「アルファは右舷から!ベータは左舷から追い込め!残りは私と!!」
晴天の郷、村落。
アベラの指示を受け、クシザス騎士団が複数チームに分かれる。
ランボーグ達を往なし、引き付け、所定の場所まで誘導していく。
「姫様!!」
そうして追い込んだところへ、待ち構えていたブリュンヒルデは。
目に、魔力を込めて。
「――――ふ」
「らっ!?」
「お"!?」
「あ」
父ジークフリートに、勝るとも劣らない『魅了』の魔力が。
ランボーグ達の動きをぴたりと止めてしまった。
「さすが姫様」
「油断はしないで、敵はまだいます」
「し、失礼しました!」
ブリュンヒルデが、傍に控えていた騎士を窘める中。
「・・・・?」
同じく控えていたカインは、ふと。
魅了され、ぼんやりとしているランボーグに違和感を覚えて。
警戒しながら近づいた。
「お、おい、どうしたんだ?」
「何か?」
「あ、あの・・・・」
先輩と姫君。
二人もの目上の人間に視線を向けられ、一瞬気圧されるカインだったが。
抱いた違和感を上手く説明出来ず。
しかし無視するには、あまりにも危険な様な気がして。
「――――ッ!」
「あ、コラッ!!」
意を決して、ランボーグの仮面に手をかけた。
次の瞬間。
剥がれないはずの仮面は、いとも簡単にはがれてしまう。
「なっ!?」
「これは!?」
それを目の当たり先輩騎士とブリュンヒルデは、驚愕に目を見開く。
「・・・・まさか」
離れたところから、その様子を見ていたアベラも。
周囲を見渡して、一番手近に隠れていたランボーグを見つけると。
「ぁ、やべっ」
「こら待て!!っていうか、今『やべっ』って言った!?言ったわね!?」
ただちにとっちめて、仮面に手をかける。
「ふんっ!!」
「ぬわーっ!?」
これまた、バリィッ!!と派手な音を立てて引っぺがせば。
アンダーグエナジーに侵されていない、正気の顔が。
「――――」
一連の流れを見ていた、他の面々も。
静かに残っているランボーグに目を向ける。
ランボーグ達は沈黙を保っていたが。
明らかに焦っているのが、手に取る様に分かって。
「――――ッ!!」
「アッ!逃げた!!」
「コラーッ!!待てーッ!!」
一斉に逃げ出した彼らを、同じく一斉に追いかけだす騎士団だった。
「――――今回はお手柄だったけど、次からはちゃんと進言する様に」
「今回は特に、姫様がお近くにいたからな。普通なら、懲罰で済めばいい方だぞ」
「は、はい。ごめんなさい・・・・」
「――――わぁーん!ごめんなさーい!」
「まったく・・・・」
さて、一方のハヤテ達も。
大量発生したランボーグのからくりに気が付き、片っ端から門下生達を捕まえている次第である。
「ソラ達が違和感を持つ訳だわ、まさか全員仮装だったなんて・・・・!」
「すみませ、ででででででッ!!」
十代後半の門下生を、容赦なく縛り上げながら。
ツムジはやれやれと肩をすくめる。
「まあ、隊長の二の舞にならずに済んでよかった、と見るべきだろうが・・・・」
「それとはまた別ベクトルの問題よ!」
ハヤテと同じく、叱られて泣き出した子どもをあやすアラシを。
ツムジがくわっと一喝。
「下手したら反逆罪よ!?国家転覆疑われたっておかしくないのに!!」
「そりゃあ、なあ・・・・」
全く以てごもっともな指摘だが。
わんわん泣く子どもを前に、諸手を上げるのはどうにも出来ないハヤテとアラシ。
人々を護る『守護者』として、これ以上なく信頼できると同時に。
こういったケースでは、どうしても甘くなってしまう同僚達を前に、ツムジは盛大にため息をつくと。
自らの両頬をぱしんと叩いて切り替える。
「・・・・とにかく、まずは全員とっちめるわよ!残りを探し出しましょう!」
「りょーかい」
「承知した」
逆らえない男子二人は、大人しくツムジについていった。
「らんぼーぐ!!」
「っ・・・・!」
「たあっ!!」
ランボーグの一閃を、バタフライが受け止めて。
それで動きが止まったところへ、ウィングが飛び掛かる。
「せいっ!」
「らんぼーっぐ!」
「やああ!!」
マジェスティが斬りかかり、飛びのいて避けたところへ。
プリズムが連射。
「らーんっ!!」
「らんぼーぐ!」
「らららららッ!!」
「せっ、はっ!ダアアッ!!」
エクリプスに至っては、三人を一遍に相手していた。
二人を魔力の手で受け止めてから、頭上から来た一人を迎え撃つ。
ぐるりと魔力の手ごと身を翻せば、ランボーグ達を吹っ飛ばしてしまった。
「やっぱ手ごわいね・・・・!」
「ああ、流石は隊長の同門だ・・・・!」
一か所に集まり、背中を預け合う形でランボーグ達と対峙するプリキュア達。
