愛が重くてポエミーだなんて、どんぶり飯もびっくりの盛りっぷりだぜ・・・・(褒め言葉)
「――――」
はた、と。
目の前がクリアになる。
何度も何度も経験してきた感覚。
『正気に返る』と名付けたこれとは、もう十年以上の付き合いだ。
「――――ッ」
洪水の様に押し寄せる、罪悪感と自責の念は。
決まって、幸福を感じた時にやってきた。
例えば、ツバサくんに知識を教わった時。
例えば、あげはさんと話が弾んだ時。
例えば、ベリィベリーさんとの鍛錬で、手ごたえを感じた時。
例えば、エルちゃんが笑ってくれた時。
例えば、ましろさんを愛おしく思った時。
「――――は」
充実して、満たされて。
顔が綻んでしまう度に。
闇が、徒党を組んで駆け寄って来る。
「――――っ、ぐ」
一口分の空気を含んで、飲み込む真似事。
「っ、は・・・・」
心の乱れを、文字通り飲み込んで。
表に出さないようにする為、最近出来た癖。
――――『ヤングケアラー』という言葉を知った。
将来のやりたいことの為、勉強やスポーツにまい進出来る未成年の権利が。
家族の介護に代表される、避けがたい要素の所為で阻害されるというもの。
片親家庭で、下の兄弟の面倒を見るお兄ちゃん・お姉ちゃんや。
精神を病んでしまった人を、何とか助けられないかと頑張る子も。
該当する。
「ソラさん?」
――――私は、随分長く。
ましろさんに甘えてしまっている。
だから、もう。
これ以上、苦労を掛けることがない様に。
「どうしたんですか?」
「――――いいえ」
大丈夫。
「なんでもないですよ」
繕うことには、慣れている。
――――『ウイテルケワシー』。
スカイランドの屋根とも呼ばれる大山脈。
常に強風が吹きつけるが故に土が定着せず、ごつごつとした岩が大半を占める山肌では。
農耕は大変困難。
なので、ヒヒトを始めとした人々は、牧畜や採掘。
ギリギリ栽培出来るフルーツなんかを作って生計を立てている。
そんな過酷な環境もあってか、そこに力強さを見出して。
霊峰として信仰の対象にもなっている。
今回、七試練でSOSを届けて来たのは。
そんなウイテルケワシーの頂上付近に位置する村。
ベリィベリーさんの故郷である、『ニルビ』だった。
「「――――やっっっと」」
珍しく、真っ青な顔をした私とあげはさんは。
「「ついたぁー・・・・!!」」
移動用に飼いならされた『ノシノシトカゲ』の背負う籠から降りて。
刑期を終えた囚人の様に、シャウトしたのだった。
いや、マジでしんどかった・・・・。
ウイテルケワシーの所謂『荷馬車』は、道中ほぼ垂直のルートを通ることもあるから。
お客さんがひっくり返ってしまわない様、座席がそれに合わせて回転する工夫がされてるんだけども。
それでめっちゃくちゃ揺さぶられた結果、まんまと乗り物酔いになってしまった次第・・・・。
「二人とも、お疲れ様。よく頑張ったな」
「ベリィベリーちゃんはケロっとしてるよね、羨ましい・・・・!」
地元民ということもあってか、ベリィベリーさんはけろりとしている。
あげはさんに全力で同意するわ、羨ましい・・・・。
「とにかく、今日はここで一泊だな」
――――今私達がいるのは、霊峰の中腹の町『カナンマド』。
ウイテルケワシーを越える、ないし登るにあたり。
誰もが高確率で立ち寄ることになる町だ。
「一晩かけて、気圧差に体を慣らしたら。明日いよいよニルビに向かう」
「ちょっともどかしいけど、しょうがないか・・・・」
一度触れた通り、ウイテルケワシーは指折りの過酷な山。
このまま強行軍をしてしまえば、確実に高山病になってしまう。
だから今回のメンバーは、受刑者である私と、地元民のベリィベリーさん。
そして、ミックスパレットでの回復が出来るあげはさんの三人だ。
ちなみに、
連れてくわけにはいかないよ、こんな試され過ぎる山・・・・。
「それで、『しろがね様』だっけ?ベリィベリーちゃんは見たことあるの?」
「ああ、というか入隊するまでは、村の祭りで毎年拝見していたよ」
気を取り直して。
手配してもらった宿への道すがら、あげはさんの最終確認もかねた質問に。
ベリィベリーさんがこっくり頷いた。
――――ウイテルケワシーには、『タケートコング』という大猿が生息している。
過酷な環境を生き抜く力強さと、常にアルカイックスマイルを浮かべているような顔で。
