三話が楽しみだ・・・・。
――――助かったけど、助かってない。
それがバッタモンダーこと、紋田の置かれた状況だった。
プリキュア達に取り囲まれての大ピンチから、元職場の古参がやってくる大ピンチ。
一難去ってまた一難とは、このことである。
あわあわハラハラ、近くの茂みから戦闘を覗き見る紋田。
視線の先には、メイテイがいる。
(やっぱりタダもんじゃなかった!)
アンダーグ帝国では、常に酒瓶に囲まれ、寝ても覚めても酔いつぶれていた男。
戦うどころか、何かしらの労働をしているところを、誰も見たことがない故に。
同僚のカバトンはもちろん、ミノトンすらも。
憐れみを覚えて手を出さないようにしていたが。
(どいつもこいつも頭が悪すぎんだよ!ただの呑んだくれが300年以上も見逃されるわけないだろ!)
通常とは違うランボーグを呼び出したことと言い、キュアスカイことソラが目に見えて神経を尖らせていることと言い。
紋田が、バッタモンダーが睨んでいた通り。
奥底に隠し続けていた本性の一片が、今。
目の前に現れている。
(アンダーグ帝国は、失敗した奴に容赦しない!もしも見つかって、スキアヘッドにでもチクられたら・・・・!)
その時想像したのは、高所から吊り上げられ、怪物の餌にされる図だが。
もしかすると、もっとひどい目に遭わされる可能性だってある。
(ア"ーッ!癪だけどプリキュア共に頑張ってもらうしかないか!?癪だけど!!)
無意識のうちにうずくまっていた紋田は。
茂みの影からそろりと、対峙しているはずのプリキュア達を伺って。
次の瞬間には、目をひん剥いた。
(は!?なんだあれ!?増えてる!?)
その通り、増えてる。
にっくきスカイを始め、いけすかないプリズムに、生意気なウィング。
気に食わないエクリプスと、元外野のバタフライ。
「降り立つ気高き神秘!キュアマジェスティ!」
(キュアマジェスティ!?なんだよソレ!!)
紋田も見知った面々に加えて、もう一人。
紫を基調とした、ドレスにも見えるコスチュームを纏った新たな戦士。
(ま、まさか・・・・!?)
一体どこの誰が変身したものだと、観察していた紋田は、はたと。
ターゲットであった、エルがいないことに気が付いて。
(プリンセス・エルぅ!?)
覚えている通りなら、自分と同じく物陰に隠れているはずの、ちっこいプリンセスが。
今日はどういう訳だか、影も形も見当たらない。
(あわわわわ・・・・!ど、どーなっちまうんだ、俺様ー!?)
頭を抱えて、改めて戦闘に注目する。
◆ ◆ ◆
「やっちまいなァ、シュランボーグ!」
「ヒィーック!!」
変身からの名乗りもそこそこに、メイテイの号令を受けた変わり種のランボーグ、もとい『シュランボーグ』は。
酔っぱらいのしゃっくりの様な返事をして、飛び出してきた。
「来るぞ!!」
エクリプスが注意を促してくれた時には、もう相手は目の前にいた。
前から公言していたこともあって、マジェスティを狙っている。
「プリンセス!」
「・・・・ッ!」
ウィングの鋭い声と同時に、マジェスティが飛びのく。
「雷の呼吸、壱ノ型!」
相手の視線が、逃げたマジェスティを追った。
その一瞬の隙へ、突撃。
「霹靂一閃!」
まずは一撃、クリーンヒットさせる。
「シュラーン!!」
「っと・・・・」
ぶん回された腕を避けて後退すると、入れ替わる様にエクリプスとバタフライが肉薄。
同時にパンチを繰り出した。
と、
「シュランッ!!」
「わっ!?」
「ッ素早い・・・!」
ふらっと体を傾けたと思ったら、巨体とは思えない速度で回避してしまった。
あの動きは・・・・。
「速さなら・・・・!」
「私も!」
見覚えのある動きに警戒を強めていると。
今度はウィングが、続けてマジェスティが飛び出す。
「てぇい!!」
「はあっ!!」
マジェスティの牽制を避けたところで、ウィングの回し蹴りで仕留めようとしたみたいだけど。
「シュラッ!シュラーンッ!」
「ああっ!?」
「そんな!?」
やはり、ふらふらとした動きで避けてしまった。
・・・・間違いない。
あの動き・・・・!
