「――――あ"ーッ!!!!」
うららかな午後。
風も気温も心地よく、なんならどこかに出かけても良かったかもしれないと思えるような陽気を。
何かが割れる音と、ツバサの絶叫が引き裂く。
「ツバサくん!?」
「あらあら、どうしたの?」
「ちゅばさー?」
「よ、ヨヨさん、ましろさん・・・・!」
慌てて駆けつけてみると。
割れたマグカップを前に、途方に暮れているツバサがいた。
「ごめんなさい。お昼のお片付けしてたら、うっかり割っちゃって・・・・!」
昼食の後片付けを引き受けていた彼だったが。
不注意で、食器を一つ落としてしまったらしい。
「ツバサさん、怪我はない?」
「はい、でも・・・・ソラさんのマグカップがぁ・・・・!」
羽根のワンポイントが描かれた、水色の可愛いマグカップ。
持ち主のソラがこの場にいない為、すぐに謝れないことも有って。
ツバサは殊の外しょんぼりする。
「ソラさんなら、きっと許してくれるわ」
「そうだよ、割れちゃったマグカップよりも、ツバサくんの怪我を心配すると思うなぁ」
「うう・・・・はい・・・・」
初歩的な失敗がよっぽどショックだったらしい彼を、一息つかせる為。
ヨヨは『世話の交代』と称して、エルを託して現場からそっと遠ざけた。
そんな祖母と共に片付けを始めようとしたましろは、ふと手を止めて。
無惨に割れてしまった、ソラのマグカップを見つめる。
(・・・・ソラさん、大丈夫かな)
胸がざわざわと騒ぎ始めて、なんだか落ち着かない気持ちになった。
「――――スカイッッ!!!!!」
シュランボーグが、拘束から逃れるのに構えないまま。
バタフライが絶叫した。
「ッ、~~~ッ!!!」
「おおっと!」
上がりかけた悲鳴を食いしばったスカイは、あろうことか刺されたまま剣を振る。
メイテイは相変わらずヘラヘラ笑いながら、得物を抜きつつ飛びのいた。
「待ってて!!今、今行くからぁッ!!」
「シュランボーグ!!」
「手出しはさせん!!」
胸から流れた血が、スカイの足元でみるみる水たまりになっていく様を見たバタフライは。
血相を変えたまま一目散に駆けつける。
エクリプスは、あまりの事態に周囲が見えていない彼女のフォローをしっかりこなしていた。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハッ・・・・!」
「ミックスパレットォ!!」
我武者羅に癒しの力を行使し、何とか出血を止める。
『全集中の呼吸』の応用も相まって、応急手当を終えたスカイだが。
ふいごの様な呼吸は収まる気配がない。
「っ・・・・!」
「無茶しないで!」
食いしばって立ち上がろうとするスカイを、バタフライが支えようとする。
「へへ、そうじゃなくっちゃァ」
そんな彼女を満足げに見下ろしたメイテイ。
よっこらしょとばかりに立ち上がり、片手を掲げて。
「――――シュランボオオオオオオォォォォーグッッ!!!!」
間の悪いことに、シュランボーグが渾身のドラミングを放ってきた。
「ぐあああッ!!」
「きゃああ!!」
「が・・・・!!」
先ほどよりもより一層強い音圧に、吹き飛ばされてしまうプリキュア達。
エクリプスも、バタフライも、スカイも。
三者三様に地面を跳ねながら転がっていく。
「くッ・・・・バタフライ!エクリプス!」
開いた胸の傷を押さえながら、離れた場所に倒れ伏した仲間を案ずるスカイ。
バタフライもエクリプスも、応えようと身を起こす。
その、瞬間。
「――――
メイテイが、剣を逆手に掲げたのが見えて。
「――――ッ」
