「――――それ、プリンセスシリーズの最新作ですか?」
「はい!『プリンセスのはなぞの』って言うんです」
――――さてさて。
絵本作りを精力的に行っているましろさん。
この頃は、地元の図書館で読み聞かせのボランティアをやるようになった。
今日はましろさんの付き添いがてら、みんなで見に行くことにしたのだ。
「このシリーズ、私も好きだよ。読んでいるこちらも、優しい気持ちになる」
「えるもすき!」
「もう十冊目でしたっけ?」
「描くのが楽しくって!」
新作を携えたましろさんは、子ども達の反応が楽しみでたまらないといった様子。
うんうん、楽しそうで何よりです。
「みんなに喜んでもらえると良いけど・・・・」
「もらえるさ」
「その通りです!プリンセスだって、こんなに大喜びなんですから!」
ツバサくんの言う通り、エルちゃんは嬉しそうに手を伸ばしていた。
と、
「ましろん、絵本作家になったら?」
「ええっ?」
あげはさんが、そんなことを提案した。
・・・・確かに。
これだけ夢中になれるのなら。
将来の職業として、十分視野に入ってもおかしくないけれど。
「いいんじゃないか?お前なら良い作家になれる」
「ええ、私もそう思います」
「ううん、絵本作家かぁ・・・・なれたら、いいなぁ」
この頃熱心に創作しているだけあってか。
ちょっと照れくさそうにしながらも、前向きに考えているらしいましろさん。
・・・・なんだか、嬉しいな。
『何が出来るんだろう』って悩んで、『これをやりたい』って見つけたこの子が。
将来をはっきり描き始めている。
それがとても感慨深くて、勝手に誇らしい気分になってしまう。
って、いかんいかん・・・・。
決めるのはましろさんであって、私じゃない。
落ち着け、ビークール!!
「ふふ・・・・ん?」
――――そうやって。
なんとか自分を落ち着けている横で。
知っている気配を感じ取った気がした。
「――――絵本作家、だとぉ?」
「俺をこんな目に遭わせておいて・・・・!」
「お前のその夢、ぶっ潰してやるッッ!!!」
◆ ◆ ◆
――――さて。
プリキュアに敗れ、アンダーグ帝国に居場所がなくなった刺客達。
カバトンはソラと同じ職場を始め、色々なアルバイトを掛け持ちしつつ。
今は自分の焼き芋屋台を持つことを目標にしている。
一方で、あの男はと言うと。
(――――俺は頭脳派だからな)
唸るドリルの音。
(作戦を練りに練って)
握りしめた、赤と白のフラッグ。
(プリキュア達を陥れ、確実に・・・・!)
思考に沈んでいた彼は。
「――――コラァ!バイトォッ!」
「は、ハイィ!!」
現場監督の怒鳴り声によって、現実に戻ってくる。
「さっさと車通せ!」
「は、はい!」
目の前には、クラクションを鳴らしまくる車の列。
「渋滞してんだろ!!」
「すみませーん!」
怒鳴られながら、停止してしまっていた自分の役割をこなし始めるのは。
『紋田』という偽名で世を忍んでいる、バッタモンダー。
今は怪人ではなく、細身の青年の姿に化けて。
その日を凌ぐための、日銭を稼ぐ日々を送っていた。
(チキショーッ!それもこれも、あいつの!キュアスカイの所為だ!!)
現場監督と、車のドライバー。
双方に睨まれながら想起するのは、にっくき相手。
(あのオバハンに散々痛い目にあわされて、弱ってたくせに!!いっちょ前に僕を脅しやがって!!)
すなわちキュアスカイである。
――――動くなァッ!!
――――そこから一ミリでも動いて見ろッッ!!
――――その身一片も残さず、ぶった切ってやるッ!!
スカイランドの国王夫妻に、呪いをかけたあの日も。
――――いいですよ
――――なんなら今やっても構いません
己の策とキルミラによって著しく弱らされていたはずのあの日も。
今日この日まで続く、耐えがたい屈辱を刻み付けて来た。
実に実に忌々しい存在。
(ああ、そうだ。お前が悪いんだからな!!)
根拠とするのは、本格的にアンダーグ帝国の居場所がなくなったあの日。
(『大事にしてる連中に手を出す』・・・・やればいいって言ったのは、他でもないテメェだ!!)
そもそも。
キュアスカイを陥れるなら。
本人よりも、周囲をターゲットにする方が。
ダメージが大きいことは確認済み。
(だから、手始めにキュアプリズムだ!!お前の支えであるあいつから、傷つけてやる!!)