「酔剣・・・・!」
「おっ、気付いたねぇ」
「ヒィーックックック!」
相変わらず酒を煽っているメイテイが、私の呟きを拾って面白そうにヘラヘラ。
シュランボーグも一緒に笑っている。
「マジで酔っ払ってるみたいな動きじゃん!」
「動きが非常に不規則です!不意打ちも積極的に狙ってくる・・・・油断しないで!!」
「分かりました!」
「――――シュランボーグ!!」
情報共有が終わるや否や、シュランボーグが飛び出してきた。
「はああああッ!!」
「そぉーれ!」
やっぱり不規則な動きで接近してくる相手へ、プリズムが弾幕を張る。
さらにバタフライもバリアをあちこちに展開。
なるほど、相手の軌道を削ぐ作戦。
「シュ、シュラ・・・・!」
「これなら!」
「ええ!」
さすがのシュランボーグも動きにくそうにしているのを前に、エクリプスと一緒に身構えた。
「足元!」
「了解!」
言葉少なに段取り付けて、まず私が一気に加速して奴の足元に。
「肆ノ型 打ち潮!!」
「シュラッ!?」
足元にぶち当てて、体勢を崩したところへ。
雷光を纏ったエクリプスが躍り出て。
「エクリプスジャッジメントォッ!!」
「シュラーッ!!」
顔面ど真ん中に、必殺技!!
うっわ、痛そ・・・・。
たまらず悲鳴を上げるシュランボーグだけども、ふらつくだけで浄化される気配はない。
「あーりゃりゃ?シュランボーグちゃん、しっかりー!」
「シュッ、ラーンッ!」
メイテイの声を受けて、軽快に立ち上がったシュランボーグ。
両手のフリスビーをシンバルよろしく打ち鳴らして、気合を入れると。
「シュララララララララ・・・・!」
体をぶるぶる震わせる。
まるで生き物のシバリングの様だと思っていると。
「シュランボーグッ!!」
相手の全身から、ぶわり、と。
はっきり目視できるほどの気体が噴き出すのが分かる。
続いて鼻を衝いた臭いから、それがお酒であることもすぐに理解した。
「うっ・・・・」
「げっほげほ!クッサ!酒くさぁ!」
「プリンセス下がって!」
「くしゃい・・・・」
みんな一様に鼻を押さえて、しかめっ面になってしまっている。
「・・・・ッ」
・・・・臭いだけじゃないな。
気を抜くと体がふらつきそうになる・・・・言うなれば『気体の酒』か。
「シッ・・・・!」
担ぐように剣を構えながら、ぎゅるりと身を翻して。
「ハァッ!!」
剣、体、マント。
三つを存分に活かして、よどんだ空気を一気に振り払った。
「ぷっは!」
「ちょっと楽になった!ありがと、スカイ!」
うん、よし。
みんなの顔色も良くなったみたい。
「うぅ・・・・」
「マジェスティ?大丈夫!?」
「ちょっとだけ、きもちわるい・・・・」
「無理しないで」
でも、マジェスティはちょっとグロッキーかも?
無理もないか。
今は十代の姿だけど、中身はまだまだ赤ちゃんだもんな。
「コォラ!!未成年にお酒浴びせるなんて、何考えてんの!!」
「ナハハハハ!!こちらの力を温存しつつ、相手の勢いを削ぐ、戦いにおいては常套手段でげしょー?」
バタフライの抗議を、メイテイがケラケラ笑い飛ばす。
あんにゃろう、すっかり楽しんでやがるな・・・・!