「――――ぁ」
「バタフライ?エクリプス!?」
異変が起こったのは、バタフライとエクリプスの二人だった。
今まさに起き上がろうとした、その途中で。
糸が切れたようにぱったりと倒れ伏してしまった二人を目の当たりにしたスカイ。
慌てて駆け寄り、仲間達の容体を確認しようとする。
刹那。
「ッ・・・・!」
目の前を、雷光がぶち抜いた。
なんとかのけ反って避けるスカイへ、今度は拳が振り落とされた。
「な、にが・・・・!?」
理解の追いつかない頭で、それでも状況を探ろうと見据えた目の前。
仲間達が、幽鬼のように佇んでいるのが見えた。
スカイはそこでやっと、二人に攻撃されたと認識する。
「ッ、貴様、何をした!?」
あげはもベリィベリーも、急に裏切る様な人間ではない。
二人の人となりをよく分かっていたからこそ、スカイは即座にメイテイを怒鳴りつけた。
「にゃははっ!何って、見ての通りさね!」
大気を揺るがすほどの怒気にさらされても、なんのその。
ケラケラ笑い声を上げたメイテイは、からかう顔で見下ろして。
「酔っ払ったら判断落ちるじゃん?お友達二人は、今、その状態に・・・・なってるはず、なんだけどさ」
「ぐ・・・・!」
「っ"・・・・!」
不思議そうに見下ろした先。
苦しそうに顔を歪ませているバタフライ達がいた。
メイテイは首を傾げていたが、スカイには心当りがある。
その証拠に、バタフライ達の首元から。
ニルビで受け取ったお守りが揺れた。
「あげはさん、ベリィベリーさん・・・・!」
しかし洗脳が中途半端な分、心身共に負担が大きい様だ。
それが手に取るがごとく分かるから、スカイは口元を食いしばる。
「ンまあ、いいや。自分で動けないなら上々・・・・シュランボーグ!」
「ヒィーック!!」
そんな彼女の悔しさを知ってか知らずか。
轟音を立てて、シュランボーグが二人の間に降り立つ。
「手始めにそいつをやっちまいな、酩酊してる間抜け共はその後だ」
「シュランボーグ!!」
メイテイに応えて、雄叫びを上げたシュランボーグは。
猛然と突進し始めた。
「ッヒュウウウウウウ・・・・!」
仲間が二人も操られていることと、自分の容体を鑑みたスカイは。
呼吸を深めて、心拍と体温を急上昇。
左頬に、痣を浮かばせて。
(細かく呼吸すると、痛みがひっきりなしで集中できない・・・・一息を深く、出来る限り時間をかけて・・・・!)
「水の呼吸、玖ノ型 水流飛沫!!」
まずは突進を回避。
やり過ごした巨体が、無防備な背中を晒す。
普通ならこの上ない攻撃チャンスだが。
「ッ、スカイ!」
「避、けてぇ・・・・!」
そこへやって来たのが、体の自由を奪われた二人だ。
まずエクリプスが殴打を、続けてバタフライが踵落としを叩き込む。
スカイはそれらも回避。
上空に躍り出ると、剣を構えて。
「絶風刃ッ!!」
シュランボーグに向けて、攻撃を放つ。
「ぐぁ・・・・!」
「ああッ・・・・!」
「シュランボーグ!!」
しかし、当たる直前にエクリプスが間に入り、相殺。
更にバタフライがミックスパレットを行使して。
シュランボーグがパワーアップしてしまう。
「シュラアアアアアアアアンッ!!!」
荒ぶるままに、再三のドラミング。
これまでとは比べ物にならない衝撃が。
スカイどころか祭場全体を、大気諸共に揺るがした。
「づああッ・・・・!」
「スカイ・・・・!」
暴威極まる音圧をもろに受け、壁に叩きつけられるスカイ。
なんとか立ち上がろうとするが、蓄積したダメージも相まって中々叶わない。
(クソ、立て、立て、立て・・・・!!)