ニルビ村を始めとした、一帯の集落から信仰されている動物だ。
特に群れのボスは、背中の輝くような銀色の毛並みから。
『しろがね様』と呼ばれて、親しまれているんだったか。
「毎年この時期になると、ニルビ村を含めた周辺のヒヒト達が一斉に集まって、収穫祭をやるんだ」
今年もまた、『しろがね
今回は、
特に力を入れて居たそうなんだけども・・・・。
「どういう訳だか、ご乱心なされたんですよね」
「ああ・・・・」
私も、シャララ隊長から聞いた事を思い出しながら話せば。
ベリィベリーさんの顔が、目に見えて沈んでしまった。
――――ヒヒトの皆さんが、はりきって準備をしていた最中。
突如、様子のおかしい『しろがね様』が現れて。
とにかく滅茶苦茶に暴れ回ったらしいのだ。
「報告を聞く限り、明らかにランボーグにされている・・・・加えて、怪我人が揃って急性アルコール中毒の様な症状を訴えているとなると」
「メイテイ・・・・」
「ぬあー!やっぱりあの酔っぱらいか!」
頭を抱えるあげはさんの横で、私は貫かれた右肩になんとなく触れる。
・・・・クルニクルンを得た後も、何度か湯治をした結果。
どうにか傷は塞がったんだけど、痕が残っちゃったんだよな。
別にそれ自体は何も問題はない。
けれど、この前ましろさんと脱衣所で鉢合わせちゃったとき。
右肩を見て、明らかに落ち込んだ顔をしてたんだよな・・・・。
そうでなくても、
警戒しまくってるわけだけども。
「と・・・・ついたな」
話している内に、今日の宿についたらしい。
あちらの世界にもありそうな、山小屋のような外見だ。
受付でチェックインして、通された部屋には。
卵の様なデザインの家具が、三つ並んでいた。
「え、もしかして、これがベッド・・・・?」
「ああ、高地では横になるとかえって危険なんだ」
「そうなんだ!?」
私も聞いた事がある。
寝転ぶと、血流の酸素を運ぶ能力が低下するんだったかな?
だから、富士山みたいな標高の高いところでは、横になると著しい低酸素状態になって。
高山病の症状が悪化してしまうんだったか。
実際、そういった事例が何件もあるらしい。
こわ・・・・。
「へぇー、それでこんなかわいい形なんだぁ」
あげはさんは、物珍しそうにベッドを観察していた。
かくいう私も、初めて見るタイプのベッドに興味津々である。
なんか、こう。
向こうの世界でも、こういうインテリアで通じそう・・・・。
ここが宿であることを踏まえても、とってもおしゃれ・・・・。
「では、少し早いが夕飯にしようか」
「賛成です、明日も早いですから」
「私もさんせー!ね、ここは何がおいしいの?」
「トトや
『モシティーヤ』という、トルティーヤに似た薄いパンではさんで食べると最高らしい。
絶対美味いヤツじゃん・・・・!
「っはー!・・・・って、大変なのに浮かれてられないかな」
一度は目を輝かせたあげはさんだけども、ここに来た目的を思い出して苦笑い。
・・・・かく言う私もちょっと浮かれそうになってらからな。
反省・・・・!
「まあ、緊張し過ぎて、普段通りの動きが出来ないのも問題だ。『腹が減っては』とも言うだろう」
――――当然。
青の護衛隊も、救助に向かうべく準備をしているけれど。
私達が先遣隊として、先んじて向かうことになったのだ。
護衛隊全体だと、全員分の装備をそろえるのに時間がかかってしまうけど。
三人だけならすぐに済むもんね。
ベリィベリーさんにフォローされつつ、やや緊張感の漂う町を歩いてく。
◆ ◆ ◆
「――――シュランボーグ!!!」
――――霊峰の頂。
妖しき酒の霧に満ちた大気を、轟くドラミングが揺さぶっている。
「――――ッ」
只人はもちろんのこと、生き物もまともに動けない中で。
そいつは徳利を傾ける。
「――――育って、貰わないとねぇ」
ほう、と自らの口からも酒気を吐き出しながら。
「
抱いたそれは、夢か、現か。
おまけ
タケートコング
拙作オリジナル要素。
ウイテルケワシーに生息する、平均3〜4メートル程の巨大な猿。
巨体に似合わず温厚な性格。
クォッカワラビーよろしく、常にアルカイックスマイルを浮かべている様な顔が特徴。
一帯の集落から信仰の対象になっており、特に群れのボスは『しろがね様』と呼ばれ、親しまれている。
ネーミングは、「高ぇとこ」+「コング」。