「落ち着け、相手のペースに乗せられるな」
「その通りですよ」
「ん"っん・・・・そう、だよね。これくらい、覚悟出来てたことだし!」
子猫を守る親猫の如く、マジェスティを庇いながら『フシャーッ!』と威嚇するバタフライ。
幸い、エクリプスとウィングの二人に宥められて、すぐに平静を取り戻してくれた。
「・・・・ぁ」
その時。
プリズムの顔が、灯りを見つけた様な表情になったんだけども。
今は追及する余裕はないので、後回し。
いや、気になるんだけどもね?
ね!?
「マジェスティはこっちで引き受ける!」
「お願いします!」
バタフライの付き添いで退いていくマジェスティ。
相変わらず具合が悪そうだ。
「シュランボーグ!!」
「させるか!!」
「プリンセスは僕達が守る!!」
容赦なく追撃しようとするシュランボーグだけど。
エクリプスとウィングが迎え撃って食い止める。
・・・・マジェスティよりは余裕そうだけども。
「ッ・・・・!」
「ケホッ・・・・」
やっぱり二人とも、相手の濃い酒気がきつそうだ。
・・・・肝心のマジェスティもグロッキーだし。
今回、マジェスティックハレーションはきつそうだな。
「プリズム!」
「はい!」
バーストモードを発動させつつ、プリズムを呼べば。
意図を察してくれた彼女が、駆け寄ってきてくれる。
「スカイブルー!バースト!」
「プリズムホワイト!バースト!」
「おおー!知らない技!」
呑気に歓声を上げるメイテイの前で、バーストカリバーを振り上げて。
「「プリキュア!!」」
「「アップドラフト・ライジング!!」」
立ち上った刀身を、思い切りシュランボーグに叩きつける。
すると、
「シュラーンッ!!!」
あろうことか、刀身を白刃取りしてきた。
「そんなのアリ!?」
「往生際の悪い・・・・!!」
「シュラアアアアアアァァァンンン・・・・!!」
ぎ、ぎぎ、と。
押し返されそうになる、眩い刃。
「ッ負けないんだから!」
「ええ!ッ舐めるな!!」
もちろん、こちらもやられるわけにはいかないので。
プリズム共々、剣を握る手元に力を込めて。
一度、持ち上げる。
「「せー、っの!!」」
「シュランッ・・・・!!」
それから、再度振り下ろした。
シュランボーグは、これもまた受け止めたけれど。
「「はああああああああああ!!」」
今度はこちらが優勢だったな!
「シュ、シュランボ・・・・!」
束の間だけ耐えたシュランボーグだったけど。
段々と押し込まれて行って。
「「だぁっ!!」」
「ス・・・・スミキッタァー・・・・!」
あえなく、両断されてしまった。
そこら中に迸ったキラキラエナジーは、戦闘跡を修復するだけでなく。
シュランボーグがまき散らした酒気も消し去ってくれる。
よかった・・・・浄化されなかったらどうしようかと・・・・。
「アーア、負けちゃったァ」
「次は貴方です」
『ちえっ』とばかりに、ゆるゆる立ち上がるメイテイへ。
油断なく切っ先を突き付ける。
・・・・あいつには、こっぴどくしてやられたからな。
警戒するに越したことはない。
「いんやぁ、相手したげたいのはやまやまなんだけどもサァ。今日は遠慮しとくわ」
・・・・ここで。
へらり笑うその顔が、青ざめているのに気が付いて。
「二日酔いに迎え酒しちゃって、どうも調子が・・・・」
「ッバァーカ!!」
いや、これ悪くないよね!?
叫んだ私、悪くないよね!?
大きいお友達のみんなは、二日酔いに迎え酒とかしちゃダメだぞ!
それで治るのは特異体質の人だけだからな!!
「お酒はほどほどにするものなんだぞ!」
「いやはや、全く以て坊ちゃんの言う通り・・・・反省するよ・・・・メイテイテイ」
アンダーグ帝国の人間にしては珍しく(?)、ウィングのツッコミを真摯に受け止めたメイテイは。
いつもの文言を唱えて、撤退していったのだった。
・・・・お酒の呑みすぎ、ダメゼッタイ!!
