまりにも情けない様に、ソラが項垂れていると。

『彼』は少し何かを考えてから、『あの』と声を上げた。

 

「ハーブティは飲めますか?・・・・気持ちが落ち着くと思います」

「・・・・そう、ですね。いただきます」

 

これ以上ぼんやりしていても、好転は望めなさそうなので。

ここは素直に、『彼』の提案を呑むことにしたソラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ・・・・おはよう・・・・」

 

 

「あれ?ハーブティの香り・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それは、嵐の晩のことだった。

 

――――闇の世界の魔物がスカイランドに攻め込んできた。

 

――――空は黒い雲に覆われ、絶望的な戦いが始まった。

 

――――スカイランドの姫は祈った。

 

――――ヒーローが現れて、青い空とみんなの笑顔を取り戻してくれるようにと。

 

――――すると、姫の祈りに答える様に勇敢な戦士が現れた。

 

――――その名は、『プリキュア』。

 

――――プリキュアは闇の世界の魔物を打ち払い、スカイランドを救った。

 

ヨヨから語られた、スカイランドの古い古い伝説。

根気よく書物を読み解いて、やっと見つけた。

誰もが忘れてしまった話。

 

「伝説の戦士、プリキュア・・・・!!」

 

話を聞き終えたましろは、ふるふると武者震いしていた。

先日目覚めたばかりということもあってか、瞳はキラキラ輝いている。

 

「エルちゃん!もう大丈夫だよ!!伝説の戦士がついてるよ!!」

 

伝説の通りなら、ヒーローが現れる様に願った姫のポジションに収まるのはエルということになる。

ソラ、そしてましろの力の由来としては、十分に納得できるものだ。

重大な使命を負っていると知ったましろは、興奮しきりにソラの方を向いた。

 

「ソラさん!わたし今、猛烈に特訓したい気分です!いつもはどんな特訓をしているんですか!?一緒にやりましょう!!」

「あはは・・・・いきなりハードワークをしたら、体を壊しますよ。落ち着いて」

 

鼻息荒く迫るましろを、ソラは苦笑いでたしなめると。

『それよりも』と、ヨヨへ話しかける。

 

「この世界とスカイランドを繋がるトンネルは、いつ頃開いていただけるので?」

「ソラさん・・・・?」

 

顔は笑っている。

しかしどこか固くなった声に、ましろは首を傾げた。

 

「もう少しだけ時間をちょうだい」

 

そんなソラに、ヨヨは落ち着いて答える。

 

「簡単な作業ではないの、100種類以上の素材を、繊細な手順で組み合わせて。それから――――」

「いえ、もう結構です。よく分かりました」

 

ヨヨの話をさえぎる、失望したといいたげな声。

ましろもヨヨも、驚いてソラを見れば。

当の本人も、口を押えて我に返っている様だった。

 

「・・・・・すみません、頭を冷やしてきます」

「あ、ソラさん!」

 

おざなりに一礼して去っていく彼女の背中へ、ましろは手を伸ばすも。

結局、引き止めることは叶わなかった。

 

「どうしちゃったんだろう・・・・?」

 

心配に眉を潜めるましろが、ソラが立ち去った後を見つめていると。

 

「・・・・優しい子ね」

 

ヨヨは、微笑ましそうに零したのだった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

ソラシド市、どこかの高架下。

 

「ガキの頃からこっち()はからっきしで・・・・でもこっち(腕っぷし)には自信があったのねん!!」

「そうですか・・・・」

「なのにプリキュアとかいう滅茶苦茶TUEEEE奴が現れてよ!!」

「そうですか・・・・」

 

おでん屋で酒を飲みながらくだをまくカバトンの話に、店主は静かに耳を傾ける。

 

「しかも二人目まで爆誕!!これから俺様の立場はどうなるのねん!?」

 

テーブルを叩き、頭を抱えて涙目になるカバトン。

そんな彼があまりにも不憫に思えたのか、店主は静かに一皿差し出した。

 

「サービスです・・・・」

「親父っ・・・・!!」

 

事情を深く理解していないだろうに、疲弊した心にそっと寄り添ってくれる店主。

その人情に、カバトンがいよいよ涙しそうになった時だった。

 

「・・・・ッ」

 

――――降りてくる。

重苦しい気配が。

 

「これは・・・・?」

「ま、まさか・・・・!?」

 

店主が困惑する中、心当りがあったカバトンが振り向けば。

 

――――プリンセス・エルはまだ手に入らぬのか?

 

声が、聞こえた。

今、カバトンが最も恐れている存在の、声が。

 

「ひ、ひいい・・・・!!」

――――どれだけ私をがっかりさせるつもりだ?

「もっ!!ももも申し訳ありませぇん!!」

――――いつまでもチャンスがあると思うでないぞ

 

遮二無二飛び出したカバトンがひれ伏せば、声は冷たく言い渡す。

 

――――プリンセスを私の下へ、よいな?カバトン

「ぎょ、御意いいぃぃ・・・・!!」

 

ひたすら這いつくばって了承する他ないカバトンは。

気配が消えてもなお、しばらくはそのままだった。

 

「か、会社のパワハラ上司ですか・・・・!?」

 

やがて静かに席へ戻ったカバトンへ、店主が質問するや否や。

カバトンはおでんの入った鍋を見て、一言。

 

「もらうぞ」

「えっ?」

「いいから、全部よこすのねん!」

「は、はい!」

 

そうやって用意させた、ありったけのおでんをがっつきながら。

カバトンは固く誓うのだ。

 

「覚悟するのねんプリキュア!!今日がお前たちの最後の日なのねん!!!

 

――――その熱意の源は。

忠義か、それとも。

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