ヒーローガールは異物入り   作:数多 命

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大変お待たせしました。
キミプリに夢中になり、switch2にはしゃいでいたら。
一月も空いてしまった・・・・。


偽物、固定砲台

「いーっち!にー!いっち、に、さん、し!」

――――いち!に!さん!し!ごー!ろく!しち!はち!

 

私立ソラシド学園、中等部のグラウンド。

ベリィベリーは、野球部に交じってランニングをしていた。

秋の大会までの間、特別コーチとして。

主に基礎体力向上のトレーニングと、対戦相手の役を務めることになる。

体が温まったら、腕立て伏せや柔軟といった準備運動だ。

 

(――――あの子は速いが、もうペースが落ち始めている。あの子は逆に遅いが、安定しているな)

 

(こちらは体が硬そうだが、バットの勢いはすごいな。こちらは柔らかくて、柔軟さをバネにして遠くに投球している)

 

ベリィベリーは選手たち一人一人を観察。

特徴を把握していく。

 

「うちのチームメイトはどう?」

「誰もかれも、よく鍛えられているよ。むしろ、私が色々と教えてもらいそうだ」

「あはは、嬉しいな」

 

かなめと協力しつつ柔軟をこなしながら、指導方針を相談していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その日から、ベリィベリーさんは野球部に顔を出すようになった。

朝練はもちろん、昼休みもかなめさん達野球部と打ち合わせ。

夕方なんて、全身泥だらけになって帰ってくるなんてしょっちゅうだ。

流石に疲労なんかが心配だけど、その顔は『楽しくってしょうがない』と充実感に溢れているので。

心配し過ぎるのも野暮というものだろう。

もちろん、黙って見ているわけでもないしね。

ツバサ君は図書館から参考になりそうな本を借りて来るし。

あげはさんはリラックスできるアロマや、マッサージを施している。

ましろさんは、くもぱんを差し入れていた。

はちみつに漬け込んだレモンをはさむという、スポーツマンに嬉しいアレンジ付きである。

流石!

 

 

 

 

 

で、私はというと。

 

 

 

 

 

「――――行きますよー!!」

 

晴れ渡った空の下。

かなめさんが放ってくれたボールにバットを振るう。

カァン、と心地の良い音がして、白い点が吸い込まれるように小さくなっていく。

 

「レフトー!!」

「レフトいったよー!」

「オーッス!!」

 

その着地点を予想して、守備を任されている子が動いた。

全力疾走すると、グローブを掲げて。

ナイスキャッチ!!

所謂『バッティングマシーン』として、練習に協力してくれないかと頼まれたのが数日前の話。

私としても、何か力になりたいと考えていたので。

了承した次第。

 

「ナーイス!!」

「次、お願いしまーす!!」

「はぁーい!」

 

れふと?というポジションの子が、取れたボールを嬉しそうにアピールしている。

微笑ましく思いながら、かなめさんの方を見る。

 

「行きます!」

「はい!」

 

投げてくれたボールへ、再びバットを振るう。

・・・・こうやって何度も打ってはいるけれど。

安定して飛んでいるわけじゃない。

あっちにいったり、こっちにいったり。

あるいは飛び過ぎてしまったり・・・・。

 

「今更ながら、私でよかったんですかね。皆さん、やりにくくないでしょうか・・・・」

「実際の試合もこんなもんですよ、プロだって狙ったところに飛ばすのは難しいんですから」

 

思わず零してしまうと、かなめさんが苦笑いをしてしまった。

むむ、素人を出してしまったか・・・・。

 

「バッターを引き受けてくれるだけでも、ありがたいです。その分守備の練習に専念できるので!」

「なるほど」

 

経験者の話に納得しつつ、再びバットを振ることに。

 

「――――今、君の肩はこう動いていた」

 

傍らで、ちょくちょくベリィベリーさんの様子も見てみる。

 

「多分、この辺りで引っかかって、上手く動けなくなっているんだろう」

 

指導しているのは一年生だろうか。

実際に投げる動きをしてみせながら、解説している様だ。

 

「だから、もう少し大きく振りかぶってみてくれ」

「なるほど、やってみます!」

 

レギュラーメンバーかどうかは分からないけれど、人員の交代も大いにあり得るのが野球だったはず。

メインピッチャーであるたまきさんが、怪我をしてしまっている今。

残った選手たちへの指導にも力を入れているのだろう。

 

「ぁ、すごい!さっきより投げやすいです!」

「よかった。では、今のを意識して投げてみてくれ」

「はい!」

 

ここで私は、再びバッティングマシーンに集中し始めたので。

視線を逸らしてしまったのだけど。

まもなく耳が拾った、投げられたボールが風を切る音は。

明らかに『良くなった』と分かるものだった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

ベリィベリーという特別コーチを迎えた女子野球部は、とにかく基礎と基本を固めに固めまくった。

モチベーションの基は、やはりたまきの負傷だろう。

エースが不調な今だからこそ、己らの実力が試されていると気合が十分なのだ。

また、ベリィベリーが小耳にはさんだところに寄れば。

『たまかなコンビ』の片割れがダウンしていることで、どうも他校に侮られているといううわさもある。

真偽はともかくとして、多感な少女達が黙っていられるかと言えば。

答えはNOだった。

 