「シュラーン、シュラーン・・・・!」
諦めずに立ち上がろうとするスカイへ、シュランボーグが悠然と迫る。
「――――あーあ、ここまでかァ」
――――どこか。
失望した視線を向けるメイテイに気が付かないまま。
何とか目の前の危機を打開できないかと、せめてもの抵抗に睨み続けていた。
その時。
「――――オオオオオオオオオオオッッ!!!」
突如として轟く、雄叫びとドラミング。
シュランボーグのものではない。
何事かと、弾かれたように顔を上げたスカイの前。
立ちはだかる様に、また別の巨体が降り立って。
「ホァーッ!!!」
「シュラーンッ!?」
渾身の拳を、叩き込んだ。
「ぁ、なたは・・・・!?」
「ホァッ!!ホァッ!!ホァッ!!ホアアアアアアアッ!!!」
行動や見た目から、恐らくタケートコングだと予測は出来たが。
何故ここに来たかが分からない。
――――分からない、が。
「――――ホアアアアアアアッ!!」
「ホアア!!」
「ウキャキャーッ!!」
「キイィーッ!!」
「ぁ・・・・!」
スカイを庇った個体を皮切りに、次々現れるタケートコング達。
中には果敢に岩を投げつける者もいる。
「しろがね様の、群れ・・・・!」
目を見開いたエクリプスが、彼らの正体を呆然と口にしたことで。
スカイも何とか状況を呑み込めた。
「ホォアッ!!ホォアッ!!ホォアアアアアアアッ!!」
スカイを庇った個体は、体格の良さから恐らくオスだろう。
推定『彼』は、シュランボーグを見据えると、再びドラミング。
――――まるで。
決闘を挑むかの様だと、スカイは感じた。
「ッ・・・・!」
呼吸も整い、何とか立ち上がると。
『彼』の隣に立つ。
「すみません、力を貸してください・・・・!」
「・・・・ゥホ!!」
「ホアーッ!!」
「ホッ!ホッ!ホーッ!」
スカイの言葉に、『彼』のみならず。
群れ全体が応じてくれて。
その雄叫びが、とても頼もしく感じた。
「はあああああああッ!!」
「ウホアアアアアアッ!!」
胸に滾る、最熱した闘志に身を任せて。
痣を維持したまま、『彼』と共に疾走する。
「シュランボーグッ!!」
「ホァーッ!!」
シュランボーグの拳を、『彼』が真正面から受け止める。
「壱ノ型 水面斬り!!」
「シュラーンッ!?」
すかさず後ろに回ったスカイが、無防備な背中に一閃。
やっとダメージらしいダメージを叩き込めた。
「ぁ、ぐ・・・・!」
「もう、勘弁してよ・・・・!」
当然、操られた二人が加勢に入ろうとしたが。
「ウキキッ!!」
「ウキャーッ!!」
「ぅわ・・・・!」
「ッ、すまない・・・・!」
あっと言う間に群れに取り囲まれて、抑え込まれてしまった。
「二人とも、もう少しだけ辛抱してください!」
そんな彼女らへ、声をかけながら。
スカイはバーストモードを発動。
「下がってください!!」
『彼』に後退を促しながら。
今度は逃さないとばかりに、蒼炎を燃え上がらせ。
「ホアーッ!!」
「シュラーッ!?」
「ヒィーロォーガァールゥーッ!!」
離脱ついでに一撃加えて、相手を怯ませてくれたことに感謝しつつ。
「スカイザンバアアアアアアアーッ!!!」
確実に、必殺技を叩き込んだのだった。
◆ ◆ ◆
「は、は、は、は、は、は」
――――ああ、クソ。
今回はさすがに無茶をし過ぎた。
「は、は、は・・・・っづ・・・・!」
冗談抜きで、胸が痛い。
っていうか、熱い。
だ、大丈夫?
『実は喉が火傷してました』とか、ない?
「スカイ!!スカイ!!・・・・ッソラちゃん!!」
「しっかりしろ!!ソラッ!!」
動けない私に、バタフライとエクリプスが駆け寄ってきてくれる。
よかった、二人とも解放されたんだ・・・・。
「ごめん!ごめん!ごめん・・・・!」
「ッ早く村に戻ろう!」
ああ、ヤバい。
流石にしんどい・・・・!
「待ってて!すぐ手当を・・・・!」
――――違和感を、覚えた。
鼻が、何かを捉える。
なんだっけ、これ。
知ってる、知ってるけど。
ダメだ、思い出せない。
何か、大事な・・・・。
「――――ガス」
不意に、口をついて出たそれが。
呼び水だった。
「な、何の音?」
「・・・・こ、れは・・・・まさか・・・・!?」
――――嗚呼、そうか。
だからしろがね様は暴れ出して、みんなを遠ざけて。
今の今まで、酒の臭いで満たされていたから。
誰も、気が付かなくて。
「は、ぐ・・・・!」
「スカイ?ダメ、今動いたら・・・・!」
「・・・・ぃ、げ」
案じてくれるバタフライには悪いけど。
今は時間が・・・・!!
「――――逃げろオオオォ!!」
「ッマズい!!走れ!!」
咆えた時には、すでに。
茶色い壁が、迫っていた。
駆けつけたタケートコングの皆さんには、あんまりウホウホ言わせないようにしました。
いや、ゴリラ系と言えばその鳴き声なんですけど。
全く別の奴がオーバーラップしてしまって・・・・(やらないか♂)