一方のランボーグ達もまた、じりじりとすり足で様子をうかがっていた。
と、バタフライの前にいた一人が、とうとう踏み込んで技を放ってくる。
しかし、
「晴天流ッ!五月雨列閃ッ!」
「あっ、ちょっ・・・・!」
発したのはランボーグの鳴き声ではなく。
正気を保った、人間の声。
「あんた達、もしかして・・・・!」
「あ、ヤベッ」
「ちょっと!何ば普通に喋りよん!?」
「お前もやー!」
「ら、らんぼーぐ!!らんぼーぐ!!」
「いやぁ、もう遅かばい・・・・」
バタフライが指をさせば、ヤバいとばかりに動揺するランボーグ(仮)達。
「ええい、バレたんなら
すっかり仮装がバレてしまった彼らは、仮面とマントを取り払って。
真の姿をさらした。
「雨天のレインッ!」
「雷天のサンダーッ!」
「曇天のクラウドッ!」
「風天のウィンドッ!」
「氷天のスノウッ!」
「「「「「――――我らッ!!」」」」」
高らかに次々と名乗りを上げた男女は、びしりとポーズ。
「「「「「晴天流ッ!師範代
「クソッ!ちょっとカッコいいぞッ・・・・!」
「ときめいてる場合じゃないよぉ!」
これが漫画であったなら、『ドバーンッ!!』だなんてオノマトペが出ていただろう。
彼らのキレのある所作を見て、性別故に心をときめかせてしまうウィング。
そんな彼に、プリズムがツッコミを入れた。
「・・・・えっ!?ランボーグじゃなかったの!?」
「そうだよ!コスプレだったんだよ!!」
「エーッ!?」
「何のつもりで、こんな騒ぎを起こした!?」
ぎょっとするマジェスティの横で、エクリプスが剣呑な顔と声で問いかける。
「我らはミノトン殿に便乗しただけに過ぎん」
「そうそう!プリキュアと手合わせ
「手合わせって・・・・」
「まるでミノトンみたいな言い分・・・・」
「ッハ!・・・・そういえば・・・・」
師範代達の言い分に、これ以上ないデジャヴを感じていると。
ウィングは、は、と我に返り。
「ガオニって、とっても好戦的な種族だったはず・・・・!」
「お、よー知っちょんの!ボウズ!」
「色んな種族と交流してきた今は、『お祭り好き』にとどまっているけれどね」
「
「『お祭り』って、それどころの騒ぎじゃないんだけど!?」
なんなら五人の中には、明らかにガオニではない者もいる。
それで『ガオニはお祭り好き』だなんて、主語の大きいことを言われても。
説得力がなかった。
「とにかく!!いざ尋常に勝負!!」
「あーもう!結局相手しないとダメか!」
「早くスカイのとこ行かないといけないのに・・・・!」
正体を現し、改めて闘志を迸らせた師範代達を前に。
プリキュア達は、構えを取る。
「――――いたずらにも程があります!!師範ッ!!」
「カカカッ!お主は相変わらず真面目やのぅ!!」
剣戟を交わしながら叱咤するシャララへ、すっかり正体を現した師範『ヒンメル』は声を上げて笑う。
「動機も道理も分かりましたが、だからといって実行する人がいますかッ!?」
「ここにおるやろがいッ!!」
「もぉーっ!!」
その時、シャララの脳裏に蘇る。
在りし日の記憶の数々。
目の前の師範や、今は師範代である兄弟子・姉弟子達が。
毎日のように起こす騒ぎを。
時にはあちら側につくこともあったジークフリートと共に、収拾して回った修業時代。
学びも確かにあったが、同じくらい苦労もあったのだ。
「ほーれほれほれ!『最強』
「ッ参る!!」
称号こそ『最強』の彼女でも、油断ならない相手だ。
シャララは表情を苦くして、剣を構える。
◆ ◆ ◆
「――――はっ!」
「ぬぅん!!」
拳と刃をぶつける。
火花を散らして、後ろに飛ぶ。
「ぬらあああああッ!!」
ミノトンが地面を叩きつければ、衝撃波が地面を滑って迫ってくる。
「せぇいッ!!」
竜王刃で迎え撃ってから大きく踏み込んで、一閃。
交差した腕で受け止められて、反撃が来た。
今度はこちらが防御。
後退して、向かってきたミノトンに切り上げを放った。
「ウオアアアッ!!」
ズドンと足踏みすれば、畳返しの様に地面が隆起。
ミノトンはそれをさらに殴って、岩のつぶてを放ってきた。
それをいくつか剣で受け止めながら、再び一閃を繰り出した。
「デェイッ!!」
大ぶりをしゃがんで回避。
そのまま足払いをすれば、ミノトンの体が傾いた。
と、見せかけて。
「フンッ!!」
ズドン、と荒々しい音を立てて踏みとどまると。
ぎゅるりとサマーソルト。
降って来た踵を、飛びのいて回避。
距離を取った。
――――予想、してはいたけれど。
むっっっっっちゃ強くなってない???????