◆ ◆ ◆
「――――ああ~、腹減ったぁ」
――――あれから数日。
命からがら逃げおおせた紋田は、今日も今日とてアルバイトに精を出していた。
(しんどいけど、今だけは胸がすく思いだぜ)
それはそうと、ましろにかけたちょっかいに、手ごたえを感じてもいた。
(ケケケ!今頃夢破れたりってところかナァー?見られないのが残念だぜぇー!)
邪悪にほくそ笑みながら、缶コーヒーを煽ろうとした。
その時、
「あれ!紋田さん!」
「んっぶ!?」
思ってもみなかった弾んだ声に、飲み物を吹き出してしまった。
危うく制服が汚れそうになったが、構っていられない。
「よかった、また会いたいって思ってたんです!」
ぎょっと振り向けば、案の定。
先日、夢を圧し折ってやったはずのましろが。
にこにこ笑いながら、無防備に駆け寄ってきていて。
「――――ありがとうございます!」
「ヘェッ?」
紋田の動揺も露知らず。
開口一番に告げながら、呆ける彼へ頭を下げるましろ。
「わたし、紋田さんのお陰で自分の気持ちがはっきりしたんです!」
「エッ」
「わたし、絵本を描くのが好きで、それを読んでもらえるのがうれしくて!」
「エッ」
「だから!一人でも喜んでくれる子がいるなら、描き続けようと思って!」
「エッ」
己がバッタモンダーであることがバレていないことに、安堵する間もなく。
ましろはどこか嬉しそうに、そして彼女にしては珍しく興奮気味に。
されども終始笑顔でまくし立てる。
「わたし、紋田さんの覚悟を見習って、絵本作家を目指すことにしました!」
「エエッ?」
てっきり落ち込ませたはずのましろが、そんな宣言をするものだから。
紋田は情けない声を上げることしか出来ない。
そんな無防備のままに、握手までされてしまって。
「紋田さんも頑張ってください!思い通りにいかないこともあるけれど、目標に向かって頑張る紋田さんは素敵です!」
「ハァッ?」
「わたし、応援してますからー!」
そして、返事もままならぬままに。
溌溂と笑った彼女は、嵐の様に走り去ってしまった。
「・・・・」
あっと言う間に小さくなっていくましろの背中を、呆然と見送った紋田は。
言われた言葉を咀嚼して、呑み込んで。
「・・・・俺、応援されるなんて、初めて」
口にしてから、我に返る。
「って、いやいやいや・・・・!!」
我ながら何を言うか、あいつはにっくき仇だぞ!
「お前の応援なんかいらねーし!」
――――『嬉しかった』、なんて。
意地でも認めたくなくて。
プライドのままに、立ち上がった視界。
「げ」
ましろが駆け寄った先。
待っていたらしいソラと、ばっちり目が合った。
一見何事もなかったかのように、一言、二言交わしていたが。
ましろが歩き出すや否や、再び視線を合わせて来る。
(ッバ、バレてる・・・・!?)
い、いやいやそんなはずは。
ましろだって気が付いていなかったし。
紋田の、そんな希望は。
「――――」
まず、指二本を己の目に。
次に、同じ指を紋田に突き付けて来るジェスチャーで。
見事に打ち砕かれて。
( 見 て る か ら な ? )
「んな、っぐ・・・・!!」
――――ソラさーん?
――――はぁーい!今行きまーす!
口元を噛み締める紋田とは対照的に、何事もなかったかのように立ち去っていくソラ。
余裕の差を、まざまざと見せつけられた紋田は。
溜まらず立ち上がった。
「上等だ!っこの!覚悟しやがれェッ!」
負け犬の遠吠え?結構である。
元よりタダで終わる気はないのだ。
(絶対ェ『参りました、バッタモンダー様』ってほえ面かかせてやるゥッ!!)
闘志を燃やしに燃やして、ソラが立ち去った後へ指を突き付けたのだった。
――――なお、その後ろには現場監督が立っていて。
「コラァッ!!いつまで休憩してんだ、仕事しろ紋田ァッ!!」
「ヒィッ!?す、スミマセーン!!」
――――紋田が、バッタモンダーが。
『望んだその日』を迎えられるのは。
当分先になりそうである。