『ハァーッ!?あたしらは眼中にないってですかァーッ!?』

『《たまかな》におんぶに抱っこなわきゃねーだろオォン!?舐めとんのかァッ!?』

『あらあら、うふふ』

『《レフトの魔物》を思い出させてやる必要があるわねぇ・・・・』

『《サードの悪魔》も忘れないでくださいヨォ!先輩(せんぱぁい)!』

『魔物も悪魔も初めて聞いたなぁ』

『ンー、まま!二人ともレギュラーに選ばれたのは間違いないし!』

 

と、まあ。

『おのれ、今に見ていろ』と、闘志を滾らせている次第である。

なお、意外だったのは、ベリィベリーに試合に出るよう頼み込まなかったことだ。

最初ならいざ知らず、ルールもある程度分かるようになった今ならそうなってもおかしくないのだが。

『あくまで自分達の力でやりたい』ということだった。

 

(こういうところは、本当に好ましい)

 

目の前の安易な方法に飛びつかず、自分達に出来る事をコツコツと。

たまきとかなめが注目されがちだが、これこそが彼女達の強みなのだと。

ベリィベリーが再認識しつつ、今日も部室へ向かうと。

 

「・・・・?」

 

出迎えたのは、重い空気。

かなめやたまきを始めとした面々が、揃って暗い顔をしている。

 

「・・・・何があった?」

「アカネゾーラ先輩・・・・その・・・・」

 

落ち着きながら問いかけると、たまきが申し訳なさそうに視線を向ける。

 

「私の肘、手術が必要だって言われちゃったんです」

「・・・・それは」

 

そもそもたまきの症状は、『野球肘』と言うありふれたものだった。

野球を始めとしたスポーツで、長年の投球で腕の神経を痛めてしまうスポーツ障害の一種。

程度が軽ければ、しっかりとした休息と、入念なストレッチによって回復するのだが。

今回はそうはいかなかったらしい。

手術で腕を切り開き、神経を繋ぎなおさなければならなくなったそうだ。当然、そうなれば試合には出られない。

 

「それで、手術の日が、試合とかぶっちゃったらしくて・・・・」

「ううん・・・・!」

 

かなめが付け加えた補足に、天を仰いで頭を抱えてしまった。

なんとも、まあ。

間の悪いことといったらありゃしない。

 

「ゎ、私・・・・!」

 

どうしたものか、と悩む前に口火を切ったのは、たまきだ。

 

「私、試合に出たいです!終わったら絶対に手術受けますから、だから・・・・!」

「ッバカをいうんじゃないよ!」

 

『試合に出たい』と懇願するたまきを、三年生の一人が一喝する。

 

「手術要るってくらいに重いんでしょ!?野球できなくなったらどうすんのさ!!」

「四宮、まだ野球続けたいんでしょう?だったらちゃんと治さないと」

「私もやだよ、たまきが野球できなくなるの」

「そうだよ!こんなにすごい子とプレー出来るの、自慢なんだから!」

「で、でも・・・・!」

 

それを皮切りに、三年生や二年生も説得にかかったが。

たまきの顔色は優れない。

 

「連続優勝がかかってるんですよ!?それに、かなめ先輩は卒業しちゃうから・・・・これが、最後の大会なのに・・・・!」

 

口にしたのはかなめの名前だが、他の三年生も含まれているのは分かった。

連続優勝という、届きうる栄光を。

自分一人のケチで、逃したくないというのも。

 

「・・・・たまき」

「ッかなめ先輩・・・・!」

 

喧騒が落ち着いたところで、今度はかなめが口を開く。

たまきは、すがるような視線を向けたが。

 

「野球を続けたいなら、手術を受けるんだ」

「ッ・・・・!」

「・・・・私も、たまきにこんなところで終わってほしくないよ」

「・・・・はい」

 

ついにしょんぼりしてしまったたまきの頭を、困った笑顔で撫でると。

両手をぱちんと打ち合わせて。

 

「――――落ち込むのはここまで!!」

 

空気を、切り替える。

 

「私達まで暗い顔してたら、たまきも安心して治療出来ないよ!!」

「・・・・うん、そうだね」

「そもそもたまきに安心してもらうために、アカネゾーラさんに協力してもらってるもんねぇ」

「たまきがいたら心強いけど、いなくってもすごいところ、見せないと!!」

「なんたってあたし達、たまかなコンビのチームメイト!!」

「ただもんじゃないとこ、他校の連中に見せつけてやろうじゃないの!!」

――――イエーイ!!

 

かなめの言葉を切欠に、各々の顔に明るさが戻る。

怪我が原因で、誰よりも落ち込んでいたたまきを知っているからこその。

今できる、精いっぱいの激励だった。

 

「みんな・・・・」

 

そんな、頼もしい様を見渡したたまきは。

一度俯いて、涙をこらえると。

 

「ありがとう・・・・!」

 

目尻を拭いながら、何とか笑顔を浮かべたのだった。

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