「・・・・また腕を上げたか」
「貴方こそ、キレが以前と違います」
いや、ほんと。
前よりも強くなってる・・・・!
満を持して、勝負を挑んて来ただけのことはあるってか・・・・!
「スゥ・・・・」
得物を霞に構えて、息を整える。
ミノトンもまた、片方を突き出して、もう片方を引き絞る構え。
同じく息を整えている。
互いに相手から目を逸らさないまま、じりじりと距離を測る。
・・・・仕掛けるか、仕掛けないか。
判断に困るな・・・・。
「・・・・ふっ!」
そんな感じにもたついていたら、隙だと取られてしまった様だ。
ミノトンが先手を打ってきた。
「武威・狩毘ッ!」
「ッ破魔・竜王刃!」
その技も久々だな!
案の定威力が上がっている!
私の斬撃とぶつかり、ドンと爆発。
土ぼこりを切り裂くように、拳と斬撃を激突させた。
突き出された拳を蹴り上げて、横一閃を叩き込んだ。
「武威・
狼の様に速く鋭い連撃。
それらを捌きながら、私も呼吸を整えて。
「爪竜連牙斬ッ!!」
連撃を叩き込んだ。
ミノトンもこちらの攻撃を捌くと、反撃を放ってきた。
「はあああああッ!!」
「オオオオオオッ!!」
技と、技が。
目にもとまらぬ勢いで、激突する。
打撃の当たる破裂音、空気を裂く風音。
踏み込む衝撃、翻される体。
ふいごの様な息、疲労で軋む関節。
「ッ獅子戦吼!!」
「武乱怒・
放った気功が、ライオンの雄叫びみたいな音を立てて。
『厚み』のある衝撃とぶつかる。
何度目か分からない爆発で、私達は再び距離を取った。
「ふぅむ、埒が明かんか」
火照った頭と呼吸を何とか落ち着けていると。
目の前のミノトンが、険しくも愉しそうに笑う。
「やはり、奥の手の出番だな」
「奥の手?」
「応とも!!」
オウム返しに、気合十分の声が返ってくる。
「来たるこの日に向け体得し、技と共に磨き上げて来た我が究極の一手!!」
ごりっと、ボディビルのポーズを取ったミノトン。
直後に迸った闘気が、筋肉をミチミチ苛んで。
その体に、変化を促す。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
両腕は三本ずつに。
顔も、横にもう二つ追加される。
・・・・これって。
「――――闇に呑まれていた時の、おぼろげな記憶を頼りに生み出した」
やっぱり。
クルニクルンの遺跡で見かけたヤツだ・・・・!
「貴様の燃え盛る闘気と、魂を削りて底上げする痣に対抗する。我の新たな姿・・・・!!」
「・・・・ッ」
――――こい、つ。
カジュアルに『痣』のこと見抜くの辞めてくれんかね!?
「――――秘儀・
今となっては懐かしい。
阿修羅の様な姿を前に。
私は、クールダウンも兼ねて。
呼吸を、切り替えて。
「――――バースト、オンッ!!」
要望通り、バーストモードと『痣』を。
発動させた。
「魂を、削る・・・・?」
師範代達のネーミングのコンセプトは、晴れ以外の天気と『頭痛が痛い』ニュアンスです(笑)