『今に見て居ろ』とばかりに。
バッタモンダーは、獰猛な笑みを浮かべた。
「コラァッ!紋田ァッ!!」
「は、ハイイッ!?」
「止めろ!!車を止めろ!!対向車線のが来る!!事故るだろうが!!」
「す、スミマセーン!!」
◆ ◆ ◆
「――――ソラシド図書館へようこそ」
ソラシド市立図書館、キッズスペース。
「今日はこちらのお姉さんが、絵本を読んでくれます」
読み聞かせの会場でもあるここで、やや緊張した様子のましろさんが。
穏やかな笑顔の司書さんと一緒に、子ども達の前に立っていた。
・・・・ううん、それにしても。
「何かあったのか?」
「ああ、いえ・・・・」
一人で頭をひねっていると、ベリィベリーさんがこしょっと聞いてきた。
気付かれちゃったか・・・・未熟・・・・。
「さっき、知ってる気配を感じた気がして・・・・でも、気のせいかもしれなくて・・・・」
「だが、引っかかっているんだろう?」
「そうなんです・・・・」
周囲にバレてしまわないように、ぽしょぽしょ内緒話。
「今すぐ何か起きそうか?」
「起きるかもしれないし、起こらないかもしれません」
「なら、今は放っておけ・・・・この世界だと『杞憂』だったか、起こるか起こらんか分からんことで気を揉んでも、仕方がないだろう」
「それも・・・・そうですね、ありがとうございます」
「ああ」
お陰で落ち着いてきた頃には、ましろさんの読み聞かせが始まっていた。
と、
「あは!あはは!」
みんなが静かに耳を傾けている中。
はしゃぐ声が聞こえて来た。
「うりゃ、うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
思わずそちらを見ると、男の子のご兄弟が遊び始めてしまっている。
「こ、こら・・・・しーっ!」
大勢に見られていることもあって、お父さんが宥めにかかっていた。
一旦は収まったけれども、すぐにどこかへ立ち去ろうとしてしまう。
・・・・うーん、これは。
残念ながら、彼らには合わないお話なのかな。
「どうしたの?まだ途中だよ?」
「だってつまんないんだもん」
ましろさんが問いかけると。
予想通りの言葉が返って来た。
「す、すみません!・・・・こら!待ちなさい!」
ご兄弟のお父さんが、すぐに謝罪してくれたので。
その場は治まったけれど。
「・・・・ッ」
ましろさんは、何か引っかかっている様だった。
閑話休題。
「――――そのお花は、すでに虹色ではありませんでしたが、心は虹色なのでした。そしてプリンセスは、ますますお花が大好きになりました・・・・おしまい!」
ちょっとしたハプニングもあったけれど、読み聞かせは無事に終了。
最後まで耳を傾けてくれた子達も、『面白かった!』『プリンセスかわいかった!』などなど。
好意的なコメントを送ってくれる。
「すごいですね!よく見せてもらってもいいですか?」
「はい!もちろん!」
中には、絵本を実際に手に取る熱心な親御さんもいて。
素人目には、概ね大盛況に終わったように見えた。
「――――あはははっ!待て待て!」
内心胸をなでおろしていると、外から元気な声。
思わずそちらに目をやれば、さっきの兄弟が無邪気に駆け回っている。
ううん、やっぱり合う・合わないがはっきり出るよなぁ、図書館って。
正直、私もミステリーや恋愛小説よりも。
学習漫画や冒険譚が好きな方だった・・・・。
「・・・・」
(ましろさん?)
あるある、と思いながら視線を戻すと。
同じく兄弟を見つめながら、何か考え込んでいるましろさんが目に入ったのだった。
――――だってつまんないんだもん
心当りと言えば、さっきのやり取りだ。
まあ、ぶっちゃけ。
あれだけ活発な子達なら、プリンセスのキラキラしたお話ってちょっと退屈だろうしな・・・・。
でも、それは私の感想であって、ましろさんがどう感じたかはまた別の話だ。
「――――気にすることないよ」
同じことを感じ取っていたらしいあげはさんが、ましろさんの肩に手を置いて。
優しく語り掛ける。
「走り回る方が好きって子もいるから」
「ええ、貴女に落ち度があるわけではありません」
「・・・・はい、そうですね」
一緒になってフォローを入れたけれども。
一見笑顔のましろさんには、やっぱりどこか陰りが見えた。
・・・・大丈夫かな。